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本研究では,成分自体が異なる単純な系や形態や平均分子量のみが異なる複雑な系で構成さ れる試料より得られたTOF-SIMSデータに多変量解析やG-SIMS,g-ogramを適用することにより,
無機有機複合材料の局所領域における化学状態を詳細に把握するための解析手法を構築した。
第三章では,基礎検討として,基板成分および外部汚染や不純物成分が共存する 2 種の高分 子混合試料のTOF-SIMSデータに相補的な特徴をもつPCAおよびMCRを適用し,両手法から 引き出される情報の特徴や,両多変量解析手法を併用した実用的な解析方法について述べた。
PCAは分布の違いといった特徴的な傾向をもつ物質の把握とMCRの成分数の推定,MCRは純 成分の由来の推定に有用であることを確認し,複数成分の混在する系ではPCAにより推定された 成分数をもとにMCRで解析するという方法が有効なことを示した。
第四章では,応用検討の一つ目として,ドデシルリン酸ナトリウム(SDP)で表面修飾されたハイド ロキシアパタイト(HAp)ナノ粒子の表面のTOF-SIMSデータにG-SIMSおよびg-ogramを適用す ることにより,ナノ粒子の形態の違いを評価できることを述べた。G-SIMS,g-ogram によって,HAp 表面と SDP との相互作用に基づくラメラ構造の有無が化学構造の観点からも明らかとなり,
G-SIMSとg-ogramは無機有機複合材料の微細構造を解析するのに有用なことを示した。
第五章では,応用検討の二つ目として,平均分子量の異なる Polyethylene glycol(PEG)混合試
料の TOF-SIMS データを対象に,MCR で異なる分子量成分を分離するための解析条件や
G-SIMS,g-ogramで示された平均分子量によるフラグメント化特性の違いについて述べた。データ
前処理条件を最適化することにより,MCRにて平均分子量600 uおよび2000 uのPEG成分を分 離できること。G-SIMS,g-ogramにて両者の分子内の結合状態が異なることを明らかにし,MCRや
G-SIMS,g-ogramは,低分子量成分の有無やその分布状態を解析するのに有用なことを示した。
第六章では,応用検討の三つ目として,ガラス繊維強化Polycarbonate(PC)という実用材料に近 い系で,PCAを用いて成形品内部におけるオリゴマー成分の分布状態を解析する方法について 述べた。PCの分子量の指標となる負二次イオン成分に着目して,その指標をもとにオリゴマー配 合有無の違いが明らかなデータを組み合わせてPCAを適用することにより,ガラス繊維強化PC成 形品内部におけるオリゴマー成分の分布状態を明らかにし,PCAはガラス繊維強化PCの特性の 評価に有用なことを示した。
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SIMS はもともと無機材料の分析技術として発展したが,クラスターイオン銃が実用化されて以来,
有機化合物や生体高分子からなる材料に対する需要が急速に高まっている。クラスターイオン銃 の利点として,高質量側の二次イオンの感度が高いため,分子イオンなどをもとに有機化合物を同 定しやすいことが挙げられる。しかし,汎用的に使用される高分子の平均分子量は数万 u だが,ク ラスターイオン銃で観測できる質量は数千uが限界なため,TOF-SIMSでこのような高分子の分子 量分布を観測することはできない。さらに,クラスターのサイズが大きいほど試料に照射するビーム 径は大きくなるため,大きなクラスターイオンを用いると,MALDI などの他のイメージング可能な質 量分析装置に対するTOF-SIMSの空間分解能の優位性が失われてしまう(現在市販されている装 置の空間分解能は一般にTOF-SIMSで100 nm, MALDI-MSで10 mである)。
そのため,多変量解析やG-SIMSなどのデータ解析法を駆使して,複雑なTOF-SIMSスペクトル に埋もれている有益な化学情報を引き出すというアプローチはTOF-SIMSの優位性や利点を活か す上で非常に有用だと考える。
なお,現在TOF-SIMSのデータ解析の分野においても,国際的な標準化の動きが進んでいるが,
多変量解析の利用にあたっては,データの性質を吟味し,様々な多変量解析手法の特徴を理解 した上で,解析者自身が適切なモデル化方法を選択できることが重要である。一方,G-SIMS や
g-ogram に関しては,強調された二次イオンの特徴を試料の性状をもとに理論的に説明できること
が重要であり,解釈を誤ってしてしまわないよう,測定の繰り返し精度についても気を配る必要があ る。
本研究においては,試料間およびピクセル間における差異成分を定量的に評価する場合は多 変量解析が有用であり,特に,特定の二次イオン成分のみに着目する場合は PCA,比較的広い 質量範囲におけるスペクトル全体の化学情報に着目する場合はMCRが有効なことを示した。また,
無機有機複合材料や高分子試料において,特有の化学構造に着目して形態や分子内結合など の違いを評価する場合には,G-SIMS,g-ogarmが有効であることを示した。
今後,多変量解析やG-SIMSを汎用的に利用できるようにするためには,本研究で検討した系を 含む様々系に対してもこれらの手法の有用性を検証し,系統立ててデータ解析手法の活用方法を 把握していく必要があると考える。
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