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繁栄期(ブーム,好況後期)

ドキュメント内 資本蓄積と産業循環の理論 (ページ 110-157)

第2章  景気局面の定義と基本的モデル

4.  繁栄期(ブーム,好況後期)

 稼働率が上限に達すると,生産の増大は,それまでのように稼働率の上 昇と蓄積に拠るのではなく,前期に実現した蓄積の結果としての当期の生 産能力の増大だけに規定される。 既存設備稼働率は頂点に達し,在庫率は 最低水準を推移する。 稼働率は限界に達しても,それ以前の投資によって 実現した設備が稼働を始め,原材料と労働力を調達できる限り,生産は増 大する。 つまり稼働率が限界に達しても,生産は限界,頂点に達せず,追 加的生産要素(具体的には供給弾力性が固定的な原材料,労働力)が途絶え るまで生産増加は続く。 追加的生産要素供給が限界に近づく程度,時期は 要素によって異なる。 生産手段供給逼迫は当然限界生産性が低下する天然 原料供給部門(土地生産物)において強く発生する。 原料は各部門の普遍的 な生産要素であり,その価格の絶対的相対的増加を通じ,他部門の利潤率 低下をもたらす。

 他方,いくら蓄積需要が増えても,生産は前期に実現した蓄積の分しか 増大できず,需給関係は逼迫する。 生産水準は絶対的には高いが,稼働率 上昇の鈍化・停止,在庫払底により生産上昇率は鈍化する。 逼迫の程度,

時期は生産要素毎に異なり,物価上昇率は個別的に相違するが,平均的に は物価上昇率は最高となる。 その程度に対応して売買差益を求める投機が 発生,拡大する。 強い需要と急激な価格上昇が商業信用,更に銀行信用を 膨張させる。

 他方,需要超過状態での高水準の生産は短期的な労働力全体の稼働率の 上昇,すなわち現役労働者の労働時間の延長と産業予備軍の低下,失業率 の低下をもたらし,これらは一人当たり実質賃金収入と労働者の所得の絶 対的増加をもたらす。 高い生産性上昇を実現できている限り,原料価格の 上昇と実質賃金率の上昇は一般部門の実現利潤率,労働分配率の増大を阻 止する。そして,その限りで投資増大も継続する。

 需要超過,物価上昇,信用に支えられた原料価格高騰,投機の出現,名 目・実質賃金上昇,限界稼働率,生産性上昇,利潤率維持・上昇というこ の局面こそ,まさに繁栄局面即ち好況頂点である。 外見上は,全ての企業 と労働者にとって快適な経済状態である。

 この局面の継続は,一般部門の生産性上昇,利潤率維持・増大に支えら れている。 しかし,生産性上昇を上回る原料価格の上昇と実質賃金率の増 大が更に進行すれば,そして,それをくい止める内的制約は資本主義に存 在しないのであるが,やがて,必ず一般産業部門の実現利潤率を低下させ る。 一般産業部門の利潤率低下は原料部門生産部門や投機にはしる金融・

流通部門の高利潤率によっては相殺されない。 つまり,高利潤率部門であ る原料部門への資本移動は新規の有用土地の偏在とその独占のために容易 に進行せず,あるいは原料部門へ参入し得ても供給増加には時間がかかる。

土地生産物の特性である限界生産力低下原理が作用する。

 労働力市場においても,実質賃金率,実質賃金収入の増大はこの局面で は労働力供給の比例的な増大を招かない。 逆に安定した所得の増加は,実 質賃金率水準が低いときの労働力供給態度からの変更,所得増大に支えら れた労働力供給の減退(女性の家庭への復帰,子供の学校教育・高等教育へ の参加,余暇時間の拡大)を引き起こす。つまり,ケインズが指摘した通り,

高失業低雇用の時の労働者は最低再生産費を確保できるのであれば,いく らでも労働供給を増やそうとする 。が,逆は逆である。その意味で,報酬 と労働供給が単純に比例するとした新古典派的な労働曲線は一般的には成 立しない。 そして,この繁栄,頂点の局面で労資関係における労働の相対 的優位により労働供給の低下(所定労働時間と所定外労働時間の低下,労働 強度の低下)と賃金上昇が並行する。

植 不  況

 供給が需要を上まわる不況期は恐慌,それに続く不況前期,不況中期,

不況後期(末期)に区分できる。

1.恐慌(需給関係の逆転局面)

 絶対的な高生産水準,高雇用,投機に媒介された高物価の下での,程度 の差はあっても,需給関係が大なり小なり急激に需要超過から供給超過に 転換する局面,これが恐慌である。

 繁栄の終局として前期において原料価格上昇率,実質賃金率の上昇率の 合計が生産性上昇率と製品価格上昇率の合計を越え,一般的産業部門の実 現利潤率が低下すると,企業は次期の予測利潤率を引き下げ,計画蓄積率,

蓄積額を前期より低下させる。 この結果,当期の需要成長率は前期以下と なる。 他方,当期の供給成長率は当期よりも高い前期の蓄積率に規定され ているので,当期供給成長率は需要成長率を越え,あるいは供給量は需要 量を超え,需給関係が逆転する。

