• 検索結果がありません。

本論文では,TCP/IP 通信の接続性と性能の監視手法に関する検討・提案について述べ た.本研究では,通信キャリアやプロバイダが,大規模かつ複雑なネットワークにおいて,

効果的に通信の品質を監視する手法を実現することを目的としている.本研究目的に対し て,その適用領域に応じて,監視対象とする単位を,パケット単位,フロー単位,ネット ワーク全体の3つに分類し,それぞれに対して実現手法を考案し,システムの試作と評価 を行った.それぞれのシステムの試作においては,その要求条件を明確化し,設計方針を 立てた.また,個別の機能毎の詳細設計や実装方法を述べた.さらに,システム自身の性 能評価やシステムの活用事例などを通じて,提案手法の有効性を評価した.

第1章では,本研究に至った背景として.インターネット技術を利用した通信サービス の多様化により,IPネットワークの高品質化に対する利用者の要求が高まっていることを 述べ,そのために品質の監視技術が必要になることを述べ,本研究のアプローチの概要を 示した.品質を監視するアプローチとして,パケット単位,フロー単位,ネットワーク全 体の3つのアプローチがあることを示した.また,それぞれのアプローチに対して,合計 で5つの実現手法を提案し,それぞれの提案の概要を述べた.

第 2章では,TCP/IPの品質監視に関わる関連技術の概要について述べた.パケット単 位の監視およびフロー単位の監視の2つのアプローチについては,TCPのプロトコル手順 の解析と深く関わっているため,TCP の通信手順について,その概要を示した.また,3 つ目のネットワーク全体の監視のアプローチについては,ユーザトラヒックではなく,そ の制御情報であるBGPのプロトコルを扱うため,BGPのプロトコル概要を示した.さら に,IPレイヤを中心とする既存の監視技術について述べ,それぞれのアプローチの観点か ら,品質の監視に向けた課題を明らかにした.

第 3章では,本研究が対象とする「TCP/IP通信の接続性と性能の監視手法」の具体的 な内容と,対象・目的に応じた実現手法の概要を述べ,第4章以降で述べる各提案手法の 位置づけの明確化を図った.パケット単位の監視については,既存の監視技術が,パケッ ト毎に独立に監視を行う点,例外的なパケットを送出できない点を課題とし,それぞれに 対し,複数のパケットを関連づけて監視することにより通信システムのエミュレートを可 能とする実現手法,試験シナリオの記述と通信機能の実装において例外的な通信シーケン スの試験を可能とする実現手法を提案した.フロー単位の監視については,既存の監視技 術が,IPレイヤまでの監視のため品質を総括的に把握できないことを課題とし,1回線上

の複数のフローに関して,TCPレイヤまでの解析をリアルタイムに行うことにより,品質 に関わる統計情報を収集可能とする実現方法を提案した.ネットワーク全体の監視につい ては,既存の監視技術が,公開 BGP 経路情報の利用に依存しておりリアルタイムな情報 の収集・解析ができないことを課題とし,リアルタイムに解析可能な1観測点のみを用い た実現手法,ならびに,経路情報のデータベース化により高速検索を可能とする実現手法 を提案した.

第 4 章では,第 1 の提案手法として,「通信システムの内部状態をエミュレートする TCPアナライザ」に関して,その要求条件,設計方針を示すとともに,個々の機能に関す る詳細な設計と実装について述べた.さらに本システムの活用事例として,伝播遅延が大 きい環境でスループットが低下する場合において,本システムを用いて TCP の動作を解 析した.この結果,TCPの再送タイムアウト時間の初期値が小さいことがスループット低 下の原因となっていることが判明し,このシステムを使用したことが原因の分析に役立っ たことを示すことができた.

第5章では,第2の提案手法として,「例外的なテストシーケンスのみをシナリオ記述 する TCP テスタ」に関して,その要求条件,設計方針を示すとともに,個々の機能に関 する詳細な設計と実装について述べた.さらに本システムの活用事例として,輻輳制御な らびにSACKのアルゴリズムの実装評価を行うこととし,試験シナリオの作成と,複数の OSを対象とした試験を行った.この結果,一部のOSが実装がTCPの仕様に従っていな いことが判明するとともに,本システムがTCPの動作試験に有効であることが分かった.

第6章では,第3の提案手法として,「ユーザ品質統計情報のリアルタイム収集を行う パフォーマンスモニタ」に関して,その要求条件,設計方針を示すとともに,個々の機能 に関する詳細な設計と実装について述べた.さらに本システムの性能評価を行い,1990 年代後半のバックボーン回線として主流であった155Mbit/sの速度において,リアルタイ ムに解析ができることを確認した.また,活用事例として,複数のフローから,品質の悪 いフローを選び出す方法について示した.

