主に物的な被害を想定 主に人的な被害を想定
自然災害
・地震
・水害 等
人的災害
・破壊行為
・テロ 等
技術的災害
・システム障害 等
感染症災害
・新型インフル エンザ等
(備考)信金中金総合研究所作成
図表12 事業継続のために普段から取り組むことのできるとみられる主な項目(主なもの・例示)
(1)多くのリスク等に共通した対応項目(基本項目)
対応項目 具体例・着眼点
事業継続方針 ・ 被災した場合の自社の事業継続(存続)の意志をあらためて確認する。
・計画を文書化して全従業員へ周知し組織として取り組む。
社長に代わる権限委譲者の選定 ・ 企業の要である社長に不都合が生じた場合の権限委譲者を選任し、日頃 から事業継続に対する共通認識を形成しておく。
被災想定 ・地震の震度・従業員の休暇率(欠勤率)など被災状況を想定しておく。
各種情報の収集 ・政府、自治体、保健所等から情報収集できる体制を整えておく。
中核業務の選定
・ 自社において絶対に中断させることのできない中核業務を選定しておく。
・選定に当たっての主な観点
・ 市場的観点/顧客の信用や市場シェアを維持できるか 受注打切りを回避できるか
・財務的観点/財務状況がとこまで耐えられるか
・社会的観点/自社の社会的責任(CSR)
中核業務の停止期間と対応力の見積もり
・ 中核業務の中断が経営に及ぼす影響を見積もり、どの程度までなら耐え られるか検討しておく。
・ 中核業務の選定時の「主な観点」も踏まえて、中核事業縮小(中 断)の許容限界、目標復旧時間を定めておく。
取引先が事業中断に至った場合の検討
・自社の中核事業への影響を最小限にとどめるよう検討しておく。
・継続業務に必要な資源の抽出(リスト作成)
・在庫の計画的確保、仕入先の分散ができるか検討しておく。
・取引先との連携(BCPに対する相互理解)を密にしておく。
・販売先の事業中断を知らずに生産を続け過剰在庫等が発生する などのリスクもあることを認識しておく。
事業縮小(中断)時の運転資金や、復旧 に必要な設備資金等の確保策の検討
・保有現預金が事業縮小(中断)に耐えられるか検討しておく。
・事業復旧に必要な資金の見積もりを実施しておく。
・損害保険等への加入を確認する。
・制度融資・災害時発動型融資等を確認する。
(2)災害ごとの対応項目
対応項目 具体例・着眼点
インフルエンザ等
日常の感染予防対策の実施 ・マスク、消毒液等の備蓄、従業員への感染予防の啓発
罹患者が出た場合の対応手順の検討
・社内連絡網を日頃から整備しておく。
・罹患者の自宅待機、職場復帰の基準等を明確にしておく。
・意思決定者が罹患した場合の権限委譲方法などを定めておく。
クロストレーニングの計画的実施 代替要員の確保策の検討
・ 従業員の休暇・欠勤などにより中核業務が停止しないよう日頃から取り 組む。
・ 従業員が他の業務を遂行できるよう(多能工化)、日常から訓練を 行う。
・OBの活用や取引先等との相互協力ができるか検討しておく。
地震等 情報システムのバックアップ ・重要情報はバックアップし同時に被災しない場所で保存する。
建物、機械の耐震状況の確認 ・計画的な補強工事の実施
(備考)信金中金総合研究所作成
〈参考〉信用金庫におけるBCP取組事例 これまで、中小企業におけるBCPの必要 性について考察してきたが、ここでは、企業 としての信用金庫におけるBCPの取組事例 を紹介したい。
東京都荒川区に本店を置く城北信用金庫で は、05年の金融庁の監督指針に求められた 業務継続体制の構築を図るべく、06年9月に
「業 務 継 続 計 画 」 を 策 定 し た。 同 計 画 は、
「危機発生時の早期復旧による金融決済シス テムの維持」と「必要最低限の金融サービス の提供による業務継続」の2点を重点対応項 目として、金庫全体を俯瞰する位置づけと なっている。同計画では、想定されるリスク をカテゴリーⅠからⅣに区分し、それぞれの 対応策をマニュアル化している(図表13)。
また、同計画の運用にあたっては、計画の実 効性確保のため、年度ごとに各部店において 同計画に基づく訓練を実施し、リスク管理部 でその実施結果をとりまとめている。また、
同部において問題点の検証を行い、四半期ご と に 経 営 陣 へ 報 告 す る な ど、BCPのPDCA サイクル化に取り組んでいる。
