‑トの温度依存性を考慮しなければならない。
本研究で作製した直入射試料のうち、最高反射率を得たCr / Sc 250周期多 層膜(図5‑3‑3(a)、 (b))と同等の反射率を得られる多層膜反射鏡を二枚作製で きると仮定する。この二枚の多層膜鏡で軟Ⅹ線を二回反射させる場合を想定す ると、スループットを1%以上にするには周期長を±0.01mmの範囲で一致さ せなければならない。本研究で作製した10個の直入射試料中、 6個で周期長
が±0.olnmの範囲で一致した。
50 100
Tsub(Oc )
図7‑1‑1 Ⅹ線回折により求めた周期長の基板温度依存性
5S
(∈ u) po 盲d OS JJ U
7‑2 Sc光学定数の評価
ここでは5‑4で紹介したSc光学定数についての議論を進める。
5‑4で述べたように、本研究ではScの消衰係数kを導くことができた。原 理的には消衰係数k(a)が求まればKamers‑Kronigの関係式を用いることで 屈折率n(W)を導出することができるoそこで図5‑4‑5に示す測定範囲以外の 波長域でのk(a)をバークレー研究所が公開しているもので外挿し(図7‑2‑1)、
Kramers‑Kronig変換(以下、 K‑K変換と略す)を行った.
I 川H●▲▲… 糞3#r縒テCSr縋UeモカヨV 7W&VFイ
A 薮F W'v Sエ5 $ w6イ
㌔ 剪 ''...i 剪
㌔
100 1000 10000
Photon energy (eV)
図7‑2‑1 CXROのデータで外挿したSc消衰係数
K‑K変換を用いた結果を図7‑2‑2(a)、 (b)に示す。図7‑2‑2(b)は図7‑2‑2(a)の 光子エネルギー398.7eV (波長3.110nm)近傍での拡大図であるo 吸収端位置
では、バークレー研究所が公開しているものと比較して、大きく異なっている。
100 1000 1 0000
Photon energy (eV)
図7‑2‑2(a) Sc光学定数
2.8 3.0 3.2 3.4 3.6
Wavelength (nm)
図7‑2‑2(b)波長3.110mm近傍でのSc光学定数
60
∩ k
l . 3 T L P . 6 . 7 . 8
‑ 9 . 1 . 0 E E E E E E E
1 0 0 1 1 1 1 1 1 1
バークレー研究所公開のSc光学定数と、単層膜の透過率測定から導出した Sc光学定数を用いてCr / Sc多層膜のS偏光の反射率をシミュレートした結果 をそれぞれ図7‑2‑3(a)と(b)に載せる。なお、多層膜基板としているSiとアブ ソーバー物質であるCrの光学定数はバークレー研究所公開の光学定数を使用
した。また、どちらのシミュレーションも、パラメータは周期長Dを1.792mm、
界面粗さをonm、周期数を150とした。バークレー研究所公開のSc光学定数 を使用した場合(図7‑2‑3(a))、 Sc吸収端位置(波長3.110nm)の長波長側近
傍で反射率が大きく増大し、吸収端位置で最大となっている。また、吸収端を またいでいるピークは鋭く削られている。一方、単層膜の透過率測定から導出 したSc光学定数を使用した場合(図7‑2‑3(b))、吸収端波長3.110mmから長波 長側に離れた波長3.141nmで反射率のピークを与え、理想的な構造の多層膜 でも30%弱の反射率しか得られないことがわかった。また、この図7‑2‑3(b)に よると、直入射角を大きくしていき反射ピークを短波長側にシフトさせていく
と、反射率は¢‑28.50の時に波長3.141nmでピークになり、 め‑290 ,29.50 と
低下していくが、 ¢‑300 でわずかだが再び反射率が高くなる。この¢‑300 の反射率ピーク位置は波長3.096nmであり、図545の消衰係数に見られる2p,乃 準位と2pl′2準位に対応する二つのピークの谷間に‑敦する。また、 2p3′2準位 のピークに対応する波長3.110nmの位置で反射率のくぼみが見られる。実際に 測定した軟Ⅹ線反射率(5‑3‑2で記述)では、再び反射率が上昇するピーク 形状は見られなかったが、波長3.110mmでの反射率ピークのくぼみは図5‑3‑2(a)、
O))や図5‑3‑3(a)で見られた。実測した反射率ピーク形状は、単層膜の透過率測 定から導出したSc光学定数を使用してシミュレートした場合と良く似ている と考えられるし、バークレー研究所公開のSc光学定数では説明ができないと 考えられる。バークレー研究所公開のSc光学定数を改善できたと考える。
3.05 3.1 0 3.15 3.20 3.25
Wavelength (nm)
図7‑2‑3(a) CXROのデータを使用したシミュレーション結果
3.05 3.1 0 3.15 3.20 3.25
Wavelen9th (nm)
図7‑2‑3(b)本研究で得た光学定数を使用したシミュレーション結果
62
0 0 0 0 0 0 0
7
6
5
4
3
2
1 (%
)a Du t2 tU Ol Ja
∝・ S
0 5 0 5 0 5 0
4 3 3 2 2 1 1 (%
)8 3u t2 10 9一 Ja t]
・S
7‑3 軟Ⅹ線反射率スペクトルによる多層膜鏡の評価
ここでは、波長分解能九/AA‑185で測定したCr / Sc周期多層膜の軟Ⅹ線 反射率結果(5‑3‑2)を理論計算によるシミュレーション結果と比較し評価 する。シミュレーションには、 Scにおいては7‑2で前述した本研究で導出し た光学定数を、 siとcrはバークレー研究所公開の光学定数を使用した。また、
測定ピークのうち出来るだけSc吸収端波長から長波長側にあるピークを解析 に使用した。
まず波長分解能について述べる。図7‑3‑1にBL12A分光器内の回折格子周 辺を示す。
M
図7‑3‑1 BL12A分光器内回折格子周辺
