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バナメイ養殖における AHPNS /EMS の発症原因の考察

背景と目的

Penaeus vannamei(バナメイ)の養殖は、2000年頃東南アジアに導入され、2006年以 降急速に養殖域を拡大し、それまでの東南アジアの主要な養殖品種であったPenaeus

monodon(ブラックタイガー)を凌駕し、圧倒的な養殖量となってきた。バナメイの特徴は、

育成環境にもよるが、ブラックタイガーに比較し養殖日数が短く、高密度の養殖が可能で 養殖効率が高い(Fig. 5-1.)。また、ブラックタイガーが天然種苗に依存する割合が圧倒的で ウイルスを保有するなど不安定であるのに比較し、陸上での管理種苗生産が確立し、特定 のウイルスに対してSPF (Specific Pathogen Free)種苗を得ることができることで病気に も強い養殖品種であったことが養殖拡大の要因と言える。

バナメイ養殖の成功によって、東南アジア各国でもバナメイ養殖は拡大を続けてきた

(Lightner, 2012)。しかし、中国南部において2009年頃に確認され、2010年頃ベトナム・

マレーシアと拡大していったとされるEMS(Early Mortality Syndrome)/AHPND(Acute Hepatopancreatic Necrosis Disease)によって、大きく考え方を変えなければならない事態 となった。EMSは、バナメイのPost Larvaを養殖池に入れてわずかな日数で死亡が観察

Fig. 5-1. 養殖データを基にしたバナメイとブラックタイガーの一般的な標準成長曲線

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され、その後死亡率が高くなる症例であるが、Eduarudo, (2012)によると、中国・ベトナ ムは甚大な被害を受け、マレーシアにおいてもエビ養殖業は壊滅的な被害を受けるに至り、

さらにインドネシア、タイにも拡大している。一例を挙げると、中国のHainan・

Guangdong・Fujian・Guangxiでは2011年の上半期で生産量が80%減少した。ベトナム では、メコンデルタを中心に被害をもたらし、ブラックタイガーにも発症が確認されてい る。マレーシアのバナメイ生産量は2010年70,000tであったが、2011年には35,000tと なった (NACA: Network of Aquaculture Centres in Asia-Pacific, 2012.8 Final Report)。

EMSの発症要因については、様々な検証がされてきているが、未だに原因が特定されて いない。 すでに、病理学の側面からの報告ではウイルスが原因ではないことが明らかにな ってきている (Lightner et al.,2012)。 本章では、生産現場のデータの分析を基に細菌をタ ーゲットとしたEMSの発症メカニズムについて実験を通して検証した。なお、Aquaculture Pacific Magazine( 2012)によるとEMSの定義すら明確でないとの報告もあったが、2012 年8月10日、バンコクで開かれたNACAの会合において、他の原因の初期段階でのへい 死と区別を明確にするため、本症例をAHPNS(Acute Hepatopancreatic Necrosis

Syndrome)として扱うことが提案された。そして、2013年にAHPNDとして呼称すること

になった。

材料と方法

5-Ⅰ, 病理学および組織学的アプローチ

a)ウイルスの確認

罹患検体のHepatopancreas(肝すい臓)・筋肉部位・遊泳脚をPCRにてウイルスの確 認を行った。PCRプライマーは、IQ2000 (GeneReach Biotechnology Corp)を標準として 用いた。PCR検査したウイルスおよび細菌は、9種のウイルスWSSV(White Spot Syndrome Virus)・IHHNV(Infectious hypodermal and hematopoietic necrosis virus)・TSV(Taura Syndrome Virus)・IMNV(Infectious Myonecrosis Virus)・YHV(Yellow Head Virus)・ GAV(Gill Associated Virus)・PvNV(Penaeus vannamei nodavirus)・

HPV(Hepatopancreatic parvovirus)・MBV(Monodon baculovirus)および病原細菌 NHPB(necrotizing hepatopancreatitis bacterium)である。顕微鏡による病理組織の観察は 国立研究開発法人水産研究・開発機構の増養殖研究所に依頼した。

- 37 - b)細菌の確認

へい死したエビ、養殖用水および汚泥から細菌の特定を試みた。Agrobest社および外部 検査機関において培養・分離した細菌を外部検査機関(DXN Laboratory, Malaysia)におい て同定した。外部検査機関での検査フローは以下のとおりであった。

① バナメイのへい死サンプル、養殖用水、汚泥を培養し、TCBS(thiosulphate-citrate-bile salts-sucrose)/ TSA(tryptic soy agar )/ Baired Parker/ PCA(plate count agar)それぞれ の寒天培地から細菌を培養、分離した。

