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筆者は、東南アジアの大型エビ養殖場でのマネジメントを行う中で、持続可能なエビ養 殖を模索してきた。そして、様々のエビの病気を経験する中で、稚エビの重要性と養殖場の バイオセキュリティーの重要性を理解してきた。まず、ブラックタイガーの親エビからも感 染するWSSVを代表とするウイルス病に対しては、PCR検査によって稚エビからの感染を 防ぐことや、鳥・甲殻類・魚類などのキャリアーによる養殖池への侵入の防止を行ってきた。

特にキャリアーとしての甲殻類や魚類に関しては、池入前の海水を塩素ガス(30ppm)で殺 菌することも効果を示している。これらを併せた効果は、筆者がマネジメントしたAgrobest 社において、2006年以降2015年までWSSVのウイルス感染は皆無となったことからも確 認される。

一方、ウイルスの複合感染に見られた成長阻害による養殖成績の低下は、PCR 検査での 陽性反応を考慮せず、稚エビの池入を進めた結果であると考えられる。PCR 検査によって

IHHNVなどが陽性となったにも関わらず、稚エビの不足などによって、池入れしなければ

ならない状況が生じ、被害が小さいと判断されたウイルス陽性に関しては無視して池入し た。これは、天然依存のブラックタイガーの稚エビがウイルス陰性であることがほとんどな くなったことによって行った判断であった。しかし、この規制の緩和によってウイルスの複 合感染がおこり、第2章のとおり著しい成長阻害が起こるに至った。

バナメイの登場により、種苗生産は陸上の施設に移ってバイオセキュリティーの管理下 で生産がおこなわれている。種苗はSPF(Specific Pathogen Free)となり、安定供給も行わ れ、東南アジアのエビ養殖量は著しい増産となった。しかし、第5章・第6章で取り上げた

EMS/AHPND の流行で、種苗の SPF 化だけでは問題が解決しないことを理解した。

Lightner et al.(1998)は、早い段階で SPF/SPR 種苗の重要性を示していた。その後、

EMS/AHPNDをターゲットにしたSPR (Specific Pathogen Resistant) の種苗も南米で開 発されたとSperling et al.(2015)は報告しているが、東南アジアではまだその種苗導入は広 まっていない。

筆 者も 、バ ナメ イ養殖 が 広が って 以来 、SPF 種 苗 を当 然の よ うに利 用 して きた 。

EMS/AHPNDが発生する前までは、エビ養殖に大きなインパクトを与え生産性を向上させ

た。また、EMS/AHPNDに対するSPR種苗に関しても、それを使用した経験からすると、

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生存率は60-70%を維持し、他の種苗よりは優位であった。また、同時にWSSVに対しても

ある程度の抵抗性を示し、生存率は40-50%という結果であった。このように、持続可能な エビ養殖場を目指す上で品質のいい稚エビが欠かせない中で、稚エビ生産が陸上での管理 生産に移行したのは必然と言え、今後ともSPF/SPRといった稚エビは養殖業者にとっての 一助となるものと考える。

しかしながら、稚エビ頼みの品質向上だけでは持続可能とはならないことは、EMS/

AHPNDの出現で広く理解された。また、SPRは東南アジアにおいては確立されていない。

第3章の養殖場のバイオセキュリティーを考える上では、ウイルス対策を中心に研究した が、今後は、細菌類もターゲットにしていかなければならない。第4章とも重なるが、池の 装置・器具やプロバイオなどの使用を含めて総合的に細菌を抑え込んでいくことも検討し ていかなければならない。

EMS/AHPND の甚大な被害は多くの教訓を与えていると思う。原因菌に特定された

Vibrio parahaemolyticus は、海水等に常在する細菌である。Hirono et al.(2014)による PCR マーカーの開発でも触れているとおり、これらの常在細菌がプラスミド上に毒素産生 遺伝子を取り込んだことで突然強力な感染菌となった。このような形質導入は自然界でし ばしば起こっていることから、今後もこのような変異は起こりうると考えておかなければ ならない。

また、第5章・第6章で示したとおり、エビに対する環境ストレスにも考慮していかなけ ればならない。持続可能なエビ養殖を目指す上で、リスクを減らす努力とリスクを管理する 努力を行っていかなければならない。

1、リスクを減らすために行うこと

①バイオセキュリティーの強化

②品質の確認された稚エビの使用

③科学的な根拠に基づいた養殖

④養殖データ分析、病気の診断

➄環境ストレス要因の把握

2、リスクを管理するために行うこと ①排出水の管理の強化

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②単一からエリアへの管理範囲の拡大

③情報の共有

上記のような責任を持った養殖を行っていくことが必要と考える。

最後になるが、ある大規模養殖場が大きな失敗をし、経営問題に至った養殖場の再生に関 して提案するように依頼があった。策定した再生案の一部を示したい。

まずは、現状の分析から行い、問題点の把握を行うことから開始し、それらを細かく示し、

再生に向けた提案を行っていく。もちろんこれらは、当事者自身に申告してもらい、何が足 りなかったのか、いかに解決するのか、どう行動すればいいのかを検討してもらうことが重 要になる。

