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本研究では,離婚経験児の適応向上を目指す支援に対する基礎資料を得ることをねらい に,支援方針及び支援に対する検討と支援施設による支援提供上の課題分析を行なうこと を目的とした.また,具体的に,離婚経験児を対象とした先行研究を検討すること(研究課 題1,第3章),離婚経験児の日常生活ストレス認知測定尺度及び適応測定尺度を開発する こと(研究課題2,第 4章),離婚経験児の日常生活ストレス認知測定尺度を独立変数,適 応測定尺度を従属変数とした因果関係モデルを検討すること(研究課題3,第4章),離婚 経験児に関連した支援施設として健康家庭支援センターとひとり親家族支援センターによ る支援提供上の課題を明らかにすること(研究課題4,第5章),という4つの研究課題を 設定して検討・分析を行なってきた.

第6章では,まず,4つの研究課題の結果から得られた「離婚経験児の適応向上を目指す 支援に対する新たな知見」について考察を行なう.その後,各研究課題と研究方法,結果,

考察をまとめる.最後に,本研究の限界を踏まえて今後の課題を提示する.

第1節 離婚経験児の適応向上を目指す支援に対する新たな知見

前述したように,本研究の目的は,離婚経験児の適応向上を目指す支援に対する基礎資料 を得ることをねらいに,離婚経験児に対する新たな支援方針と支援を検討することと支援 施設による支援提供上の課題を分析することである.その結果,離婚経験児の適応向上を目 指す支援に対する新たな知見として,子どもの選択の自由に関する権利を最優先とする支 援方針の明文化,予防的・事後的支援に対する開発・強化・普及の重要性,ニーズ・アセス メントの義務化と総予算の増額及び予算執行自律性の確保が示唆された.

1-1.子どもの選択の自由に関する権利を最優先とする支援方針の明文化

本研究では,研究結果2・3の結果に基づき,「子どもの選択の自由に関する権利を最優先 とする支援方針」の重要性について指摘した.この「子どもの選択の自由に関する権利を最 優先とする支援方針」は,子どもは親の離婚理由への説明や面会交流,一緒に暮らす親を選

ぶ選択権の付与などを当然に希望しているといった従来の視点を批判するものである.こ こでの批判とは,子どもは親の離婚理由への説明や面会交流,一緒に暮らす親を選ぶ選択権 の付与などを希望していないという意味ではない.希望している子どもがいる一方,希望し ていない子どももいるという意味である.このような視点の違いは,全く異なる研究結果と 考察に繋がることから,その重要性は言うまでもないだろう.実際に,研究背景で述べたよ うに,従来の研究では(青木2011;ジュ 2004;2008;リ・ジュ 2005;野口 2006;小田切 2005;シン・イ2009;棚瀬2004),親が離婚した理由の未説明,一緒に暮らす親を選ぶ選択 権の未付与,面会交流の排除,引っ越し・転校などは,離婚経験児の適応を低下させる「リ スク要因」と指摘している.他方では,親が離婚した理由の説明,一緒に暮らす親を選ぶ選 択権の付与,面会交流の実施,引っ越し・転校なしなどは,離婚経験児の適応の「補償要因」

と指摘している.しかし,本研究の結果は,前述した支援があったとしても,それらを子ど もが希望していないなら,支援はリスク要因として機能することが明らかになった.要する に,「支援の実施有無」よりは,「子どもが希望した際の支援の実施有無」が重要であること を示唆するものであり,それを,本研究では「子どもの選択の自由に関する権利を最優先と する支援方針」と命名している.つまり,今後は,子どもがある支援を希望しているか否か をまず確認し,その意思や判断を尊重しなければならない.

以上のことは,これから「子どもの選択の自由に関する権利を最優先とする支援方針」を 如何に発信し,実践現場に反映させることができるのかという課題に繋がる.その方法とし て,国連の子どもの権利条約に「子どもの選択の自由に関する権利を最優先とする支援方針」

を明文化することが考えられる.周知の通り,1989年11月20日に採択された国連の子ど もの権利条約は,子どもを権利の対象ではなく,主体として認識したことから,子どもの人 権領域において新たな地平を開いたと評価される国際人権条約である.子どもの権利条約 は,全ての子どもが営む権利として生存権(Right To Survival),保護権(Right To Protection),発達権(Right To Development),参加権(Right To Participation)を,全 54 条にて規定している.子どもの権利条約において「子どもの選択の自由に関する権利を 最優先とする支援方針」は,参加権に該当すると考えられる.具体的に,第13条1項「児 童は,表現の自由についての権利を有する.この権利には,口頭・手書き若しくは印刷,芸 術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及 び考えを求め,受け及び伝える自由を含む」があげられる.この第13条1項は,「子どもの 表現の自由に関する権利」を規定するものである.「この権利には,口頭・手書き若しくは

印刷,芸術の形態又は自ら選択する他の方法により」のように,子どもの選択に関しても触 れている.このことから,本研究が提言している「子どもの選択の自由に関する権利を最優 先とする支援方針」は既に言われているという議論の余地もあるだろう.しかし,子どもは ある支援を当然に希望しており,そのため支援を実施しなければならないと捉えてきたこ とが現状である.少なくとも離婚経験児という領域でも,前述したような視点が主流であっ た.その裏付けとして,本研究で批判している先行研究の結果がいえよう.そのため,本研 究では,子どもの権利条約に「子どもの選択の自由に関する権利を最優先とする支援方針」

を明文化する必要があると主張する.