楕円ミラーMEは入射スリットS2で光が集光するように設計、配置してあるた め、 S2のスリット幅によって光は削られないものとみなすことができ、 AAは Slのスリット幅に比例し刻線密度と曲率半径に反比例する。ここで、謝定時の 回折格子は刻線密度1200 1/mm、曲率半径2mのものに固定して使用している ので、 AAはSlのスリット幅のみに影響を受ける.従ってBL12Aの分光器の 装置関数は図7‑3‑2で示すように方形であると仮定できる。
装置関数: d入)
A‑AA/ 2 ^ ^'AA/ 2
ド
図7‑3‑2 装置関数g(九)
一般に分解能が不充分なときの実測のスペクトルは、測定試料固有のスペクト ル(分解能を∞とした時の測定結果)と装置関数のたたみ込み(コンボリュ‑
ション)で表すことができる0本研究では装置関数(g(A)とする)は図7‑3‑2 の方形なので、実測スペクトル(h(九)とする)は試料固有のスペクトル(i(A) とする)の各九について区間【九一A九/2,九十A九/2]での和を平均したものに なる。
まず、基板温度が室温で作製した150周期多層膜の直入射試料(図5‑3‑2(a)) を例に話を進める。一般的なシミュレーション方法は多層膜の周期長は一定で 反射率の減衰は界面粗さにのみ影響を受けるとしたものである。これに従って フィッティングをした結果を図7‑3‑3に示す。破線はCr/Sc多層膜鏡の反射率 シミ̀ユレーション結果(波長分解能を…として計算した結果)、実線は破線に コンボリュ‑ションを考慮したもの、点は実測点である。実測点と実線を比較 するとピークのすそが全く合わないことがわかる。実測ピークの形状は非対称 でかつ短波長側のすそにはサイドピークが、長波長側のすそには広がりがある のに対し、シミュレーション結果は左右対称など‑ク形状である。従って、一 般的なシミュレーション方法では本研究の測定結果の特徴を評価できない。
64
3.1 0 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑3 従来の計算方法によるフィッティング(室温で作製した直入射試料)
5
(% )a Du t2 79 au O∝
・S
ピークのすそ形状を説明するために周期長が正規分布に従ってばらついてい ると考えたシミュレーション方法に変更した。具体的にはより現実的な周期長 の変動を取り込むために、初期値を入力して[0, 1】の一様乱数を発生させ、発 生させた一様乱数から正規乱数をつくり、周期長平均値がD、広がり(標準偏 差)が6Dの正規分布に従った周期構造を多層膜はしていると仮定する計算プ ログラムにした。概念を図7‑3‑4に示す。作製試料の周期構造のずれは作製時 のスバッタ蒸着レートの実測された時間変動に起因するとする。 ∂Dにはイオ ン電流密度値の時間変動である0.51%を採用した。つまり、 ∂D‑DXO.51%
とした。
D‑∂D D D+∂D
図7‑3‑4 周期長のばらつきの概念
66
乱数による周期長のばらつきを取り入れたシミュレーションにより、図7‑3‑
5で示すようなピーク形状の変化が生じた。図7‑3‑5中の破線は従来の周期長 が一定であるとして計算したものであり、計算パラメーターはどの曲線も全て
D‑1.780nm、 0‑0.350nm、 め‑270 、周期数150であるo 各実線はぞれぞれ
入力する乱数の初期値が異なる。 25個の異なる初期値を入力して25回のシミ
ュレーションを行った(全てD‑1.780nm、 0‑0.350nm、 め‑270 、周期数150
である)結果の統計を調べると、周期長が一定とした時の計算結果がピーク位
置3.164nm、反射率9.5%、 FWⅧMO.023mmであるのに対し、ピーク位置3.1643
±0.004nm、反射率8.8±0.3%、 FWHMO.0198±0.0006nmであった。また、サ
イドピークが高くなり、ピークのすその形状が大きく異なった。
3.10 3.15 3.20 3.25
Wavelength (nm)
図7‑3‑5 ピーク形状の変化
5
( % ) o D u t 2 P O u a t ]
・ S
0
この周期長にばらつきを取り入れた計算プログラムで、基板表面温度を変化 させて作製したCr / Sc 150周期多層膜直入射試料の軟Ⅹ線反射率測定結果を フィッティングした結果を図7‑3‑6(a)〜(i)に示すo図7‑3‑3と比較して良い一 致を示した。
Cr/Sc150 palrS
Tsub = R・T・
D=1.802nm o=0.310nm
3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑6(a) Cr/Sc150周期多層膜(室温)のフィッティング結果
68
5
( % ) o D u e P a u a t J ・ S
・ ・ ・ ・ ( . 4 . . 日 ( . . . I
60 2
ふじ丁
3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑6(ち) Cr/Sc150周期多層膜(40℃)のフィッティング結果
3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑6(C) Cr/Sc150周期多層膜(so℃)のフィッティング結果
5
(% )o ou t2 Pa uO
∝・ S
5
(% )a o ue p Ou e
∝・ S
Cr/Sc 150 pairs
Tsub = 70oC
D=1.780nm o=0.265 nm
3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑6(d) Cr/Sc150周期多層膜(70℃)のフィッティング結果
3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑6(e) Cr/Sc150周期多層膜(loo℃)のフィッティング結果
70
5
(% )o Du t2 PO ua
∝ぁ
0
′
∫
′
・ . 1 ・
・ . . 。
・ ・ ' 日 ・
・ ・
・ .
