第 5 章 シリコンヘテロ接合太陽電池モジュールの電圧誘起劣化 63
5.3 結果
5.3.1 劣化挙動
これまで,典型的なp型c-Si太陽電池モジュール[13–17],n-FE c-Si太陽電 池モジュール[12, 18–20],n-RE c-Si太陽電池モジュール[21],n型IBC c-Si太 陽電池モジュール[22],a-Si薄膜太陽電池モジュール[23, 24],CIGS薄膜太陽 電池モジュール[25–27],およびCdTe薄膜太陽電池モジュール[27, 28]が,負 のバイアス下でPIDを生じることが報告されている.ここではまず,SHJ太陽 電池モジュールのJ–V 特性,EQE特性,およびEL特性が,負バイアスの印加 によってどのように変化するかを明らかにする.このPID試験において,SHJ 太陽電池モジュールはPID 耐性の向上に貢献しない典型的な部材から作製され たものを用いた.これによって,SHJセルへの負バイアスの影響を明確化する ことができる.なお,このSHJモジュールは正バイアスのもとでは劣化を示さ なかった.
図5.1は,本実験で用いたSHJ太陽電池モジュールのPID試験前後の代表的
な1 sun 照射下およびダークのJ–V 特性を示している.PID 試験は試験条件
−1000 V,85 ◦Cにて行った.図5.1aの挿入図は,Jsc/Jsc,0のPID試験時間に 対する変化を示している.Jsc はPID 試験時間の増加とともに徐々に低下した が,FFおよびVocはほとんど初期値のままである.Jsc の低下によって,Pmax がおよそ13% 低下した.この結果は,SHJ 太陽電池モジュールが,負バイア ス下において,主にJsc の低下によって特徴づけられるPIDを生じることを示 している.一方で,ダークJ–V 曲線には変化が見られなかった.このことは,
Jscの低下が再結合損失によって生じているのではなく,何らかの光学損失が原 因で生じたことを示唆する.図5.2には,劣化前後のSHJ太陽電池モジュール のEQE 特性を示している.13 dのPID試験の後,SHJ太陽電池モジュールの EQEは全波長領域に渡って低下した(図5.2 内の赤色の破線を参照).このこ ともまた,Jsc の低下が光学損失によって生じていることを示唆する.なぜなら
*5A-11
5.3 結果 67 40
35 30 25 20 15 10 5
2 Current density, J (mA/cm) 0
0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1
0.0 Voltage,V (V)
Initial 9 days
18 days 32 days
1.05 1.00 0.95 0.90 0.85 0.80 Jsc/Jsc,0
30 20 10
0PID-stress duration (day)
20 15 10 5
00.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 Initial
9 days 18 days 32 days
Voltage,V (V) Current density, J (mA/cm2 )
(a)
(b)
図5.1 −1000 V,85◦Cの条件で9,18,32 d間行ったPID試験前後のSHJ 太陽電池モジュールの(a) 1 sun光照射下におけるJ–V 特性および (b) ダークJ–V 特性.挿入図はJsc/Jsc,0のPID試験時間依存性.
ば,もしどこかで再結合損失が生じた場合,光吸収係数の波長依存性から,ある 特定の波長領域でEQE損失が生じるはずだからである.(例えば,光吸収層の 表面付近で損失が生じた場合,短波長領域のみでEQEが低下する.)ひとつの 顕著な例として図中の緑の点線で示しているように,−2000 V,21 dのPID試 験の後,EQEが全波長領域で大きく低下し,特に短波長領域で半分以下にまで 低下している.また,図5.2には,同じモジュールの異なる2領域にて測定した EQEの結果も示している.セルのエッジ付近で得られたEQEのほうが,セル
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
External quantum efficiency, EQE 0.0 400 600 800 1000 1200
Wavelength, λ (nm)
Unaffected
13 days (center) 13 days (edge)
−2000 V, 21 days
図5.2 劣化していないSHJ太陽電池モジュールおよび−1000 V,85◦C,13 dの条件で行ったPID試験によって劣化したモジュールから得られ たEQE特性.劣化後のモジュールに関しては,中央部およびセル端 部の2点でEQE を測定した.このEQE の単色光照射面積は10 × 10 mm2である.ひとつの顕著な例として,−2000 V,85◦C,21 d のPID試験によって劣化したモジュールのEQE特性を示している.
