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漁獲データから見た若齢魚の回遊

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第 4 章で、アーカイバルタグデータにより、クロマグロ若齢魚の個体レベルの回遊動態が明瞭に区 分される移動と滞在とから構成されるものであることが明らかとなった。しかし、アーカイバルタグ によってデータの得られた海域、年齢は限定的で、個体数も少ない。一方、漁業データからは、広い 海域における広い年齢範囲、多数個体の分布情報が得られる。

これまでに、相川(1949)は相模湾、岡地(1963)は日本海、濱崎・永井(1995)は東シナ海におけるクロ マグロ0-2歳魚の回遊を、漁獲データからそれぞれ明らかにしている。河野・石塚(1987)、米盛(1989)、

Bayliff et al.(1991)は、標識放流データからクロマグロ若齢魚の回遊を明らかにした。これまで若齢魚 の漁獲の実態は不明であったが、近年には日本周辺クロマグロ調査によって全漁法の漁獲実態が明ら かとなってきている(第2章)。

漁業データには、操業の行われた時間、水平・鉛直空間に限定した情報しか得られず、漁業データ が種の分布時空間をカバーし、またその時空間における魚の分布が漁獲に反映されているかを、漁業 データ自体からは検証できないという解析上の問題点がある。標識放流も再捕を漁業に頼ることから、

漁業依存性から脱却できない。また、漁獲海域の月ごとの移動が魚群の移動であるとの保障はない。

漁業とは独立した情報であるアーカイバルタグによる連続した位置データは、これらの問題に解決を 与えるものである。

そこで本章では、使用可能な全ての漁獲データを用いて、年齢・月別のクロマグロの分布変化を、

日本全体を含む北太平洋を対象に検討する。年齢・月別漁獲は、日本周辺クロマグロ調査データで得 られるが、漁獲位置が特定できること、より長期間のデータが含まれていること、日本周辺クロマグ ロ調査データに含まれていないデータもあることから、さらに竿釣、流網、三陸沖のまき網の漁獲成 績報告書データ、東シナ海のまき網の漁獲データも用いた。また、従来の標識放流データの再解析、

アーカイバルタグデータと漁獲データとの統合も加えて、総合し、クロマグロ若齢魚の回遊を詳細に 明らかにする。

5-2.材料と方法

県別漁獲量データを用いて、1993-1997 年のクロマグロ0-2 歳魚の年級、年齢、月、県別の水揚げ 尾数を地図上にプロットした。このデータは、日本周辺クロマグロ調査事業で得たもので、日本の全 ての漁法による水揚げ量の大部分を含み、また同時に実施した魚体測定調査のデータを用いて、体長別 漁獲尾数ならびに年齢別漁獲尾数を第 2 章で推定したものである(表 5-1)。太平洋ならびに東シナ 海でのまき網による漁獲尾数は、各県の漁獲とは分けて示した。魚の年齢は産卵期のほぼ中間である6 月1日を基準とした満年齢とし、例えば0歳8月のように、年齢と暦上の月とを組み合わせて、月単 位で示した。これは、産卵期に幅があることである月の魚の月単位の年齢にも幅があること、回遊が 魚の月単位の年齢よりも季節によって変化する面が強いことによる。0歳6月から始まり、0歳12月 の次が0歳1月で、0歳が0歳5月まで続く。その後は、1歳6月、1歳7月と続く。

さらに、漁獲海域を詳細に検討することと、より長期間のデータを利用するため、漁法別の漁獲デ

ータも解析した。東シナ海におけるまき網の漁獲データは、1991-1997年のものを用いた(第2 章)。 全漁獲量のうちの86%で漁獲位置が得られ、月、緯経度0.5度区画別の年齢別漁獲尾数を地図上にプ ロットした。竿釣の漁獲データは、漁獲成績報告書による1972-1997年のものを用いた。データは、

船、日別の緯経度、まぐろ・かつお・かじき類の種別の漁獲重量(0.1 トン単位)、1 尾の平均重量を含 んでいる。ただし、漁獲成績報告書の提出義務があるのは遠洋・近海竿釣漁業者であるため、沿岸竿釣 船による漁獲は含んでいない。用いたデータに含まれる漁獲量は、竿釣による日本のクロマグロ漁獲 重量に対して、1990年までは約20%、その後は約60%と推定される。1尾の平均重量と漁獲月から年 齢(0歳魚、1歳魚、2歳以上魚、年齢不明に区分)を推定し、月・緯経度1度区画・年齢別の漁獲重量 を地図上にプロットした。

流網の漁獲データは、漁獲成績報告書による1977-1992年のものを用いた。データは、船、日別の 緯経度、使用反数、1反の長さ、まぐろ・かつお・かじき類の種別の漁獲尾数を含む。用いたデータに含 まれる漁獲量は、流網の全漁獲量の約 20%と推定される。また、海洋水産資源開発センター(開発セ ンター)が1978-1983年に、北太平洋の広範囲で、シマガツオを主対象として実施した調査データも 用いた(Anon. 1980、1983a、1983b、1983c、1985、1986)。これらのデータを合わせて、月、緯経 度1度区画別の漁獲尾数を地図上にプロットした。漁獲魚の年齢を、開発センターの調査データから、

操業ごとの平均体重により推定した。平均体重から年齢を推定したことの妥当性を検討するため、同 調査データにおいて体長組成が得られた 1979、1980 年について、平均体重と個体ごとの体長のそれ ぞれから求めた年齢組成を比較した。太平洋のまき網の漁獲データは、漁獲成績報告書による