 絶対量としての需要は大きいが,価格は下落し,他方,当期の生産した がって雇用は拡大するため,賃金の上昇は続き,当期の実現利潤率は更に 低下する。需要の収縮で原料価格が急激に低下する。資源価格の低下は投 機を収縮させ,一般企業の収益の低下はまた信用を圧縮させる。 債務の返 済困難は決済資金の確保のための現金の確保,追加出費の抑制(投資の減額,

見送り,債権回収),狼狽売り(たたき売り),時には個別企業における一時 的な生産停止すら招く。この過程がまさにパニックである。債務の支払い のための狼狽売りはいかにも「利潤率の低下を利潤量の拡大で補う」ように 見える。

 恐慌の具体的現実過程は現実の具体的な諸条件,制度,政策の作用を強 く受ける。 特に政策的に信用量を操作できる中央銀行を軸とする貨幣金融

制度が整備されているかどうか,政策当局が直接には統制できないような 経済の国際化の程度はパニックの発生,程度に重要な役割を持つ。  個別企業においては生産の一時的停止も再生産の中断(廃業,倒産)も発 生しうる。 現実には需要と価格の急落に対して減産ではなく生産停止,仕 入れ停止,在庫売却で対応する企業もある。 形式論理的には全ての生産が 一時的に停止し,消費生活は流通在庫で賄うというモデルを想定すること も可能ではある。しかし,社会的次元で「再生産過程の中断」[宇野,1976,

104]が発生するわけではない。 社会的に生産規模は低下しても再生産は 停止せず,恐慌期を経て景気は「不況前期」に入る。

2.不況前期(蓄積の進展,蓄積速度の鈍化,経済規模の拡大鈍化,最大経 済規模の実現)

 需給関係の転換局面である恐慌に続き,不況前期過程が始まる。 この過 程において物価,稼働率,蓄積率は低下し,他方費用増大は続き,利潤率 が下がり,計画蓄積率も低下する。 しかし,利潤量・率は低下しても正値 をとるため蓄積額・率も正値をとる。 このため,供給過剰でありながら需 要と供給は増大していく。これは「資本の相対的過剰」局面と定義できる。

 「資本の相対的過剰」が出現しても,社会的蓄積は絶対的には拡大するの

世紀の原生的資本主義の確立以降,下方への逆転局面は信用の収縮の作用を受けて 一般的には急激で,大きな社会不安が生じた。このためこの生産(供給)過剰・需要過小 への逆転局面「恐慌」と呼ばれてきた。 信用の急激な縮小が,商業,生産 活動の個別的停止を含む劇的な圧縮をもたらす。一時の混乱の後,生産は深い谷間から やや回復する場合もあるし,そのままより深い谷間に入っていく場合もある。しかし,

歴史的に実在した,中央銀行の信用調整機能が不十分であった段階の原生的資本主義こ そが資本主義の唯一の理論モデルというわけにはいかない。資本制システムは,恐慌を 何度も体験することを通じて,パニック状態を緩和する諸条件を整備(進化)してきたの であり,これを「人為」として排除すべきではない。

で,労働需要も増大を続ける。しかし,労働供給制約が発生しているため,

労働分配率は増大,利潤分配率はさらに低下する。これは螺旋的な蓄積額・

率の低下過程である。 この需給関係悪化の下での生産・消費拡大はやがて 絶対的過剰生産即ち利潤の消滅,蓄積の停止に至り,経済規模は最大に達 する。生産と消費の規模が最大に達する時,既に需給関係は逆転しており,

以後は資本破壊(負の蓄積)による経済規模の縮小が生じる。

3.不況中期(絶対的過剰生産局面,負の蓄積または資本破壊,経済規模の 絶対的低下)

 供給過剰下での蓄積の進展は相対的に劣等な諸条件を抱えた企業の負の 蓄積(廃業,倒産,生産能力の一部廃棄)による社会的資本量の減退を引き 起こす。劣位にある企業の投資は利潤を生まず,あるいは損失をもたらす。

個別的絶対的過剰生産の発生である。彼らは蓄積を停止するだけではなく,

負の蓄積を開始する。 下位企業群の蓄積停止,負の蓄積は蓄積需要をさら に低下させ,社会的劣位企業群はもちろん,中,上位企業群の需給関係を 悪化させ,社会的な「資本の絶対的過剰」状態が出現する。

 生産過剰下において個々の企業の蓄積と他の企業における負の蓄積は社 会的には併存する。 費用,使用価値の質で劣る企業の廃業,倒産,能力規 模縮小という負の蓄積が他方での相対的に低下していく正の蓄積を上まわ ると,社会的生産における負の蓄積過程が始まる。 生産と消費は絶対的に 縮小する。

 もちろん,操業企業の稼働率の低下の程度によっては,社会的生産にお ける負の蓄積の開始以前に生産規模の絶対的縮小が始まる。 稼働率の低下

(生産施設の一部または全部の操業停止)と負の蓄積は更新需要,消費需要 を低下させ,経済の絶対的縮小過程が継起していく。 経済の螺旋的縮小過 程である。

ドキュメント内 資本蓄積と産業循環の理論 (ページ 110-157)

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