このEQE特性は,セルの特に強く劣化している領域から得られた.
図中の“center”および“edge”は,それぞれセルの中心部およびセル の端部から数cm内側に入った部分から得られた(後に示す図5.4の EL画像における中心部の明るい領域をcenter,周辺部の暗い領域を edgeと呼んでいる).
の中心部付近で得られたEQEよりも損失が大きいことかわかる.このことは,
光学損失の程度にセルの面内依存性があることを示している.
図5.3は,PID試験を受けているモジュールのJsc/Jsc,0,Voc/Voc,0,FF/FF0,
および Pmax/Pmax,0 の変化のバイアス依存性を示している.SHJ太陽電池モ
ジュールの劣化速度は印加電圧の大きさに依存する.この実験では,劣化速度 を除き,劣化挙動は電圧が−1000 Vから−2000 Vに上昇した場合でも変化し ないように見える.
図5.4a, bは,それぞれPID試験前後のSHJ太陽電池モジュールのEL画像 を示している.PID試験の条件は−1000 V,85 ◦C,32 dである.PID試験の 後,EL 画像は全体に渡ってわずかに暗くなる.このEL 画像における暗化は,
上述のように,セルのダイオード特性の劣化を伴わない.したがって,この暗化 は,セル内の非放射再結合の増大ではなく,何らかの光学損失が原因で生じてい
5.3 結果 69
1.05 1.00 0.95 0.90 0.85 0.80 0.75 0.70
0.650 5 10 15 20 25 30 35
PID-stress duration (day)
−1000 V
−1000 V
−2000 V (a)
1.05 1.00 0.95 0.90 0.85 0.80 0.75 0.70
0.650 5 10 15 20 25 30 35
PID-stress duration (day) (b)
1.05 1.00 0.95 0.90 0.85 0.80 0.75 0.70
0.650 5 10 15 20 25 30 35
PID-stress duration (day) (d) 1.05
1.00 0.95 0.90 0.85 0.80 0.75 0.70 0.65 Normalized FF, FF/FF0
35 30 25 20 15 10 5
0 PID-stress duration (day) (c)
Normalized Jsc, Jsc/Jsc,0 Normalized Voc, Voc/Voc,0Normalized Pmax, Pmax/Pmax,0
図5.3 PID 試 験 に よ る SHJ 太 陽 電 池 モ ジ ュ ー ル の (a) Jsc/Jsc,0,(b) Voc/Voc,0,(c) FF/FF0,および (d) Pmax/Pmax,0 の変化のバイア ス依存性.試験はすべて85◦Cに維持したチャンバー内で行った.黒 の実線で結ばれた黒丸はバイアス−1000 V,赤の破線で結ばれた赤丸 は−2000 Vの結果を示している.同じシンボルのデータは,それら が同じモジュールから得られた結果であることを示す.
(a)
5 cm
(b)
5 cm
(c)
5 cm
図5.4 −1000 V,85◦C,32 dのPID試験前(a)および試験後(b)のSHJ 太陽電池モジュールのEL画像.また,(c)は−2000 V,85◦C,21 d のPID試験後のモジュールのEL画像である.
1.05 1.00 0.95 0.90 0.85 0.80 0.75 0.70
Jsc/Jsc,0
16 14 12 10 8 6 4 2
0Duration of positive-bias application (day)
Initial value
図5.5 劣化したSHJ太陽電池モジュールのJsc/Jsc,0 の+2000 Vの正バイ アスの印加時間依存性.このモジュールは−2000 V,85◦C,21 dの 条件で事前に劣化させたものである.
