表 8.1 赤潮増大後における海域別の水質環境特性の変動 海域
水質 項目
佐賀県海域
(湾奥西部)
福岡県海域
(湾奥東部)
熊本・長崎県海域
(湾央・湾口部)
水温 春季~秋季:上昇傾向 冬季:低下傾向
春季~秋季:上昇傾向
冬季:低下傾向 全季節:上昇傾向 塩分 夏季:上昇傾向 左同
透明度 全季節:低下傾向 全季節:上昇傾向
DO
春季~夏季:低下傾向秋季~冬季:上昇傾向 左同 左同
COD
低下傾向 全季節:上昇傾向DIN
低下傾向であるが,濃度は依然高いレベル 低下傾向
PO
4-P
濃度は依然高いレベル低下傾向であるが,赤潮発生が増大した
1998
年以降,湾央・湾口部では,水温,透明度,COD
が上昇して いる.湾奥部では,水温が上昇している.栄養塩類は低下傾向であるが,依然として高濃 度の栄養塩類による富栄養化状態が続いている.特に,湾奥西部は有明海の中でリン濃度 が高い過栄養水域が形成されており,春季~夏季における低酸素~貧酸素化の進行により,底泥からの鉄イオン,栄養塩の溶出が促進され,
Chattonella
赤潮*1)の増加につながってい くことが懸念される.*1) 毒性の強い植物プランクトン
Chattonella
属による赤潮第5章 底質環境と底生生物分布との関連性の検討-湾口海域を除く有明海海域-
底生生物が底質の有機汚濁化,腐敗化といった負荷の度合いや粒度組成に応じて種の構 成や個体数を変化させることから,含泥率,強熱減量,
COD
,全硫化物等の物理,化学的 な底質環境特性を表す底質項目により設定した海域区分毎の底生生物の分布特性(種組成,個体数,多様度等)に基づき,底生生物の減少と底質の泥化及び底質環境の悪化との関連 性についての科学的知見を得ることを目的とした.本章では,湾口海域を除く有明海海域 を対象とした.
底質環境は,含泥率及び底質の化学的特性によるクラスター分析により,砂,砂泥(砂
>泥),泥砂(泥>砂),泥の
4
つのグループに区分できた.グループ毎の物理,化学的特 性は変動するが,各グループの分布域を調べた結果,河川からの流入負荷の質や量,物質 輸送に大きな役割を果たす潮汐残差流の流向・流速,潮汐残差流を規制する海底の起伏及 び海底に露出する基盤の影響などの要因が場所によって異なることが大きく影響してい ると解釈されたため,分布する海域毎に各グループを細分した.以上の検討,考察を踏ま え,図8.1及び表8.2に示す海域区分と細区分が設定された.覆砂海域
A2 A1
A3 FA1
FA2 B1
B3 SC1 FB1
D2
D1 SD1
FD1
A4
B7
B8 C2
C3 D3
D4 ND1
NA1 B4 B5
B6 B2
10km
SC2
C1
海域
区分
A B C D
A1 B1 C1 D1
A2 B2 C2 D2
A3 B3 C3 D3
A4 B4 SC1 D4
FA1 B5 SC2 SD1
FA2 B6 FD1
NA1 B7 ND1
B8 FB1
細区 分
図8.1 底質環境特性による海域区分と細区分(湾口海域を除く有明海)
表8.2 細区分別の底質環境特性
含 泥 率
C O D
強 熱 減 量
全 窒 素
全 リ ン
全 硫 化 物
水 深 ( m
)
% mg/g % mg/g mg/g mg/g T.P
A1
砂19.2 4.60 4.10 0.40 0.43 0.05 6~12
野崎ノ州(海底砂州)周辺A3
砂20.2 4.83 4.73 0.44 0.56 0.03 24
~26
強い潮汐残差流A4
砂27.0 6.00 6.20 0.73 0.50 0.12 25
~39
海底谷,南下する強い潮汐残差流FA1
砂15.1 4.70 3.85 0.32 0.44 0.08 2
~10
筑後川デルタ外縁B1
砂泥41.5 7.97 7.51 0.84 0.59 0.25 11
~17 B2
