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論語には「温故知新」(故きを温ねて新しきを知る)という言葉があり、昔のことをよく 学び、そこから新しい知識や道理を得るということである。日本では、「不易流行」という 芭蕉の俳諧の理念があり、『新明解四字熟語辞典(三省堂)』によれば、「いつまでも変化 しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていく こと。また、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質であること」とある。

「不易」はいつまでも変わらないこと、「流行」は時代に応じて変化することである。

「温故知新」と「不易流行」の教えを基に経営哲学を展開する経営者が多くいる。「不易」

が「温故」、歴史や知恵、慣習などを学ぶことで継続的に伝わる価値観とその実践性がある 行動指導方針を見出す。「流行」は「知新」、変わるべきものであり、時代によって絶えず に発展・変革する必要がある思想や行為を指す。

本論文は近世、近代、現代における日本と中国の代表的な企業家の経営哲学を探求し、比 較するものである。具体的には大きく二つの内容で構成されている。まず、各時代の商業文 化を概観し、日本と中国代表的な企業家とその経営哲学の中に倫理、社会貢献、商人教育と いう三つの視点に焦点を当て検討する。次に、歴史的考察の成果を土台に仮説を立て、国境 を越えて活躍する企業の経営哲学の策定と実践を実証する研究である。

本論文のテーマに設定した「日中経営史における企業家の比較研究――経営哲学の歴史 的変遷と現代への示唆――」について、次のように結論づけることができよう。

第一、経営哲学の定義は様々であるが、本論文では、「企業家の考えをはじめとする、企 業理念、ビジョン、行動規範など明文化したものを含めて、企業の経営活動における判断基 準と外部の利害関係者に対する約束を両方求める経営実践思想」と定義した。

なお、各時代において経営哲学の意味で使われている言葉あるいは用語は様々であるが、

近世、近代、現代三つの時期において、近世の「商人精神」、近代の「経営理念」、現代の

「経営哲学」という時代の言い方を広義で「経営哲学」として見なす。

第二、各時代における日中企業家の経営哲学に関する共通点を導き出すと以下の通りで ある。

近世において、石田梅岩や王陽明がいう「利潤の肯定」など商人の利益追求の正当性を 認める思想家がみられる。また、近世の商人は、⑴商人精神における勤労、倹約、正直と

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いう禁欲的倫理観、⑵近江商人の三方よし、山西商人の経世済民のような地域社会貢献意 識、⑶商人達の家訓や遺言などを通じて、商人精神の浸透や継承を図ってきた共通点が見 られる。要するに、近世における日本と中国の商業文化と商人精神には儒教価値観が共通 の基盤となっている。

近代になると、欧米から優越な軍事力を背景にアジア諸国への経済的略奪行為が益々強 くなっていった。このような状況の中で、日本と中国の企業家は「産業報国」、「自強求 富」などの国益重視あるいはナショナリズムの思想を持つようになった。同時に、西洋列 強からの文化と技術、科学的なマネジメント、経営理念などをも受け入れるようになっ た。西欧列強との経済的、文化的な交流の拡大によって、近代の経営者達にも国際的開放 性が見られた。

近代企業家の経営哲学の中にある勤勉、倹約、道徳遵守、社会貢献、および憂国憂民な どの理念は儒家思想に根ざしている。企業家は軽商観念を排除し、「義利両全」という高 い道徳基準を遵守している。この時代では、日本でも中国でも、私益よりは国益を優先す る思想家が多く見られる。そして、企業家としての商人は基礎的知識以外に、中国の土紳 と日本の武士のように中庸、論語、孟子などの儒学書の勉強も必要である。その上、自主 自立の精神と西洋の先進文化の経験も取り入れる。また、商人の教育は国民教育を基礎と している。

現代になると、倫理の方面では、「公益」と「利益」を議論した上、人々の「志」、

「夢」、個性を尊重し、人々に共感できる経営哲学が求められている。企業家はそれぞれ の自分がやりたいこと、自分の価値を実現したいという志と夢を持って事業を起こす。近 代においては「国」のため、あるいは外国との「戦争」という意識で臨んできた。戦後の 現代では、特に近年に近づくほど、「グローバル共生」、あるいは「人類の幸せのため」

などの経営理念のもと、企業の存在意義と社会的責任の追求を進める経緯となっている。

現代の企業家たちは自分の理念を次世代に伝え、若い経営者に能力のほか、「哲学」の 教育を通じて、世界や社会に存在すべき自分の姿を考えさせる傾向がある。

第三、各時代における日中企業家の経営哲学に関する相違点を導き出すと以下の通りで ある。

近世の場合、日本では商家内の「場」を何より重視し、「家族」と言えば、血縁関係を 超えて、共に働く職場の仲間、すなわち「場」を中心とする組織の仲間まで含まれるのが 一般的である。一方、中国では血縁、地縁、業縁(同業種)を中心としたネットワーク社

