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結果

ドキュメント内 博士学位論文 (ページ 37-64)

第 3 章 高感度融解曲線解析( HRMA )を用いた ヒスタミン生成菌の迅速同定法の検討

3.3. 結果

本実験で用いた中温性Hm生成菌6菌種 (M. morganii、 R. planticola、E. aerogenes、

P. damselae subsp. damselae、P. vulgaris、Erwinia spp.)は、過去の研究において強い Hm生成能が確認された菌種(Takahashi et al. 2003)を選択した。特にM. morganii およびP. damselae subsp. damselaeは高い分離率と強いHm生成能を示し、Hm食中 毒の危害菌となる可能性が高いHm生成菌と考えられている。本実験において中温

性Hm生成菌6菌種、16株をPCR-HRMAに供した結果、全ての菌種において種特

異的なTm値および融解プロファイルが得られた。そのため、本手法によってこれ ら6 菌種の識別が可能であり、迅速同定法として利用できる可能性が示唆された。

また、本実験において用いたM. morganii 3株のうち、1株(AP28株)が他の2株 と異なるTm値を示したが(Fig. 8)、Difference melting curveにおいては相似の融解 曲線を示した(Fig. 9)。M. morganii 3株のうち、ATCC 35200株およびJCM 1672 株はM. morganii subsp. morganiiであり、AP28株はM. morganii subsp. siboniiであり、

なおかつAP28株と他2株のhdc遺伝子配列との相同性は95.9%を示した。この結 果より、本実験で用いた配列領域においてM. morganiiの亜種レベルで識別する事 が可能であった。

低温性Hm生成菌としては、P. phosphoreumおよび第1章で新たにHm生成菌と して分離されたP. iliopiscariumP. kishitaniiおよびP. aquimarisを用いてHRMAの 検討を行った。その結果、P. phosphoreumおよびP. kishitaniiはほぼ同じTm値およ び融解プロファイルを示し(Table 10、Fig. 10、Fig. 11)、今回用いた領域において は識別ができなかった。しかし、両菌種共に低温増殖性を有し、なおかつ性状も近 しいことから、本領域においては“P. phosphoreum / P. kishitaniiグループ”として 他の種から識別が可能であった。また、P. aquimarisおよびP. iliopiscariumに関して は、中温性Hm生成菌を含めた他菌種と異なるTm値および融解プロファイルを示 したことから、他菌種との識別は可能であることが示唆されたものの、菌株数が非 常に少ないことから、更なる検討が必要と考えられた。さらに、元々1990 年代に

P. phosphroeum として分離され、その後 16S rDNA 配列による再同定によって P.

aquimarisと決定された菌株であるP. aquimaris N14株は、P. aquimaris 8I156株と近 似の融解プロファイルを示した。しかし、中温性Hm生成菌や他の低温性Hm生成 菌と異なり、融解プロファイルにわずかながら差が見られた(Fig. 11)。そのため、

P. aquimaris に 関して も 、 更な る 検討 が必 要 で ある と 考え られ た 。 また 、P.

phosphoreumP. kishitaniiグループとTm値が近しいErwinia spp.のDifference melting

curve を作成した結果、これらは識別可能であった(Fig. 12)。そのため、低温性

Hm生成菌・中温性Hm生成菌間の識別は可能であると考えられた。

これまでの研究で、グラム陰性Hm生成菌として腸内細菌科菌群から海洋性細菌

まで多様な菌種が報告されている。そのため、Hm生成菌の分離および同定を行う 上では、複数の菌種に対応できるように複数の試験を行わなくてはならない場合が あり、なおかつシーケンシングを用いた場合は費用および時間が必要される。

HRMA は少ない遺伝子配列の差違を識別することが可能であることから、シーケ ンシングの代替法として利用することが可能だと考えられている(Ruskova and

Raclavsky, 2011)。そのため、ヒスタミン生成菌における従来の同定工程において,

簡便化および迅速化にHRMAが有用であると考えられた。

本実験では、菌株を分離後に本手法を用いる状況を想定し、供試菌として純菌を 用い、本手法がシーケンシングの代替法として有用である事を示した。しかし、今 後検査現場における利用を考える上で、より工程や時間を短縮する必要がある

