嘩』
第4節 考察
「自己理解尺度」について
青木(2009b)の「自己理解尺度」は「内面からの意識を測定するものと近 く,自己の内面に目を向けて理解する考え方や情緒を測定することに適した もの」であるため,自己イメージへの気づき,理解を測定するものとしては 適していたと考えられる.本研究で因子分析を行ったところ,5項目におい て天井効果が見られ,全項目が含まれていた「自分らしさへの欲求」因子を 削除する結果となった.この理由については,以下の2点が考えられる.ま ず,1点目は対象者の特性である.この質問紙は自発的な調査協力者を募っ たものであり,本調査についてはあらかじめ「自己開発に影響を及ぼすコラ ージュを行う」と説明している.そのため,「自己開発」に興味があり,「自 分らしさへの欲求」が高い対象者が集まった可能性が高いといえる.2点目 は,対象者の発達段階の影響である.本研究の対象者は青年期の大学生であ った.青年期は自己の確立を目指し,自己へ目が向き,模索する時期である
(青木,2009a).つまり,自分らしさを模索し,「自分らしさへの欲求」が高 まる時期と言える.
「コラージュ用自己理解尺度」について
鈴木・佐藤i(2000)の「コラージュ用自己理解尺度」について,本研究で因 子分析を行った.その結果,天井効果など問題のある項目が見られず,先行
ジュ用の自己理解を測定するのに適していたと考えられる.
自己イメージが投影される動物について
どの動物の種類に自己イメージを投影しやすいかということについて予 備調査を行った結果,23種類の動物が選ばれた.とくに回答率が高かった のはイヌとネコである.内閣府による動物愛護に関する調査(2010)では,一 般家庭で飼育されているペットは「イヌ」が58.6%と最も高く,以下,「ネ コ」(30.9%),「魚類」(19.4%)の順となっている.このことから,イヌや ネコは日常生活において接する機会が多く,自分を投影しやすいということ が考えられる.また,投影されるイメージについて以下の2点が明らかにな った.1点目は,投影する特徴についてである.キリンは「背が高い」イメ ージ,リスは「身体が小さい」イメージなど外見的な特徴から自己イメージ を投影する動物や,「さびしがり」のイメージのあるウサギなど,内面的な 特徴から自己イメージを投影する動物の種類があることが示唆された.梅本
ら(1972)はIMQ(Image Question)の調査において,自分を動物に投影する 理由を,6種類(「外貌によるもの」「身体的活動性,機能性によるもの」「行 動的習性,生活習慣によるもの」「雰囲気によるもの」「能力(知的能力,成 就性も含む)によるもの」「人格,性格などによるもの」)に分類して検討し ている.「背が高い」キリンなどは外面的なイメージである「外貌」や「身 体的活動性」にあたり,「さびしがり」のウサギなどは内面的イメージであ
る「雰囲気」や「人格,性格」にあたるといえる.
2点目は,山路ら(2009)と同様,対象者によって動物イメージが異なると いうことである.例えば,同じイヌであっても対象者によっては「従順で素 直」というイメージを持ったり,「人の顔色をうかがって指示に従う」とい
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うイメー・一一ジを持ったりしている.本研究において動物コラージュを継続的に 作成する中でも,使用する動物の種類は同じでありながら,その表情やしぐ
さから,異なったイメージが語られることがあった.例えば,下を向いてい る1匹のウサギに対しては「時間においたてられていっぱいいっぱい」「自 分の世界があって優雅に生きてそうやけど実は必死」というイメージだった
ものが,次の回では群れているウサギに対して「群れになるけどそんなに弱 くない」という,強さを感じさせる動物へと変化していた(対象者番号42,
女性).また,1つの作品に表れた1匹のネコに対して「自由に自分のした いことをすることが自分と同じ」であり,そこがいい面でありながらも「他 人を気遣えないのが悪いところ」と,肯定的なイメージ,否定的なイメージ どちらに対しても自分と重ねあわせる発言が見られた(対象者番号45,女性).
以上より,本研究では投影する動物が同一のものであっても対象者によっ て動物のどの要素・特徴に自己を投影しているのかは異なり,また,複数の イメージを持ち合わせている可能性があることが明らかになった.森谷
(2005)はコラージュの作品について,セラピストの勝手な解釈がクライエン トの気持ちとずれることを危惧し,クライエントの連想を聞くことが大切だ と述べている.本研究においても,動物の切片に何を投影しているかの意味 を解釈するには,対象者のもつ動物イメージや連想を尋ねることが,対象者 を理解するためには必要な条件であることが示唆された.
継続的なコラージュ作成による気分の変化について
法はもちろんのこと,継続的に作成したコラージュによって生じる気分の変 化を数量的に検討した先行研究はまだ少ない.本研究では,5回継続的にコ ラージュを行った気分の変化について,回数という観点と動物コラージュ・
通常コラージュというコラージュの技法の違いの観点から検討した.
