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総合考察

ドキュメント内 Microsoft Word - 本文ver5_040329_印刷.doc (ページ 77-154)

7-1.クロマグロの回遊パターン

クロマグロの生活史段階ごとの回遊の模式図を図7-1に示す。回遊の個々の推定根拠やその確から しさについては第 3、5、6 章で検討したので、ここでは結果のみをまとめて示す。産卵は北西太平洋 の限定した海域で行われる。3-5 月に、フィリピンから台湾にかけての太平洋ならびに南シナ海で

210cmFL以上の大型成魚が産卵するが、ここで生まれた魚は0歳魚漁獲物の4%を占めるに過ぎない。

5-6月には、南西諸島周辺海域において 160-209cmFLの中型成魚ならびに一部の大型成魚が産卵し、

ここで生まれた魚は0歳魚漁獲物の78%と大部分を占める。6-7月には、日本の太平洋側沖130E-145E においておそらく中型成魚が産卵するが、ここで生まれた魚は0歳魚漁獲物の1%を占めるに過ぎない。

7-8月には、日本海において中型成魚と120-159cmFLの小型成魚が産卵し、年による変動も大きいが、

生まれた魚は平均で0歳魚漁獲物の18%を占める。9月以降も12月まで、おそらく日本海で産卵する が、ここで生まれた魚は0歳魚漁獲物の2%を占めるに過ぎない。

太平洋の産卵場で生まれた魚は、九州・四国・本州南部の太平洋沿岸に来遊し、一部は東シナ海を通 過して日本海へ移動する。太平洋沿岸には0歳の7月までに来遊し、0歳の9月までの間に高知県か ら千葉県までの太平洋沿岸南部に分布を広げる。ここでの分布量は0歳の10月をピークとして、この 海域から去る魚がいることで減少しつつも、一部の魚が越冬するために翌年春まで分布が継続する。

この海域に留まる魚は、この海域内であまり移動しない。この海域からの移動には岩手県、宮城県への 北上移動もあるが、その個体数は少なく、東方への移動個体が多い。0 歳の 8 月以降の太平洋沿岸の 若齢魚は、日本海へは移動しない。

日本海では、太平洋側で生まれた魚が0歳の8-9月に長崎県から新潟県まで来遊する。0歳の10-11 月には、日本海で生まれた魚も加わり、日本海沿岸全域に分布するようになる。ただし、毎年必ず来 遊するのは新潟県までで、北海道沿岸まで分布が広がるのは高水温の年に限られる。0歳の12月にな ると日本海を南へ移動し、対馬海峡を通過して東シナ海に到達する。少数の魚は新潟県、富山県沿岸に 滞在して越冬する。

東シナ海では0歳の9月から多数の魚が滞在し、0歳の11-12月には日本海を南下してきた魚がこ れに加わって越冬する。主に対馬、五島列島、済州島で囲まれた海域に滞在し、0歳の12月から0歳 の3月にかけて全体的に34N以北から32Nまで南下する。一部の魚は陸棚縁辺部に沿って32Nより もさらに南の海域との間を、一冬の間に1回ないし複数回往復する。

東シナ海からは、0歳の3月から1歳の6月に太平洋へ移動していく魚がいる他、一部の魚は0歳 の4 月に日本海に入り、急速に北上して新潟県沖に至る。1歳の7 月には東シナ海における水温が好 適水温の上限である20℃を超えるため、より多くの魚が日本海に入り、高速度で北上して秋田県沖か ら北海道近海に至る。また、一部の魚は黄海暖流を利用して朝鮮半島西岸沖を北上していく。それで もかなりの数の魚が東シナ海に滞在し続ける。日本海の魚にはその後、津軽海峡を通過して太平洋へ 移動するもの、宗谷海峡を経てオホーツク海を通過して太平洋側へ移動する少数のもの、日本海を急 速に南下移動するもの、0歳魚と同様に新潟県、富山県沿岸に滞在して越冬する少数のものがある。津 軽海峡を通過した魚には、そのまま東進するものと、1歳の10-11月に津軽暖流内を南下して三陸沿岸

