第 2 章 iBMECs の分化誘導に適した基底膜成分の探索
2.4 考察
本研究によって、LN221Fは複数成分を含有するMatrigelと比較して、iBMECs の分化誘導時に使用する基底膜成分としてより適していることが明らかとなっ た。マウスの肉腫由来である Matrigel の含有成分および品質はロット間で異な り、かつコーティングには複雑な操作を要するが、LN221Fは単一成分かつ品質 が均一であり、簡便な操作でコーティングすることが可能である。その上、
LN221F-iBMECsは Matrigel-iBMECsと比較して長期間高いバリア機能を維持す
ることが明らかとなった。また、Matrigelとは異なる基底膜成分を用いて分化し たことに起因して、細胞の性質や種類が変化する恐れもあったが、
LN221F-iBMECs における BMEC マーカーの遺伝子およびタンパク質発現量は
Matrigel-iBMECs とほぼ同等であった。さらに、LN221F-iBMECs は Matrigel-iBMECs と 同様にBBBにおける物質透過性の制御に必須な排出トランスポーターである P-gp および BCRP の機能を有していたことから、LN221F-iBMECs は
Matrigel-BMECs と同様にBMECs としての性質を有していることが示唆された。一般に
in vitro 評価系における BMECs のバリア機能を強化するために、pericytes や
astorocytesなどのBBB 構成細胞と共培養されることが多い10,13)。一方で、本研
究では、LN221FをMatrigelの代替基底膜成分として用いることで、異種細胞と
の共培養などの煩雑な操作を経ることなく、高いバリア機能を長時間維持する
iBMECsを得ることに成功した。これらの知見を総合して考えると、LN221Fは
高いバリア機能を有したiBMECsの安定供給に有用であると考えられる。
Laminin 221 は骨格筋や心筋、神経筋接合部に豊富に存在する 14,15)。また、
laminin 221は、ヒト胚性幹細胞の心血管前駆細胞 (Cardiovascular Progenitors) へ の分化誘導を促進することが報告されている15)。しかし、laminin 221がBBBの 機能維持や発生・分化に関わっているとする報告は私の知る限りでは存在しな
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い。従って、基底膜成分をスクリーニングする段階では、FBN、LN411F、もし
くはLN511Fなどの生体内のBBBに豊富な基底膜成分16)がiBMECsへの分化誘
導を促進するのではないかと推測していたが、これらの基底膜成分をコーティ ングに用いた場合でもiBMECsのバリア機能を強化しなかった。LN221Fが分化
後の iBMECs のバリア機能を強化した理由は 2 つ考えられる。まず第一の可能
性として、in vitroにおけるBMECsへの分化と実際のin vivoでのBMECsへの分 化では、必要となる因子がそれぞれ異なることが挙げられる。本分化誘導法で作
製したiBMECsにおけるBCRPおよびoccludinの遺伝子発現はhBMECsと比較
して高値を示すものの、MDR1、ZO-1、GLUT1 および LAT1の遺伝子発現量は
hBMECs とほぼ同等の値を示しており、hBMECs とある程度類似した細胞であ
ることが示唆される。一方、iBMECsの血管内皮細胞としての性質に着目すると、
iBMECsのECマーカーの発現量は低く、かつECsと上皮細胞の両方の特性を持
っていることが既に報告されており17)、実際に本研究におけるiBMECsのCDH5 の遺伝子発現レベルは hBMECs と比較して著しく低い値を示した。さらに、
CDH5はヒト臍帯静脈内皮細胞 (human umbilical vein endothelial cells: HUVECs)18)、 ヒト不死化BMECs19)およびマウスBMECs20)など、さまざまな種類の内皮細胞に おいて細胞膜上に局在することが報告されているが、本研究におけるiBMECsで は細胞質全体に局在していることが明らかとなった。これらの知見を考慮する と、本分化誘導にて作製された iBMECs は、生体内 BMECs の (ECs としての) 性質を完全には反映出来ていない可能性が高いため、iBMECsの分化過程は、生 体でのBBBの発生・分化過程とは異なることが示唆される。第二の可能性とし て、laminin 221はヒトBBBの発達に重要な役割を果たしており、in vitroにおい
てもin vivoと同様に分化を促進したということが挙げられる。
LN221F-iBMECs は BMEC マーカーの発現や排出トランスポーターの機能な
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ど、BMECsとしての特性を有していることが明らかとなった。しかし、
LN221F-iBMECs は Matrigel-iBMECs よりも高いバリア機能を示したにもかかわらず、
LN221F-iBMECsにおけるtight junction構成因子の遺伝子およびタンパク質の発
現量はMatrigel-iBMECsの発現量とほぼ同等であった。バリア機能が上昇した要
因については今後明らかにする必要がある。
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