まず回数の点においては,先行研究と同様にV(活気)というポジティブ な気分については1回目作成前や1回目作成後よりも5回作成後の方が,
得点が有意に上昇し,A−H(怒り一敵意)やC(混乱)などネガティブな気分に
ついては1回目作成前や1回目作成後よりも5回作成後の方が有意に低下
しているという結果が得られた.とくに低下したのはT・A(緊張一不安),D(抑 うつ一落ち込み),C(混乱)である.この理由については以下の2点が考えら れる.まず1点目として,質問紙の有無にかかわらず,5回調査を実施して いることにより生じた,コラージュ作成の場に対する慣れの影響である.2 点目として,菅野(2007)や山路ら(2009)が報告しているように,コラージュ 技法自体にリラックス効果があるということである。つまり,1回作成より
も5回作成のほうが,動物の有無にかかわらず継続的にリラックス効果が得 られ,結果として緊張や不安,抑うつなどのネガティブな気分の低下が生じ たと考えられる.
次に技法の違いという点では,T−Aで交互作用が見られ, Vで群の主効果 が見られている.さらにT−Aでは1回目作成後において動物コラージュ作 成群の方が有意に得点の低下が認められることから,動物コラージュの方が 少ない回数でその効果が得られることが示唆された.これらの理由について は,以下のように考える.横山(1996)は動物介在療法について紹介している 中で,実際の動物の何気ないしぐさなどが笑いやユーモアを与え,それによ
りリラックス効果が生じることを明らかにしている.また,笑いやユ・・一・・iモア
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に言及せずとも,魚の動きの観賞についても同じようにリラックス効果が生 じるとされている.つまり,本研究では動物コラージュの継続的な作成によ り,多くの動物の写真と触れることでリラックス効果が促進され,結果とし て緊張や不安が低下したことが考えられる.さらに,動きのない写真などに おいても動物介在療法のようなリラックス効果を基にした気分の変化が得
られることが示唆された.
コラージュ作成による自己理解度の変化について
本研究では,自己理解度を測定するために「コラージュ用自己理解尺度」
と「自己理解尺度」を用いた.「コラージュ用自己理解尺度」は,鈴木・佐 藤(2000)がコラージュの効果を検討した結果明らかにされた,コラージュを 作成すること自体から得られる,コラージュ独特の自己理解尺度である.そ れに対し,「自己理解尺度」は青木(2009b)が作成したものであり,コラージ ュ作成に限らず,自己理解の現状を把握する質問紙である.2種類の自己理 解尺度を使用した理由は,生じた自己理解が動物の有無に関係なくコラージ
ュを作成すること自体によるものであるのか,動物コラージュ技法独特のも のであるのかを比較検討するためである.結果として,「コラージュ用自己 理解尺度」では回数のみに主効果が見られたのに対し,「自己理解尺度」で は群の主効果が見られた.以上から,コラージュの作成自体から得られる自 己理解は回数を重ねることによって深まると上に,動物コラージュ技法にお いては,さらに自己理解が促進されると言える.これは,動物コラージュ技
て自己を多角的に理解し,自己イメージを構築する能力」としている.森谷
(1995)などの事例研究では,動物切片を用いて作成することで,その動物に 対してもつイメージが活用され,作成者の状態を多面的象徴的に表現するこ
とが可能になったと報告している.つまり,動物コラージュ技法では多面的 象徴的に表現可能な動物切片を用いることで,自己やその周辺を多面的に表 現することが可能となり,結果として自己イメージの構築,自己イメージへ の気づきを促進したと推測される.本研究において動物コラージュを作成し た作品例を2つ紹介したい.まず1人目は,トリをほぼ毎回「理解者」とし て登場させた対象者である(対象者番号41,男性).回数を重ねるに連れて,
自己イメージは人間,物体などさまざまに変化するもののトリは毎回様々な 形で登場し,最後の5回目には自己イメージが雛鳥となり,まだ未熟である もののトリの仲間入りをしたというストーリーの展開を見せた(巻末資料参 照).2人目は,自分を毎回動物で表現した対象者である.自己イメージは ネコであったりウサギであったりと変化するものの,2回目以降一貫して何 かを作り出す作業がテーマとなっていた.途中で大きな虹を作ろうとするも のの,最後の5回目には自己イメージを投影したリスは,小さな花びらを集 めて花を作るという「自分の身にあった」ものを作りだし,完成間近という ストーリーを見せた(巻末資料参照).このように,動物切片は自己イメージ
として表現されるかどうかにかかわらず,その動物切片と自己イメージを投 影した切片やその周りの切片の関係から自己理解を促進する可能性が示唆
された.
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