に至るものとがある。東シナ海での 1歳魚の越冬期の回遊は0歳魚と同様である。2 歳以上の魚はほ とんど全て太平洋側へ移動し、日本海・東シナ海に分布するものは少ない。

東シナ海から太平洋へ移動した魚は、太平洋沿岸の南西部に留まることなく千葉県南東沖まで急速 に移動する。その後、0歳の5月から1歳の9月にかけて、千葉県南東沖から三陸沖へ北東方向に直 線的に移動し、43N・155E付近の海域に至る。この北上移動において、特に1歳の7月から8月にか けての大きな北上移動は黒潮系暖水の北上に伴うもので、これにより魚は前線域の北側にあるさらに 生産性の高い海域が利用可能となる。暖水が北上しない年には魚は滞在するか、東へ移動する。三陸 沖の魚の一部は、1歳の6-7月に暖水ストリーマーを利用して沖側から三陸沿岸に来遊する。

三陸沖を東進した魚の一部は、1歳の11月または他の時期に、東部太平洋へ向かう渡洋回遊を開始

する。約7,000kmを持続的遊泳速度で移動し、2ヶ月間で、35N・130W付近の海域に至る。渡洋回遊

をしなかった魚は、北太平洋中西部(30-43N・145E-180)を大きく右回りに移動し、春から夏にかけ て三陸沖を再び北上する。これ以外に、5-6月の三陸東方沖(38N-40N・142E-180)や、右回りの回遊 海域よりも南方の海域(28N-33N・150E-160W)にも魚は分布しているが、その回遊は不明である。

東部太平洋では1-3歳魚が分布し、まき網の漁期である5月から10月にかけて23-34N間の海域を北 上し、11月から4月には外洋へ移動する(Calkins 1982)。

成魚になると、1-2月には30N以北で東西に広く、170E-170Wにはややまとまって分布する。3月 から4月に産卵場を目指して西へ移動する。4月から5月には、中型成魚が25-35N・125-140Eの黒潮 反流域に急速に集中して産卵の準備をし、やや西の 130E以東の海域で産卵した後に6 月に急速に逸 散する。また、大型成魚を主体とした一部の魚は、西部太平洋低緯度海域から産卵のために北上して くる。大型成魚はより南方の産卵場で産卵するが、これは北東から産卵準備のために中型成魚が滞在 する海域を通過してきた魚と、南方から北上してきた魚とから構成される。産卵後の魚の多くは本州 南沖へ移動していき、4-5月から8-9月にかけて、本州南沖から三陸東沖にかけて北東方向にほぼ直線 的に移動する。この移動も若齢魚と同様に黒潮系暖水の北上が強く関連しており、暖水が北上しない 年には魚は滞在するか、東へ移動する。三陸沖では黒潮前線域の豊富な餌を摂取し、産卵で失ったエ ネルギーを取り戻す。一部の中型成魚(年によっては小型成魚も混ざる)は産卵のために7- 8月に太 平洋から東シナ海を通過して日本海に来遊し、北上しながら山陰から能登半島沖、年によっては対馬 沖や北海道沖で産卵する。日本海を北上した後には津軽海峡、または宗谷海峡、オホーツク海を経て 太平洋へ移動していく。三陸東沖に北上した魚はその後、35-45Nの海域を8月から10月にかけて東 西に分散していき、10月には、東西に幅広く分散し170E-170Wにやや多く分布するという翌年2月 までの分布パターンに達する。10月から1月にかけてやや南下し、若齢魚と同様に右回りの回遊をす る。これ以外の分布をする魚(例えば冬に日本近海に分布する魚、170W 以東に分布する魚)につい ての回遊は不明である。

一部の魚(大型成魚の割合が大きい)は、産卵期の後に産卵海域から南へ向かい、ニュージーラン ド近海やオーストラリア東沖に達する。ニュージーランド近海では周年にわたって、産卵と関係なく 滞在している魚が少数いる。また、南半球の冬にチリ沖に分布する少数の魚については、回遊は不明 である。成魚は毎年、産卵のためにこの回遊を繰り返す。

