第 8 章 結論
8.2. 今後の技術課題
第1章で述べたように,輸送機器の軽量化および高強度化への要望はますます高まってお り,高付加価値,高生産性および低コストの成形技術が必要となる.生産性の高い冷間成形 においては新材料の開発により,ホットスタンピングと同等の強度を持つ成形品の製造が可 能となっているが,スプリングバックを抑制することが出来ないため,ホットスタンピング
の需要は今後も高まる.また現状のホットスタンピング成形品の強度は 1.5GPa 程度である が,一部では炭素量を増加させながらオーステナイト粒径を微細化した 1.8GPa 程度の引張 強さを持つバンパービームが製造されており,強度の観点からも冷間成形に対して優位性を 保つ.
現状のホットスタピングにおける問題点をFig. 8.1に示す.大型の加熱炉を置くためのス ペース,長い加熱時間,ダイクエンチングのための下死点保持時間および成形速度の低い油 圧プレスの使用,後加工のレーザートリミングなど,冷間成形と比較して生産性が低くコス トが大きくなる点が問題である.
Fig. 8.1. Technical problem for conventional hot stamping process.
以上の問題を解決する高生産性・省スペースホットスタンピングの展望をFig. 8.2に示す.
鋼板を電気によって抵抗発熱させる通電加熱方式を用いることにより,加熱炉が不要となり 省スペースとなる.通電加熱は鋼板を 5s 程度で加熱でき,金型に組込むことが出来る.従 来のホットスタンピングにおいて,下死点保持時間は10s以上必要であるが,4章で述べた 直接水冷方式を用いることで大幅に短縮でき,加熱の時間と同程度にすることで,加熱と下 死点保持時間を同期させることができ,生産性が向上する.ホットスタンピング成形品の表 面はめっきなしであれば酸化スケールが生じるため,後工程の塗装や溶接の前に酸化スケー ルを除去する必要がある.現状ではショットブラストによって酸化スケールを除去するが,
長い除去時間および変形が問題となる.また通電加熱によって生じる薄い酸化スケールは除 Heating Forming
Blank 22MnB5 steel
Hydraulic press Furnace
Trimming, punching Laser cutting:
low productivity,
high costs
Die quenching
Shot blasting Large space,
long heating time
Forming: slow
Holding time: long
去が困難であり,超音波洗浄や酸洗など新たな除去方法および溶接性,塗装性の保証が要求 される.
現状のホットスタンピングの設備は大きく生産性は低いため,部材の適用範囲は自動車骨 格部材など大きな部品に限られているが,通電加熱ホットスタンピングのようにコンパクト な設備であれば,中小型部品への適用も考えられる.トランスミッションなどの歯形部品は 冷間鍛造での製造が一般的であったが,板鍛造による成形が広まっている.冷間板鍛造され た成形品は後工程として焼入れが必要であるが,ホットスタンピングによって製造できれば 大きな変形を与えながら熱処理の工程を省略することが可能である.
Fig. 8.2. High productivity and compact hot stamping process.
ホットスタンピング成形品の適用が拡大すると,より付加価値の高い部材が求められるこ とから,テーラード部材の製造も拡大する.本論文で取り上げたホットスタンピングにおけ るテーラードテンパリングは鋼板温度の制御が非常に重要である.加熱温度および加熱保持 時間はホットスタンピング中の相変態に大きな影響を及ぼすことから,ばらつきを小さくす る必要がある.自動車骨格部材は本論文におけるモデル実験よりかなり大きいため温度分布 が不均一となり,また断続的に製造するため金型温度も変化する.これらの計測技術や,そ れに基づいたリアルタイムの金型冷却やダイクエンチング時の圧力コントロールなどの生 産管理技術も,大量生産における品質保証の為に重要である.
これらの製造工程を設計する上で有限要素シミュレーションの活用は有効である.しかし ホットスタンピングの有限要素シミュレーションは,鋼板の変形挙動に加え,温度分布およ び相変態などの熱的影響を考慮する必要があり,計算が複雑となるため十分な精度の計算結 果を得ることができない.また金型の温度分布も考慮する必要がある.シミュレーションの 精度向上のためには,実験において高温下における鋼板の材料特性の決定および熱伝達係数 の推定のためにダイクエンチング圧力,温度の正確な測定が重要である.これらを蓄積した ビッグデータの構築およびその分析が望まれる.
