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統合生産システムの発展・拡張

 

Ⅰ  本章の課題   

  本章では,ホンダが統合生産システムを発展させ,拡張していくプロセスを検討する。

段階としてはフェーズⅡ半ばからフェーズⅢ,年代としては 2005 年前後から 2015 年頃 までが該当する。これらの作業を経た後に,本章の最後に第 1 章と第 2 章をまとめ,ホン ダが統合生産システムを形成した契機と,このシステムが持つ機能を検討する。 

 

Ⅱ  フェーズⅡ:統合生産システムの発展   

  2000 年以後,二輪企業各社が投入した排気量 50cc 以下の廉価機種は,販売台数の大幅 な減少を防ぐという点において一定の効果をあげた。しかしながら,第 1­5 図からもわか るように市場全体が増加に転じたわけではなく,依然として日本市場は縮小傾向にあった1。 とりわけ,2008 年以後はリーマンショックを機に生じた経済不況によって販売台数が低 迷した。そのため,フェーズⅡ半ばから,ホンダは排気量 50cc 以下に続いて,排気量 51cc 以上のエントリーモデルを次々と投入していく。こうしたエントリーモデルの投入は,

Made by Global Honda を発展させた「グローバル 3 戦略2」構想の一環であった。以後,

ホンダは,このグローバル 3 戦略構想を推し進めていくことになる。ただし,ホンダは日 本市場への対応だけのために,グローバル 3 戦略構想を打ち出したわけではない。ホンダ は日本と同時に,以下でみるような欧州の市場環境の変化にも応じることを企図したので ある。 

 

Ⅱ­1.  欧州二輪車市場の特徴と近年の変化3 

  ホンダを含めた日本企業は,1990 年代後半以降,競合他社の攻勢を受け,それまで欧 州で築いていた高い市場シェア(販売台数基準)の維持が難しくなっていた。このことを,

イタリア市場とスペイン市場で確認する。イタリアとスペインを取り上げるが,欧州各国,

とりわけ欧州の中で販売量の多い 5 カ国(イタリア,スペイン,イギリス,ドイツ,フラ ンス)でも概ね同じ傾向が見受けられる。もちろん,欧州市場といっても国によって,そ れぞれ需要が異なる。例えば,Commuter 用途の販売量が多いイタリアに対して,ドイツ

は Fun 用途が販売の中心である。とはいえ,以下にみるような,二輪車市場の停滞・減少,

外国資本の競合他社の攻勢,日本企業の市場シェアの停滞・減少,という 3 つの現象は共 通している4。主要 5 カ国を全て取り上げると,記述の重複が多くなるため,ここでは比較 的各種データが揃い,かつ,上記した 3 つの現象が明確に現れているイタリアとスペイン を取り上げる。 

第 2­1 図  イタリア市場における販売台数・シェアの推移 

  注:左軸が販売シェア,右軸が販売量(単位は千台)の指標である。販売量は二輪車の登録台数とモペッ トのメーカー申告台数の合計値である5。また,販売シェアは上位の二輪車企業のみを抽出している。 

出所:販売シェアは本田技研工業から提供された資料,販売量は Association  des  Constructeurs  Européens de Motocycles the Motorcycle Industry in Europe〔2003〕〔2005〕〔2008〕〔2011〕〔2015〕

をもとに筆者が作成した。 

  第 2­1 図はイタリア市場,第 2­2 図はスペイン市場の販売台数シェアと市場全体の販 売量の推移を示している。両図ともに,販売台数シェアと市場全体の販売量の 2 つのデー タが揃う期間のみを取り上げている。これらの図からわかることは,次の 3 点である。第 1 に,イタリア,スペインともに市場全体の販売量が衰退・縮小傾向にある。イタリア市 場は約 50 万台の水準で増減していたが,2010 年からさらに販売量が少なくなっている。

一方,スペインは 2002 年から 2007 年にかけて販売量が増えていたが,2008 年を境に減 少に転じる。第 2­2 図では 2009 年までしか示していないが,2010 年以降もスペイン市 場は 15 万台を切る販売量で推移しており,かつての市場規模と比べてかなり小さくなっ

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ている6。第 2 に,日本企業,とりわけホンダ,ヤマハ,スズキの 3 社が上位シェアを維持 している一方で,その割合は徐々に少なくなっている。唯一の例外は川崎重工業(以下,

カワサキと表現する)であり,シェア自体はそれほど高くないが,安定して推移している。

第 3 に,欧州企業(Piaggio)とアジア企業(Kymco)といった競合企業が販売量を増加 させてきていることである。このような競合企業の攻勢を受け,日本企業 3 社が持つ販売 シェアは,2000 年から 2010 年にかけて停滞あるいは減少傾向にあった。 

