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1.居場所になっていく 「部活・諸活動を行う場所」

 4月には4割の者の居場所であった食堂から,5月には様々 な場所が選ばれるようになり,7月頃は部活・諸活動が集中

して選ばれていくという結果となった(:Figure 2)。したがっ て,「時期に伴って,居場所は変化し多様化していくだろう」

という仮説1は5月において支持されたが,7月においては 支持されなかった。 1っ目の理由として,Wapner&

Demick(1991)の有機発達論的システム論的アプローチの考 えに基づく発達的変化が起こったと考えられる。この理論で は,人は常に何らかの環境の中にいることが強調され,この 人間・環境システムは発達するにつれ,未分化な状態から,分 化し統合された状態へと移行するという。したがって,新入 生の居場所に関しても,4月の未分化な状態から,5月に分 化し,7月に統合するという微視発生的変化を遂げたと考え られる。これは個人内で起こる変化過程を説明したものであ るが,新入生全体の集団としても類似の現象が表れることは 興味深い。2つ目の理由として,調査対象となった大学が部 活動の盛んな大学であることが影響していると考えられる。

山田・十河(2009)の「大学生活について」(大学生の学習・

生活実態調査報告書)によると,大学生の部活加入率は,

49.0%である。一方,調査対象となった大学生の加入率は,

79.1%(2009年)であり,全国平均よりも極めて高い。そのた め,部活・諸活動を行う場所を居場所とした学生が多い結果

となったのかもしれない。宮下(1995)によると,青年は,

学校のクラブやサークル,地域の諸団体などの集団とのかか わりを求め,青年に,集団に所属しているという安心感を与 えると同時に,目的を同じくするさまざまな人々(友人)と のかかわりは,人生における価値観(生き方)を明確にする

助けとなる場合も多いと述べている。また,新井・松井(2003)

も,大学生が部活動やサークル集団に参加する目的は,部活 動やサークル集団が,興味を満たし,技術を向上させる機能 だけでなく,人間関係的な機能も持ち,心理的な支えとして の安定化など多くの機能があると述べている。したがって,

様々な欲求を満たす部活・諸活動を行う場所が多くの新入生 にとって居場所となっていくことは自然なことであるだろう。

2.居場所の心理的機能の変化

 「充足感」,「被受容感」,「自己有能感」について時期に伴 って高くなった。よって,「時間経過に伴って,他者と関係す る心理的機能の得点が高くなるだろう」とした仮説2の前半

部分は支持された(Figure 3, Appendix i)。また,自分ひと りの場所で得られる機能である「ありのままの自分」と「思 考・内省」についても時期に伴って高くなった。この理由と

して,適応と居場所の概念の違いにあると考えられる。杉本・

庄司(2006)は,「自分ひとりの場所」で得られる心理的機能か ら,精神的バランスを回復すると述べており,時期に伴って 大学や友人に適応していく学生でも,「自分ひとりの場所」で 得られる心理的機能を充足していくことで適応できていると 考えられる。

 「男子の得点よりも女子の得点が他者と関係する心理的機 能の得点が高くなるだろう」とした仮説2の後半部分は,4 月の入学直後における「ありのままの自分」「自己有能感」「思 考・内省」において女子よりも男子の得点が高く,他の心理 的機能については差がみられなかったため支持されなかった。

入学1ヶ月後には性差がみられなくなった。理由として,第 1に,則定(2007)の研究では,中学生,高校生,大学生の全 ての発達段階を含めた性差の検討であったため,大学1年生 のみを対象にした本研究とは異なった結果となったと考えら

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れる。第2に,大学生活において男子よりも女子の方が不安 を感じており,大学生活に馴染めば馴染むほど不安が下がる という藤井(1998)の研究がある。先行研究(堤,2002;石本・

倉澤,2009)から居場所の問題と精神的健康は関連があると考 えられており,不安などのさまざまな悩みを乗り越えていく ためにも居場所が重要になってくるだろう。今後は,大学生 の居場所の問題に関する横断的研究を行う必要があると考え

る。

3.新入生が求める居場所の心理的機能

 大学内の「居場所」の違いによって求める心理的機能が異 なった。3時期ともに「自己有能感」は部活・諸活動を行う 場所が,「被受容感」は食堂と部活・諸活動を行う場所が高い 得点を示した。入学当初は食堂を居場所とした者が多く,時

