第 5 章 シミュレーションによる散乱フラクションの推定
5.4 考察
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表5.3.6.1 人体模擬ファントムの各ベッドにおける散乱フラクション
Section of phantom (center of Z-axis[mm])
Scatter Fraction
[%]
Source Volume (Phantom Volume)
[cm3]
True/Volume [Counts/ cm3]
Scatter/Volume [Counts/ cm3]
① ( -300 ) 37.7 3138 15 9.3
② ( -150 ) 34.3 8387 11 5.9
③ ( 0 ) 32.5 9131 13 6.3
④ ( 150 ) 45.8 7741 6.8 5.7
⑤ ( 300 ) 43.4 7607 6.8 5.2
average 38.7 7201 10 6.5
肺野が多く含まれるベッド③と腹部に相当するベッド④では 13.3 %の違いがあった。こ れら5ベッドの平均は直径20 cmの散乱ファントム(48.3%)よりも9.6 %低い値であった。最 後に、5.3.3の結果も含め図5.3.6.2にまとめる。
図5.3.6.2 各ファントムにおける散乱フラクション
5ベッド平均の散乱フラクションのFSDが0.5 %以下となる試行回数は6250万回(1ベッ ドあたり1250万回)であった。計算時間は570 分(1ベッドあたり114分)であった。
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ット球の最大値の位置のずれはそれぞれ1および2 pixel、FWHMは3.1 mmおよび0.8 mm であった。実機により得られた画像は十分な信号量(撮像時間30分)であるのに対し、シ ミュレーションでは信号量が不足していることが今回の差が生じた最大の原因であると考 えられる。十分な信号量を得ることが可能であればノイズが減り、Itarationを増やして高周 波成分を収束させることが可能であると考えられる。これらの事を加味すると両者の違い は小さく、PET装置をほぼ模擬できていると考えられる。
5.4.2 内挿法と直接法による散乱フラクション推定法の比較
内挿法の結果は文献値よりも1.1 %高い値となった。図5.3.2.1に示すように各行の最大値 を取る位置はばらつきがあり、そのピクセルを中心にシフトさせることで真の同時計数が 中心から外れて加算されてしまう。図5.3.2.3 においてピークの裾部分に真の同時計数が加 算されているのが分かる。内挿法では最大の値を取る列から20 mmの点を結ぶが、ピーク の裾部分に真の同時計数が含まれた場合、その 2 点を結ぶ間のすべての列において散乱成 分が過大評価され散乱フラクションは高い値を示す。これは、実測による信号量に比べて シミュレーションの試行回数が少ないためであると考えられる。十分な試行回数をとるこ とで、真の同時計数がすべて中心のピーク部分に加算され文献値に近づくと考えられる。
一方、直接法(Direct_Bin<120 mm)では、上記のような制限を受けることなく文献値と一致し た結果が得られている。これにより、直接法の妥当性が示され、どのような線源の分布に おいてもPETで定義される散乱線(散乱の有無およびLOR-線源位置の距離が20 mm未満)
を推定可能である。しかし、線状線源を用いた測定では線源位置から 120 ㎜までの距離を 考慮することで十分とされているが、実際の臨床画像においては 120 ㎜以上離れて計測さ れる散乱同時計数もFOV内に計数された場合、画質劣化をもたらすため、FOV内に計数さ れる同時計数を考慮した直接法(Direct<FOV)の結果が適切であると考える。5.2.4 以降の 検討では直接法(Direct<FOV)を用いて計算している。
散乱ファントムが大きくなるに従い同時計数の数は指数関数的に減少し(図5.3.2.3)、散 乱フラクションは増加した(図5.3.2.1)。臨床において体積の大きい被写体でも同等の画質 を得るためには、同時計数の減少および散乱フラクションの増加という 2 つの事を考慮し て撮像時間を延長させなければならないことを示している。
直径10~50 cmの散乱ファントムにおける散乱フラクションは31.2~75.2 %の値をとった。
散乱フラクションの増加率は直線的ではなく、徐々に傾きが小さくなっている。これはフ ァントムでの吸収による影響が支配的になっているためであると考えられる43)。Ardaら44) によって同様の検討が行われているが同様の傾向を示している。Ardaらは35~85 %程度で 若干高い値を取っているが、これはエネルギーウィンドウを350-650 keVに設定しているた めであると考えられる。さらに考察において文献値よりも高くなった理由として視野外散 乱線を低減するタングステンシールドを模擬していないことをが挙げられている。視野外 放射能がある場合には3 %程度散乱フラクションが増加することが報告されている45)。直接 法により求めた散乱フラクションのFSDが0.5 %以下となる試行回数は比較的少なく、計算 時間も 1 時間程度であった。この理由としてファントム自体が単純な体系であることが考 えられる。
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5.4.3 ボディファントムにおける散乱フラクション