第 2­2 図  スペイン市場における販売台数・シェアの推移 

  注:左軸が販売シェア,右軸が販売量(単位は台数)の指標である。また,販売シェアについては上位の 二輪車企業のみを抽出している7。 

出所:販売シェアは本田技研工業広報部世界二輪車概況編集室〔各年版〕,販売量は Association  des  Constructeurs Européens de Motocycles the Motorcycle Industry in Europe〔2003〕〔2005〕〔2008〕

〔2011〕をもとに筆者が作成した。 

  イタリア,スペインを含めた欧州の二輪車市場で欧米企業,アジア企業が躍進を遂げる のは 1990 年代後半以降のことである。欧米・アジア企業の事業展開の方針は日本企業と かなり異なるため,この点を確認しよう。まず,欧州で二輪車市場に参入している企業は 大きく 2 つに分けることができる。ひとつは,細分化された特定の製品ラインに集中する ことで,そこでのリーダーになることを狙う企業である。こうした企業を,本稿ではさし あたり専門特化型企業と呼ぼう8。専門特化型企業には,600cc 以上の高・超高排気量の二 輪車(Fun 用途の二輪車)に特化する BMW(独企業)や HARLEY-DAVIDSON(米国企 業)といった企業と,250cc 以下の超低・低排気量の二輪車(Commuter 用途の二輪車)

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を主たる事業範囲とする Piaggio(伊企業),Kymco や SYM(いずれも台湾企業)が存在 する。いまひとつは,あらゆる範囲に製品ラインを展開する,したがってフルライン政策 を採る企業である。これを本稿ではフルライン企業と表現する。フルライン企業に属する のが日本企業 3 社(ホンダ,ヤマハ,スズキ)である。 

第 2­3 図  イタリア市場における販売ラインナップ 

 

出所:『MOTOCICLISMO』2011 年 9 月号のデータを元に筆者が作成した。なお,販売ラインナップの 表し方については相原〔1989〕,94 ページ,図 4­2,沼上〔2000〕,19 ページ,図 1­1 を参考にした。 

  次に,専門特化型企業とフルライン企業が手がける製品ラインの範囲の違いをみる。第 2­3 図は二輪車企業 6 社のイタリア市場における販売ラインナップを示している9。各社の 機種数がかなり多いため,第 2­3 図を元に専門特化型企業とフルライン企業の差異をモデ ル化したものが第 2­4 図である。両図ともに,横軸は製品ラインの幅を示している。二輪 車という製品カテゴリーには,主に 9 つの製品ラインが存在する。それは,オフロード,

スポーツ,ツーリング,ネイキッド,カスタム,オン/オフ,Light  Motorcycle(図では Light MC と表記),Light Scooter(図中の Light SC),Big Scooter(図中の Big SC)で ある。各製品ラインを簡単に説明すると第 2­1 表のようになる10。この表には顧客の用途

(Commuter と Fun)と,二輪車のタイプ(モーターサイクルとスクーター)を併せて掲 載している。一方,両図の縦軸は,各製品ラインで取りそろえている機種数(これを,製 品ラインの奥行きと表現する)を,さしあたり価格を指標として示している11。二輪車は

排気量が高くなればなるほど高額になる傾向があるので,価格と排気量どちらを縦軸の指 標としても概ね同じになる。そのため,ここではグラフを簡潔にするために価格を用いた。

これらの図から次の 3 点がわかる。 

A) BMW と HARLEY-DAVIDSON はある特定の製品ラインしか手がけていない。し かもその製品ラインは主に高価格帯(高・超高排気量)に分布している。 

B) A)の企業と同じく,Piaggio と Kymco も製品ラインを絞っている。A)の企業との 違いは,主に低価格帯(超低・低排気量)の二輪車に集中していることである。 

C) ホンダとヤマハは全ての製品ラインを手がけている。さらには,同一製品ラインの 中でも,様々な価格(排気量)の機種を展開している。 

第 2­4 図  イタリア市場における専門特化型企業とフルライン企業の違い(モデル図) 

  出所:第 2­3 図と同じ。 

  このように,単一ブランドでフルライン展開を行っている二輪車企業は日本の 3 社以外 に存在しない。2000 年以前に日本企業が高いシェアを獲得してきた理由は,このフルラ イン展開にある。この時期における日本企業のフルライン展開には 2 つの特徴があった。

ひとつは,多様な製品ラインを投入し,Commuter と Fun どちらの用途でも競合企業がカ バーできない市場を獲得したことである。日本企業の欧州市場参入は古く,1960 年代に まで遡る。それ以来,日本企業は国内向けに開発した多様な機種を元に欧州市場での製品 ラインナップを拡充し,徐々にフルライン化を進めてきた。日本の二輪車市場は 1950 年 代後半から 1980 年代にかけて急速に成長を遂げた。しかも,その間,日本企業は顧客の

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