第 5 章 共鳴トンネルダイオードの非線形性詳細モデル構築のための理論解析 65
5.2 単一障壁モデルのバンド構造と第2量子化による非平衡量子輸送のモデ
図5-1に、バンドギャップの異なる2つの化合物半導体により単一障壁を作った価電子 帯バンド図を示す。この系における全エネルギーを第2量子化の枠組み内で表現すると、
H =H0+HT (5-1)
66 第5章 共鳴トンネルダイオードの非線形性詳細モデル構築のための理論解析 H0 =∑
k
E1ka†1ka1k+∑
l
E2la†2la2l (5-2)
HT =−∑
k
∑
l
(
M1k,2la†1ka2l+M2l,1ka†2la1k )
(5-3) となる。ここで、添え字の番号は領域を表現し、aおよびa†はそれぞれ消滅・生成演算 子、E はエネルギー、M は遷移行列要素である。このモデル化はトンネル現象を、1領域 の任意の状態(k状態)から、2領域の任意の状態(l状態)への遷移と表現している。ま た式5-3の符号が負となっているのは、1領域と2領域を単一障壁を介して結合したこと により生じる相互の電子のやり取り(遷移)が、系全体を平衡状態(安定状態)へと移行 することになる。つまり、遷移(HT)は系のエネルギーを減らすことになるため、符号 が負となっている。
ここで我々が知りたいのは系の時間的な応答であるため、各領域・状態の電子の時間変 化から電子に対するレート方程式を導出する。そのためにハイゼンベルグの方程式、
dAˆ dt = j
ℏ[H,A]ˆ (5-4)
を導入する。ここでAˆは演算子、H はハミルトニアン、[H,A]ˆ はハミルトニアンH と演 算子Aˆの交換関係である。1領域、k状態にある電子に起こり得る現象として主に次の2 つが考えられる。
1. k からk′ へと波数が変化する(領域内遷移)
図5-1 単一障壁モデルの伝導帯バンド図
5.2 単一障壁モデルのバンド構造と第2量子化による非平衡量子輸送のモデル化と定式化 67 2. kから2領域のlへと電子が遷移する(領域間遷移)
これらの現象を表わす新たな演算子を、生成・消滅演算子を用いて表現すると、
1. 領域内遷移:a†1k′a1k 2. 領域間遷移:a†2la1k
となる。そのため、例えば領域内遷移の時間変化をハイゼンベルグの方程式(式(5-4))
によって表現すると、
da†1k′a1k dt = j
ℏ[H, a†1k′a1k] (5-5) となる。次にこの式を展開するわけだが、ハミルトニアン H = H0 +HT であるため、
H0 とHT に分けて式展開していく。
1. [H0, a†1k′a1k]の計算 [H0, a†1k′a1k] =∑
k′′
E1k′′[a†1k′′a1k′′, a†1k′a1k] +∑
l
E2l[a†2la2l, a†1k′a1k]
=∑
k′′
E1k′′
(
a†1k′′a1k′′a†1k′a1k−a†1k′a1ka†1k′′a1k′′
)
=∑
k′′
E1k′′
( a†1k′′
(
δk′′k′−a†1k′a1k′′
)
a1k−a†1k′ (
δkk′′−a†1k′′a1k )
a1k′′
)
=∑
k′′
E1k′′
(
a†1k′′a1kδk′′k′−a†1k′′a†1k′a1k′′a1k
−a†1k′a1k′′δkk′′+a†1k′a†1k′′a1ka1k′′
)
=E1k′a†1k′a1k−E1ka†1k′a1k
= (E1k′ −E1k)a†1k′a1k (5-6) ここで、2行目から3行目への展開には反交換関係 {A, B} = AB +BA および {am, an}=δmnの関係を用いた。
2. [HT, a†1k′a1k]の計算 [HT, a†1k′a1k] =−∑
k′′
∑
l
(
M1k′′,2l[a†1k′′a2l, a†1k′a1k] +M2l,1k′′[a†2la1k′′, a†1k′a1k] ) (5-7) ここで右辺第一項と第二項を別々に展開すると、
右辺第一項=−∑
k′′
∑
l
M1k′′,2l[a†1k′′a2l, a†1k′a1k]
68 第5章 共鳴トンネルダイオードの非線形性詳細モデル構築のための理論解析
=−∑
k′′
∑
l
M1k′′,2l
(
a†1k′′a2la†1k′a1k−a†1k′a1ka†1k′′a2l
)
=−∑
k′′
∑
l
M1k′′,2l
(−a2la†1k′′a†1k′a1k−a†1k′ (
δkk′′−a†1k′′a1k )
a2l )
=−∑
k′′
∑
l
M1k′′,2l
(−a†1k′a2lδkk′′+a†1k′a†1k′′a1ka2l )
=−∑
l
M1k,2l
(−a†1k′a2l )
=∑
l
M1k,2la†1k′a2l (5-8)
右辺第二項=−∑
k′′
∑
l
M2l,1k′′[a†2la1k′′, a†1k′a1k]
=−∑
k′′
∑
l
M2l,1k′′
(
a†2la1k′′a†1k′a1k−a†1k′a1ka†2la1k′′
)
=−∑
k′′
∑
l
M2l,1k′′
( a†2l
(
δk′′k′−a†1k′a1k′′
)
a1k+a†1k′a1ka1k′′a†2l )
=−∑
k′′
∑
l
M2l,1k′′
(
a†2la1kδk′′k′−a†2la†1k′a1k′′a1k
)
=−∑
l
M2l,1k′a†2la1k (5-9)
が得られる。そのため、[HT, a†1k′a1k]は、
[HT, a†1k′a1k] =∑
l
(
M1k,2la†1k′a2l−M2l,1k′a†2la1k )
(5-10) となる。
以上より、領域内遷移a†1k′a1k の時間変化は、式(5-6)および(5-10)より、
da†1k′a1k
dt = j
ℏ[H, a†1k′a1k]
= j ℏ
{
(E1k′−E1k)a†1k′a1k+∑
l
(
M1k,2la†1k′a2l−M2l,1k′a†2la1k ) }
(5-11) が得られる。また、ここまでと同様の手順を領域間遷移a†2la1kの時間変化に関しても、
da†2la1k dt = j
ℏ {
(E2l−E1k)a†2la1k−∑
k′
M1k′,2la†1k′a1k+∑
l
M1k,2l′a†2la2l′ (5-12) のように導出可能である。そしてこの系の動作を解析するためには、2領域に関しても 同様の手順で遷移の時間変化を導出し、全ての k およびl に関する連立方程式を解けば よい。