本稿では、東シナ海・南シナ海の海底地形の作成手法 について説明するとともに、既存の地形データと比較しなが ら今回作成した海底地形データの特性を示してきた。本節 では、対馬海峡西水道を例に、水深データの選択が地形 データ作成に及ぼす影響を論じる。
図14は、北緯 35 度、東経129度20分周辺の海域につ いて3つの日本海図を抜粋したものである。上段左は 1984 年刊行の海図 304(縮尺25万分の1、東京測地系),右は同 じ海図の 1935 年版(1940 年に小改正)、下段左は 2004 年
刊行の海図 W302(縮尺50万分の1,WGS84 測地系)を示 し、下段右は海図 304(1984 年版)と W302、並びに Tecs (ver.2)の 1 次データを重ねたものである。
図中の細い黒直線は、GIS ソフトにより 5 分間隔で引か れた緯線と経線である。前世紀に刊行された上段の2つの 海図は東京測地系を採用しており、GIS ソフト(WGS84 測地 系)と海図(太線)の緯線・経線の間にずれが見られる。
図14に示された赤丸は、1935 年の海図とその後発刊さ れた海図の両方で共通に使われていた水深点を表している。
図中で 1984 年の海図に記載された5つの水深点は全て半 世紀前の海図と同じものであった。1935 年の海図には「明 Fig.14. Water depth at the northeastern East China Sea (the Tsushima Strait, west channel) appear in different
navigational charts, (upper left) Japanese Chart 304 (1984 edition; Tokyo datum), (upper right) Chart 304 (1935 edition; Tokyo datum), (lower left) Chart W302 (2004 version; WGS1984), and (lower right) Charts 304 and W302 overlaid with the source sounding data used to compile Tecs Ver.2). Red circles denote depth points that originally appear in the chart issued in 1935.
治 30 年(1897 年)から大正7年(1918 年)の間の測量結果に 昭和9年までの資料を追加」と記載されている(原文は文語 体)ことから、海図発刊時より 70 年以上前、本稿執筆時より 100 年以上前の測量結果に基づいていた可能性がある。
図14右下の図に示された青色の数値は、Tecs 作成に使 用した 1 次データの水深である。大縮尺の韓国電子海図と マルチビームデータを中心に構成され、水深点の数は今回 取り上げた紙海図よりもかなり多い。1984 年の海図の水深と 周辺の 1 次データの水深を比べると、図の右側 3 分の1の 領域では良く対応しているが、左側では海図の水深が一次 データの値よりかなり浅い。特に南側の水深点(76m)の値 は、周囲の水深値(136m-160m)とかけ離れている。海図水 深の 1.82 倍(尋とメートルの換算比)が 138m で、隣接の水深 値に近いことから、大昔に 76 尋と報告された水深値がメート ル表記と誤解されていた可能性が高い。その後発刊された 海図 W302 では、これら浅めの水深は採用されておらず、全 て 1 次データの値と良く対応している。
1935 年の海図掲載の水深値であっても、近年の測深値 と大差ない地点(例えば、図中上部の 107m 水深など)も存 在することから、古い観測値全てに問題があるとは言えない が、極力新しい水深情報を入手することが望ましい。同時に、
最新の海図でも、かなり古い情報が含まれていることがある ことを留意し、海図記載事項から情報の出所を確認するとと もに、他のデータとの比較を行うことが不可欠であるを今回 の例は示している。
地形データ作成に使用した元データを管理することは、
品質保持以外のメリットもある。例えば、元データがあれば 一部海域について、より空間解像度の高い海底地形を作成 したり、緯度・経度座標ではなく、他の座標系や非構造格子 を採用する地形データを作成することも容易になる。
6. まとめ
本稿は、東シナ海・南シナ海の海底地形データ作成過 程をまとめたものである。インド洋の一部海域を除き、収集し た約 650 万の水深点から解像度 1 分(60 分の1度)の格子デ ータを作成している。潮汐モデルへの適用を念頭に、地形 急変部などの再現性を考慮している。過去 10 年ほどの間に、
この海域の水深データは質、量とも飛躍的に向上しており、
特に韓国西海岸や南シナ海北東部では、既存の格子地形 データよりも詳細な地形形状を再現することが出来た。さら に、最終データの精度向上には、複数の水深情報の比較・
検証が不可欠であることを具体例を通して明らかにした。
反面、水深データが不足する東シナ海陸棚や南シナ海 浅海部などの海域においては、精度に改善の余地があるこ とが示された。特に南シナ海の浅海域は、古い海図の限ら れた水深情報に頼らざるを得ない現状にある。今後、測量 やデータ公開が一層進むことが望まれる。
謝 辞
海底地形作成に使用した各種データは表1に掲載した諸 機関から提供を受けました。ここに謝意を表します。
Acknowledgements
Author would like to thank organizations and authorities listed in Table 1 for maintaining and providing datasets used in this study.