(Ruskova and Raclavsky, 2011)。そのため、今後はcolony-PCRや食品からのdirect PCR-HRMAを検討し、SSCP法(Takahashi et al., 2003, 2007)やMALDI-TOF mass 法(Fernández-No et al., 2010)など今まで報告されているグラム陰性Hm生成菌の 迅速同定法との比較を行う必要があると考えられた。さらに、HRMA において有 効なTm値及び融解曲線を得るためには、増幅時のCt値が15~35である必要がある

(Whinchell et al., 2010)。しかし、本研究においては検出感度の検討は行っていな い。そのため、今後本手法を応用するにあたって、各Hm生成菌における検出感度 の検討も行う必要があると考えられた。

本章においては、HRMA 法がグラム陰性の Hm 生成菌の迅速同定に用いること ができる可能性を示唆した。特に主要な中温性 Hm 生成菌である M. morganii, E.

aerogenes, R. planticola, P. damselae subsp. damselae のみならず、P. vulgaris 及び Erwinia spp.の識別を行うことが可能であり、本実験に供さなかった菌種でも、本手 法によって識別を行える可能性が示唆された。また、低温性Hm生成菌においても HRMA は有用である可能性が示唆されたものの、一部識別が難しい菌種が存在し た た め 、 更 な る 検 討 が 必 要 と 考 え ら れ た 。 主 な 低 温 性 Hm 生 成 菌 で あ る

Photobacterium属はhdc遺伝子に関する情報が不足していることから、今後これら

の菌種におけるhdc遺伝子配列決定を行うことで、実際に食品工場等の現場におけ る利用が検討されることが期待される。

Table 8 Components of the PCR mixture for PCR-HRMA.

Master mix 2 x con.

a

10 µL

2.5mM MgCl

2 a

2

Forward Primer 1

Reverse Primer 1

ddH

2

O

a

1

DNA template 5

Total 20 µL

a: Lightcycler®480 High resolution melting master mix

Table 9 Observed hdc gene amplicon melting temperature of mesophilic Hm producing bacteria.

Strain melting temperature (°C)

M. morganii ATCC 35200 80.92±0.05

M. morganii JCM 1672 80.93±0.07

M. morganii AP28 80.59±0.09

R. planticola ATCC 43176 78.30±0.06

R. planticola 4131 78.29±0.09

R. planticola 8433 78.37±0.07

E. aerogenes ATCC 43175 79.81±0.08

E. aerogenes 8D29 79.86±0.07

E. aerogenes 5-6-3011 79.76±0.05

P. damselae subsp. damselae ATCC 33539 76.48±0.08 P. damselae subsp. damselae JCM 1666 76.10±0.09 P. damselae subsp. damselae 6J29-1 76.48±0.08

P. vulgaris AU34 78.08±0.06

P. vulgaris AU33 78.05±0.08

P. vulgaris AU36 78.10±0.06

Erwinia spp. MB31 78.89±0.08

Table 10 Observed hdc gene amplicon melting temperature of psychrophilic Hm producing bacteria.

Strain melting temperature (°C)

P. phosphoreum IAM 12085 78.65±0.07

MB36 78.41±0.01

2-8-1510 78.69±0.04

5-4-1520 78.62±0.09

P. iliopiscarium 6C1521 77.81±0.09

P. kishitanii ATCC BAA-1194 78.49±0.00

4D152 78.64±0.03

7I1524 78.64±0.07

7-9-1517 78.64±0.08

P. aquimaris 8I156 76.97±0.05

N14 76.85±0.04

Fig. 6 Alignment of partial histidine decarboxylase gene sequence of Hm producing bacteria. Red square box: primer position. Residues conserved in all the isolates are on

Fig. 7 PCR detection of Hm producing bacteria using hdcH-f/hdcH-r as primers. Lanes: M, 100 bp DNA ladder marker; 1, M. morganii ATCC 35200, 2, R. planticola ATCC 43176, 3, E. aerogenes ATCC 43175, 4, P. damselae ATCC 33539, 5, P. vulgaris AU34, 6, Erwinia spp. MB31, 7, P. phosphoreum IAM 12085, 8, K. pneumoniae 5A15, 9, Distilled water.

