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第1節 本研究から導かれる示唆

L2学習者の聴解において,どの過程でどのような記憶が関わっている かが述べられている研究は,管見の許す限り見当たらない。しかし,本研 究の実験結果に基づくならば, L2の習熟度別に聴解過程とワーキングメ モリ,短期記憶の関わりについては,次のような示唆が導出される。ここ では,複数の習熟度の設定がなされ,かつ習熟度の基準が統一されている 実験2‑4の被験者である日本語学習者に焦点を当てて説明する。

1.ワーキングメモリスパンテストの得点とワーキングメモリの処理効 率

ワーキングメモリスパンテストが何を測定しているかについてはいま だ一致した見解は得られていない(斎藤 2000) しかし, Daneman &

Carpenter (1980)は R S などのワトキJTグメモリスパンテストの得 点に反映されているのは,ワーキングメモリ容量が処理が行われたあとに 残る,一時的な保持に用いることのできる処理資源の量であると述べてい る(第2章第3節で既出)。そうであるとすれば,ワーキングメモリの得 点は処理効率の良さを反映しているともいえる。処理資源には限界がある ことが想定されていることから,処理効率が良くなれば処理に必要とされ る処理資源の量は少なくて済み,後に残存させて保持に充当できる処理資 源の量が多くなるはずである。つまり,テストでみられる表面的な現象と しては,保持できる単語の数が増加し,結果としてテスト得点が高くなる ということである。

2.ワーキングメモリと短期記憶の働き方の違い

本研究では,ワーキングメモリと短期記憶をシステム的・構造的にいず れも短期貯蔵庫と制御機能の組み合わせであると捉える三宅・脅藤(2001) の立場を採用した。制御機能は,単純に保持機能を支えるのではなく,認 知活動の中のダイナミックな記憶を支えるため,より複雑な働きを担って

いると仮定されている。ワーキングメモリと短期記憶との違いは,システ ムの働き方の違いであり,ワーキングメモリのほうが制御機能に依存する

ワーキングメモリでは一時的に保持された内容が,後の認知活動での処理 に不可欠である。つまり,一時的な保持と処理という複数の認知活動が可 能である。そして,その処理という認知活動はシステム的な制御に支えら れている。他方,短期記憶では一時的に保持された内容が後の認知活動で 使用されることが期待されていない。つまり,一時的な保持という機能が 主である。ワーキングメモリにおける処理という認知活動を支えるのが制 御機能であると考えられよう。

3.実験結果の解釈

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前述の考え方を本研究の実験結果の解釈に応用すると次のように考え られる。

学習期間が比較的短く,習熟度の低い学習者(本研究では日本語能力試 験3級取得者: 3級学習者)では, L2聴解力とL2ワーキングメモリ容 量との問に強い関わりがみられたことから,聴解に制御機能を多く必要と

していることになる。これを聴解の過程にあてはめると,比較的低次の処 理から制御機能に依存する必要性が高いといえる。なぜなら,習熟度が低 い学習者の場合, L2処理の自動化が進んでいないため,聴解過程の低次 の処理である1段階目のperception,および2段階目のparsingでも制 御機能が必要とされていると考えられるからである。言い換えれば,それ らの段階においてワーキングメモリの関わりが強いと推測される。この現 象は言語処理の方向からも解釈できる。言語情報の理解過程では,音声認 識や語認知,文法解析などにはボトムアップ型の処理が行われ,文脈の理 解や推論などにはトップダウン型の処理が行われることが多い。そして,

一般的に習熟度の低い学習者では,トップダウン型の処理も適用しようと するが,ボトムアップ型の処理に注意を向ける傾向が強いとされている。

これは,低次の処理に制御機能が強く働くという点で,前記の解釈と一致 する。

一方,学習期間が比較的長く,習熟度が高い学習者(本研究では1, 2 級学習者)では, L2聴解力とL2ワーキングメモリ容量との間で弱い関 わりしかみられなかったことから,聴解にそれほど多くの制御機能を必要 としていないことが推測される。これを聴解の過程にあてはめると,比較 的高次の処理で制御機能に依存しているといえる。なぜなら,習熟度が高 い学習者の場合, L2処理の自動化が進んでいるため, perception や

parsingなど低次の過程では制御機能がそれほど必要とされていないと考 えられるからである。ただし,高次の過程である, 3段階目のutilization では制御機能が必要とされ,ワーキングメモリの関わりが強いと推測され る。言語処理の方向から解釈すると,習熟度が高い学習者の場合,トヅプ ダウン型の処理を用いる傾向が強いため utilizationで制御機能が強く 働くといえる。つまり,本研究で扱った聴解材料は, 1, 2級学習者にと って3級学習者ほど低次の処理過程に重点を置かなくても理解可能なレ ベルであったといえよう。

以上の解釈を図示したのが,図19である。なお, 1級学習者と2級学

習者は即時処理においてもワーキングメモリの働きに違いが見られなか ったので,図19では1つの属性として表示している。

苧阪(2002)は以下のように述べている。 L2学習者では,構文構造や 単語などの知識がある程度備わった状態で,はじめてワーキングメモリの 効率性は活かされる。学習期間が短いうちは構文構造の理解等にワーキン グメモリの多くが消費されてしまい,ワーキングメモリに余裕があっても それを導入できない。この見解によっても前述の解釈は支持されると考え

られる。

ワーキングメモリ(制御中心)

[二ニコ:短期記憶(貯蔵中心)

, .

l

"

,

1・2級