1971-1997 年のものを用いた。これは船、日別の緯経度(分単位)、まぐろ・かつお類の種別の漁獲重

量(1トン単位)を含んでいる。クロマグロは体重10kgを目安として大小に区分されており、本章で は小型魚の漁獲量を用いた。年、月、緯経度1度区画別の合計漁獲重量を地図上にプロットした。

標識放流・再捕データは、マリンランチング計画ならびにIATTC によるデータを用いた。これらの 標識放流事業においては、1980-1989年に日本の7ヶ所(北海道、富山県、島根県、長崎県、静岡県、

高知県、鹿児島県)から約13,000尾を放流し、その内1,589尾が再捕された(表5-2)。長期間が経 過してからの再捕では移動方向や移動動態が不明確となるので、再捕までが1年以内のものに限定し、

緯経度1度区画別の再捕数を地図上にプロットした。アーカイバルタグによる日別の緯経度データは、

長崎県対馬から放流し、1995-1997年に再捕された29個体のもの(第4章)、ならびに、遠洋水産研 究所まぐろ研究室が所有する、その後に再捕された太平洋へ回遊した5個体のものを用いた。

5-3.結果

5-3-1.漁獲海域の季節変化

県別漁獲

太平洋沿岸と日本海沿岸ならびに東シナ海のそれぞれにおける漁獲海域と漁獲尾数の月別変化を、

1994年級について示す(図5-1)。1994年級を選択したのは、この年級の加入量が前後の年級よりも 多いことから(第2章)、前後の年級が1994年級に区分される危険性が相対的に小さく、ある年級の 分布・回遊の変化を追跡するのに適当だからである。太平洋沿岸南部(高知県から千葉県)の漁獲は、

主に曳縄および沿岸域での竿釣による。0歳7月に高知県で最初の漁獲があり、0歳8月に漁獲範囲は 太平洋南岸全域に広まり、漁獲尾数は0歳10月に最大となった。その後も漁獲は継続したが、尾数は 次第に減少していき、1歳9月以降はほとんどなくなった。

太平洋沿岸北部(北海道、青森県、岩手県、宮城県)での漁獲は、主に定置網によるもので、0 歳 11月に岩手県で漁獲があった以外は0歳4月まで漁獲は少なかった。0歳5月から1歳12月までは、

1歳7月、1歳11月をピークとして、多くの漁獲があった。本州東方沖のまき網の漁獲は、0歳5月 と1歳7月に見られたのみであった。

日本海および東シナ海における主な漁法は、日本海の富山県以北で定置網、島根県と山口県で曳縄 と定置網、長崎県と鹿児島県で曳縄、東シナ海でまき網であった。最初の漁獲は、太平洋沿岸よりも わずかに遅く0歳8月に長崎県、鹿児島県でみられた。0歳9月に長崎県の漁獲が急増して0歳2月 まで日本で最も漁獲が多かった。富山県と新潟県では0歳9月から、北海道では0歳10月から漁獲が あった。0 歳 11 月以降、北方の北海道、青森県、山形県では漁獲がほとんどなくなったが、新潟県、

富山県では0歳2月まで漁獲があった。島根県、山口県での漁獲は、0歳10月から0歳1月までに多 く、0歳2月にはほとんどなくなった。東シナ海における漁獲は0歳10月から継続して見られたが、0 歳魚では長崎県より少なかった。

翌春になると、長崎県での漁獲が0歳5月から再び増加し、1歳6月にピークを迎え、その後尾数は 減少しながらも1歳12月まで継続した。東シナ海でのまき網による漁獲は、1歳7月から1歳2月ま で日本の他地域よりもはるかに多かった。新潟県、富山県での漁獲は0 歳4月に始まったが、1 歳10 月までは少なく、1歳11-12月にやや増加し、その後も尾数はわずかであるが1歳5月まで継続した。

北海道や青森県の漁獲は1歳6月から始まり、北海道での漁獲は1歳8-11月に日本海で最も多かった が、1歳12月になくなった。島根県、山口県の漁獲は、1歳7月から継続したが、1歳12月に一時急増 した後はほとんどなくなった。

以上の1994年級における漁獲地域の季節変化に対して、1993-1997年級(ただし1996年級は1歳 12月まで、1997年級は0歳12月まで)では次のようであった。太平洋沿岸における最初の漁獲は高 知県で7月から始まったが、1993年級だけは8月から始まり、また、1996年級では高知県と同時に 静岡県からも始まった。太平洋沿岸南部における 0歳1-2月までの継続した漁獲は全ての年級で見ら れた。太平洋沿岸北部での0歳魚の漁獲尾数は、太平洋沿岸南部に比較して、1997年10月以外の全 ての年級・月でわずかであった。1歳になると太平洋沿岸南部における漁獲がほとんどなくなることは、

全ての年級で共通した。太平洋沿岸北部においては、全ての年級で1歳6-7月と1歳10-12月の2回 をピークとして、1歳5-6月から1歳11-12月の間にまとまった漁獲があった。本州東方沖合における まき網の0歳魚漁獲は、他の年級でもほとんどなく、1歳魚についても1995年級が1歳6月にややま とまって漁獲された以外は少なかった。

日本海・東シナ海での漁獲開始が鹿児島県の0歳8月であることは、多くの年級で共通していた。長 崎県での漁獲開始は、1994年級は8月であったが、1993年級、1995年級、1996年級は9月から、1997 年級は11月からであった。1997年級については他の年級と異なり、0 歳8 月に新潟県でも漁獲が始 まった。富山県、新潟県での漁獲は、8月から10月に始まった。

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