第Ⅲ章 対象と方法
Ⅴ. 考察
今回、我々が着目したECRSの鼻茸における鼻腺導管周囲の病理 組織は、図10に示すように、鼻腺導管周囲に好酸球浸潤が多数認 められた。ECRSの鼻腺導管周囲における好酸球数はCTR群やnECRS 群と比較して有意に高く、鼻粘膜上皮下の好酸球数と同様の結果 であった。また、鼻粘膜上皮下、鼻腺導管周囲ともにIL-5陽性細 胞、IL-13陽性細胞といったTh2サイトカインの浸潤が多数認めら れ、これは、ECRSの炎症機序における鼻粘膜上皮と鼻腺導管上皮 との病態生理学的役割の共通性を示唆するものと考えられた。
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鼻茸を有する慢性副鼻腔炎の鼻粘膜上皮におけるIL-25、IL-33、
TSLPの発現は、過去の文献で報告されている〔13,16〕。一方で 鼻腺導管上皮に着目して検討された文献はない。本研究で、鼻腺 導管上皮におけるIL-25、IL-33、TSLPの発現は、鼻粘膜上皮と同 様にECRSでは高い傾向が見られ、そのタンパク質発現は組織中の 好酸球数との関連性を認めた。本研究では、上皮由来サイトカイ ンがILC2やTh2細胞に作用して好酸球性炎症を誘導していること の証明はできていないが、過去の文献では、鼻粘膜上皮から上皮 由来サイトカインが産生され、ST2などの受容体を持った細胞に 作用し、好酸球性炎症を誘導することが報告されている〔20〕。
このことから、本研究の結果を踏まえ考察すると、鼻腺導管上皮 においても鼻粘膜上皮同様に、上皮由来サイトカインを介した Th2細胞やILC2からのTh2サイトカイン産生の誘導と、それによる 好酸球性炎症が生じていると推測された。TSLPに関しては、CTR 群、nECRS群ともに鼻粘膜上皮、鼻腺導管上皮でほとんど発現が 認められなかった。ECRSでは、鼻粘膜上皮及び鼻腺導管上皮とも に、高い発現を認める検体と発現が認められない検体とがあり、
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組織ごとの不均一性がみられた。過去の報告をみても、組織中の TSLPタンパクの発現と病態との関係については、一定の見解が得 られていない〔32〕。TSLPは鼻茸組織の中で肥満細胞や好酸球な どで産生される内因性プロアーゼにより切断され、組織中で時間 依存性に減少し、その結果、鼻茸組織中にはTSLP mRNAは増加し ているが、TSLPタンパクは減少するとする報告もみられる〔35〕。
本検討において、染色されたTSLPの検体ごとの発現レベルの違い は、炎症のタイプやその強さ、発症時期、アレルゲン暴露状況の 違いなどが関係していると考えられる。
本研究において、鼻粘膜組織におけるペリオスチンの発現と好 酸球浸潤についての追加検討を行った。Shionoらは鼻茸をもつ慢 性副鼻腔炎患者において、ペリオスチンの発現が粘膜固有層全体 に認める群と、鼻粘膜上皮直下のみに認める群での好酸球数の比 較を行っており、粘膜固有層でのペリオスチンの発現が強いほど、
組織の好酸球浸潤が強く、Th2型炎症との関連性が示唆されるこ とを報告している〔30〕。本研究において、ECRSでは鼻粘膜上皮 下及び、鼻腺導管周囲で、ペリオスチンの発現を強く認め、好酸
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球の浸潤との関連性を認めた。ECRSの粘膜固有層には鼻腺組織の 発達が著明であり、Shionoらの検討の粘膜固有層全体におけるペ リオスチンの発現及び好酸球浸潤は、鼻腺導管を起点として引き 起った好酸球性炎症である可能性が示唆された。しかし、好酸球 が線維芽細胞に作用し、ペリオスチンの発現を誘導する場合と、
ペリオスチンが好酸球を組織に遊走、浸潤させる機序があり〔34〕、
その詳細な機序に関しては本研究では証明できなかった。
鼻腺導管は鼻茸の表層だけでなく、鼻茸深部にまで伸長してい る。何らかの外因性刺激が、鼻粘膜上皮だけでなく、鼻腺導管の 深部にまで浸透すると、IL-25、IL-33、TSLPなどの上皮由来サイ トカインが誘導され、IL-5などTh2サイトカインの産生及び、好 酸球炎症を誘導し、鼻腺組織を介した鼻茸の深部組織への好酸球 性炎症を引き起こすことが示唆された。それとともに、ペリオス チンが好酸球と相互に作用し合い、慢性的な好酸球性炎症を組織 にもたらすだけでなく、細胞外マトリックスとして働き鼻茸組織 の形態維持や難治化を引き起こしていることが考えられた。しか しながら、本研究においては、1)十分な臨床検体を得ることが
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出来ず、検討した組織検体の数が比較的少ない小規模な検討であ る、2)蛋白発現のみの検討でありmRNAレベルでの発現検討を行 っていないこと、3)鼻粘膜上皮下及び鼻腺導管周囲のTh2サイト カイン産生細胞の種類、炎症の相違については検討できなかった こと、4)鼻腺導管上皮において、実際に外因性刺激が作用し、上 皮由来サイトカインが発現したかどうかの検討ができていない ことなどが挙げられ、今後の検討課題と考えた。本研究で推測さ れ得る鼻腺導管上皮における好酸球性炎症の機序の仮説の図を 図20に示した。
第Ⅵ章 まとめ
本検討では、ECRSの鼻茸における鼻腺導管上皮に着目し、上皮 由来サイトカインがこれまで注目されてきた鼻粘膜上皮への発 現のみならず、鼻腺導管上皮にも同様に発現を認め、サイトカイ ンの発現が高いほど組織中の好酸球数が高い傾向を示すことを 明らかにした。これは、鼻腺導管上皮も鼻粘膜上皮同様に好酸球
