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2.6.2 薬理試験の概要文

2.6.2.6 考察及び結論

関節リウマチ(RA)や変形性関節症(OA)におけるインドメタシン,ジクロフェナク等,

既存のNSAIDの治療効果は,炎症反応や発痛を媒介するPGE2等のPG類の産生を触媒するCOX

を阻害することにより発現すると考えられている8).現在,COXにはCOX-1及びCOX-2の2 つのアイソザイムが確認されている 9,10).COX-1 は構成的に存在し,その発現は蛋白質合成を 阻害するグルココルチコイドにより影響を受けないが,COX-2はサイトカイン,成長因子等の 炎症性メディエータにより急速に発現する誘導型であり,蛋白質及びmRNAの発現を抑制する ことが一般的に知られているグルココルチコイドにより著しく抑制される11).COX-1は血小板,

消化管及び精嚢を含むほとんどの組織に発現しており,PGやTXの産生を介して生理機能に関 与している 12).例えば,胃粘膜では胃酸等の種々の胃粘膜障害物質に対して PGE2等が胃粘膜 保護作用を示し13),血小板においてはTXA2が凝集機能制御に関与している14).COX-2は炎症 性の刺激により誘導され,その発現に伴い PG 類の産生が急激に増加して炎症の進展,疼痛の 増悪に関与していると考えられている2,15~20).既存のNSAIDの多くはCOX-1及びCOX-2の両 方を阻害するため,長期的に服用する患者では消化性潰瘍や出血時間延長をはじめとする副作 用の問題が指摘されている21,22).選択的COX-2阻害薬であるセレコキシブは,抗炎症及び鎮痛 作用を示す用量でCOX-2のみを阻害し,COX-1に影響しないことから,既存のNSAIDにみら れる副作用が少ない抗炎症鎮痛薬として期待されている.図2.6.2.13にセレコキシブ及び既存

のNSAIDの作用機序の概略を示した.

アラキドン酸

COX-1

(構成型)

COX-2

NSAID

非選択的COX 阻害剤

消化管:粘膜保護 血小板:凝集 腎 臓:機能維持

炎症部位:炎症・疼痛 プロスタグランジン プロスタグランジン

セレコキシブ

(誘導型)

選択的COX-2 阻害剤 グルココルチコイド

発現抑制

阻害 阻害 阻害

アラキドン酸

COX-1

(構成型)

COX-2

NSAID

非選択的COX 阻害剤

消化管:粘膜保護 血小板:凝集 腎 臓:機能維持

炎症部位:炎症・疼痛 プロスタグランジン プロスタグランジン

セレコキシブ

(誘導型)

選択的COX-2 阻害剤 グルココルチコイド

発現抑制

アラキドン酸

COX-1 COX-1

(構成型)

(構成型)

COX-2 COX-2

NSAID

非選択的COX 阻害剤

消化管:粘膜保護 血小板:凝集 腎 臓:機能維持

炎症部位:炎症・疼痛 プロスタグランジン プロスタグランジン

セレコキシブ

(誘導型)

(誘導型)

選択的COX-2 阻害剤 グルココルチコイド

発現抑制

阻害 阻害 阻害

図2.6.2.13 セレコキシブ及びNSAIDの作用機序の概略

組換えヒトCOX-1,COX-2(表2.6.2.2)あるいはCOX-1,COX-2発現細胞(表2.6.2.3)を

ぼ同じ濃度範囲で抑制した.一方,セレコキシブは同酵素及び細胞における試験でCOX-2に対 して選択的阻害作用を示し,その選択性は少なくとも31倍以上であった(表2.6.2.2,表2.6.2.3). 各種受容体及び酵素において,組み換えヒトCOX-2を阻害する濃度0.042 μMの約240倍の濃 度でドーパミン取り込みを抑制したが,その他の受容体及び酵素に対しての作用は軽度であり 薬効濃度での影響は低いものと推測された(表2.6.2.4,表2.6.2.5).更に,ラットカラゲニン 空気嚢モデル(図2.6.2.1)において,セレコキシブは経口投与により COX-2 蛋白が誘導され ている炎症局所のPGE2産生を抑制し,そのED50値は0.72 mg/kgであったが,COX-1に由来す る胃組織PGE2含量に対しては10 mg/kgまで影響を及ぼさず,in vivoにおいてもセレコキシブ のCOX-2阻害選択性が示された.以上の結果より,セレコキシブはin vitroのみならずin vivo においても既存のNSAIDとは異なり,COX-2阻害選択性を示すことが明らかとなった.

セレコキシブは,COX-2蛋白の発現を伴うラットカラゲニン誘発足浮腫モデルにおいて,用 量依存的に浮腫及び炎症組織のPGE2産生を抑制した(図2.6.2.2).この抗炎症作用とPGE2産 生抑制作用は既存のNSAIDにも認められるが,選択的COX-1阻害薬は抗炎症作用をほとんど 示さないことが報告されており23),炎症反応におけるCOX-2の関与が示唆された.