ることがわかる.図5.4cは,−2000 V,85 ◦C,21 dというPID試験後のSHJ 太陽電池モジュールのEL画像を示している.セルの中央に,特徴的な明るい円 形のパターンが観察される.これは光学損失が不均一に生じていることを示し ている.この結果は,図5.2に示されるEQE測定の面内依存性と矛盾しない.
このパターンは蛍光灯下において肉眼でも確認された.
p型 c-Si 太陽電池モジュール[13],n-FE c-Si 太陽電池モジュール[18, 19],
およびCIGS薄膜太陽電池モジュール[26]などの多くの太陽電池モジュールの PIDは,劣化試験とは反対の向きの電圧を印加することで,それらの劣化が回 復することが報告されている.SHJ太陽電池モジュールのPIDに関してもその ような回復現象が生じ得るかを検証するため,−2000 Vで劣化させた太陽電池 モジュールに対して+2000 Vを印加する回復試験を行った.その結果を図5.5 に示す.回復の初期段階において,Jscがわずかではあるが回復するような挙動 が観察された.しかしながら,Jsc はすぐに一定値に達し,回復はそこで停止し た.この結果は,SHJ太陽電池モジュールの PIDにおいて,多くの太陽電池モ ジュールのPIDとは異なり,Pmax は電圧の向きに対してほとんど不可逆である ことを示している.
−2000 Vの高い電圧を用いたPID試験によって,SHJ太陽電池モジュールの
PIDの進行挙動に与える電圧の影響を調査した.図5.6には,SHJ太陽電池モ ジュールの初期および5,25,および53 dのPID試験後の1 sun照射下および
5.3 結果 71 40
35 30 25 20 15 10 5
00.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 Initial
5 days 25 days
53 days
Current density, J (mA/cm2 )
Voltage,V (V)
20 15 10 5
00.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 Initial
5 days 25 days 53 days
Current density, J (mA/cm2 )
Voltage,V (V)
(a)
(b)
図5.6 −2000 V,85 ◦Cの条件で5,25,53 dの間行ったPID試験前後の SHJ太陽電池モジュールの(a) 1 sun光照射下におけるJ–V 特性お よび(b)ダークJ–V 特性.
ダークのJ–V 特性を示している.また,図5.7には,3つの同種のSHJ太陽電 池モジュールの−2000 VのPID負荷によるJsc/Jsc,0,Voc/Voc,0,FF/FF0,お
よびPmax/Pmax,0 の変化を示す.PID試験時間が 30 dに達するまで,劣化は
Jsc の低下のみによって特徴づけられる.およそ25 d後にはJsc の低下は一旦 飽和する(図 5.7aの25 d付近において,傾きが緩やかになる)が,その後も PID試験を続けると,モジュールは追加のJscの低下のみならず,Vocの低下を 示すようになる.このことは,SHJ太陽電池モジュールはJsc およびVocの両
(a) (b)
(d) (c)
1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
0.00 10 20 30 40 50 60
PID-stress duration (day)
1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
0.00 10 20 30 40 50 60
PID-stress duration (day) 1.2
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
0.00 10 20 30 40 50 60
PID-stress duration (day)
1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
0.00 10 20 30 40 50 60
PID-stress duration (day)
Normalized FF, FF/FF0Normalized Jsc, Jsc/Jsc,0 Normalized Voc, Voc/Voc,0Normalized Pmax, Pmax/Pmax,0
図5.7 −2000 V,85 ◦Cの条件で行った長時間のPID 試験によるSHJ 太 陽電池モジュールの(a)Jsc/Jsc,0,(b) Voc/Voc,0,(c) FF/FF0,およ
び(d)Pmax/Pmax,0の変化のバイアス依存性.同じシンボルのデータ
は,それらが同じモジュールから得られた結果であることを示す.
方の低下によって特徴づけられる別の劣化モードを示す場合があることを示し ている.一方で,FFに関しては,わずかな上昇が確認される.これらの追加の Jscの低下およびVocの低下は飽和電流密度の増大を伴う(図5.6b).このこと は,Jscの追加の低下およびVocの低下が,c-Siのバルク中あるいはc-Si表面に おける再結合の増大に起因することを示す.