第3章 技術評価課題に対する生徒の意思決定と着目観点の特徴
3.3 考察
本章では,世の中において賛否の分かれている技術に対する中学生の技術評価の実態につい て調査を行い,学年間や意思決定間,性別間における特徴について検討した。技術評価の平均 値に有意な差が認められた項目について整理したものを,学年間は表Ⅲ-8,意思決定間は表Ⅲ
-9,性別間は表Ⅲ-10に示す。
表Ⅲ-8 学年間において平均値に有意な差が認められた技術評価観点
表Ⅲ-9 意思決定間において平均値に有意な差が認められた技術評価観点
表Ⅲ-10 性別間において平均値に有意な差が認められた技術評価観点
1年生が他に比べて高い 2年生が他に比べて高い 3年生が他に比べて高い
「しくみや科学的な原理」,「代替技術」
「科学史的な背景や経過」,「資源・材料」
「環境問題との関わり」,「流通システムへの影響」
「人間による制御可能性」
肯定群が他に比べて高い 葛藤群が他に比べて高い 否定群が他に比べて高い
「代替技術」,「科学史的な背景や経過」
「資源・材料」,「産業における経済的な効果」
「環境問題との関わり」,「生産システムへの影響」
「しくみや科学的な原理」,「技術目的」
「科学史的な背景や経過」,「ニーズ」
「技術の将来展望」,「技術史的な背景や経過」
男子が女子に比べて高い 女子が男子に比べて高い
「しくみや科学的な原理」,「技術目的」
「科学史的な背景や経過」,「ニーズ」
「産業における経済的な効果」
「技術史的な背景や経過」
「世論」
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表より,いずれの群間においても「しくみや科学的な原理」,「科学史的な背景や経過」に ついて平均値に有意な差が認められるなど,技術評価観点18項目のうち,学年間では7項目,
意思決定間では11項目,性別間では6項目について有意に平均値の違いが認められた。
表Ⅲ-8より,学年間では「人間による制御可能性」を除く6項目について1年生の方が他学 年より高い結果となった。このような意識調査では一般的に学年の進行に伴い平均値が減少す る傾向がある。このことを踏まえると,1 年生の方が他学年に比べて技術評価力が高いという 解釈ではなく,これら6項目に着目しやすい傾向を持つと考えることができる。また,全体に おいて平均値が3.0以上の上位5項目であった「運用上の制限」,「技術目的」,「事故の危 険性と事例」,「技術の将来展望」,「消費生活への影響」については,学年間における差異 は認められていないことから,発達段階に関わらず技術評価の際に着目されやすい技術評価観 点であることが推察される。
表Ⅲ-9より,意思決定間では「肯定群」及び「否定群」には他群と比べて着目度の高い項目 が認められたが,「葛藤群」については他と比べて有意に高い項目がなかった。この理由とし ては,「賛成も反対も納得できたから」や「賛成も反対も正しいことをいっているのでどっち が違うとかは自分で決められない」のような意見が挙げられており,技術評価観点間のプライ オリティを決めきれず,肯定と否定の間で判断に確信が持てなかったことが技術評価観点への 着目度の低さに起因したのではないかと考えられる。
表Ⅲ-10より,性別間においては,6項目中5項目について男子の方が女子に比べて着目度 が高かった。その要因としては,意思決定の割合の違いが考えられる。男子は女子に比べて肯 定群の割合が有意に多かったため,肯定的意思決定において着目度が強かった「技術目的」,
「技術の将来展望」,「技術史的な背景や経過」などの項目において性別間の差が生じたので はないかと推察される。
これらの結果を俯瞰すると,技術評価力育成に向けた授業では,生徒の実態に応じて着目さ せる技術評価観点の与え方や学習形態などを工夫する必要性が考えられる。例えば,技術評価 の学習場面において,導入段階では,発達段階に関わらず着目度の高かった技術評価観点を位 置づけることや,グループ学習を行う際には男女の人数に偏りがないように留意することなど が考えられる。また,「葛藤群」は技術評価観点へ着目度の低いことから,教員の指導や学習 内容によってバイアスがかかりやすく,意思決定が肯定にも否定にもなびきやすい状況と考え られる。生徒に幅広い視野を持って技術評価を行わせるためには,教員による指導がバイアス を引き起こすのではなく,生徒が互いの考えについても意識できるような指導が必要であろう。
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そのためには,肯定及び否定の意思決定に影響する技術評価観点を満遍なく取り扱うための,
教師の指導の力点の置き方について検討していく必要性が考えられる。
4. まとめ
以上,本章では,社会において賛否の分かれる技術の今後の在り方に対して生徒に技術評価 を行わせ,その意思決定や技術評価観点の実態を学年別,意思決定別,性別等に着目して把握 を試みた。その結果,本調査の条件内で以下の知見が得られた。
1) 森林資源を活用する技術,遺伝子組み換え技術,原子力発電,SNSの今後の在り方など,
評価対象となる技術によって意思決定の割合に違いが認められたものの,全体的な傾向と しては,半数以上の生徒が否定的であった。また,1年生は他学年に比べて「否定群」の 割合が有意に高く,「肯定群」では,3年生>1年生,「葛藤群」では,2年生>1年生とな り,学年間によって意思決定に違いがあることが示唆された。
2) 技術評価観点のうち着目度の高い項目は「運用上の制限」,「技術目的」,「事故の危険 性と事例」などであった。一方,着目度の低い項目は「技術史的な背景と経過」,「科学 史的な背景と経過」,「法的規制とガイドライン」などであった。
3) 学年間及び意思決定間,性別間において技術評価観点の平均値を比較した結果,学年間で は7項目,意思決定間では11項目,性別間では6項目について有意な差が認められ,生 徒の実態の違いに応じて授業展開や指導の力点を変化させる必要性が示唆された。
上記より,先行研究では明らかとされていなかった学年間や意思決定間(葛藤を含む)におい て技術評価の傾向が明らかとなり,生徒の実態に応じて,授業モデルを構築する必要性が示唆 された。一方で,評価対象として取り上げた4つの技術に対する意思決定の割合に違いがある ことから,それぞれの技術に対する技術評価観点の傾向にも違いがあることが推察される。し かし,本章では技術評価観点の傾向について全体的な特徴を探索的に把握したため,評価対象 とした4つの技術ごとに技術評価観点の傾向を詳細には検討できていない。
そこで次章からは,本章で得られた知見を基に,4 つの評価対象の技術ごとに本調査の結果 を詳細に分析し,肯定及び否定的意思決定に影響を与えた技術評価観点の傾向を把握すること を試みる。具体的には第4章では「森林資源を活用する技術の今後の在り方」に対する生徒の 反応を,第5章では「遺伝子組み換え技術の今後の在り方」に対する生徒の反応を,第6章で は「原子力発電の今後の在り方」に対する生徒の反応を,第7章では「SNSの今後の在り方」
に対する生徒の反応をそれぞれ分析することとする。
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