ラットカラゲニン誘発痛覚過敏モデルにおいて,セレコキシブは痛覚過敏が成立した後に経 口投与しても有意な鎮痛効果を示し,炎症部位及び脳脊髄液PGE2含量を減少させた(図2.6.2.6). 末梢炎症における疼痛閾値の低下には,炎症局所に加え中枢性のPGE2も関与しているといわれ ている24).セレコキシブ及び既存のNSAIDは,両部位のPGE2産生を抑制することにより鎮痛 作用を発現したと考えられる.また,より重篤な炎症モデルであるラットアジュバント関節炎 モデルにおいても関節炎成立後の投与により有意な鎮痛効果を示したことから(図 2.6.2.7), セレコキシブは炎症性疾患に伴う疼痛閾値の低下に対して有効である可能性が示唆された.更 に,同モデルにおいてセレコキシブはインドメタシンと同程度に足腫脹及び足根関節骨破壊を 抑制したことから(図2.6.2.3,図2.6.2.4),慢性的治療投与において既存のNSAIDと同程度の 抗炎症効果を示すものと考えられた.

COX-2を選択的に阻害することにより,鎮痛効果を有しながらも消化管粘膜障害や出血時間

延長等の副作用が既存のNSAIDに比べ少ないことが期待されることから,セレコキシブと既存

のNSAIDの消化管粘膜及び血小板機能に対する作用を比較検討した.正常ラットを用いた胃粘

膜障害試験において,インドメタシン,ジクロフェナク,ロキソプロフェン及びナプロキセン はいずれも 100 mg/kg までの用量で胃組織 PGE2 含量を検出限界以下にまで減少させた(図

2.6.2.9).各薬物のUD50値はそれぞれ2.9,5.0,6.1及び4.7 mg/kgで(図2.6.2.8),カラゲニ

ン誘発痛覚過敏モデルにおける鎮痛作用のED30値(それぞれ2.1,1.3,1.6及び2.8 mg/kg,図

2.6.2.6)との比は 1.4~3.8であった(表 2.6.2.9).一方,カラゲニン誘発痛覚過敏モデルにお

けるセレコキシブのED30値は0.81 mg/kgであったのに対し(図2.6.2.6),胃粘膜障害試験では 200 mg/kgで障害性を示さず,胃組織PGE2含量の低下は22%であった(図2.6.2.9).

表2.6.2.9 セレコキシブ,インドメタシン,ロキソプロフェン,ジクロフェナク及び ナプロキセンの鎮痛作用と消化管障害作用の比較

鎮痛作用1) (ED30; mg/kg po)

消化管障害作用2) (UD50; mg/kg po)

安全係数 UD50 / ED30

薬物

ラットカラゲニン 誘発痛覚過敏モデ

胃 小腸 胃 小腸

セレコキシブ 0.81 >200 >200 >250 >250 インドメタシン 2.1 2.9 5.7 1.4 2.7 ロキソプロフェン3) 1.6 6.1 8.0 3.8 5.0 ジクロフェナク4) 1.3 5.0 12 3.8 9.2 ナプロキセン 2.8 4.7 11 1.7 3.9 1):鎮痛作用(添付資料4.2.1.1-8)

2):消化管障害作用(添付資料4.2.1.1-9)

3):ロキソプロフェンとしてロキソプロフェンナトリウム2水和物を使用した(用量はフリー体換算値で表記した).

4):ジクロフェナクとしてジクロフェナクナトリウムを使用した(用量はフリー体換算値で表記した)

また,カラゲニン空気嚢モデルにおいても200 mg/kgで胃組織PGE2含量を約40%減少させた が,先に述べたとおり抗炎症作用を示す用量で胃組織PGE2含量には影響を及ぼさなかった(図

2.6.2.1).更に,ラット及びヒト血小板おいて,既存の NSAIDはTXB2産生あるいは凝集反応

を抑制したが,セレコキシブには血小板機能を抑制する作用は認められなかった(図2.6.2.10,

2.6.2.11).したがって,既存のNSAIDに比べ本薬が消化管粘膜障害や出血時間延長等の副作用

を誘発する可能性は低いものと考えられた.本薬の鎮痛作用と副作用の発現用量の関係は,本 薬の反復投与試験においても認められ(表2.6.2.6,図2.6.2.7),慢性疾患の治療におけるセレ コキシブの高い有用性が示された.

セレコキシブの投与により,ラットにおいて後肢握力及び自発運動量の軽度低下,ラット及 びマウスにおいて抗痙攣作用及びマウスにおいて睡眠延長作用が認められた.ラットにおける 後肢握力の低下及び抗痙攣作用は用量依存性を示さず,自発運動量の低下は一過性の変化であ り,マウスにおける抗痙攣作用及び睡眠延長作用は150 mg/kg以上の高用量でのみ認められた ことから,セレコキシブが抑制性の中枢作用を示す可能性は低いと考えられた.なお,ラット において,セレコキシブ5及び20 mg/kg/dayの用量でヘキソバルビタール睡眠時間の短縮が認 められたが,中枢性 PG は鎮静作用を有し,ヘキソバルビタール睡眠を延長させることが知ら れており 25).ラット脳では COX-2 が恒常的に発現していることから 26),セレコキシブの睡眠 短縮作用にはCOX阻害作用に基づく可能性が示唆された.ラットにセレコキシブ5 mg/kgを単 回経口投与した時の最大血漿中濃度(Cmax)は 1.46 μg/mL(2.6.4 薬物動態試験の概要文 表

2.6.4.4)で,200 mg単回投与時におけるCmax(1.18 μg/mL)(2.7 臨床概要 表2.7.2.5.1,試

験番号Aki4)にほぼ匹敵するため,本試験項目に関連する所見が臨床において発現する可能性

は否定できないと考えられた.

セレコキシブ50 mg/kgによる酢酸誘発疼痛反応の抑制は,炎症モデルにおける抗炎症及び鎮

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