Fig.7-1. 経営の再生に向けた問題点の把握

Fig.7-2. 問題点の詳細分析 Problematic issue of Management

Low Production

High Cost Operation

Quality Loss at Harvest

Utilization of Processing Plant

Management decision

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持続可能なエビ養殖場にならなかったことを理解することは、逆にどうすれば持続可能に できるかという方向性を考えることに繋がる。

本研究では、特にウイルスや細菌についての研究を通じてバイオセキュリティーに多く を割いてきたが、養殖を行う装置としての池の設計、道具・器具、稚エビ、飼料、プロバイ オ等の生物利用、化学品など総合的なバランスを考えながら、エビにストレスを与えない養 殖を目指してバランスを持った養殖を考えていきたい。

天然のブラックタイガー親エビのウイルス罹患は、周辺のエビ養殖との関連がある。養殖 事業者には、自然を守る責任があるということを忘れてはならない。また、養殖密集地域に おいては、単独の養殖場のみでは、バイオセキュリティーが困難な場合が多い。したがって、

単独の養殖場の管理から、地域のバイオセキュリティーを目指していかなければならない。

その上で、今後の養殖場のトレンドを考えると、Fig.7-3のような大型池粗放養殖から中型 池集約養殖を経て、小型池高密度養殖へと変化している。

Fig. 7-3. 養殖池のトレンド

このような変化は、管理上必然とも考えられる。投資コストと生産コストのバランスを考え、

持続可能な養殖を目指すことと、すでに開発されながら生産が伴っていない養殖放棄池を いかに再生していくかも重要な課題となっていると考える。

今後とも、持続可能な養殖を目指して研究を進めるとともに、提言を発することができる ような立場でありたいと考える。

屋外 養殖池の大きさ

粗放養殖

集約養殖

養殖密度

Low High

屋内 超集約養殖

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要旨

筆者は、マレーシアの大規模集約養殖場・Agrobest 社でのマネジメントにおいて持続可 能な養殖を目指してきた。その間、多くのエビの病気に襲われ、対応してきた。その中で、

稚エビ品質の重要性とバイオセキュリティーの重要性を強く認識してきた。エビの疾病の 中でもWSSV(White Spot Syndrome Virus) は、最も被害の大きなウイルス病で、その防 御には次の2つのことを行った。1つ目は、PCR 検査システムを設け、すべての池入前の

(PL) Post Larvaeに対してロット毎にPCR検査を実施することである。2つ目は、養殖用

の海水を池に導入する前、ウイルスのキャリアーやベクターをターゲットとして、30ppm の塩素ガスで殺滅処理を実施することである。これらの対策を導入した後、2006 年から 2015年までWSSVの感染は皆無となった。

1990 年から2000年代中頃にかけた、Penaeus monodon (ブラックタイガー)の養殖は、

海洋にて捕獲される親エビに依存していた。親エビのPCR検査では、頻繁にウイルスの保 有を確認しており、特に2005年は顕著になっていた。この状況がブラックタイガー養殖を 複雑で困難なものにしていった。複数のウイルス感染がブラックタイガーの成長の阻害と なった。頻繁に確認されたIHHNV (Infectious Hypodermal and Hematopoietic Necrosis

Virus) は、単体では大きな問題はないとされていたため、PL段階で陽性であっても養殖池

に池入していた。当時、すでにウイルス陰性の親エビを確保することが困難であったためで もある。

第2章 エビ養殖場におけるウイルスの複合感染

上述のとおり、2005年頃のブラックタイガー養殖において、筆者は頻繁にウイルスを保 有した親エビに遭遇していた。ウイルスを保有しない親エビを確保することは至難の業と なっていた。当初 IHHNV に感染したエビについては、深刻なへい死をもたらさないと考 えられていた (Lightner et al., 1983; Bell and Lightner 1984)。しかしながら、養殖業者 は、ブラックタイガーの成長と生存率の低下に見舞われ大きな損害を被るようになった。筆 者は、ブラックタイガーの成長と生存率に関して、1種類のウイルス感染と2種類・3種類 と いった 複数の ウイ ルス による 感染の 場合 を比 較した 。その 中で 、MBV (Monodon

baculovirus) に感染した場合、1種類の感染でも著しい生存率の低下と成長の阻害を確認

した。しかし、2種類・3種類のウイルス感染がある場合に、より大きな成長阻害の問題と

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