本検討におけるボディファントムの散乱フラクションは固定値の 0.76 倍であり固定値を 使用した場合、過大評価(NECphantomは過小評価)をしていると言える。散乱ファントムを 使用し視野外散乱線を考慮した場合の結果では固定値の 0.87倍となっており、より固定値 に近づいている。そのため、散乱ファントムは効果があると言える。固定値を用いた場合 と比較し、今回の結果を使用すると、従来の固定値を使用してNECphantomを計算した場合に 比べ1.45倍の値となる。
5.4.4 視野外散乱線の影響
図5.3.2.3 の結果からも散乱ファントムの大きさが大きくなるに従い、同時計数の数は指
数関数的に減少することが分かっており、図5.3.4.1の5つの図においてもファントム径が 大きくなるに従い計数が極めて少なくなっている。直径10 cmのファントムでは視野内にお ける信号の大部分が真の同時計数であるのに対し、直径50 cmでは体軸方向のどの位置にお いても散乱同時計数が上回っている。真の同時計数は視野内(<8 cm)のみに計数され、散 乱同時計数は緩やかに減少し、中心から25~30 cmの距離まで計数されている。視野外に脳 や膀胱など高集積の部位が存在することで視野内の計数に与える影響は大きく、実際の臨 床画像を使用しシミュレーションする場合には計算するベッド以外の線源も考慮する必要 がある。今回の結果より散乱同時計数の40~50 %は視野外からのものであることが明らか となった。視野外散乱線を低減するシールドを有効活用することでより画質、定量性が向 上することが示唆された。Adamら43)の検討では視野外散乱線の割合が多く、中心から20 cm 程度までカウントされているが、これはエネルギーウィンドの下限値が350 keVと低いこと、
エネルギー分解能を考慮していないことが考えられる。エネルギー分解能(18 %)を考慮 した場合、340 keVのガンマ線においても375 keV以上とカウントされる場合があり、視野 外散乱線がより遠位(散乱角が大きい)までカウントされたのだと考えられる。つまり、
同時計数とするエネルギーウィンドウの下限値が低いほど、エネルギー分解能が悪いほど 視野外散乱線の影響が多くなり、より遠位の線源までカントされることが明らかとなった。
今回の結果より視野外散乱線を考慮するにあたって散乱ファントムの長さ70 cm(±35 cm)
は、十分な長さであると言える。
5.4.5 被写体の形状および線源の分布の違いが散乱フラクションへ与える影響
扁平率が大きくなるほど散乱フラクションは低下した。しかし、実際の臨床画像を想定 した場合には扁平率の違いは0~0.3(縦:横=1:1~1:1.5)程度であると予想される46)。 直径20 cmファントムにおける扁平率0と0.3での散乱フラクションの違いは0.6 %である。
人体を想定した場合には扁平率の差による影響は小さいと考えられる。一方、線源の分布 は臨床画像においても変化が大きい。これは脂肪にはFDGが集積しないためであり、腹部 においては55~100 %の範囲まで線源の分布が変化すると考えられる11)。図5.3.5.1より直
径20 cmファントムの線源の分布割合55 %と100 %では約4.5 %の差が生じる。散乱フラク
ションを推定する場合にはFDG分布の違いを考慮すべきである。しかし、体脂肪率が同じ
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であっても皮下脂肪の厚さは異なる 47)ため、BMIなどの指標よりも検査画像から皮下脂肪 の割合とFDGの分布を確認するべきであると考える。
5.4.6 人体模擬ファントムにおける散乱フラクションの推定
線源を均一に配置した人体模擬ファントムの散乱フラクションは 38.7 %であり、本研究 における直径20 cm散乱ファントムの結果と比較して9.6 %低い値となった。そのため、直
径 20 cm散乱ファントムの結果は今回使用した人体模擬ファントムよりも大きな被写体を
想定していると考えられる。しかし、本検討では線源が均一に配置しているため、線源が 体表面まで存在することや脳や膀胱からの視野外散乱線を考慮していないことに注意しな ければならない。臨床画像を用いて検討した場合、人体模擬ファントムと同等の体格であ ったとしても、散乱フラクションは今回の結果よりも高い値を示すと予想される。各ベッ ドにおいて散乱フラクションの値は10 %以上異なる。頸部・胸部に相当するベッド①~③ と比較して、腹部・骨盤に相当するベッド④と⑤は、体積あたりの真の同時計数が半分ま で低下している。これは、各ベッドにおいても撮像時間を調節する必要性があることを示 唆している。また、ベッド④と⑤は空気をほとんど含まず、ほぼ同じ体積であるのに対し 散乱フラクションが2.4 %異なる。これはベッド④が視野外散乱線による影響をより多く受 けているためであると考えられる。5ベッド平均の散乱フラクションのFSDが0.5 %以下と なる計算時間は線状線源を挿入した散乱ファントムにおける計算よりもかなり時間を要し た。これは線源の配置の際に、配置の元としたPET 画像のピクセル値を格納した配列を参 照しているため、線状線源を用いる場合よりも処理が多くなっていることが原因であると 考えられる。臨床画像を用いた検討をする際には、同様の手順で行う必要があるため計算 時間が問題となる。