8.1 総 括
近年,日本では高度経済成長期に整備された社会資本は,建設後 50 年が経過し,高 齢化橋梁が年々増加している。高齢化橋梁は老朽化に伴い自動車の増加や大型化など による疲労損傷,建設地域による環境条件による損傷が加えられている。このような 背景の中で「道路橋長寿命化修繕計画事業」が策定され,「事後保全型維持管理計画」
から「予防保全型維持管理計画」へ策定が変換されている。これによって,地方公共 団体では,一斉に損傷状況を調査する橋梁点検を実施し,建設後 100 年間維持するた めの管理計画を立案されている。これらの調査結果によると道路橋部材の中で,損傷 が著しい部材はRC床版であることが明らかになっている。
そこで本研究は,道路橋の主要構成部材であるRC床版の長寿命化を図るための補強 対策として,①道路橋 RC床版の損傷状況および補強対策の現状を調査し,損傷状況に 応じた最適な補強法を見出した。②炭素繊維シート(CFS)を全面接着補強した RC 床版 および施工の合理化を図る目的で開発された炭素繊維ストランドシート(CFSS)を格子 接着補強した RC 床版を用いて,輪荷重走行疲労実験を行い,同一条件で設計した RC 床版に対する補強効果および耐疲労性の評価を行った。また,③ CFS 全面接着補強法 における余寿命の推定を行うための S-N 曲線式および再補強時期の推定を行うための S-N 曲線式を提案した。さらに,④道路橋 RC 床版を 100 年間維持するために CFS 全 面接着補強と鋼繊維補強コンクリート(SFRC)による上面増厚補強法とのサイクル補強 法についても提案し,RC 床版に対する補強法の確立と既存の RC 床版に対する維持管 理に伴う最適な補強工法およびサイクルを見出すことなど,多角的視点から総合的に 評価したものである。
本論文は,全 8 章より構成されており,各章における得られた知見を以下に示す。
第1章「序 論」
社会資本整備における土木構造物の設計・施工の合理化・省力化とメンテナンスフ リーを背景とした社会的要請を踏まえ,鋼道路橋設計基準は性能型設計法へと改訂さ れた。しかし,高度経済成長期に建設された道路橋は,建設後 50 年を経過する老朽化 した橋梁が増大し,特に損傷が著しい RC床版の補強法について,既往の研究,実験方 法および余寿命の推定を解明する意義を述べて,本研究目的の位置づけを論じた。
第2章「道路橋RC床版の現状および点検要領」
第 2章では,予防保全型維持管理計画における概念を述べるとともに,道路橋 RC 床 版の損傷状況,損傷事例などの RC床版の現状について述べた。また,点検要領(案)お よび維持管理マニュアルに基づく道路橋の点検・調査および橋梁点検の調査結果から 各種補強方法の現状について述べると同時に,損傷状況に対する最適な補強方法を提
案した。
第3章「炭素繊維材料の基本概念および力学特性」
第 3章では,道路橋 RC 床版の補修・補強に用いられる繊維補強材料の種類や分類と 全般的な力学特性や各々の連続繊維シートの特徴を調べた。また,炭素繊維材料を用 いる補強方法における一般的な施工の流れを示すとともに,本研究で使用する炭素繊 維シート(CFS)および施工の合理化を目的とした新材料である炭素繊維ストランドシー ト(CFSS)の特徴や施工の合理化について述べた。現場における施工時間を比較すると CFSS格子接着補強はプライマー工および断面修復工が省略可能であることからCFS全 面接着補強に比べ施工時間が約41.7%短縮された。
第4章「CFS全面接着・CFSS格子接着補強したRC床版の耐疲労性の評価」
第4章では,コンクリート圧縮強度の異なる2タイプのRC床版および寸法の異なる2 タイプのRC床版それぞれにCFS下面接着補強およびCFSS格子接着補強したRC床版 供試体を用いて輪荷重走行疲労実験を行い,補強効果および耐疲労性の評価を行った。
その結果,圧縮強度が設計基準強度以下の場合は CFS 全面接着および CFSS 格子接着 補強における補強効果は得られるものの,設計基準強度以上の場合と比較すると
0.3%~0.5%程度となり,耐疲労性は評価できない結果となった。また,CFSS 格子接着
補強を施した供試体の耐疲労性は CFS 全面接着を施した供試体に比べ同等以上の耐疲 労性が得られたことから十分な補強効果が確認された。
第5章「CFS全面接着補強RC床版の耐疲労性の評価および各種劣化要因を適用した S-N曲線式」
第 5 章では,第 4 章「CFS 全面接着・CFSS 格子接着補強した RC 床版の耐疲労性の 評価」で得られた等価走行回数に本提案する D-N 曲線および各種劣化要因を適用した CFS 全面接着補強した RC 床版の S-N 曲線式を提案し,実橋 RC 床版に CFS 全面接着 補強法における疲労寿命の予測式を提案した。その結果,D-N 曲線式および各種の劣 化係数を松井らが提案する S-N 曲線から算出された RC 床版の等価走行回数に適用す ることで現実的な疲労寿命が得られ,1964 年,1973 年,1980 年,1994 年改訂の道示 の基準で設計されたそれぞれの RC 床版の S-N 曲線式が算定され,現実的な疲労寿命 の推定が可能となった。
第6章「実橋RC床版の寿命予測との整合性」
第 5 章で提案された S-N 曲線式を用いて,1964 年,1973 年,1980 年,1994 年改訂 道示で設計された RC 床版の破壊等価走行回数の算定および設計耐用年数および CFS 全面接着補強した場合の余寿命の推定を行った。また,次期補強時期の推定を行った。
その結果,1964年から1973年改訂の道示で設計されたRC床版にCFS全面接着補強し た場合は松井式の S-N 曲線式に本提案の CFS が分担する押抜きせん断耐荷力式を用い