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炎症において積極的な役割を果たしていると考えられた。また、
鼻腺導管周囲におけるペリオスチンの発現、及び好酸球数との相 関から、鼻腺導管上皮が好酸球性炎症や鼻茸の形態維持に寄与し ていると考えられることから、鼻腺導管上皮の過形成や活性化機 序の解明、また、その制御方法の解明は、ECRSの新たな治療法の 開発に繋がるものである。
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謝辞
本研究を遂行するにあたり、終始御懇篤なるご指導を賜りました 日本大学医学部呼吸器内科学分野准教授 権寧博先生、丸岡秀一 郎先生、日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野教授 大島 猛史先生、准教授 野村泰之先生、研究を支えて下さった日本大 学医学部呼吸器内科学分野研究助手 坪井絵莉子氏、日本大学医 学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野研究助手 前田美代子氏に心か ら感謝いたします。
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図表
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図表の説明
表1.患者背景
性別は慢性副鼻腔炎では男性が多く、nECRS 群は ECRS 群より女性 の比率がやや高かった。年齢は CTR 群や nECRS 群、ECRS 群の 3 群間 において有意差はなかった。気管支喘息は ECRS 群のみで多かった。
血清 IgE 値は、ECRS 群が CTR 群や nECRS 群と比較して有意に高値で あった。末梢血好酸球比率も ECRS 群が CTR 群や nECRS 群と比較して 有意に高値であった。
IgE, immunogulobulin E ; ECRS, eosinophilic chronic rhinosinusitis ; nECRS, non-eosinophilic chronic rhinosinusitis
図1.慢性副鼻腔炎の分類
慢性副鼻腔炎は鼻茸の有無で大きく分類され、鼻茸を認めるも の を 、 さ ら に 非 好 酸 球 性 副 鼻 腔 炎 (non-eosinophilic rhinosinusitis ; nECRS) 、 好 酸 球 性 副 鼻 腔 炎 (eosinophilic rhinosinusitis ; ECRS)と分類する。(文献4より引用 一部改変)
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図2.鼻茸形成と鼻腺組織に関する図
図 2A. 鼻茸形成の Epithelial rupture 説の説明図
①
.
鼻粘膜上皮の傷害、②.組織炎症細胞浸潤、③.粘膜下組織の鼻腔 への突出、④.突出した間質表面の上皮化の促進、⑤.鼻腺導管の形 成と伸長の順で鼻茸形成がされると考えられている。図 2B. 図 2A の E における四角で囲んだ部位の説明図
鼻粘膜上皮から粘膜固有層にかけて鼻腺の伸長を認める。腺房組織 までの介在部に鼻腺導管が存在する。
図 2C. 鼻腺構造の形態パターン
A〜F のように長く伸長し、途中で分岐するもの、J、K のように嚢胞 状に拡張するものなど、多様な形態を示す。(文献 7 より引用 一部 改変)
図3.鼻腺組織の病理組織
鼻粘膜上皮から内方に陥入するようにして鼻腺導管組織が形成さ れる。鼻腺導管の上部構造は鼻粘膜上皮と同様に多列線毛上皮であ
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るが、深部では単層円柱上皮となる。導管組織の終末部には腺房組 織が存在しており、漿液性細胞と粘液性細胞とが混在している。
図4.好酸球性副鼻腔炎の鼻咽腔内視鏡写真 図 4A. 左鼻腔前方
嗅裂部、中鼻道に鼻茸組織を認める。
図 4B. 左鼻腔後方
ムチン様の鼻汁が後鼻漏として認める。
図5. 好酸球性副鼻腔炎 診断基準
病変が両側性か、鼻茸が鼻腔内に存在するか、副鼻腔
CT
にて上 顎洞と比べて篩骨洞有意の陰影を認めるか、末梢血好酸球(%)
値をそ れぞれスコアリングし、合計点数が11
点以上を好酸球性副鼻腔炎と 診断する。(文献9
より引用)図6
.
好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎の組織所見 図 6A. 好酸球性副鼻腔炎 Hematoxylin-Eosin(HE)染色 ×40067
上皮細胞の杯細胞変性を認め、上皮基底膜の肥厚を認める。上皮 下には著明な好酸球浸潤を呈する。
図 6B. 好酸球性副鼻腔炎 Periodic acid-Schiff(PAS)染色 ×400 上皮における杯細胞が PAS 染色陽性となる。
図 6C. 非好酸球性副鼻腔炎 HE 染色 ×400
上皮細胞の杯細胞変性は軽度で、基底膜の肥厚は認めない。間質 の好酸球浸潤も軽度である。
図 6D. 非好酸球性副鼻腔炎 PAS 染色 ×400 杯細胞変性は軽度であり PAS 染色性は乏しい。
図7. 上皮由来サイトカイン-ILC2-Th2 サイトカイン連関
微生物や抗原となる外来物質に反応して、上皮細胞から IL-25、
IL-33、TSLP など上皮由来サイトカインが放出される。これらのサ イトカインは ILC2 細胞を刺激し、IL-5、IL-4、IL-13 などの Th2 サ イトカインを放出することで、それぞれのエフェクターとなる細胞 が活性化され、組織の免疫反応として好酸球性炎症や獲得免疫反応 が形成される。 (文献 13 より引用 一部改変)