参考文献
1) Uehara, K., Saito, Y., Hori, K., 2002: Paleotidal regime in the Changjiang (Yangtze) Estuary, the East China Sea, and the Yellow Sea at 6 ka and 10 ka estimated from a numerical model, Mar. Geol., Vol. 183, (2002) 179-192.
2) Uehara, K., Scourse, J.D., Horsburgh, K.J., Lambeck, K., Purcell, A.P.: Tidal evolution of the northwest European shelf seas from the Last Glacial Maximum to the present, J. Geophys. Res., Vol. 111, (2006) 15pp.
Doi:10.1029/2006JC003531.
3) Smith, W.H.F., Sandwell, D.T.: Global Sea Floor Topography from Satellite Altimetry and Ship Depth Soundings, Science, Vol.277, (1997) 1956-1962.
4) Uehara, K.: Compilation and validation of bathymetric data for the South China Sea with and emphasis on shallow region, Eng. Sci. Rep., Kyushu Univ., Vol. 35, (2014) 7-13.
5) Uehara, K.: Compilation of bathymetric data for the South China Sea 2: High resolution dataset based on multiple sources, Vol. 37 (2016), 12-18.
6) Uehara, K.: Compilation of bathymetric data for the East China Sea, Rep. Res. Inst. Appl. Mech., Kyushu Univ., No.150, (2016) 6-13.
7) Caress, D.W., Chayes, D.N.: New software for processing sidescan data from sidescan-capable multibeam sonars, Proceedings of the IEEE Oceans 95 Conference, (1995) 997-1000.
非定常乱流モデル LES による
地形性乱流診断と風車安全管理への応用
川島 泰史
*内田 孝紀
* *(2017年7月31日受理)
Large-eddy simulation of airflow over complex terrain and application to the wind turbine safety management
Yasushi KAWASHIMA and Takanori UCHIDA E-mail of corresponding author: [email protected]
Abstract
With the growth in the number of wind powered generator facilities in recent years, such facilities built on complex terrain such as mountainous areas have seen increase in accidents such as damage of turbine blades. In face of the recent growth in the number of wind turbine accidents, the national government has reinforced its safety regulations on wind power generation facilities.
This research was conducted in cooperation with Kyudenko New Energy Co., Ltd., to measure deformation on wind turbine blades and gather actual data on wind conditions for Wind Turbine #10 of the Kushikino Reimei Wind Farm (in operation since Nov. 2012), in Kushikino, Kagoshima Prefecture.
Based on the gathered measurement data, the wind direction that most impacted the structural strength of the turbine was identified, and the data was analyzed in detail. To examine into the failure analysis method based on numerical wind loads, numerical wind simulation based on large-eddy simulation (numerical wind diagnosis) was conducted for the wind directions that have been identified. The research focused especially on the 3D air flow structure and wind load characteristics of east wind, which showed the largest impact from terrain-induced turbulence and north wind that showed the least impact and studied the correlation with actual measurement data.
Lastly, a proposal is presented on application on wind turbine safety management based on numerical wind simulation with attention to the requirements in the structural strength of the wind turbine.
