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生産手段の需給一致

ドキュメント内 資本蓄積と産業循環の理論 (ページ 56-105)

第1章  マルクスの恐慌理論

2.  生産手段の需給一致

 (),()は具体的にはそれを構成する各取引総額の一致であるから,

()〜()より,それは以下のようにも表現される。

()

()

 しかし,価値次元で両部門及び総計的な需給一致があったとしても,取 引は部門内,部門間にわたるので,それらが成立するためには個々の部門 内,部門間の取引においても需給一致が成立しなければならない。そこで,

まず,Ⅰ部門用生産手段の需給一致について検討しよう。今,第Ⅰ部門で

Ⅰ部門用の更新用と追加用として生産された生産手段の価値とそれに対す る購入需要(貨幣価値額)が一致したとしよう。即ち,第Ⅰ部門の部門内取 引の需給一致である。

()

()

(第Ⅰ部門用生産手段の需給一致;条件3-1)。これを条件として両辺を整 理すると,()式より次の式が導かれる。

()

これは,第Ⅰ部門が第Ⅱ部門用生産手段の価値量と第Ⅱ部門

が投入する生産手段購入用の貨幣価値が一致することを意味する(条件3-2)。

つまり,部門間の生産手段取引の需給が一致する。この両方の合計で,生 産手段供給全体がそれへの需要と一致する。しかし,経済的関係としては 逆で,(),(),()という関係が成立する結果,()が成立する。

部門内・間を問わず個々の取引で需給が一致しなければ社会的に需給が一 致しない。

3.Ⅱ部門用生活手段の需給一致

 同様に,第Ⅱ部門の被雇用労働者用生活手段の需給一致(),Ⅱ部 門追加労働者用生活手段の需給一致とⅡ部門資本家用生活手段の需給一致 を仮定すると(条件3-3),

()

()

()式より

()

つまり,第Ⅱ部門が行う第Ⅰ部門用の生活手段供給と第Ⅰ部門の生活手段 需要貨幣額が合致する(条件3-2)。しかし,これも経済関係としては逆で,

(),()の関係が条件となり,()式,()式が成立する。

4.Ⅱ部門用生産手段需要と第Ⅰ部門用生活手段需要の価値的一致(条件4)

 次に,

()

と仮定すると(第Ⅱ部門が生産手段購入に投下する貨幣額と第Ⅰ部門が生

活手段購入に投下する貨幣額の一致;条件4),次の関係式が成立する。

()

この()式こそ,マルクスの「拡大再生産の必要条件」式である。蓄積がゼ ロ,すなわち第Ⅱ部門の追加不変資本投資と第Ⅰ部門の可変資本投資 がなければ,()は,

()

という単純再生産の条件式となる。以上を総括すれば,以下のような結論 を導くことができる。

 ある一定期間の間に第Ⅱ部門で生産された一定量の生活手段の価値額と 第Ⅰ部門で生産された一定量の生産手段の価値額とが一致することが,順 調な再生産の必要条件となる。さらにこの式を導いた仮定から,第Ⅰ部門 に対する第Ⅱ部門からの需要と第Ⅱ部門に対する第Ⅰ部門 からの需要が等しいことが判る。逆にいえばが 成立することによって()式が成立する。

 通例,マルクス経済学においては,()式の成立が再生産を維持する決 定的な条件として語られることが多い。しかし,この条件は我々が示した ように四つの条件(仮定)を設けたうえではじめて成立する条件であり,そ れらの諸仮定が成立しなければあり得ない厳しい条件と言える。つまり,( )式は,部門内,部門間の全取引において需給が一致し,両部門の全商品 が価値(または生産価格)通りに売れること(つまり他人の商品を価値通り に買い,自分の商品を価値通りに売る)を前提して成り立つ。

 マルクスの価値的一致条件とは,貨幣を導入して表現すれば,単に社会 的総生産と総需給の一致ではなく,各部門における事前的需給一致,した がって部門内・部門間の取引全ての需給一致(さらには労働力の価値通りの

交換,即ち労働市場における事前的需給一致)を前提して成立する社会的需 給一致である。

 マルクスは表式的展開で部門間の一致条件を導いたが,それは部門内取 引の厳密な需給一致と個別的な取り引き全ての需給一致を前提して導出さ れる関係である。個別的・部門内・部門間全ての取引における需給一致を 仮定することによって,貨幣の過不足ない還流(貨幣投入者の手元への同額 の貨幣の還流)が導かれる。