② 分離した細菌をグラム染色で分類した。

③ BD BBL Crystal Identification System Kit(Becton, Dickinson and Company)または、

Microgen Bioproducts Kit(Microgen Bioproducts Ltd.)にて細菌を同定した。

④ 一部については、EndotoxinがあるかをPyrosate® Kit(Cape cod, Inc) にて確認した。

5-Ⅱ, 養殖データ分析

EMS/AHPNDの被害が最も大きかった時期である2011年7月に池入した93池の養殖

データに注目し、分析を行った。特に同じ稚エビを池入しながらEMS/AHPND感染池と非 感染池の差が生じた事例を中心に分析・検討を進めた。

池の水質、環境指標として(溶存酸素・水温・塩分濃度・硬度・アルカリニティ)、化 学指標として(SO2・NO2・NH4・H2S ・PO2・Ca・Mg・pH)、生物学指標として(微 細藻類・総細菌量・Vibrio量)の差異に関して調べた。

5-Ⅲ, EMS/AHPND発症条件の検証実験

Ⅱ,の養殖データの検証から、EMS/AHPNDとpHの関係および微細藻類(以下 microalgae)との関係について実験レベルでの検証を試みた。

実験5-Ⅲ-1; EMS/AHPND発症とpHの関係

実験5-Ⅲ-1.では、Fig. 5-2.のように比較区を設定し、A・B・Cの3回実験を行った。

実験は下記の手順で行った。

1, バナメイは、養殖日数40日程度、平均体重3g程度とした。

2, 40日養殖した平均重量3g程度のバナメイをエアレーションのついた通常養殖水の入っ

た大型タンク 200 Lに24時間放置し死亡がないことを確認した。

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3,水槽①・②にはハチェリーで使用する孵化場水(塩素殺菌+砂ろ過)、水槽③・④にも孵 化場水を、水槽⑤・⑥にはEMS感染のみられていない通常養殖池の水をそれぞれ30L 入れた。 (実験1-Aには、③・④の設定がない。)

4, 翌日①~⑥の各水槽に養殖池の養殖密度と同等に設定し、それぞれ16尾ずつランダム に移した。(実験1-Cではバナメイの調達尾数が不足し、11尾ずつに設定した。)

5, 24時間放置し、エビが健康であることを確認し、③・④・⑤・⑥の水槽にEMS感染の

起った池のSludge(池底堆積物)を病原と仮定して50gずつ添加した。

6, 4時間放置し、死亡がないことを確認した。

7, ②・⑥の水槽に消石灰(HL)水溶液をゆっくり添加し、pHを8.8程度に上昇させ時間経過 とエビの変化を観察した。翌日pHが下がっていた場合は、再びHLを添加し、pHを 上昇させる操作を繰り返した。HL: {Ca(OH)2:92.2%+CaCO3:4.9%} pH=11.40

8, バナメイ検体の脱皮状況およびへい死状況を確認し、へい死が一定程度に達するまで観 察するとともに、水質のパラメータ(溶存酸素・水温・塩分・アンモニア・SO2・NO2・ NH4・H2S・Alkalinity・Hardness・PO2・Ca・Mg・細菌量・microalgae)について も変動を定法にしたがって測定した。(microalgaeに関しては、第4章 実験4-2を参照)

Aquarium 1 Aquarium 2 Aquarium 3 Aquarium 4 Aquarium 5 Aquila 6

Trial A Sludge Stress (PH)

Trial B Sludge Stress (PH)

Trial C Sludge Stress (PH)

Hatchery Water Pond Water

Sludge Sludge Sludge Sludge

◯ ph Stress

✕ ◯ ✕ ◯

✕ ◯ ✕ ◯ ◯

✕ ✕ ◯ ◯ ◯

✕ ◯ ✕ ◯

✕ ✕ ◯ ◯ ◯ ◯

Control ph Stress ph Stress Control

✕ ✕ ◯

Fig. 5-1. 高pHがEMS/AHPND発症に及ぼす影響の確認実験の設定試験区模式図

実験1は、3回(Trial A/B/C)、実験を繰り返した。水槽1(Aquarium 1)の設定条件 は、pHストレス・Sludgeともにない条件で、水槽2(Aquarium 2)は、pHストレス を加えた設定とした。以降水槽4まで孵化場の水を使用し、水槽5・6は養殖池の水を

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使用し、Sludgeをともに加え、水槽5にはpHストレスを加えず、水槽6にはpHスト レスを加えた。