クロマグロの生活史は、回遊の点から4期に区分できる。第1は産卵場から日本沿岸に来遊するま での卵・仔稚魚期である。第2は日本沿岸に来遊して滞在している0歳の7月から0歳の10月まで(0 歳沿岸滞在期)、第3は0歳の11月から4歳で成熟するまでの若齢期、そして第4は4歳で成熟して からの成魚期である。

第1期について本研究では、各産卵場・時期の資源への貢献度を推定した。しかし、生まれた魚が沿 岸にいかに来遊しているのかは不明である。少なくとも南西諸島で生まれた魚は本州・四国・九州沿岸 まで稚魚としては大きな回遊を行っていることになる。日本海では産卵が沿岸に近いことから、回遊 距離は小さいように思われる。

第2期の0歳沿岸滞在期は日本沿岸での滞在期であり、大きな移動をほとんどしない。この時期に おける分布海域の水温は22-29℃であり、高水温の年にはその分布を北方まで広げる点からして、この 水温の下限が分布を規定していると考えられる。飼育魚の研究から、クロマグロ稚魚は高い推進力を 持ちながらも遊泳制御能力が未発達であり、制御が可能となるのは約25cmFLからとされている(宮 下 2001)。0歳の7月に15cmFLで来遊して0歳の10月に約40cmFLに成長するこの時期は、高く、

かつ制御を伴う遊泳能力を獲得しつつある時期と考えられる。

第 3 期の若齢期になると、東部太平洋までも回遊し、東西方向の分布を最も広げる時期である。若 齢期の環境水温は、アーカイバルタグから 9-28℃、そのうち好適水温範囲が 14-20℃であることが明 らかにされた。0歳沿岸期と若齢期以降とでは回遊能力のみならず、好適水温も異なると考えられる。

若齢期において、2歳までの魚は東シナ海に代表される大陸棚上にも滞在し、日本海にも出現するが、

2 歳から 4 歳までの魚は大陸棚上や日本海にはほとんど出現しないことから、深層の利用度の違いか ら2歳で若齢期を2分することが適切かに思われる。若齢魚は主に表層混合層を遊泳しているが、成 魚は、まき網で漁獲されることから表層に分布すると共に、延縄で漁獲されることから中層にも分布 する。また、アーカイバルタグからも成魚(140cmFL)では潜水深度が大きくなることが明らかになっ ている(Kitagawa et al. 2003)。深層の利用は、中深層性魚類や頭足類のエサとしての利用を可能と するほかに、敵からの逃避の面で有利であろう。クロマグロを始めとしたマグロ類は釣り針にかかる と深層へ逃げようとする。ゴンドウクジラに追われたと思われるピンガー追跡中のミナミマグロも深 層へ急潜行した(伊藤2002)。

しかし、クロマグロは既に1歳魚において200m以深を、最大380mまで短時間の潜水で利用して いることがアーカイバルタグで分かった。また、一度太平洋側に出た若齢魚は、若齢期においては 2 度と大陸棚上の東シナ海へ移動していない。よって、大きな鉛直範囲を利用することは1歳時に既に 持っている性質であって、2歳時点で若齢期を区分する特質とは言えない。外洋を好むこの性質はおそ らく 0 歳沿岸期と若齢期とを区分するもう一つの特質であり、その特質が分布や回遊において表現さ れることが2歳で完了するのだろう。この点から若齢期は一つに区分することが適切と考えられる。

第 4 期の成魚期では、産卵海域である北西太平洋低緯度海域を含め、北半球温帯域、さらには一部 の魚が南半球温帯域まで回遊するようになる。ただし、4歳で一部個体が成熟を開始するにしても、多 くの個体が成熟するのはより高齢である。産卵場に毎年分布するのが160cmFL(約6歳)以上の魚で あることから、おそらくこの体長以上が真の意味での成魚期で、4-6歳はその移行期間と思われる。な

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