第1節 日本語を母語とする英語学習者を対象に【実験1】
1.問題と目的
Llでは,既に聴解力とワーキングメモリ容量との間に高い相関がみら れることが明らかになっているが(Daneman&Carpenter, 1980 西崎, 1998),短期記憶範囲との関係については関わりが強いという言及にとど まり 1985)実証的研究はなされていない。また, L2の読解力 とワーキングメモリ容量との間に強い相関がみられ,短期記憶範囲との間 の相関は弱いことが明らかになっている Harrington& Sawyer (1992) は日本語を母語とする中・上級英語学習者にLl,L2のR S T,D S T, ワードスパンテストとL2読解力テストを実施した。その結果,読解力と R S Tとの間では有意な相関が得られたが,読解力とD S T ワードスパ ンとの間では有意な相関は得られていない。実験1では,日本語を母語と する英語学習者のL2聴解力とL2 Llワーキングメモリ容量, L2短 期記憶範囲との関わりの程度を明らかにすることを目的とした。
2.材料の作成
実験方法の説明に先立って,実験1のL2L S TおよびLI L S Tの材 料選定の手順を述べる。
(1) 材料選定にあたっての留意点
日本語母語話者用Ll L2L S Tの作成にあたっては,以下の3点に 留意した。
第1に,材料を聴解に適した難易度に設定するという点である。内田 (2000)は,大学生を対象に,英語の文章聴解において問題の選択肢の情 報呈示様式が理解水準に与える影響を調査している。その結果,全く同じ 問題では視覚呈示群よりも聴覚呈示群のほうが正答率が10.4%低かった。
このことは,同じ文でも視覚呈示よりも聴覚呈示のほうが理解度が低いこ とを示している。したがって,大学生を対象にL S Tを行う場合は,苧阪
(1992)で作成されたR S Tの文よりも難度の低いものを用い,聴解に適 した難易度に設定しなければならない。
という認知処理と単語の保持とが並行して行われていることが顕在化し, 外からの観察が可能である。しかし, L S Tでは黙って文を聴き,ターゲ
ット語を保持するため,文全体を聴いて並行課題である文の理解を実際に 行っているかどうかが確認できず,被験者が文末あるいは文頭の単語だけ をリハーサルしている可能性がある。このため,従来の研究においてもい くつかの手法が用いられている Daneraan& Carpenter (1980)では,問 題の材料文をクイズ形式にし,一文ごとに内容の真偽判断をさせている。
Siegel &Ryan (1989)では,文末の単語を単に記憶させるのではなく, 被験者自身に生成させてから記憶させ,文の意味が理解できていなければ 解答できないように修正している。石王・苧阪(1994)では,随時簡単な 文の再生テストを挿入し,全文を聴いたかどうかを確認している。これら の先行研究を吟味した結果,成人を対象にしているDaneman & Carpenter (1980)の手法を基本とし,実験1では被験者に,保持した単語の口頭再 生の後で文内容の真偽判断をさせることとした。
第3に,テストの信頼性を高めるという点である Daneman&Carpenter (1980)では,材料文に一般的な知識を問う問題を用い(例:youcantrace the languages English and German back to the same roots.一英語とド イツ語は起源が同じである。 (日本語訳は筆者による)),その真偽判断の 正誤は成績に含めなかった。しかし,正誤の成績を含めなければ聞いてい たかどうかは確認できない。被験者の背景知識によって成績に差が出る可 能性を排除するために,実験1では,先に呈示される文(以下では,これ を材料文とする)は一般的な知識を問うものではなく,小説や論説文から 採用した。そして,文内容を理解しているかどうかを確認するために,さ らにそれぞれの文内容に即した文(以下では,これを確認文とする)を新 たに作成して呈示し,真偽判断をさせることとした。
図7にDaneman&Carpenter(1980)のL S Tにおける1試行の流れを, 図3‑2に実験1で作成したL S Tの1試行の流れを示す。