間経過に伴って部活・諸活動を居場所とした者が増えた

(Table 2)ことから,居場所として確立する場所とは,被受 容感とともに自己有能感も感じられる場所に変わっていくこ

とが考えられる。臨床場面から,居場所では,受容され「そ のままに」生かされ,「生かされた主体が決断する方向へ向か う」という竹森(1999)の研究や他者に受容されているという 確証が自己に自信をもたらすという住田(2003)の説明を,本 研究において実証的に明らかにできた。つまり,他者から受 容されている場所を得て,その後,「自分に自信が持てる」な

どの自己有能感を実感することができる場所を獲得するとい うプロセスをとる者が多いと推測される。

4. 対人関係と居場所

 大学内の居場所について,旧環境対人関係重視群よりも,

新環境対人関係重視群が「自己有能感」について,積極的対 人関係形成群と新環境対人関係重視群が「被受容感」につい

て高い得点を示した(Table 5)。この結果から,「自己肯定感」

と「被受容感」は他者との関係の中で充足される心理的機能 であることが確認された。また,積極的対人関係形成群は,

全体得点についても旧環境対人関係重視群に比べて高い得点 を示した。住田(2003)は,自己概念を再確認できるように,

多様な場所を居場所とし,多くの他者に受容され,承認され,

肯定されているのだという確証が自己に自信と安定をもたら すと述べている。したがって,大学新入生は,新旧環境かか わらず,多くの人に支えられている者ほど,安定した自己概 念を形成しており,新環境での居場所の心理的機能得点も高

くなると思われる。

 「被受容感」は,食堂や部活・諸活動を行う場所において,

「自己有能感」は部活・諸活動を行う場所において感じられ た機能であったことから,それらの場所が他者との関係の中 で成り立っている場所であると推測できる。都筑(1998)も,

対人的ネットワークが居場所の役割を果たすことになり,ま た,サークルに所属しない学生は恒常的な居場所を見出しに くいという内容を述べているように,旧環境対人関係重視群 の多くは,これらの場所を居場所と捉えていない,又は,居 場所と捉えていても「被受容感」や「自己有能感」を感じる

ことができていないのだろう。

 全ての人にとって,「被受容感」や「自己有能感」を実感で きる機会や場は必要である。本研究において,旧環境対人関 係維持群の「被受容感」や「自己有能感」の得点が他の群よ

りも低い結果であったが,その中には,4月や5月で部活動 等に加入せず新環境の友人をつくりそこねてしまった学生も いるだろう。大学側は,このような学生が大学内で他者から 受け入れられていると感じたり,自分の能力を発揮し自信を 持てるような多くの機会や場を設定する必要があるだろう。

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5.対人関係の形成と居場所の関係

 時間経過につれて,PDM上に表れた人物の7,8割は,調

査者対象者の居場所に関係している人物であった(Table 6)。

したがって,居場所と対人関係の形成は関連するという中村

(1998)や石本・倉澤(2009)の先行研究を実証的に明らかにす ることができた。また,「PDM上に表れる新環境の人物は,

その人の居場所に関係している人物だろう」という仮説4は

支持された(Table 7.a, b)。また,旧環境の友人関係において もその人の居場所と関連があるという結果であった。すなわ ち,旧環壌に属する人のうち居場所のある人とはネットワー クの切り替えを行わずそのままに,新環境に属する人とは居 場所に関係する人をネットワークに組み込んでいくことが明 らかとなった。これは先述したWapner&Demick(1991)の人 間一環境システムに基づく考え方にあてはまる。ただし,家 族は友人関係とは異なった特別な存在で,居場所に関係なく 心理的距離の近い重要な人物であることが明らかとなった。

 2事例の検討から,新環境において対人関係を形成しない 者は,新環境における心理的に距離の近い人物と関係のある 居場所を持っていなかったり,旧環境の人に対する心理的距 離が近すぎることが特徴として考えられる。しかしながら,

大久保(2004)が述べるように,どのような個人の特徴が望ま しいか,求められているのかは環境との関係次第であり,大 学内の居場所に関する問題は,その個人の特徴だけによるも のではない。自分ひとりの居場所で自分を見つめ,考えるこ とは青年期の発達に必要である。しかし,他者から受け入れ られているという感覚やその人の自信は他者との関係の中で の居場所において充足する機能であること,さらにそれらの 機能は新環境における対人関係の形成と関連していることが 本研究で明らかになった。したがって,新入生は,授業や学 内での活動等を通して,大学内での友人関係を形成したり,

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