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会を構築している。最も小さい生活単位である家族が互いに信頼ができ、特に血縁あるい は宗族の方が何より大事にされている。

近代の場合は、日本の企業家は自己の利益と国益を一致とし、共通性を意識した上で、

後者を強調する。中国の企業家は、例えば、張謇にとって企業を経営することはまず国家 のためという思想があり、「国家の急を優先するべき」と強調している。いわゆる「忠孝 不可両全」である。また、近代の中国は、政治・経済・文化などの面では西欧列強から多 くのことを学び、受け入れてきたが、企業経営の面では民族企業と外資企業との「商戦」

という対抗の理念が強かった。一方、明治維新以後、国外への政治経済、軍事外交の影響 力を拡大してきた日本では「アジア主義」、「共生共栄」、「大東亜共栄圏」などの思想 が生まれた。

現代になると、日本企業の場合は独自の組織文化の形成と中長期経営戦略の策定が一般 的である。一方、中国企業の場合は、スピーディーな意思決定と短期利益の追求という商 業習慣が一般的である。もちろん、中国のトップクラスの民間企業はきめ細かい経営哲学 を公表している。これらの大企業の経営哲学は、下請けや取引関係の中小企業あるいは個 人とする顧客の利益を重視している。そして、実践する際に「直感」、「スピード」、

「微創新」と繋がる「ユーザー体験重視」というキーワードは注目されている。近年、日 本にも「スピーティーに実行していく」という意識が強くなってきている。

第四、日中の両国を代表とする日中近世から現代までの企業家は、それぞれ独自の経営 理念を持っている。具体的な内容は以下の通りである。

図表 7-1:日中代表的な企業家の経営哲学

日本 中国

近世 企業家名 近江商人 山西商人 経営哲学 「利真於勤、薄利広商」「売り

手よし、買い手よし、世間(地 域)よし」、家訓や店則が一同 の前で読み上げる

「重名軽利、薄利多売」、「持家」、

「宗族隣里、調和共進」、「経世済 民」、私塾を開く、四書・五経や史 学、数学などを子弟や嫁たちに教え る。

近代 企業家名 大倉喜八郎 張謇

経営哲学 「正直は実に商売の資本」、「刻 「言商向儒」(儒家の道徳規範の遵

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(筆者作成)

第五、グローバル時代の今日においては、日中両国の現地化に適応可能な新たな経営哲学 が必要となった。経営哲学の現地化に関する実証研究では以下のような結果が得られた。

中国に進出した日本企業の現地経営について調査した結果、明文化した企業理念、ビジ ョン、ミッションを含んだ企業の経営哲学を明示し、浸透及び実践を重視することが企業 の持続的成長に有利であることが分かった。具体的には、会社の独自性を持っている経営 理念を貫くことや、中国現地経営ではビジネス構想をスピーディーに実行することが重要 である。その上、自社の利益より「地域繁栄」を意識することによって、現地ネットワー

苦勉励」、「進一層」、「自己 の利益と国益との一致、共通性 を意識した上で、後者を強調す ること」、「忠君愛国」、外国 との「競争関係」、「盛んに出 貿易を行わねばならぬ」「アジ ア主義」、大阪大倉商業学校

(1900 年)を設立する、商人の 教育に尽くす

守)、「先進技術の学習」、「非私 而私也、非利而利也」(私利の追求 を主要目的においてはならない、公 の利益を優先)、「国家のための思 想を樹立し、国家の急を優先する」、

「西洋国家と商業戦を展開するよ り紡績や鉄網の工業部門をまず優 先的に発展させる」、南通工学院

(1912 年)、南通医学院(1911 年)

などを設立する、師範教育を最も基 本として強調する、職業教育も重視 する

現代 企業家名 孫正義 馬雲

経営哲学 「情報革命で人々を幸せに」、

「志を高く、勤勉する」、「二 乗の法則」、「社会や未来の時 代に貢献できることを成した い使命感を持つ」、「全世界ビ ジネスを」、「経営トップと社 員が心を一つに」、「ソフトバ ンクアカデミア」の開設(「自 分の後継者=孫正義2.0」を育 てるため)

「世界中のあらゆる商売をやりや すくするために、小さな企業をサポ ートする」、「商売人は最善を尽く し て こ の 社 会 を 改 善 し 続 け て い る」、「世界のコンミュニケーショ が 一 つ に な る 」 、 「 Made on Internet」、「価値観を統一する」、

湖畔大学(中小企業の起業家育成専 門ビジネススクール、大学の先生は 現在有名な企業家である)

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