ることで余寿命の推定が可能となった。また,1980年改訂以降の道示で設計されたRC 床版に CFS 全面接着補強した場合は,阿部式に本提案のCFS 全面接着補強した場合の S-N曲線式を適用することで余寿命の推定が可能となった。
第7章「道路橋RC床版の予防保全型維持管理におけるサイクル補強」
高度経済成長期に建設されたRC床版は,建設後40年から50年が経過し,補修・補 強が繰り返されている。RC 床版の補強方法においては 1 次補強として通行止めを必要 としない床版下面からの補強が優先されている。1964 年,1973 年改訂の道示で設計さ れた RC 床版に下面補強した場合には,100 年間維持するために数回の補強が必要とな る。しかし,予防保全型維持管理計画では損傷が軽微な段階で2次補強が必要となる。
したがって,1 次補強に下面補強,2 次補強は上面補強となる。また,1 次補強に上面 補強した床版は2次補強に下面補強が必要となる。そこで,損傷を与えたRC床版供試 体に1次補強として CFS全面接着補強を施し,損傷を与えた後,2 次補強としてSFRC 上面増厚補強,また,同様に損傷を与えたRC床版供試体に1次補強としてSFRC上面 増厚補強,2 次補強として CFS 全面接着補強を施し,輪荷重走行疲労実験による耐疲 労性を評価した結果,損傷が軽微な段階(たわみが床版支間L/400に達した時期)で補強 を施すことで耐疲労性が大幅に向上する結果となった。よって,長寿命化修繕計画に おける本提案のサイクル補強は有効であることが確認され,3次補強については既設RC 床版および 1次補強,2次補強における損傷状況を適切に診断し,健全性を評価し,床 版の取り替えも含めた補強対策の検討が必要となる。
第8章「総 括」
各章における結論を総括して,本論文の主な研究成果は次のとおりである。
1) 橋梁部材の中で,最も損傷が著しい部材はRC床版であり,その損傷状況と劣化 過程の関係および各種補強方法の現状について述べ,損傷状況に応じた最適な 補強方法について述べた。
2) 道路橋 RC床版の下面からの接着補強に用いる炭素繊維材料の特徴および材料特 性値を示すとともに,施工の合理化を図る目的で開発された新材料である炭素 繊維ストランドシート(CFSS)の性能について述べた。
3) RC 床版のコンクリートの圧縮強度が設計基準強度以上を確保した供試体は,無 補強の RC床版供試体に比して,CFS 全面接着補強およびCFSS 格子接着補強を 施すことで 18.7~25.3 倍の補強効果が得られた。しかし,劣化を想定してコンク リートの圧縮強度が設計基準強度以下となるように製作した RC 床版供試体に CFS 全面接着補強およびCFSS 格子接着補強した場合は,無補強RC 床版供試体 に比して等価走行回数は増加するものの,圧縮強度が設計基準強度以上の RC床
版に CFS 全面接着補強および CFSS 格子接着補強した場合に比して 0.3%~0.5%
程度となり,耐疲労性は評価できない結果となった。したがって,橋梁点検に おいてはコンクリートの圧縮強度が道示の規定を満たすかを確認した上で,CFS あるいはCFSSによる下面接着補強を講じる必要がある。
4) 輪荷重走行疲労実験におけるたわみと等価走行回数の関係より,等価走行回数 の増加に伴うたわみの増加を再補修・補強時期の予測とする床版支間 L の 1/400 付近までのたわみによる劣化値と RC 床版の等価走行回数の関係から D-N 曲線 式を提案した。よって,D-N曲線式および種々の劣化係数を1964 年,1973年改 訂の道示および 1980 年,1994 改訂の道示の基準で設計された,それぞれの RC 床版のS-N曲線から算出された寿命を予測する等価走行回数に適用することで,
現実的な疲労寿命の推定が可能となる。
5) 本提案の D-N 曲線による劣化係数,湿潤状態のコンクリート劣化係数および示 方書基準の異なりによる低減係数を適用して評価された補強等価走行回数およ び補強RC 床版のたわみが床版支間Lの1/400付近の等価走行回数から,それぞ れのS-N曲線式を提案した。その結果,既存RC床版が 1964床版,1973床版お よび 1980年,1994年改訂道示の床版は,破壊走行回数および再補修時期を想定 した補強走行回数から算定された耐用年は,実床版の維持管理年数と同等とな っている。なお,建設する地域の環境条件による低減係数の適用も検討する必 要がある。
6) 長寿命化修繕計画におけるRC床版の修繕計画として,1次補強にCFS下面接着 補強,2 次補強に接着剤塗布型SFRC 上面増厚補強,あるいは1 次補強を接着剤 塗布型 SFRC 上面増厚補強,2 次補強に CFS 下面接着補強対策を計画すること を提案する。なお,3 次補強については既設 RC 床版および 1 次,2 次補強にお ける損傷状況を適切に診断し,健全性を評価し,床版の取り替えも含めた補強 対策の検討が必要となる。
以上,本論文は道路橋 RC 床版の補強方法である CFS 全面接着補強および施工の合 理化を図るために開発された CFSS 格子接着補強した RC床版を用いて補強効果および 耐疲労性を評価し,道路橋 RC床版の補強材および補強方法として実用的であることを 示した。また,ライフサイクルコスト(LCC)の算定においては,CFS 全面接着補強し た場合の余寿命の推定を行う S-N 曲線式を提案した。また,道路橋 RC 床版を供用開 始後 100 年間維持するための最適の補強サイクルを提案した。本研究で明らかになっ
た事項は RC 部材の CFS,CFSS を用いた下面接着補強および予防保全型維持管理の発
展に大きく寄与するものであると考える。