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第四章 応用検討①(形態の違いの評価)

4.3 結果と考察

Figure 4.2にHAp試料の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す。HAp without SDP では,直径約

100 nm の凝集した粒子が観察された。一方,HAp-SDP (0.039)には卵型のナノ粒子,HAp-SDP

(0.154)にはロッド型のナノ粒子が観察された。さらに,HAp-SDP (0.154)では層間距離約 3.5〜4.0 nmの多層構造も観察された(Fig. 4.2 (c))。なお,X線回折(XRD)結果に基づく解析によると[54],

SDP を用いて合成された HAp ナノ粒子は単結晶相(JCPDS card no.721432)を含み,HAp-SDP

(0.154)では,層間距離3.59 nmの規則的なラメラ構造を有することが確認されている。

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Fig. 4.2. TEM images of (a) HAp without SDP, (b) HAp-SDP (0.039) and (c, d) HAp-SDP (0.154).

Figure 4.3にBi3+で取得したHAp without SDP,HAp-SDP (0.039),HAp-SDP (0.154)試料の

TOF-SIMS スペクトル(正二次イオン)を示す。各スペクトルは同様のスペクトルパターンを示し,い

ずれもHAp(1004.62 u)に由来する多くの二次イオンを含んでいたため,それぞれのHAp 試料に

特有の二次イオンを特定することは困難であった。一方,各 HAp試料の TOF-SIMS データセット を基にして得られたG-SIMS スペクトルには(Fig. 4.4),各HApの構造に特有の二次イオンのみが 強調されて示された。HAp without SDPではCa3PO5,HAp-SDP (0.039)ではCa2PO4,HAp-SDP

(0.154)ではSDP由来と考えられるC3H2といったアルキル基を含んだ二次イオンが特有の二次イオ

ンとして示された。

100 nm

(a)

100 nm

(c) (d)

200 nm

(b)

200 nm

(d)

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Fig. 4.3. Time-of-flight SIMS spectra of (a) HAp without SDP, (b) HAp-SDP (0.039) and (c) HAp-SDP (0.154) acquired using Bi3

+ ions source [65]. Note that the vertical axes are

logarithmic scale. Secondary ion peaks in the mass range from 0 to 600 u were selected for G-SIMS.

Intensity, counts

0 600

1.0×102 1.0×103 1.0×103

1.0×108 1.0×108 1.0×108

(a)

(b)

(c)

100 200 300 400 500

Mass, u

40

Fig. 4.4. Gentle-SIMS spectra of (a) HAp without SDP, (b) HAp-SDP (0.039) and (c) HAp-SDP (0.154) [65]. Each spectrum derived from the ToF-SIMS spectra acquired using Bi+ and Bi3

+ ion sources.

Mass, u

Normalized Intensity

0 100 200 300 400 500 600

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

Ca2PO4

Ca3PO5 (a)

Mass, u

Normalized Intensity

0 100 200 300 400 500 600

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9

1.0 Ca2PO4 (b)

Ca3PO5

Mass, u

Normalized Intensity

0 100 200 300 400 500 600

0 0.1 0.2 0.3 0.4

0.5 (c)

CaPO2H2 C3H2Ca2P

C12H22O C3H2Ca2PO

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各HAp試料に特有の二次イオンをより詳細に把握するため,同じデータセットをg-ogramにて解 析した。HAp-SDP (0.154)のデータセットのg-ogramマップをFig. 4.5に示す。g-ogramマップには,

g値ごとにG-SIMS強度を最も大きいピーク強度で規格化したときの各ピークの強度の変化が示さ

れており,規格化されたG-SIMSスペクトル上で,各ピークのG-SIMS強度が大きくなるときのg値 に対応する箇所が明るく示されている。Figure 4.5 において,水平の白線より上のピーク群ではピ ーク強度が最大になるときのg値(gmax)が5以下,白線より下のピーク群ではg maxは5以上であり,

これらのピーク群は異なるフラグメント化特性をもっていると考えられる。

Fig. 4.5. g-ogram map of HAp-SDP (0.154) acquired using Bi3

+ and Bi+ primary ion sources for the S1x and S2x spectra, respectively [65]. The peaks with higher gmax than the horizontal white line were selected in Table 4.1.

