日本中小企業学会全国大会国際交流セッション講演抄録
信金中央金庫
総合研究所
共通演題「東アジアの中小企業政策の現状と課題」
2009年10月3日(土 ) か ら4日(日 ) に か け て、
日本中小企業学会第29回全国大会が熊本学園大学
(熊本市)にて開催された。大会の統一論題として
「中小企業と中小企業政策の再検討−改正中小企業 基本法制定後10年を迎えて」を掲げながら、大会 初日の3日午後には「東アジアの中小企業政策の現 状と課題」という共通演題のものとで、国際交流 セッション(信金中央金庫協賛)が執り行われた。
冒頭の本中金総合研究所平尾所長の挨拶に続いて、
同セッションでは金城学院大学の足立文彦教授と 九州産業大学の黄完晟教授がコーディネーターと なり、海外ゲストスピーカーとして台湾 輔仁大学 の劉慶瑞氏と韓国 建国大学校の李尹捕仕氏の2氏に よる報告が行われた。以下、報告内容について紹 介する。
1.序論
本報告では台湾の中小企業政策の概況を説明した い。戦後台湾の経済発展が始まったころ、中小企業 は資本、技術、人材が不足しており、これらの課題 を解決するために政府は様々な政策を実施してき た。特に60年代には、外資が安定的に増加し、台湾
の中小企業はこれらの技術を模倣することで生産力 を高めてきた。かつて中小企業は困難に直面しつつ も環境変化に対応し分業関係を構築して、台湾の経 済発展に大きく貢献してきた。しかし、80年代後半 以降は、グローバル化の進展、台湾内の環境変化、
そして大陸中国の経済発展の3つの要因によって、
報告1:「台湾の中小企業政策の現状と課題」
輔仁大学(台湾)専任助理教授
劉 慶瑞氏 国際交流セッション冒頭で挨拶する平尾所長
全国大会会場入口の立て看板(熊本学園大学)
台湾の中小企業の役割も大きく変化している。本報 告では、こうした最近の環境変化のもとでの台湾の 中小企業政策の現状と課題を明らかにしたい。
2.台湾中小企業のパフォーマンス
はじめに台湾中小企業の現状を確認しておこう。
89年から08年の中小企業数の推移を見ると、05年ま では上昇傾向であったが、その後の数年は減少傾向 である。内容を見ると製造業は減少しており、サー ビス業は増加している。同時期の中小企業の雇用数を 見ると、増加傾向を保っているが、全雇用者数に占め る比率は減少し、製造業は増えていない。規模の面 では、平均雇用者数は91年の8名から04年には6.1名 となり、零細規模の企業が増えている状況である。
次に売上げと輸出を見てみよう。中小企業の売上 げは額でみると増加傾向だが、対全企業売上げに占 める比率は下がる趨勢で、08年に28.75%となった。
中小企業による輸出額も同様に増加傾向だが、全体 に占める比率は減少しており、17%程度である。
大企業との比較をしてみると、金融危機の影響は 大企業の方が強く受けたと言うことができる。その 一方で、就労者の教育水準をみると、中小企業では 高卒が7割を占め、人材面での課題が大きい。大企 業および政府系の企業では、博士号取得者が多いこ とと対照的である。中小企業の立地面では、台湾の 経済地理の影響を受け、台北、桃園などのある北部 に47%が集中している。
最後にR&D(研究開発)の状況を確認しておこ う。02年から07年の6年間に全企業のR&D総額は、
1,395億台湾ドルから2,291億台湾ドルへと増加して いる。しかし、この増加分896億台湾ドルのうち、
816億台湾ドルは大企業によるもので、中小企業の 研究開発は、この間に27.6%増加したにすぎない。
中小企業の研究開発面での課題は、本報告の後半で も再び取り上げる。
3 .台湾の中小企業政策の現状とインキュベーショ ンセンターの役割
ここではまず台湾中小企業政策のうち、重要だと 思われる5つの支援について紹介する。
第1に、融資面で中小企業融資強化策が採られた。
融資額全体に占める中小企業の比率が低いという問 題意識が背後にあり、同比率は政策の影響で04年の 15.4%から08年9月には18.7% へと増加した。第2に、
企業の高度化を支援する方策が採られた。具体的に は、02年から07年に1万7,000社がeコマースへの対 応支援を受け、品質管理基準への対応支援では同期 間に94社が国際品質認証を得た。第3に、地方経済 の活性化が図られた。地域特有の産業の推進とクラ スター政策がその中核であった。第4に、近年、イ ンキュベーションセンターの設立が進んでおり、第 5に、R&Dの支援策が採られた。最後の2つについ ては特に重要なので、以下でより詳しく紹介する。
