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を待つまでもなく)当然に刑法207条が適用される,と考えているかのよう な印象を与える(84)。しかし,「一部の暴行に共犯関係があった」という事 情それ自体が,「同一の機会」性を基礎づけるとは言えない。「同一の機 会」性は,この種のケースにおいても,他のケースにおけるのと同じ基準 でもって認定されなければならないのである。

うわけではない。

( 1 ) 第

1

に,当然のことながら,Xの暴行に対して207条の適用を認 めるためには,Yが実際に207条で起訴され,裁判において同条の適用を 受けることは必要でない。Xの裁判において,Yの暴行が,207条の適用 条件を充足するものであると認められれば足りる。

( 2 ) 第

2

に,前出の最高裁平成28年決定(判例41)の事案は,先行行 為者Xらによる第

1

暴行によって被害者Aの「死因となった傷害」が既に 発生していたのか,それとも,後行行為者Yによる第

2

暴行によってAの

「死因となった傷害」が初めて発生するに至ったのかが不明であるが,Y の第

2

暴行がAの「死因となった傷害」を相当程度悪化させたことは間違 いないので,Yの第

2

暴行について,「Aの死亡結果」に対する単独の因 果関係を認めることができる,というケースであった(上記3 . 2 . 1参 照)。この場合,Yについては,端的に,「Aの死亡結果」に対する単独の 因果関係の存在に基づいて傷害致死罪の成立を認める,ということが可能 である。仮に,実際にYについてそのような処理がなされたとしても,残 されたXらについては,「Aの死因となった傷害」に対する207条の適用に よって傷害致死罪の成立を認める,ということが可能である。この場合 も,「Aの死因となった傷害」に関しては,Xらの第

1

暴行とYの第

2

暴 行が,いずれも207条の適用条件を充足しているからである。

 さて,そうだとすると,Yの第

2

暴行がAの「死因となった傷害」を相 当程度悪化させたことは間違いない,といえるケースにおいては,Yが例 えば「強盗」や「強制性交」の故意でもって暴行に出たのであれば,Yに は,「Aの死亡結果」に対する単独の因果関係の存在に基づいて,「強盗致 死罪」や「強制性交致死罪」の成立を認めることが可能である。そしてそ の場合に,他方の第

1

暴行者Xには,207条の適用によって傷害致死罪の 成立を認めることがなお可能である。このような結論は,207条の適用対 象を「強盗致致死傷罪」や「強制性交致死傷罪」にまで拡大するという解 釈論(上記4 . 2 ①の直接適用説)から出てきているわけではない,という

点に注意を要する。このような結論は,「207条の適用対象は傷害(致死)

罪に限定される」という(通説的な)解釈論からも,当然支持され得るも のである。

( 3 ) 第

3

に,Yの暴行が正当防衛に当たる場合や,Yが暴行時に心神 喪失であった場合など,Yの暴行が犯罪を構成しない場合に,Xの暴行に 対して207条の適用が認められるか,という問題も生じ得る。207条の適用 如何が,専ら,傷害(致死)罪の「構成要件該当性」に関わる問題だと考 えられる以上,Xの暴行とYの暴行がそれぞれ207条の適用条件を充足し ている限り,正当化事由や責任阻却事由があっても,207条の適用は妨げ られないものと考えられる(もっとも,正当化事由や責任阻却事由が存在す ることによって,207条の適用条件の充足それ自体に疑いが生じるケースがある とすれば,その場合は別論である)。

7 . 2  結論

 結びとして,本稿で確認された幾つかの重要な結論につき,箇条書きの 形でまとめておく。

( 1 ) 問題となっている「傷害」について,複数の暴行行為者の各人に

「単独惹起の可能性」が認められることが,207条適用の前提条件である。

したがって,207条の適用場面は,問題の「傷害」との関係で,それを惹 起した可能性のある暴行行為者が「択一的に」想定され得るという場合に 限られる。これに対して,複数の暴行行為者の暴行が「重畳的に」作用し て初めて問題の「傷害」が生じ得た(問題の「傷害」につき行為者各人の

「単独惹起の可能性」が認められない)場合は,各行為者の「寄与度」が不 明であったとしても,207条は適用されない。(本稿2 . 1 . 3

( 2 ) 207条が規定する「傷害を生じさせた者」の不明,「それぞれの暴 行による傷害の軽重」の不明という条件は,いずれも上記(1)の「行為 者各人の単独惹起の可能性」を具体化したものである。また,「それぞれ の暴行による傷害の軽重」が不明である,という状況は,「傷害を生じさ

せた者」が不明である,とされるような複数個の「傷害」が同時存在して いる状況を指すものに過ぎず,両者の条件の実質は同じである。(本稿2 .

