第 3 章 結晶シリコン太陽電池の電圧誘起劣化 19
3.4 n 型結晶シリコン太陽電池モジュールの電圧誘起劣化
3.3.5 光照射の影響
PIDは,システムの発電時,すなわち太陽電池モジュールに光が当たっている 際に生じる.したがって,PID に与える光照射の影響は非常に重要である.し かしながら,これまでに,光照射の影響はあまり調査されていない.典型的なp 型c-Si太陽電池においては,光照射がPIDの進行を遅くすることが報告されて
いる[43, 44].この効果は,照射光中のUV成分によってSiNx パッシベーショ
ン膜の導電率が上昇し,SiNxにかかる電界が減少したことに由来すると考えら れている.
3.4 n 型結晶シリコン太陽電池モジュールの電圧誘起 劣化
n型c-Si太陽電池モジュールは,変換効率が高いという点で大規模太陽光発 電システムに適している.しかしながら,p型c-Si太陽電池モジュールのPID と比較して,n型c-Si太陽電池モジュールのPIDに関する報告は少ない.ここ で,本論文の主題であるn型c-Si太陽電池モジュールのPIDに関して,本研究 の開始当初までの知見についてまとめる.
3.4.1 n 型フロントエミッタ型結晶シリコン太陽電池の電圧誘起
劣化
Haraら [45]は,n-FE c-Si 太陽電池モジュールが,フレームを基準にセルに 対して負のバイアスが印加された場合にPIDを生じることを報告した.その劣 化は,図3.9に示されるように,Vocおよび Jscの低下に特徴づけられる.p型 c-Si太陽電池モジュールのPIDとは異なり,FFの低下は観察されない.図3.10 に,PID試験前後の外部量子効率(external quantum efficiency: EQE)*6測定の 結果を示す.これより,PIDによって,短波長領域におけるEQEが大きく低下 していることがわかる.短波長の光はセルの表面付近で吸収される傾向にある ので,表面付近での光生成キャリアの損失,すなわち表面再結合が増大している と予想される*7.このPIDの原因として,PID負荷によってフレームからセル
*6A-3を参照
*7EQE損失の波長依存性に関するより詳しい議論についてはA-4を参照.
図3.9 標準的なn-FE c-Si太陽電池モジュールの2 hのPID試験前後のI–V 特性.黒:PID試験前,青:−1000 V,25◦C,紫:−50 V,85◦C,赤:
−1000 V,85◦C([45]より引用).モジュールは−1000 V,25◦C,あ るいは−50 V,85 ◦Cという比較的緩い条件でのPID試験でも大き な性能低下を示している.このことは,n-FE c-Si太陽電池モジュー ルがPIDを生じやすいことを示している.
に向かうリーク電流が生じ,その結果としてセル表面のSiNx パッシベーション 膜に正の電荷が蓄積することによってエミッタ表面の少数キャリアの電子が表 面付近に引き寄せられ再結合を生じるためであると考えられている.このよう なメカニズムから,このPIDは分極型(polarization-type)のPIDと呼ばれる.
この正電荷の起源についてはNa+ などが候補に挙げられているが,詳細に議論 した報告はこれまでにない.第4章において,劣化速度や回復挙動から,正電荷 の起源について議論する.
3.4.2 n 型リアエミッタ型結晶シリコン太陽電池の電圧誘起劣化
我々は,p+ エミッタが太陽電池の裏面側に位置するn型c-Si太陽電池,すな
わちn-RE c-Si太陽電池セルが,フレームからセルに対して負バイアスがかかっ
た場合にPIDを示すことを報告した[46].図3.11に示すように,そのPIDは,
Vocの低下に特徴づけられる.この劣化は,光吸収層の表面に形成されたNa積 層欠陥が再結合中心として働き,バルク再結合が活性化されたために生じると 考えられている.p型c-Si太陽電池と異なり,p–n接合はセルの裏側に存在する
3.4 n型結晶シリコン太陽電池モジュールの電圧誘起劣化 33
図3.10 標準的な n-FE c-Si太陽電池モジュールの (a) PID 試験前および (b) −1000 V,85◦C,2 hのPID試験後のEQEスペクトル(文献 [45]より引用).PID試験後において,300–700 nmの短波長領域に おける顕著な低下が観察される.
40 30 20 10 0 -10 -20
J (mA/cm2 )
0.6 0.4
0.2 0.0
-0.2
V (V)
initial 1 h 24 h
図3.11 n-RE c-Si太陽電池モジュールのPID試験前後のJ–V 特性.PID 試験の条件は−1000 V,85◦Cである.劣化は主にVocの低下に特 徴づけられる(文献[46]より引用).
ので,たとえNa積層欠陥が形成されたとしても,p–n接合の短絡は生じない.
3.4.3 n 型バックコンタクト型結晶シリコン太陽電池モジュールの 電圧誘起劣化
3.1節で説明したように,n型 IBC c-Si太陽電池モジュールは,正のバイア ス負荷の下でVocおよびJsc の低下に特徴づけられるPIDを示す[4].この原因 は,パッシベーション膜への負電荷の蓄積によって生じる.電荷の正負は異な るものの,電荷の蓄積が原因という点で,n-FE c-Si太陽電池モジュールのPID と同じ現象であるとみなされている.表面にp+のフローティングエミッタ*8が
存在するn型IBC c-Si太陽電池モジュールの場合には,PIDは負のバイアス下
で生じる[47].
一方,通常の(フローティングエミッタでない)n 型 IBC c-Si 太陽電池モ ジュールも,負バイアス下で劣化を生じる事がわかっている[48].これは主に Vocの低下によって特徴づけられ,これはn-RE c-Si太陽電池モジュールのPID と同様である.劣化のメカニズムもn-RE c-Si太陽電池モジュールと同様に考 えられており[46, 48],おそらく両者は同じ現象である.