第 7章では,第4の提案手法として,「BGP経路情報を用いた障害箇所特定手法」に 関して,既存研究の問題点を明確化した上で,それを解決するためのアルゴリズムを考案 した.また,提案手法の有効性を評価するための実験方法を提案するとともに,実験を行 い,既存研究である複数点観測に比べて利用できる情報が少ないものの,90%以上の精度 で同等の結果が得られることを確認した.また,矛盾した結果となる場合の対策案を提示 することにより,本提案手法が有効であることを示した.

第8章では,第5の提案手法として,「公開BGP経路情報のデータベース化手法」に 関して,既存手法の問題点を明確化した上で,それを解決するための方針を考案した.具 体的には,これまでファイルベースで提供されてきたBGP経路を,SQLベースのデータ ベースとして構築することとした.本提案の有効性を示すため,同条件において,既存手 法と提案手法の性能比較を行い,提案手法が既存手法に比べて 60 倍以上,高速に検索で きることを確認した.

上記の提案のうち,第1の提案手法である TCP アナライザ,ならびに,第3の提案手 法であるパフォーマンスモニタについては,研究面での成果を得ただけでなく,KDDI株 式会社において,法人向けの企業ネットワーク運用監視のソリューションとしても活用さ れた.また,商用プロダクトとしての開発も行われ,当時のKDDI株式会社関連企業から の販売実績がある.さらに,これらのプロダクトのコア技術に関しては,特許も保有して いる[69][70][71][72][73].

最後に,各アプローチ別に,提案時期から現在までの動向と,今後の課題について述べ る.パケット単位の監視のアプローチについては,物理レイヤや通信環境の変遷に伴い,

TCPのプロトコルの改良が重ねられているため,エミュレーション機能として,さまざま なTCPの仕様に対応することが必要となる.また,Webアクセスのように,複数のTCP コネクションを用いて1つの通信を提供するアプリケーションもあるため,アプリケーシ ョンの品質との相関を示すには,数本のフローを関連づけて解析することが必要となる.

フロー単位の監視のアプローチについては,近年バックボーン回線が高速化したことも踏 まえ,サンプル化されたパケットから,1 フローの特徴量や回線全体の特徴量をリアルタ イムに推定する技術が提案されてきているが,パフォーマンスモニタのように,TCPの状 態遷移を把握することは難しい.高速化に対応できる手法としては,パッシブに監視する のではなく,試験装置間でテストパケットを送受信し,その転送性能を解析するアクティ ブな手法が提案されている.ネットワーク全体の監視のアプローチについては,障害箇所 の特定結果や経路の検索結果を単に入手するだけでなく,これらの情報をどのように活用 するかが課題となる.プロバイダ間で経路障害情報を通知し,迅速な障害復旧を行う手法 も研究レベルでは検討されつつある.今後,通信品質の向上に向けて,各アプローチにお ける技術の発展が期待される.

関連図書

[1] ITU-T Recommendation Y.1540, “Internet protocol data communication service - IP packet transfer and availability performance parameters,”November 2007.

[2] ITU-T Recommendation Y.1541, “Network performance objectives for IP-based services,” February 2006.

[3] 3rd Generation Partnership Project (3GPP), “Service Requirements for the IP Multimedia Core Network Subsystem; Stage 1 (Release 6),” 3GPP TS 22.228 V6.11.0, March 2006.

[4] 3rd Generation Partnership Project 2 (3GPP2), “All-IP Core Network Multimedia Domain - Overview,” 3GPP2 X.S0013-000-A v1.0, November 2005.

[5] ITU-T Recommendation Y.2001, “General Overview of NGN,” December 2004.

[6] ITU-T Recommendation Y.2011, “General Principles and General Reference Model for Next Generation Networks,” October 2004.

[7] ISO/TC97/SC16, “Reference model of open systems interconnection,” Doc. N227, June 1979.

[8] J. Postel, “Transmission Control Protocol,” IETF RFC 793, September 1981.

[9] M. Allman, V. Paxson and W. Stevens, “TCP Congestion Control,” IETF RFC 2581, April 1999.

[10] ITU-T Recommendation X.290, “OSI conformance testing methodology and framework for protocol Recommendations for ITU-T applications - General concepts,” April 1995.

[11] ITU-T Recommendation X.292, “OSI conformance testing methodology and framework for protocol Recommendations for ITU-T applications - The Tree and Tabular Combined Notation (TTCN),” May 2002.

[12] J. Apisdorf, K. Claffy, K. Thompson and R. Wilder, “OC3MON: Flexible, Affordable, High-Performance Statistics Collection,” Proc. INET'97, June 1997.

[13] Cisco Systems Inc., “NetFlow FlowCollector Homepage,”

http://www.cisco.com/univercd/cc/td/