試料本来の分子構造を保った二次イオンほどg値は高い値を示す。そこで,各HApのナノ構造 に対するSDPの効果を調べるにあたり,各HAp試料のデータセットで白線より下の高い g値をも ち,かつ,G-SIMSスペクトルで高強度のピークに着目した(Table 4.1)。水平の白線のg値は,SDP,

HAp without SDP,HAp-SDP (0.039),HAp-SDP (1.154)の各データセットでそれぞれ1.5,1.5,3.5,

5.0であった。

最大の gmax 値(40)をもつ二次イオンは HAp without SDP で Ca3PO5,HAp-SDP (0.039)で Ca2PO4,HAp-SDP (0.154)でC3H2Ca2PとC3H2Ca2POであったため,これらの二次イオンを各HAp 試料における特有の二次イオンと推定した。各 HAp 試料に特有の二次イオンの分子構造の特徴 を比較したところ,HAp-SDP (0.154)に特有の二次イオンにのみ,SDP由来と考えられるC3H2とい ったアルキル基が含まれていた。これより,HApナノ粒子の表面状態がSDPの修飾により変化して いることが示唆された。

HAp-SDP (0.039)とHAp-SDP (0.154)のG-SIMS結果からはSDPの分子構造の大部分を保った 二次イオンであるC12H22O とC12H22PO3が得られたのに対し,SDPのG-SIMS結果からはSDPの 親水基由来の二次イオンであるNa2OHやPO2Na2が得られた。SDPを用いて合成されたHAp試 料では,SDP分子がHApナノ粒子のまわりに並んでいるとされている。そのため,SDP分子間の疎 水性相互作用によりSDPの分子構造が安定化したことが,HAp-SDP (0.039)とHAp-SDP (0.154)

Mass, u gindex

0 50 100 150 200

0

250 10

20 30 40

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のG-SIMS結果でSDPの分子構造が保たれた二次イオンが強調された理由だと考えられた。

HAp-SDP (0.039)のG-SIMS結果ではCa2P,,C3H4Ca2PO3と(CH2)12Ca2PO4,HAp-SDP (0.154) のG-SIMS結果ではC3H2Ca2P,C3H2Ca2POがアルキル基とCa2Pを含む二次イオンとして得られ たが,HAp without SDPのG-SIMS結果からは得られなかった。そのため,この結果はSDP分子 がHApナノ粒子の表面に吸着し,SDPの構造一部がHApナノ粒子の構造を形成するのに利用さ れていることを示唆していると考えられた。また,SDP のドデシルリン酸基を含む(CH2)12Ca2PO4 が HAp-SDP (0.039)のG-SIMS結果で得られたのに対し,HAp-SDP (0.154)のG-SIMS結果では得ら れなかった。SDPの形成するラメラ構造はSDPの分子間結合を強めるため,ドデシルリン酸基のイ オン化を妨げると考えられる。そのため,この結果から,HAp-SDP (0.039)試料ではSDPラメラ構造 を形成しておらず,分子間相互作用が弱いことが示唆された。

HAp-SDP (0.154)のG-SIMS結果からは,CaPO2H2といったCaを1つ含む二次イオンが得られ

た。他のHAp試料のG-SIMS 結果ではこのような二次イオンは強調されず,Caが2,3つ含む二

次イオンが得られた。SDPはNaをHApの表面でCaと置換して吸着していると考えられる。そのた め,この結果からHAp-SDP (0.154)試料ではSDP分子がHApナノ粒子の周りに密に並んでいるこ とが示唆された。

このような結晶構造の変化は TEMやXRD で得られた物理情報からあらかじめ推定されている ことであり,G-SIMS,g-ogramだけでは,HAp 表面の化学情報の変化を結晶構造と関連付けて詳 細に議論することは難しいが,本結果により,SDPの濃度がHApナノ粒子の構造形成に影響を与 えていることが化学構造の観点からも明らかとなった。

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