VEGF-A は in vitro における内皮細胞の分裂促進因子であり、in vivo で血管新生を誘導する ことが知られている1)。胚発生において、血管形成及び血管新生に VEGF は極めて重要である。
成体の哺乳動物では、VEGF は多くの組織で恒常的に発現しており、血管緊張の調節、並びに器 官、特に腎臓における毛細血管の有窓性の維持に関与している20)。また、VEGF は血管透過性を 著明に亢進させる2)。加えて、創傷治癒の際に血管新生を促進し、卵胞の成熟21)や黄体の形成
22)にも関与している。
異常な血管透過性や病的血管新生を特徴とする固形癌や多くの眼性血管疾患などの病態におい て、VEGF の発現が亢進していることが知られている1,2,23)。VEGF は、病的血管新生や浮腫形成に 関わる重要な構成要素と考えられていることから、VEGF の阻害がそれらの病態に対する有望な 治療法となる可能性がある。一方、PlGF は、血管形成関連たん白質であり、VEGF と相乗的に 様々な病態の病的血管新生や過度の血管透過性亢進を誘導すると考えられている13,14)。PlGF は VEGF と同様に滲出型 AMD 患者から採取した新生血管の膜内に存在し、AMD のモデル動物では CNV 形成を促進することが知られている15)。また、VEGF-B も動物モデルにおいて、網膜及び脈絡膜 での血管新生や血液網膜関門の破綻に関与することが報告されている16)。
VEGF Trap は、ヒト VEGFR-1 及び VEGFR-2 の細胞外ドメインのリガンド結合部位とヒト IgG1 の Fc 部位を融合させた組換え融合たん白質である。VEGF Trap はヒト VEGF-A165と 1:1 の比で結 合して複合体を形成する。その解離定数(KD)はおよそ 0.5pM である。また、ヒト VEGF-A121に対 する親和性も 1pM 未満であった。カニクイザルの VEGF-A たん白質のアミノ酸配列はヒトと同一 であり、また、VEGF Trap は 1pM 未満の KD値でマウス、ラット及びウサギの VEGF-A に結合する ことが示されている。以上の知見に基づき、これらの動物種を薬理試験に用いた。VEGF Trap は、
VEGF 受容体の一部を用いた構造であることから、VEGFR-1 に結合する他の VEGF ファミリー、特 に PlGF にも結合するが、VEGFR-3 を介してシグナルを伝達しリンパ管形成を誘導する VEGF-C 及 び VEGF-D に対する結合は検出されなかった。
VEGF-A、VEGF-B 及び PlGF と VEGF Trap が高親和性で結合することにより、これらリガンドは 細胞表面受容体に作用を及ぼすことができなくなる。In vitro において、VEGF Trap は、HUVEC の VEGFR-2 の VEGF 依存性リン酸化をモル濃度比 1:1 以上で完全に阻害することが示された。一 方、細胞系アッセイにおいて、VEGF Trap は内皮細胞及び腫瘍細胞株に対して CDC 又は ADCC 活 性を示さなかったことから、VEGF Trap は in vivo においても CDC 及び ADCC いずれも促進しな いと予想される。したがって、疾患動物モデルにおいて認められた VEGF Trap の効果は、VEGF-A 及び恐らく VEGFR-1 に結合する他の VEGF ファミリーとの結合、並びにその不活化を介したもの であると考えられる。
検討したすべての眼血管新生モデル及び血管漏出モデルの非臨床薬理試験において、VEGF Trap は病的な血管新生又は血管漏出を効果的に抑制することが確認された。すなわち、げっ歯 類の糖尿病性及び虚血性網膜症モデル、角膜傷害モデル、並びに滲出型 AMD に類似した CNV の げっ歯類及び霊長類モデルにおいて、VEGF Trap は病的血管新生や浮腫形成を抑制した。特に、
VEGF Trap の硝子体内投与により、げっ歯類糖尿病モデルの網膜における血管漏出、並びにサル モデルにおけるレーザー誘発活動性 CNV は速やかに回復することが示された。さらに、VEGF Trap は、上述の動物モデルに付随する眼の炎症を回復させた。VEGF-A 及び PlGF は、白血球の亜 集団、特にマクロファージ及び好中球の細胞表面に発現する VEGFR-1 を介して白血球の遊走を媒 介することが知られていることから、VEGF Trap の抗炎症作用は VEGF-A 又は PlGF との結合に基 づく可能性が高い12)。
上述の動物モデルにおいて、VEGF Trap は硝子体内への直接投与又は全身投与(皮下、腹腔内 又は静脈内投与)により効果を示すことが確認されたが、全身投与により眼の病的な血管漏出や 血管新生を改善させるには、硝子体内投与よりも高用量の VEGF Trap を投与する必要があった。