砂泥36.8 7.00 5.40 0.92 0.32 0.08 12
~24
B3
砂泥36.7 7.10 6.53 0.67 0.50 0.15 4
~9
B7
砂泥39.0 9.05 8.40 1.03 0.60 0.19 30~50
B8
砂泥36.6 5.15 3.55 0.55 0.40 0.06 5
~8
FB1
砂泥29.2 6.20 4.90 0.51 0.41 0.20 3
~15
蜂ノ州(海底砂州)周辺C2
泥砂62.8 12.00 7.60 0.49 0.48 0.14 10
C3
泥砂64.1 8.95 6.05 0.93 0.43 0.09 11~15
SC1
泥砂59.6 10.00 7.10 1.30 0.54 0.14 6
~20
D1
泥86.9 18.00 9.75 1.70 0.63 0.24 5
~23
塩田川沖海底水道南部D2
泥90.2 12.00 10.00 1.60 0.69 0.91 12
~17
D3
泥75.6 15.00 9.80 1.85 0.74 0.20 6~10
D4
泥91.1 13.75 11.50 1.78 0.70 0.36 4
~12
熊本市沖平坦面,潮汐残差流の循環流FD1
泥95.5 16.00 11.00 1.50 0.72 0.51 0
~12
筑後川沖東海底水道底質調査:2005年6~8月,2006年6~8月,2007年8月,底質項目の値:各細区分に含まれる調査地点の平均値 細
区 分
底 質 名
地 形 及 び 流 れ の 特 徴
海域区分A(砂)
海域区分B(砂>泥)
海域区分C(泥>砂)
海域区分D(泥)
底生生物分布と底質環境特性の関連性は,それぞれの細区分に含まれる調査地点の底生 生物の種数.個体数の平均値と該当する細区分の底質環境特性との比較・検討することに よって行った.検討の結果は図8.2に示すとおりである.この図における
(a)
含泥率と(b) 4
門種数及び(d) 4
門個体数の対称的な傾向が,底質環境と底生生物分布との関連性を明瞭に 表している.すなわち,
(a)
含泥率の増加は,有機汚濁化と腐敗化の進行を伴っており,泥化が進む ほど底質環境の悪化が進んでいる.海域区分と細区分で言うと,泥化の進行に伴う底質環 境の悪化は,A
(砂)の細区分→ B(砂泥)の細区分→ C(泥砂)の細区分→ D(泥)の 細区分の順で進んでいる. 一方,(b) 4
門種数は,A
(砂)の細区分とB
(砂泥)の細区分 に比べ,C
(泥砂)の細区分とD
(泥)の細区分で減少している.同様の傾向は,(d) 4
門 個体数において,単一種の大量発生の影響が大きく表れているD1
,D3
などの細区分を除 外すると,明瞭に示されている.以上より,底質の泥化,有機汚濁化,腐敗化は,底生生 物の種数と個体数の減少に直接的に影響を与えていることが明らかである.(c)
門別種数については,泥化に伴う環形動物,棘皮動物等などでの減少傾向は4
門種数 と類似するが,軟体動物に限っては細区分に関係なく,言い換えると,底質環境の悪化の 度合いに関係なく出現する.これは,シズクガイ,チヨノハナガイの有機汚濁指標種が,C
(泥砂),D
(泥)の細区分で頻繁に出現するためである.(e) Shannon-Wiener
の多様度 指数は,泥化の進行に伴って小さくなり,種の多様性が低下する傾向がみられるが,泥化 の進行との関連性は種数や個体数ほど明瞭に表れていない.本研究では,底生生物分布と 底質環境特性との関連性を,底質環境特性のクラスター分析による海域区分毎の生態学的 な生物分布特性により検討した.その結果,この方法は有明海における底生生物生息環境 特性変動の把握とその評価方法として,有効であると言える.0 20 40 60 80 100
FA1 A1
A3 A4
FB1
B1 B2 B3 B7 B8 SC1 C2 C3 D1 D2 D3
D4 FD1