実験5-Ⅲ-2; EMS/AHPND発症と微細藻類の変化との関係

養殖データの分析から、microalgaeの変化とEMS発症の関係についても疑われたので、

Fig.5-3.のように比較区を設定し、A・Bの2回試験を行った。各試験区のバナメイの変化

を時間経過とともに観察した。実験に使用した水は、EMSの発生していない池から採取し ておき、 200 Lポリタンクに通常の池の水を入れ、通常飼料を与えながら48時間管理し、

へい死がないことを確認した後に試験を開始した。

1, 3 Lの実験用タンクに3g程度のバナメイを5尾入れる。

2, 24時間放置しへい死などエビ検体に問題がないことを確認する。

3, 給餌は、通常の養殖基準で、設定時間毎に与える。

4, 試験水槽①の水を50%入れ替え、試験水槽②の水を100%入れ替える。(実験2-A)

実験2-Bでは、水を交換しない水槽を加え水槽3/4/5とした。

5, 各試験水槽のエビの状態を確認するとともに、水槽の水質をモニタリングする。

6, 変化がない場合、EMS感染池の汚泥を追加し、エビ検体の変化を観察する。

実験2-Aでは、7日間でへい死が見られなかったのでSludge を5g入れたが、2-Bでは

Sludgeを入れず、バナメイの変化を水質のパラメータを見ながら7日間観察した。

エアレーション エアレーション エアレーション エアレーション エアレーション

* 色の違いは水の交換量。(50%) * 色の違いは水の交換量。(100%)

飼育条件 通常飼育条件 通常飼育条件 通常飼育条件 通常飼育条件 通常飼育条件

平均重量 * 尾数 3g±×5尾 3g±×5尾 3g±×5尾 3g±×5尾 3g±×5尾

通常養殖池; 3L 通常養殖池; 3L 通常養殖池; 3L 通常養殖池; 3L 通常養殖池; 3L

水交換 50%交換 100%交換 水交換なし 50%交換 100%交換

種類 通常飼料 通常飼料 通常飼料 通常飼料 通常飼料

給餌回数 3回/日 3回/日 3回/日 3回/日 3回/日

給餌量 通常養殖池の給餌量 通常養殖池の給餌量 通常養殖池の給餌量 通常養殖池の給餌量 通常養殖池の給餌量

Sludge感染池採取 5g 7日間観察後、添加 7日間観察後、添加 7日間観察後、添加せず 7日間観察後、添加せず 7日間観察後、添加せず

実験 2-A

水槽① 水槽②

バナメイ 水質

飼料

Fig. 5-2. 実験2の各水槽の設定条件

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微細藻類の分類は、第4章 Table 4-1. Table 4-2.と同様に、Pascherの分類を用いて評価し た。

結果

5-Ⅰ. 病理学・組織学的アプローチ

a)ウイルスの検証

ウイルスの可能性を調べるために、9種の既存のウイルス(WSSV・IHHNV・TSV・

IMNV・YHV・GAV・PvNV・HPV・MBV)および病原細菌NHPBについてPCR検査を

行ったが、ウイルスは見いだせなかった。また、NHPBも陰性であった。へい死したエビ に関して光学顕微鏡下で感染組織写真を撮影し、Fig. 5-3.およびFig. 5-4.のとおり観察した が検体からはウイルスは観察されず、崩壊した中腸腺組織に短桿菌が観察されたが、本菌 が主因なのか2次感染なのかはわからない。これら観察は、Lighatner and Flegel, (2012) の報告とも一致しており、本研究のバナメイのへい死原因はAHPNDであると認定した。

Fig. 5-3. EMS/AHPND感染エビ検体の中腸腺組織の光学顕微鏡写真(HE; Hematoxylin and eosin stain染色)

病エビの一個体で,残存する中腸腺組織に見られた病変部。黒矢じりで示した中腸腺組織 は崩壊して周囲を宿主の炎症細胞によって包囲されている。内部でヘマトキシリンに染ま る不定形のものは細菌のコロニー。

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Fig. 5-4. EMS/AHPND感染エビ検体の中腸腺組織の光学顕微鏡写真 (MG染色)

EMS感染エビの中腸腺組織の光学顕微鏡写真(MG; May-Grunwald Giemsa染色) 同じ部分をMG染色した切片の強拡大像。崩壊した中腸腺の内部を示す。黒矢じりで示 すように無数の短桿菌が観察される。中腸腺の組織の崩壊と短桿菌が観察されたが、電 子顕微鏡観察でもウイルスの感染は確認されなかった。

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