例えば、硝子体内投与では VEGF Trap 50、250 又は 500μg の 2 週に 1 回投与により活動性 CNV の形成が抑制されたのに対し、静脈内投与では 3mg/kg 又は 10mg/kg 週 1 回投与で同様の効果が 得られた。正常及び担癌マウス並びにヒトのいずれにおいてもこの用量で、全身の内因性 VEGF は効果的に中和されることから、この用量を全身投与時の投与量として選択した8)。特に、マウ スでは VEGF Trap 2.5mg/kg 以上(皮下投与、週 2 回)の用量でのみ、ほとんどの異種移植腫瘍 の増殖が顕著に抑制された。総じて、腫瘍増殖の最大抑制は 10mg/kg 以上(皮下投与、週 2 回)
でみられる。
同様に、テレメトリー法のラットで VEGF Trap による血圧の最大上昇は、10mg/kg 以上の用量
(皮下投与)で認められた。血圧の最大上昇は遊離型 VEGF Trap の血中濃度がおよそ 10μg/mL に達したときに認められ、遊離型 VEGF Trap の血中濃度がおよそ 1μg/mL を下回るまで、投与前 を上回る血圧の上昇が持続した。0.5mg/kg 未満の VEGF Trap では、血圧の上昇は認められな かった。抗 VEGF 抗体であるベバシズマブの、ヒトで予想される主な副作用は高血圧であり、血 圧維持機構に関与する VEGF/VEGFR シグナル伝達阻害剤のクラスエフェクトとして知られている
9,10)。
安全性薬理試験では、VEGF Trap の呼吸機能及び血栓形成に対する影響は認められなかった。
また、毒性試験において、VEGF Trap を高用量で数ヵ月間全身投与しても中枢神経系及び心血管 機能への影響は認められなかった。しかしながら、ウサギに VEGF Trap を反復全身投与したとき、
検討したすべての用量(0.3、3 及び 30mg/kg)で切開創傷及び切除創傷の治癒速度の遅延及び治 癒範囲の減少が用量に相関して認められた。創傷治癒抑制も VEGF 阻害剤のクラスエフェクトで ある24)。
したがって、血管新生や腫瘍増殖を効果的に抑制する用量で VEGF Trap を全身投与すると、同 時に血圧が上昇し、創傷治癒を抑制することが考えられる。しかし、硝子体内投与の場合、はる かに低用量で網膜の病的な血管漏出及び血管新生を効果的に抑制することから、前述の作用は生 じないと考えられる。硝子体内投与により低用量の VEGF Trap を投与したときの全身曝露量は低 く、有効用量の VEGF Trap 硝子体内投与後の VEGF Trap の最大全身濃度は、全身投与で明らかな 作用を示すために必要な濃度以下に維持される。
例えば、マウスを用いて実施した副次的薬理試験において、1mg/kg 以下の VEGF Trap 週 2 回 投与では、腫瘍増殖に対する VEGF Trap の効果はほとんどあるいは全くみられず、腫瘍増殖を抑 制するためには、10 倍高用量を必要とした8 )。同様に、ラットにおける血圧の最大上昇は 10mg/kg 以上の用量で達成されたが、0.5mg/kg 未満では明らかな血圧の変化は認められなかった。
対照的に、VEGF Trap 3μg の硝子体内投与で糖尿病ラットの網膜血管漏出が効果的に抑制され たが、この用量はおよそ 0.012mg/kg に相当し、同じ動物種で血圧に検出可能な変化を生じさせ る皮下投与での最低用量の 40 分の 1 であった。実際、この用量の硝子体内投与 48 時間後の血漿 中遊離型 VEGF Trap 濃度は、定量下限未満であった(4.2.1.1 VGT-NC-007 参照)。さらに、
VEGF Trap(3μg)の硝子体内投与によって、反対側の眼の血管透過性は正常化しなかったこと から、全身循環血中に遊離型 VEGF Trap が薬理学的に有効な濃度で存在していないことを示して いる。同様に、サルの硝子体内投与試験において、VEGF Trap 50μg/eye(両眼投与)と極めて 低用量で、実験的 CNV の形成が効果的に抑制された一方で、評価時点において遊離型 VEGF Trap の全身曝露は検出されなかった(2.6.6.2.2.1、4.2.1.1-7 VGFT-TX-03027 参照)。サルでのこ の用量は、体重換算した全身投与量で外挿すると、ヒトではおよそ 2mg/eye(片眼投与)に相当 する(表 2.4.3-2)。
結論として、VEGF Trap の硝子体内投与は、CNV モデル、糖尿病性又は虚血性網膜症モデルな ど検討したすべての眼性血管疾患動物モデルにおいて、病的な血管漏出、血管新生及び炎症を効 果的に抑制することが確認された。極めて高用量の VEGF Trap を全身投与したときにみられる影 響は VEGF 経路の阻害に直接関連する既知のクラスエフェクト(例えば、血圧、創傷治癒に及ぼ す影響)であり、硝子体内投与による低用量投与では、遊離型 VEGF Trap の血中濃度はそのよう な影響が発現し得る濃度に達しないと考えられる。