 だから,()式自体で順調な拡大再生産の条件がすべて語られるという わけにはいかない。拡大再生産の一致条件としての()式は,全ての取引 における需給一致を総括して導かれるのであり,形式的な数量的一致を示 すものではない。厳密にいえば第Ⅰ部門用生産手段と第Ⅱ部門用生産手段 は使用価値的に区別されるのであるから,その価値量がで示される 第Ⅰ部門用生産手段とで示される第Ⅱ部門用生産手段とは異 なる財であり,そのどちらについても価値的事前的需給一致が必要である。

 以上から,仮定条件1から4までと()式によって厳密な意味での「一 致条件」が確定される。いうなれば,()式は所与の条件下での「市場均衡」

成長(事前的需給一致の成長)の一つの必要条件であり,社会的需給一致の 十分条件ではない。条件全てと()式が事前に成立して,はじめて事後的 な社会的一致が実現される。四つの仮定を前提として,()式で示される 関係が成立すれば,市場経済の下における過不足ない順調な拡大再生産即 ち均衡的経済成長が実現する。

 ()式だけを独立させて成立させることは形式論理的には可能である。

部門間取引のみ需給を一致させ,それ以外の不一致を認めるモデルをつく ることは形式的にはできる。しかしこの場合,不一致部分では受注残と売 れ残りが生じるので,このモデルは社会的総需給一致モデルにならない。

論理的には,同一の商品が部門間取り引きされる場合のみ価値通りに交換

されるという想定は不合理であり,この想定は排除されるべきである。そ れ故,()式のみを単独で「再生産の一致条件」として措定することは妥当 ではない。四つの仮定(条件)と()式の両方がマルクス的条件であると言 える。

 通例の表式理解はこの点を曖昧にする。マルクス以来,その区別を明示 しないでに関わる()式のみを順調な拡大再生産の条件と しているのは,社会的生産を生産手段,生活手段の二部門に分割し,部門 内取引については需給一致,生産手段は両部門共通,労働者用と資本家用 の生活手段は同じとするマルクスの分析手続きから生じる。もちろんその 手続きは分析目的上不当ではないが,導かれた結論は手続き上の特殊性に 制約されていることを忘れてはならない。

 しかし,このことは市場を媒介とする需給関係の変動を分析する蓄積論,

恐慌論においては重要な意味をもつ。マルクス型の二部門分割モデルでは 第Ⅰ部門用生産手段と第Ⅱ部門用生産手段の区別は現れない。実際には両 部門が使用する生産手段の相当部分は使用価値が異なり,生産物も概念的 には異なる(生産手段,生活手段)。一部の生産手段は,例えば燃料のよう にどちらにでも同じように利用されうる。また,企業も椅子,机,什器の ような使用価値的には生活手段にも分類されうるものを生産手段として購 入する。マルクスの拡大再生産表式においては,蓄積率の変化(単純再生産 から拡大再生産への移行)に対応し,生産手段と生活手段の生産比率だけで はなく,第Ⅰ部門用生産手段と第Ⅱ部門用生産手段の生産比率(供給構造,

部門構成)も変えられている。そこでは生産手段生産用と生活手段生産用と,

使用価値の異なる二種類の生産手段が用いられていることになっているが,

他方でその蓄積表式では生産手段の使用価値的相違は度外視され,蓄積率 の変更に伴い両部門間の不変資本配分比率は前提なしで変更されている。

つまり同一の生産手段を両部門で同一の比率(有機的構成)で投入している

ケースと同じ蓄積過程が提示されている。

 このことは,マルクス型モデルでは生産手段に関する「完全代替性」(両 部門で使用される生産手段の使用価値の相違を捨象するか,同じ使用価値 と見なす,あるいは同一種の生産手段でありながら複数の異なる使用価値 を持つ)の仮定が設けられていることを意味する。部門が相違しても使用価 値が同じとすれば,部門分割する意味はない。

 このマルクス・モデルを多部門モデルにしても同じことである。完全代 替性を排除した,価値的・素材的需給一致は次のベクトルで表現される。

は供給される商品の価値ベクトルであり,その要素であるは個々の商品 の価値の大きさを示す。は供給される商品量のベクトルであり,その要 素であるは供給される個々の商品量を示す。は需要される商品に対して 支払われる価値のベクトル,その要素であるは個々の商品に支払われる 貨幣価値額の大きさを示す。は需要される商品の量ベクトルであり,そ の要素は個々の商品が需要される量を示す。添字は部門を示す。

()

 つまり,マルクスのモデル=再生産表式は()式と同じであり,この(

)式は先の条件1から4までを満たした上で導出される()式と同じこ とを表現し,全部門,全商品種類の需給が一致することを示す。

5.一財二部門モデル ――― 使用価値的相違の捨象

 上述のように,マルクスのモデルには生産手段については使用価値的区

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