1-2.予防的・事後的支援に対する開発・強化・普及の重要性

本研究では,研究課題2・3の結果に基づき,予防的支援と事後的支援を6つずつ提言し ている.具体的には,予防的支援として①離婚経験児の選択の自由に関する権利保障の内容 を記載した印刷物の制作と配布,②両親に離婚経験児の選択の自由に関する権利保障につ いて周知させる教育,③面会交流を拒否した親を納得させる支援,④他人によるひとり親家 庭に対する差別の改善を目指した支援,⑤セルフ・スティグマの改善を目指した支援,⑥経 済的苦労に取り組んだ支援を提言した.また,事後的支援として①離婚理解教育,②文化的・

学習的支援といった経済的支援,③親子コミュニケーション方法教育,④離婚後の親の役割 及び養育教育,⑤育児・養育補助員の派遣支援,⑥自尊感情の強化支援を提言した.

しかし,量的研究の限界とも言えるが,多くの量的研究においては単なる支援の提言に留 まる場合が少なくない.別言するなら,量的研究において提言されている支援は,既に行わ れている可能性を決して排除できない.このことから,本研究で提言した支援の位置づけ及 び考察のためには,現行支援との比較検討は欠かせないと考えられる.現行支援との比較検 討を行なうことによって,本研究で提言した支援が既に実施されているかどうかという支 援の位置づけが可能になる.それに加えて,支援が実施されていないなら,新たに開発する 支援として,実施されているなら,強化・普及する支援として考察ができるだろう.

そのため,ここでは,本研究で提言した予防的支援と事後的支援を現実的に考察するため に,まず,総合社会福祉館,健康家庭支援センター,ひとり親家族支援センターによる支援 内容の検討を行なう.その後,離婚経験児に対する現行支援と予防的支援と事後的支援を照 らし合わせながら,比較検討を行なう.最後に,この結果に基づき予防的支援と事後的支援

を位置づけながら,考察する.

1-2-(a) 離婚経験児を対象とした現行支援に対する検討

A市所在の総合社会福祉館98ヶ所,健康家庭支援センター26ヶ所,ひとり親家族支援セ ンター5ヶ所を対象とし,前記支援施設による支援広告物,支援報告(結果)物,ブロッシ ャーを収集した.それに加えて,質的調査を実施した健康家庭支援センター7ヶ所とひとり 親家族支援センター5ヶ所からの支援内容に関する資料を収集した.その後,収集物のなか,

「ひとり親」「母子」「父子」「未婚母」「未婚父」「祖父母」「離婚」「死別」「未婚」という用 語を使用した支援を抽出した.次いで,抽出された支援を趣旨,目的,内容,対象を基準に,

離婚経験児の親を対象とする支援,離婚経験児と親を対象とする支援,離婚経験児を対象と する支援,その他(他人)を対象とする支援に分類を行なった46). 地域としてA市を取り 上げた理由は,①他の地域に比べて前記支援施設の数が多いために検討結果の信頼性が高 く,②検討対象の 1つであるひとり親家族支援センターは A 市にしか設置されていないこ とによる.

前記手法にてA市所在の総合社会福祉館98ヶ所,健康家庭支援センター26ヶ所,ひとり 親家族支援センター5ヶ所による支援内容を検討したところ,総合社会福祉館50ヶ所,健 康家庭支援センター19 ヶ所,ひとり親家族支援センター5 ヶ所でひとり親家庭を対象とし た支援を実施していた.次いで,支援対象は,離婚経験児の親,離婚経験児と親,離婚経験 児,その他(他人)に大別されることから,いずれに離婚経験児が対象となっている支援を,

再度分析した.その結果,最終的に総合社会福祉館43ヶ所,健康家庭支援センター13ヶ所,

ひとり親家族支援センター5 ヶ所で離婚経験児(離婚経験児と親を対象とした支援を含む)

を行なっていることが明らかになった.なお,現行支援において,前記支援施設の間に重複 する支援(以下,重複支援という)と各支援施設でのみ行なわれている支援(以下,独自支 援という)が存在することが明らかになった.支援内容を支援対象(離婚経験児の親を対象 とする支援,離婚経験児と親を対象とする支援,離婚経験児を対象とする支援,その他(他 人)を対象とする支援)と支援種類(重複支援,独自支援)という軸にてまとめたものが[表 20]である.

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