一方、信用金庫の業界団体である㈳全国信 用金庫協会においても、09年3月に「新型イ ンフルエンザに係る業務継続計画(例)」を 発信するなど、信用金庫のBCP策定に向け た支援を行ってきた。同協会内に組織された
「業務継続計画検討専門部会」では、信用金 庫に想定される幅広い災害に対応した基本的 なBCPの指針制定へ向けて検討が続けられ ている。
ちなみに、同協会の発刊する月刊誌「信用 金 庫 」 で は、08年12月 号 か ら3回 に わ た り
「中小企業に求められる事業継続計画」と題 して、先述のNPO法人事業継続推進機構理 事長の丸谷浩明氏の寄稿文が連載され、中小 企業に向けたBCPの解説と取組みの手法が 紹介されている。
おわりに
事業基盤の脆弱な中小企業において災害等 による業務の中断は、会社そのものの存続に 関わる重要な問題であり、業種や地域にかか わらずすべての中小企業が現に直面している 問題でもある。これらを踏まえて、本稿にお 図表13 城北信用金庫BCPの危機カテゴリー
分類
危機カテゴリーⅠ【風評による流動性危機】
①風評リスク管理要領
②風評による緊急時対応の実務手引き
③流動性コンティンジェンシープラン
④資金繰り対応内規
⑤緊急時資金対応手続き
危機カテゴリーⅡ【災害発生による危機】
①大規模地震等防災対策要領
②地震等異常事態発生時のオンライン事務取扱要領
③小規模災害発生時のオンライン事務取扱要領
④事務業務における緊急事務対応要領
危機カテゴリーⅢ【システム障害による危機】
①コンピュータシステム障害にかかるコンティンジェンシープラン
②オンライン障害時の顧客対応手続
③停電・電源瞬断時の営業店対応
④国際資金部各種通信手段障害時対応要領
危機カテゴリーⅣ【人的災害発生による危機】
①新型インフルエンザ対応方針 業務継続基本計画
危機管理基本規程
(備考)城北信用金庫資料より信金中金総合研究所作成
いて中小企業におけるBCPの必要性につい て考えてきたが、ここで忘れてならないこと は、BCPの最大の目的は、BCPそのものを 作成することではなく、最悪の場合を想定し て普段から「いざというときにどう事業を継 続させるか?、どう会社を存続させるか?」
について、経営者を先頭に、全従業員が一丸 となって取り組むことにある。よって、すべ ての中小企業が必ずしも立派なBCPを策定 する必要はなく、その企業の実態に合ったレ ベルでBCPの策定を始めればよいと思われ る。重要なことは、非常時にも「自社を存続 させる」という明確な意思をもって一歩を踏 み出すことである。
一方、中小企業へのBCP普及には、信用 金庫業界も重要な役割を担っていかなければ ならない。信用金庫は、地域金融機関として 中小企業の経営者と接する機会も多く、ま た、中小企業にとっては重要な「取引先」で もある。中小企業にとって身近な存在である 信用金庫は、BCP策定の「きっかけ」を持 たせるのに最適な立場にある機関のひとつで あるといえよう。第2章の調査結果にあった よ う に、BCPに つ い て「よ く わ か ら な い 」
「業務多忙で余裕がない」「当社には必要な い」と思っている中小企業者に対し、BCP
への理解を深め、実際に取り組んでもらうこ とは、取引先企業の育成・支援という観点か らも信用金庫の重要な社会的使命のひとつな のではないだろうか。
また、信用金庫の経営的観点からみても、
取引先企業の存続は重要な意味をもってい る。例えば、信用金庫の基盤である地元地域 が震災等で被災した場合を考えてみても、地 元企業の多くが災害に対して何らの対策を 行っておらず、事業中断に起因する倒産や事 業縮小という事態に陥った場合、地域経済の 破綻のみならず信用金庫の経営自体をも脅か すこととなり得る。つまり、間接的ではある ものの、中小企業へのBCP普及は、信用金 庫や地域経済の安定へも結びつくものである といえる。
このように、BCPの普及は、中小企業の 自助努力だけに期待するのではなく、信用金 庫業界を含めた各機関による相談・支援体制 の構築が必要不可欠である。そうした状況も 踏まえれば、中小企業の発展はもとより地域 経済や信用金庫の発展も念頭に置き、まず は、中小企業の身近な相談者である信用金庫 自身もBCPの理解を一層深めていくことが 肝要であろう。