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総合考察

ドキュメント内 1.青年期と家族 (ページ 148-160)

本研究では主に日中両国の青年が捉える「家族」について論じてきた。本章 ではこれまでの内容をまとめ,考察を行う。

家族は夫婦とその血縁関係者を中心に構成され,共同生活を行っている集団 であり,個々の家族成員に対して大きな影響をもつ。また,個人の心理的発達 を考えると,家族という要因はとりわけ親からの心理的な自立,つまり「心理 的離乳」に切実に直面するヤングアダルト期の青年にとって,大きな影響をも つ。加えて,過去の歴史を振り返ってみても日中両国が属するアジアにおいて

「家族」というものが文化的にも重要視されていることがわかる。したがって,

日中両国の心理臨床の実践,とくに両国のヤングアダルト期青年を対象とする 場合,「家族」というものは非常に重要な要因であり,ヤングアダルト期の青年 たちが「家族」というものをどのようにイメージしているかについて検討する ことが青年期における自立と成長の過程を捉えていく上で重要な意味があると 考えられる。個人がもつイメージはその人の主観的世界と深く結びついている。

それ故に,イメージは人々が現実を心の中でどのようにとらえ,どのように認 識しているかについて理解するための貴重な手がかりとして,個々人の心の世 界を理解することを目指す心理臨床の領域で重要視されていることは言うまで もない。

心理臨床では,イメージを外的刺激と知覚によって生成された「視覚像」と して,あるいは内的起源をもつ「心的事実」としてとらえるなど,様々な異な る立場がある。本研究では「臨床イメージ」を重視する立場に立ち,イメージ をあくまでも個々の青年に内的起源をもつ心的事実としてのイメージを扱うも のとし,「家族イメージ」を個々の青年が自分の家族について抱く関係性や構造 に関する心像として位置づけ,吟味した。

イメージを検討する方法としては,言語水準から情緒的意味として捉えるSD 法と視覚的・空間的イメージとして捉える投映法の2種類が挙げられる。SD法 はその内容を客観的に数量化して捉える場合のスコアイングの便利さと他の変 数との関連性を検討できる点では大きな利点をもつ。一方,イメージ表現に含 まれる多くの情報を捉える点では投映法のほうが適している。本研究では主に 投映法を用いて家族イメージの検討を行った。家族イメージを捉える投映法の 代表的なものとしては,Family System Test(FAST)や,家族関係単純図式投影法,

それに家族イメージ法(FIT)といった既存の方法が挙げられる。本研究では,① ミニチュアの効果的な活用,②表現される物語性,③砂箱の機能,といった側 面の特性を効果的に活用し箱庭用具セットがイメージを捉えるのにより適切な 表現媒体であると考え,主に箱庭用具セットを用いて両国の青年の家族イメー

ジを検討にした。

本研究の全体的な構成としては,まず日本と中国の青年を対象に,質問紙や 投映法を用いて彼らが自分の家族に対していかなるイメージを抱いているか,

つまり個々人のもつ家族イメージの様相や特徴を把握し,分析することを目的 に 3 つの調査を行った。続いて,これら一連の調査によって得られた結果に基 づき,基本的には箱庭という表現媒体を導入し,テーマを「家族」と指定した 箱庭制作を同一対象に継続して10回導入するという臨床的なアプローチを試み ることにより,青年の家族イメージに対する変容過程とそれに関わる要因を検 討した。同時に「家族」をテーマにした箱庭を心理療法に適応するための有効 な手がかりを検証するとともに,中国における臨床実践への適用の可能性につ いても検討した。

研究1

人間の発達にとって重要な時期である青年期は,子どもが親から心理的に離 れて自立し,個の確立を課題とする時期である。また,青年の自我が健全に発 達していくための一つの条件として,その家族が安らぎの場であり,家族関係 が健全であることが挙げられる。研究1では日本と中国の青年を対象に,家族 構造測定尺度と家族機能測定尺度を用いて,彼らが認知した父親,母親および 自分自身といった家族成員の勢力が家族機能,とくに家族の適応性に及ぼす影 響について検討を行った。