0 5 10 15 20 25 30
FA1 A1
A3 A4
FB1
B1 B2 B3 B7 B8 SC1 C2 C3 D1 D2 D3
D4 FD1
0 3 6 9 12 15FA1
A1 A3
A4 FB1
B1 B2 B3 B7 B8 SC1 C2 C3 D1 D2 D3
D4 FD1
軟体動物 環形動物 節足動物 棘皮動物
0 20 40 60 80 100
FA1 A1
A3 A4
FB1 B1 B2 B3 B7 B8 SC1 C2 C3 D1 D2 D3
D4 FD1
①407
③371
④124
②107
① ②
③
④
ドロクダムシ ダルマゴカイ他 ヒメカノコアサリ,チヨノハナガイ ダルマゴカイ他
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0FA1
A1 A3
A4 FB1 B1 B2 B3 B7 B8 SC1 C2 C3 D1 D2 D3
D4 FD1
(a)含泥率 (b)4門種数
(c)門別種数
(d)4門個体数 (e)Shannon-Wiener
の多様度指数
図8.2 底質環境特性と底生生物分布(0.16m2あたり),2005~2007年
IA
ID IB IC
海域区分
砂泥(砂>泥)
泥砂(泥>砂)
泥 泥
第6章 底質環境と底生生物分布との関連性の検討-有明海湾奥海域-
底生生物が底質の有機汚濁化,腐敗化といった負荷の度合いや粒度組成に応じて種の構 成や個体数を変化させることから,含泥率,強熱減量,
COD
,全硫化物等の物理,化学的 な底質環境特性を表す底質項目により設定した海域区分毎の底生生物の分布特性(種組成,個体数,多様度等)に基づき,底生生物の減少と底質の泥化及び底質環境の悪化との関連 性についての科学的知見を得ることを目的とした.対象海域は,有明海湾奥海域である.
底質環境は,含泥率及び底質の化学的特性により
4
グループに区分することができた.図8.3 底質項目による湾奥海域の海域区分(2000年9月)
底生生物の主要な構成種である環形,節足,軟体,棘皮動物の4門種数は,泥分が少な く有機汚濁化,腐敗化が進んでいない
IA
(砂泥)から泥分が多く有機汚濁化と腐敗化が進 んだID
(泥)に向かうにしたがって減少する.また4
門個体数と含泥率の関係は,単一種 の大量出現の影響はみられるが,4
門種数と同様に,底質の泥化,有機汚濁化,腐敗化が 進むにしたがって減少することが分かった.次に,底生生物の生態学的特性を,含泥率や底質の有機物量の指標,硫化物量の指標と 底生生物の主要4門(環形,節足,軟体,棘皮動物)の種数・個体数との相関関係,底生 生物の出現地点における底質環境特性の頻度分布,出現優占種や多様度指数と底質環境特 性との関連性などにより検討し,表8.3に示した.また,海域区分毎の底生生物分布特性 と堆積環境の物理的特性を,表8.4に総括した.
調査地点
5km
覆砂海域
六角川 筑後川
海域 区分
含泥率 (%)
強熱 減量 (%)
AVS (mg/g) IA
(砂泥)
31.7 5.8 0.05
IB(泥砂)
55.3 8.3 0.17
IC(泥)
89.0 12.6 0.27
ID(泥)
95.0 15.3 0.57
表8.3 底生生物の生態学的特性
門別の底生生物等 生 態 学 的 特 性
4
門の種数,個体数4
門(環形,節足,軟体,棘皮)種数は含泥率,底質の強熱減量,COD
,硫化物,AVS
と有意な相関があり,有機汚濁化,腐敗化の 進行に伴い減少する.4
門個体数も同じ傾向だが,単一種の大量発 生の影響により底質環境特性との相関は4
門種数に比べ弱い.環形動物
種数,個体数は,含泥率,強熱減量,
AVS
と有意な相関があり,泥化の進行に伴い,有機物が少なく・かつ砂を好む種から有機物 が多く・かつ泥を好む種に遷移する.強熱減量が
15
%以上の強汚 濁底質に,10
種を超える種が生息する.節足動物