炭素繊維強化樹脂部品には複雑な 3 次元形状の製造が要求されている.第 7 章において 3Dプリンターを用いて平板の試験片を製造したが,Fig. 8.3に示す航空機の翼のように3次 元シェル形状においては炭素繊維の配置方法が重要となる.この方法では強度が必要な方向 に炭素繊維を配置することができることのみならず,局部的に炭素繊維を配置することがで きるため,高機能な炭素繊維強化樹脂部品が製造可能となる.またマイクロ波による加熱接 着は不均一であり,さらなる強度向上のために均一な加熱接着技術が求められる.
Fig. 8.3. Application to 3D thin parts for improving strength.
(b) One direction (a) Two directions
Nozzle
(c) Tailored parts
謝辞
本研究の遂行および論文執筆に際し,始終懇親丁寧なご指導並びにご鞭撻頂いた豊橋技術 科学大学森謙一郎教授に心より御礼申し上げます.また本論文の執筆において,ご査読およ びご助言頂いた豊橋技術科学大学柴田隆行教授,安部洋平准教授に厚く御礼申し上げます.
研究の遂行に際して多大なるご尽力頂いた,横浜国立大学前野智美准教授,梅宮涼氏(現 トヨタ自動車株式会社),清水悠希氏(現アイシン・エィ・ダブリュ株式会社),八嶋悟氏(現ア イシン精機株式会社),鈴木康剛氏(東亜工業株式会社),修士1年次海道智也氏,修士1年次 西方理也氏,他研究室の皆さまに深く感謝申し上げます.
本研究のテーマを推進するにあたり,研究の機会を積極的に与えて下さりましたスズキ株 式会社,株式会社東亜工業,株式会社アミノに深く感謝申し上げます.本研究は以上の方々 をはじめ,多くの方々のご指導,ご鞭撻により成し遂げたものであります.これらの方々に 対して心より御礼申し上げます.
論文目録 査読付学術論文
1. Yuki NAKAGAWA, Ken-ichiro MORI and Tomoyoshi MAENO, “Prevention of local thinning and springback in hot stamping of thin sheets”, Key Engineering Materials, Vol. 716, pp.487-493, 2016.
2. Yuki NAKAGAWA, Ken-ichiro MORI and Tomoyoshi MAENO, “3D printing of carbon fibre-reinforced plastic parts”, International Journal of Advanced Manufacturing Technology, Vol. 91, No.
5-8, pp.2811-2817, 2017.
3. Yuki NAKAGAWA, Ken-ichiro MORI and Tomoyoshi MAENO, “Springback-free mechanism in hot stamping of ultra-high-strength steel parts and deformation behaviour and quenchability for thin sheet”, International Journal of Advanced Manufacturing Technology, Vol. 95, No. 1-4, pp.459-467, 2018.
4. 中川佑貴,森謙一郎,前野智美,梅宮涼,”超高強度鋼部材のホットスタンピングにおけ る切口面性状および機械的特性に及ぼすホットトリミング条件の影響”,塑性と加工,印刷 中
査読付国際会議論文
1. Ken-ichiro MORI, Tomoyoshi MAENO and Yuki NAKAGAWA, “Dieless forming of carbon fibre reinforced plastic parts using 3D printer”, Procedia Engineering, Vol. 81, pp.1595-1600, 2014.
2. Yuki NAKAGAWA, Tomoyoshi MAENO and Ken-ichiro MORI, “Forming and quenching behaviours in hot stamping of thin quenchable sheets”, MATEC Web of Conferences, Vol. 21, 05002-pp.1-7, 2015.
3. Yuki NAKAGAWA, Ken-ichiro MORI, Yoshimitsu MURATA and Tomoyoshi MAENO,
“Reduction in length of transient region in successive forging of tailored blank for hot stamping of ultra-high strength steel parts”, Procedia Engineering, Vol. 207, pp.693-698, 2017.