インキュベーションセンター政策は96年から開始 され、98年に27か所であったものが08年には104か 所となっている。現在、台湾の主なインキュベー ションセンターの8割は大学に所属し、活動を行っ ている。日本では大学所属のものは少なく、異なる 特徴を持っていると言える。センターの中核分野を みると、総合型が33%、先端科学技術型が32%、知 識戦略サービス型が16%等となっている。育成を 行っている分野はIT・電子が30.6%、機械・電機が 17.6%、バイオ技術が14.2%等である。申請した企業 の雇用者数をみると、10人以下の企業が23.8%を占 め、50人以下の企業で全体の78.2%を占めている。
おおよそ1つのセンターにつき、十数社の企業が入 居し、その企業に対して投資が行われている。中小 企業の発展促進効果が出ていると言えるだろう。
4.中小企業のR&D(研究開発)支援策
次にR&D支援策を取り上げる。台湾のR&D政策 を推進しているのはDoIT(経済部技術処)であり、
79年に設立された科学技術顧問室を前身としてい
る。台湾の技術推進を行う政府部門における最重要 組織であり、技術開発のための環境づくりを行って きた。同組織は、技術開発プログラム(TDP)を執 行し、産業界・学界・研究機関を結集することで技 術開発能力の向上を目指している。これまでに5つ のプログラムが実行されており、産業技術開発プロ グラム(99年)、小企業イノベーション研究プログ ラム(99年)、産業技術イノベーションセンタープ ログラム(01年)、台湾国際R&Dセンタープログラ ム(01年)、イノベーション技術の応用及びサービ スプログラム(08年)がそれに当たる。
以下では、特に「小企業イノベーション研究プロ グラム」について紹介したい。これはアメリカの SBIR(注)1を参考に策定されたもので、新たなコンセ プトに基づく技術の開発、新技術の応用、既存技術 の応用、既存技術・製品の改良を研究することが奨 励されている。申請数は99年から08年まで増加して おり、08年には申請が600件を超えた。採択率は平 均57% 程度で競争的な制度となっている。採択され た場合、平均してプロジェクトに必要な資金の35%
から半分程度が提供される仕組みで、規模の小さい 企業が数多く申請している。これまでに合計3,165 件の補助が行われ、合計65億台湾ドルが提供されて いる。この制度は中小企業のR&Dを促進しており、
その効果は126億台湾ドルであった。
5.課題と提言
台湾の中小企業がかかえる課題は、アジア地域で
の競争、企業間の競争、産業の競争、国際分業の中 での問題、革新的サービスの創出の5つが挙げられ るが、そのどれにも関連する重要な要素は人材の問 題である。日本と同様に、現在、台湾も急速に少子 高齢化しており、この構造でアジアにおいて競争 力、イノベーション力を保つことはたやすいことで はない。従って、提言としても人材の重要性を強調 しておきたい。
日本は厳しい状況の中で留学生を10万人以上に増 やす政策を採り、かなりの成果があがっている。優 秀な外国人留学生を卒業後に雇うという傾向がみら れるからであるが、台湾はまだまだこうした成果が あがっておらず、課題が大きい。
また、最近、零細企業がかなり増えているが、一 定の制限があり、政府の支援政策を受けられない。
これも大きな課題で、政策においては、もっと零細 企業を重視しなければならない。
政府部門の効率化も検討が必要である。技術なら 技術処、中小企業なら中小企業処となっている現状 は非効率であり、統合すべきであろう。
最後になったが、今後は単なる技術だけでなく、
ビジネスモデルも作る必要ある。革新的なビジネス モデルを研究し、普及させる活動も重要である。07 年には、官民の出資によって商業研究院が開設され た。商業の領域、例えばブランドの強化・支援・共 同化を含めて、今後の活動が注目される。
(注)1 .Small Business Innovation Research:中小企業による研究技術開発とその成果の事業化を一貫して支援する制度