種数は含泥率,強熱減量,
AVS
と有意な相関がある.ヨコエビ目 の一部に,悪化した底質環境から逃避する環境依存性の種が存在 する.強熱減量が15
%以上の強汚濁底質では出現が少ない.棘皮動物
種数は含泥率,強熱減量,
AVS
と有意な相関がある.強熱減量が15
%以上の強汚濁底質では出現が少ない(
トゲイカリナマコを除 く).軟体動物
種数,個体数は含泥率,強熱減量,
AVS
と有意な相関がない.泥 化の進行に伴い,砂を好む種から泥を好む種に遷移する.強熱減 量が15
%以上の強汚濁底質に,10
種を超える種が生息する.クラスター 分析の 海域区分 底質区分底質 項目
中央 粒径 (φ)
含泥 率 (%)
強熱 減量 (%)
AVS (mg/g)
有機汚濁 化・腐敗化 の度合い
4門 種数*14門個 体数*2多様度 指数*3代表的な 環形動物種*4代表的な 節足動物種*4代表的な 棘皮動物種*4代表的な 軟体動物種*4
堆積環境, 河川・地形・流れ との関係 75%値
2. 9 3 37 .8 6. 4 0 .08
チロリエンコウガニカキクモヒトデヤマホトトギガイ 50%値2. 4 6 31 .6 5. 8 0 .05
モロテゴカイホソヨコエビヒバリガイ 25%値2. 0 0 26 .7 4. 8 0 .03
タケフジゴカイスガメソコエビサルボウガイ 平均値2. 5 6 31 .7 5. 8 0 .05
カマキリヨコエビ 75%値5. 6 6 62 .4 9. 3 0 .20
チロリカクレガニイヨスダレガイ 50%値5. 3 0 57 .1 8. 7 0 .19
ヨツバネスピオ B型チヨノハナガイ 25%値3. 5 5 46 .5 7. 3 0 .13
イトゴカイマテガイ 平均値4. 7 2 55 .3 8. 3 0 .17
75%値7 .36 9 3. 3 13 .2 0. 3 2
フサゴカイカクレガニイヨスダレガイ 50%値7 .23 8 7. 9 12 .7 0. 2 7
ヨツバネスピオ B型クモガニキセワタガイ 25%値6 .91 8 6. 9 11 .6 0. 2 4
イトゴカイマメウラシマガイ 平均値7 .07 8 9. 0 12 .6 0. 2 7
モロテゴカイマテガイ 75%値7 .55 9 7. 2 16 .1 0. 6 7
フサゴカイクモガニシズクガイ 50%値7 .43 9 5. 4 14 .4 0. 5 2
イトゴカイイヨスダレガイ 25%値7 .27 9 3. 7 13 .6 0. 4 7
カギゴカイヒメカノコアサリ 平均値7 .37 9 5. 0 15 .3 0. 5 7
シロガネゴカイマメウラシマガイ *4:優占種としての出現頻度及び全調査地点に対する出現頻度による*3:Shannon-Weinerの多様度指数と含泥率(75%値~25%値)との相関による目安
5 ~ 15
10 ~ 30
2. 2 ~ 2. 9
塩田川沖海底水道, 住之江沖海底水道一 帯.潮汐残差流が弱 く,常に泥が堆積 *1:4門種数と含泥率(75%値~25%値)との相関による目安(0.063m2 あたり) *2:4門個体数と含泥率(75%値~25%値)との相関による目安(0.063m2 あたり)
筑後川デルタ外縁部. 筑後川からの土砂供 給の変動や河川流入 水による流れの変動に より粒径変化が大きい IC 泥
中~強
10 ~ 20
20 ~ 50
2. 7 ~ 3. 5
塩田川沖海底水道と 住之江沖海底水道に 挟まれた海底の尾根 一帯 ID強
IB泥砂 (泥>砂)中
15 ~ 30
20 ~ 100
3. 5 ~ 3. 8
表8.4 海域区分別の底質環境特性と底生生物分布特性(0.063m2 あたり) IA砂泥 (砂>泥)弱
25 ~ 40
60 ~ 200
3. 4 ~ 4. 4
古い基盤の高みであ る海底砂州(野崎ノ 州,蜂ノ州)周辺.南下 する比較的強い潮汐 残差流