・ . . 〜 ,
̲ P
L= EI LT
50
≡ 2
人U T
(% )O ou t2 Pa uO
∝・ S
5
3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
VVavelength (nm)
図7‑3‑6(り Cr/Sc150周期多層膜(150℃)のフィッティング結束
フィッティングにより求めた界面粗さoを試料作製時の基板表面温度でプロ ットしたものを図7‑3‑7に載せる。 Cr/ Sc多層膜では、作製時の基板表面温度 が50℃から70℃にすると界面粗さを抑制できると考えられる。
50 100
Tsub ( Oc)
(% )o Du t2 Pa uO
∝・ S
(∈ u) ss ou u6 no L. S'
∈・
」
2 0 3 3 0 . 0 .
図7‑3‑6(a)〜(i)のフィッティングで使用した計算方法では入力する乱数の初 期値により形状が様々で、殆どの場合実測ピークに対して良い一致を示さない。
言い換えればある特殊な場合でのみ一致を示す。そこで、上層に行くほど周期 長がD‑ ∂DからD+∂D‑と線形的に増加するモデル(線形増加モデル)と、
上層に行くほど周期長がD+6DからD1 6D‑と線形的に減少するモデル(級 形減少モデル)を考えてシミュレーションを行ったo ここでは6DをDXO.4%
としている。図7‑3‑8(a)に線形増加モデルでのシミュレーション結果を、図7‑
3‑8(b)に線形減少モデルでのシミュレーション結果を載せる。破線がシミュレ ーション結果で実線はさらにコンボリュ‑ションを考慮した結果である。
3.00 3.05 3.10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelength (nm)
図7‑3‑8(a)線形増加モデル
72
8
(%)83uePOua∝・S
6
2
0
3.00 3.05 3. 10 3.15 3.20 3.25 3.30
Wavelen9th (nm)
図7‑3‑8(b)線形減少モデル
実測した軟Ⅹ線反射率ピークの形状と比較して、図7‑3‑8(a)はピークの短波 長側に出るサイドピークの高さは低いものの、ピーク全体の形状は類似してい る。従って、作製したCr/ Sc多層膜試料は上層になるほど周期長(膜厚)が 厚くなっている構造をしていると考えられる。
(% )a ou t2 tU aF J0
∝・ S
◆●
6
2
第八章 まとめ
本研究で導いた結論を挙げる。
ScのL吸収端(正確にはLⅡ吸収端)を利用したScをスペ‑サーとする波 長3mm近傍の軟Ⅹ線多層膜反射鏡を作製した。幾つかのアブソーバーで多層 膜を作製したところ、 Crが最もScに対して良い周期構造を与えることがわか
った。
作製したCr / Sc 250周期多層膜で波長3.155mmの光に対しピーク反射率 13.9%を達成した。この時の直入射角は27.50 である。
作製したCr/ Sc 200周期多層膜偏光子を検光子に利用して、KEK‑PF、BL12A
の直線偏光度を測定し光軸調整を行ったところ、従来の光の強度を頼りにした 光軸調整方法では電子軌道面から観測角にして0.2 mrad離れた光を取り出し ていたことがわかった。多層膜偏光子を使用した回転検光子法による偏光度測 定が精度良い光軸調整方法であることが実証された。
作製した多層膜の周期構造は各周期長にばらつきを持ちつつ、上層になるほ ど膜厚が大きくなっていると考えられる。
作製時の基板表面温度を変化させてCr / Sc 150周期多層膜を作製したとこ ろ、 50‑70℃付近で界面粗さが抑えられる傾向が見られた。 TEMなどで実際 に構造を確認すれば良い参考になると考える。
透過型sc単層膜の透過率を測定した結果からScの光学定数を導いたところ、
バークレー研究所公開の光学定数と比較して、吸収端で大きな違いが見られた。
今後より良い多層膜設計、製作、解析には光学定数を精度良く測定することが 必要である。
74