Key words : Complex terrain, Terrain-induced turbulence, LES, Safety management
1.緒言
近年の風力発電設備の増加に伴い、山岳部などの 複雑地形上に建設された風力発電所において、風車ブ レードの破損等の事故が増加傾向にある。こうした近年 の風車事故の増加傾向を受けて、国は事故防止対策の 検討を行い、平成29年4月1日より、単機出力500kW以 上の風力発電設備を設置する発電所にも定期安全管理 審査制度を導入する電気事業法の改正を実施した。定 期安全管理審査制度の概要は、電気事業法第55条第1 項で定める電気工作物を設置するものは、定期事業者 検査を行い、その結果を記録・保存することが義務付け られている。検査対象部位は、ブレード・タワーなどで、
部位毎にボルトナット検査などを実施する必要がある。ま た、その定期事業者検査の実施に係る組織、検査の方 法、工程管理等について、登録安全管理審査機関によ る定期安全管理審査を受審することが義務付けられてい る。
この様に国の風力発電設備に対する安全規制が強化 される中、著者らの最近の研究から、風車の事故に対し て、地形性乱流が強く関係していることが指摘されている
1)-3)
。今後、日本国内の山岳部などの複雑地形に設置さ
れた風車の事故や故障を低減するため、保守や運用の ための安全管理に寄与する高精度な数値風況面からの 故障分析手法の確立が必要である。
このような状況を受け、我々の研究グループでは、「実 地形版RIAM-COMPACTソフトウエアによる精密な数値 風況シミュレーション(数値風況診断)」を実施している
1)。 本研究では、九電工新エネルギー㈱の協力の下、鹿児 島県串木野れいめい風力発電所(平成24年11月より運 転を開始)の10号機風車を対象として、風車ブレードの 歪みや実風況データを計測した。得られた計測データか ら風車構造強度へ最も影響を与えた風向を特定し、詳 細なデータ解析を行った。次に、数値風況面からの故障 分析手法の検討のため、特定された風向を対象に、ラー
*西日本技術開発㈱〔九州大学航空宇宙工学専攻社会人博士課程在籍〕,**九州大学応用力学研究所
ジ・エディ・シミュレーション(LES)に基づいた数値風況 シミュレーション(数値風況診断)を実施した。特に、本報 では、地形性乱流影響の大きかった東風と影響の小さか った北風の、3次元的な気流構造とその風況特性に着目 し、実測データとの相関性を考察した。
最後に、風車構造強度条件を考慮した数値風況シミ ュレーションによる風車安全管理への応用についても提 案を行う。
2.串木野れいめい風力発電所の概要
九電工新エネルギー(株)の協力の下、本研究では図1 に示す鹿児島県いちき串木野市羽島地区に位置する串 木野れいめい風力発電所(平成24年11月より運転開始)
を対象とした。本風力発電所には、日立製作所製2MW 風車が10基設置されている。特に、東側に位置する弁財 天山(標高519m)を通過する際に発生する風の乱れ(地 形性乱流)の影響が懸念される10号機風車に着目した
(図2、図3、表1を参照)。
図1 串木野れいめい風力発電所の位置関係
(Google Earthによる)
図2 現場の写真
(著者が2015年10月28日撮影)
図3 弁財天山(標高519m)と10号機風車の位置関係
(Google Earthによる)
表1 弁財天山(標高519m)と10号機風車の位置関係 風車
ナンバー 標高 ブレード
先端高度 離隔距離 10号機 418m 518m 約300m 3.風車疲労荷重データ解析(実測データ解析)
風車はブレードを通して風エネルギーが入力されるこ とから、ブレード根元の強度評価(ブレードの曲げ荷重 評価)は、風車構造強度の評価上、極めて重要である。
そのため、本研究では10号機風車のブレード〔ブレード3 本の根元(ルート部:ハブ接合面から約1.3m)〕に電気式 歪センサーを設置した(図4参照)。
2015年11月3日0時~2016年3月17日7時において、
風車メーカーの協力の下、10号機風車のブレード歪み 実測データに基づきDEL〔疲労等価荷重(ブレード曲 げ)〕を解析した結果、東風(風速約6~10m/s)の場合、
設計値を超えていることが分った。一方で、計測期間で 最も出現率の高かった北風(表2、図5参照)の場合は、
風速4m/s以上の全風速階級で設計値を下回り、東風と 比較してブレード歪みデータに基づくDELに明確な差異 があることが確認された(図6参照)。
東風および北風以外のDEL(疲労等価荷重)解析結 果などは、文献
5)を参照して頂きたい。
図4 10号機風車のブレード歪計測位置 10 号機の概要
メーカ:日立製作所 型式:HTW2.0-80 定格出力:2,000kW 風車の高さ:60m (地面~ハブ中心) 翼(ブレード)の
直径:80m IEC 設計風速
(疲労):ⅠA 10 号機
弁財天山 (標高 519m)
風車群 N
10号機
約 300m 弁財天山
10 号機
ブレード先端高さ : 100m
ハブ高さ : 60m
φ80m 歪センサ