2

( 3 ) 207条の「傷害」とは,暴行によって被害者の身体に生じた一次

性の損傷(外傷)のみを指し,それらの一次性の損傷に起因して続発した 二次性の全身性の生理的機能障害(外傷性ショック等)は207条の「傷害」

に含まれない。したがって,

207条の「傷害」と, 204条・205条にいう「傷

害」は,その限りで意味が異なる。(本稿2 . 2 . 2

( 4 ) 最高裁平成24年決定(最決平成24・11・6)の事案は,各暴行行 為者の量刑判断の前提となし得る程度の具体性を以て,「被害者に生じた 最終的な傷害結果」の中から「各行為者が惹起した傷害部分」を切り出す ことが可能だった事案であり,これは207条の適用対象となり得る事案で はない。したがって,同決定は,207条の適用対象事例について何らかの 判断を示したものではない(本稿2 . 3)。

( 5 ) 結果的に見て「死因となった傷害」について各暴行行為者に207

条の適用が認められる限り,その傷害から発生した死亡結果につき,各暴 行行為者に傷害致死罪(の共同正犯)の成立が認められることになる。た だし,この論理によって各暴行行為者に傷害致死罪の成立を認めようとす る場合には,事実経緯の中から選び出してよい「傷害」(「死因となった傷 害」)は「死因の下限を初めて超えた段階の傷害」(死因となった傷害の「発 症」段階)に限られ,「その傷害がそれ以後更に悪化した(任意の)段階」

を選び出して207条を適用してはならない(本稿3)。

( 6 ) 各暴行行為者のうちの少なくとも

1

人が(全員でもよい),強盗 罪,強制わいせつ罪,強制性交等罪など,実行行為に「暴行」が含まれる 犯罪の故意をもって暴行行為に出た場合,207条を適用して強盗致(死)

傷罪,強制わいせつ致(死)傷罪,強制性交等致(死)傷罪の共同正犯を 認め得るか,という問題については,これを消極に解する見解(裁判例)

が支配的である。もっとも,この場合に,行為者の「暴行」が207条の要

件も(同時に)充たしていれば,207条を適用して行為者に傷害(致死)罪 の共同正犯の成立を認めることが可能である。その場合,行為者が,「当 該行為は,強盗,強制わいせつ,強制性交等などの故意を伴ったものであ る(単なる暴行の故意ではなかった)」として207条の適用排除を求めたとし ても,そのような抗弁は意味をなさない(本稿4)。

( 7 ) 207条は,暴行と傷害との間の因果関係について,被告人側に挙

証責任を転換する規定であり,その正当化が必要である(本稿5 . 2 . 1)。その正当化は,次のように基礎づけられるものと解する。

 207条で問題となる「暴行」は,「接触型の暴行」に限られている。そこ で,

 ①「程度の重い傷害」(典型的には「死因」となったような傷害)との関係 で207条の適用が問題となっている場合には,そのような重い傷害を「単 独で惹起した可能性」がある接触型の暴行は,最低でも,被害者の身体に

「一定程度の」生理的機能障害を惹起しているものと考えられるので,そ れは単なる暴行罪(208条)の枠内に収まらず,傷害罪(204条)の法定刑 でもって臨むのに値する。但し,その量刑判断においては,傷害罪の量刑 相場において上限に近いところでの量刑は許されない。

 ②「軽微な傷害」との関係で207条の適用が問題となっている場合には,

そのような軽微な傷害を「単独で惹起した可能性」がある接触型の暴行が なされても,必ずしも,それによって被害者の身体に何らかの「傷害」が 生じているものとは考えられず,このような暴行に対しては(傷害罪では なく)暴行罪の法定刑でもって臨むのが相当である。そのため,このよう な暴行に207条が適用され,傷害罪が成立しても,具体的な量刑が208条

(暴行罪)の法定刑の上限を超えることは許されない。

 以上のような解釈により,実質的に利益原則に反しない形での207条の 運用が可能になる(本稿5 . 2 . 2)。

( 8 ) 被告人に(傷害結果に対する因果関係についての)挙証責任が転換 された場合,立証上の負担に関する政策的配慮から,被告人の立証におい

て設定される証明度を「証拠優越の程度」にまで軽減する,という解釈論 を採ることも理論的に可能である(本稿5 . 2 . 3)。

( 9 ) 近時,207条の適用において要求される「同一の機会」とは,暴

行が激しさを増すことにつながるような状況のことであり,207条はこの ような危険性の高い暴行を処罰する「加重暴行罪」の処罰規定に他ならな い,とする解釈論(加重暴行罪説)が主張されている。207条の利益原則違 反の疑いを払拭する,という目的のためにこの主張に従う必要性は必ずし もない。もっとも,「同一の機会」要件それ自体は必要不可欠であり,こ の要件の解釈運用にあたっては,加重暴行罪説の分析は示唆的である(本 稿5 . 3)。

(10) 複数の暴行のうちの一部分について,暴行行為者の間に共犯関係 が認められる場合も,これらの暴行が刑法207条の適用条件を充足するも のである限り,同条の適用が認められるものと解すべきである(本稿6)。

【追記】 再校後に,最(二小)決令和

2

9

・30(裁判所ウェブサイト)に 接した。

 同決定は,Xらが被害者に対して暴行を加えている状況(第1暴行)を 目にした被告人が,Xらと暗黙の共謀を遂げてこれに加勢し,Xらと共に 被害者に対して暴行を加えたが(第2暴行),被害者に生じた「右第六肋 骨骨折」及び「上口唇切創」の傷害が,そのいずれの段階の暴行によって 惹き起こされたものかが判明しなかった,という事件において,「他の者 が先行して被害者に暴行を加え,これと同ーの機会に,後行者が途中から 共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀加担後の暴行により生じたも のとまでは認められない場合であっても,その傷害を生じさせた者を知る ことができないときは,同条〔=207条〕の適用により後行者は当該傷害 についての責任を免れないと解するのが相当である。」と判示し,「右第六 肋骨骨折」の傷害につき,207条を適用して,被告人に傷害罪の共同正犯 の成立を認めたものである(なお,「上口唇切創」の傷害については,「被告

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