そこでさらに,各家族成員の勢力の得点について両国の間に差があるかにつ いてt検定で検討を行った結果,「母親勢力」と「子ども勢力」については両国 の間に有意な差が見られなかったが,父親勢力については両国の間に有意な差 が見られ,日本の得点と比べて中国の得点の方が高かった。続いて,各国にお いて「父親勢力」,「母親勢力」,「子ども勢力」の間に差があるか,分散分析で 検討したところ,両国とも0.1%水準で有意差が見られた。さらに多重比較を行 ったところ,日本では父親の得点と母親の得点の間に有意差はなかったが,両 者ともに子どもの得点より有意水準1%で高かった。一方,中国では父親の得点 が母親及び子どもの得点より高く,さらに母親の得点も子どもの得点より有意

水準0.1%で有意に高かった。

また,各家族成員の勢力の強さについての認識が家族成員間の関係に影響を 与えると同時に,凝集性や適応性といった家族全体のあり方にも影響を及ぼす,

という仮説を仮定し,「父親勢力」,「母親勢力」,「子ども勢力」,「結びつき」,「葛 藤」,の家族構造測定尺度の下位尺度を説明変数とし,凝集性と適応性を基準変 数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。

まず,凝集性については,日本では凝集性の最も強い予測要因は「結びつき」

であった。「父親勢力」は影響が弱いながら,凝集性の抑制要因となっていた。

「結びつき」の最も強い予測要因は「父親勢力」であり,その次が「子ども勢 力」であった。一方,中国では凝集性の最も強い予測要因は「ルール」であり,

次に「結びつき」であった。また,「ルール」の最も強い要因は「子ども勢力」

であり,その次が「父親勢力」であった。次に,適応性については,日本では 適応性の最も強い予測要因は「結びつき」であり,「子ども勢力」がその次であ った。「父親勢力」が弱い影響で適応性の抑制要因となっていた。「結びつき」

についてはその最も強い予測要因が「父親勢力」であり,その次が「子ども勢 力」であった。一方,中国では「ルール」が適応性の最も強い予測要因となっ ており,「結びつき」がその次であった。さらに,「子ども勢力」が「ルール」

の最も強い予測要因であり,「父親勢力」がその次であった。なお,家族の凝集 性に関しては,両国とも,家族成員の勢力が家族成員間の結びつきを介して家 族の凝集性に対して影響を与えるという傾向が見られたものの,凝集性と「結 びつき」との定義内容を精査したところ,両者の概念には類似性があることが 明らかになった。そのため,本研究では主に適応性に対する家族成員の勢力の 影響について検討を行った。

日本の家族の適応性について得られた結果から判断すると,日本では父親の 勢力が強いと家族の適応性が強くなるという点が特徴になっている。したがっ て,父親が家でもつ決定力や影響力,発言力が強いほど,家族のまとまり具合 は高まり,危機に対応する能力も強まると考えられる。この結果は尾形・宮下

(2002),平山(2001)や中見・桂田(2008)の研究で得られた結果と一致する。つま

り,家族全体が適切に機能するためには,父親が家庭で自分の力を発揮するこ とが不可欠な条件になっていると考えられる。父親の勢力の強さは家族を統合 する機能につながるが,もし家族の状況に対して慎重な配慮をせずに家族に対 して威張った態度をとったり,理不尽な要求や矛盾した指示などを繰り返して いるならば,やがてそれが,家族関係に否定的な影を落とすようになる危険性 もある。また,適応性に対しては,「子ども勢力」は直接的に正の影響を与える と同時に,「結びつき」を介して間接的にも正の影響を与えていたという結果か ら,子どもの勢力が強くなると家族の危機を克服する能力が高まる,という傾 向があると考えられる。つまり,家族が何らかの危機に直面した際に,子ども が家族成員の一人として自分の力を発揮することが家族成員間の関係を深め,

さらに家族全体の解決力がより高められることにつながると考えられる。

中国の家族の適応性については,適応性に対して子どもの勢力が最も強い影 響力を持つことが見出された。しかし,子どもの勢力が強いことによっては家 族のルールが強まり適応性が高まるという可能性が見られた一方,家族成員間 の関係が悪くなり家族の適応性が弱まる,という傾向も見出された。これにつ

ドキュメント内 1.青年期と家族 (ページ 148-160)

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