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9

Fig. 8 Melting curve for mesophilic Hm producing bacteria. Pink: P. damselae subsp.

damselae, blue: P. vulgaris, aqua: R. planticola, purple: E. aerogenes, yellow: Erwinia spp., green: M. morganii.

Fig. 9 Different melting curve of 134bp hdc gene for six mesophilic Hm producing bacteria species. . P. damselae subsp. damselae(pink), P. vulgaris (blue), R. planticola (aqua), E. aerogenes (purple), Erwinia spp. (yellow ocher), M. morganii (green). The P.

vulgaris AU34 was selected as reference strain for plotting graph, and is represented with base line.

M. morganii AP28

Fig. 10 Melting curve for psychrophilic Hm producing bacteria. red: P. phosphoreum, pink:

P. iliopiscarium, blue: P. kishitanii, green: P. aquimaris.

P. iliopiscarium Strain 6C1521

P. aquimaris

Fig. 11 Different melting curve of 134bp hdc gene for P. phosphoreum (red), P.

iliopiscarium (pink), P. kishitanii (blue) and P. aquimaris (green). The P. aquimaris strain 8I156 was selected as reference strain for plotting graph, and is represented with base line.

P. aquimaris Strain N14

Fig. 12 Different melting curve of 134bp hdc gene for P. phosphoreum (red), P. kishitanii (blue) and Erwinia spp. (yellow ocher). The Erwinia spp. strain MB31 was selected as reference strain for plotting graph, and is represented with base line.

総括

Hm食中毒は、主に水産食品を原因食品として現在も散発的発生しており、食品 衛生上・品質上重要な問題となっている。そのため、本研究においてはHm食中毒 のリスク評価および迅速な原因究明に寄与することを目的とし、鮮魚における低温 性・中温性Hm生成菌の分布、低温下における低温性Hm生成菌の魚肉中における 挙動を調査することで、鮮魚中におけるHm蓄積のリスクに関する知見を得ると共 に、HRMAを用いた迅速同定法の検討を行った。

本研究では第1章において、鮮魚より中温性・低温性Hm生成菌の分離及び同定 を行った結果、本実験で用いた全ての魚種において中温性・低温性Hm生成菌双方 の汚染が確認された。さらに、中温性Hm生成菌のみならず、低温性Hm生成菌に おいても、分離菌株の中に高いHm 生成能を有する菌株が確認された。そのため、

中温性Hm生成菌のみならず、低温性Hm生成菌にも、広範囲の魚種においてHm 蓄積を起こす可能性が示唆された。また、低温性 Hm 生成菌においては、P.

iliopiscarium, P. kishitanii, P. aquimaris等の菌種が低温性Hm生成菌として初めて分 離された。これらの菌種の中で、500 mg/L以上の Hm 生成を示す菌株が存在する ことから、主な低温性Hm生成菌であるP. phosphoreumと同様にHm食中毒の危害 菌となる可能性が考えられた。

そのため第2章において、P. phosphoreumとP. iliopiscariumの分離菌株の中で、

高いHm生成能を示した菌株を用いて低温下における増殖およびHm生成を調査し た。その結果、P. iliopiscariumの分離菌株は魚肉中においてもP. phsphoreumと同等 のHm生成能を示した。そのため、今後の研究において、P. phosphoreumと同様に、

これらの菌種に関しても Hm 生成能や hdc 遺伝子の解析を行う事で、より低温性 Hm生成菌によるHm蓄積のリスク評価に寄与することが求められる。

さらに、第 3 章において、低温性および中温性 Hm 生成菌の迅速同定法として HRMA の検討を行った。その結果、中温性 Hm 生成菌においてはシーケンシング の代替法として利用可能であることが示唆され、低温性Hm生成菌においても、同 様に利用できる可能性が考えられた。特に、本手法は微生物検査現場における簡便 な同定法としての利用が期待されていることから(Ruskova and Raclavsky 2011)、

今後食品製造における応用が検討されることが期待される。

Hm食中毒の予防としては主に温度管理が重要視されているが、本研究において、

低温条件下でも低温性Hm生成菌によるHm蓄積が起こる危険性が示唆された。こ の結果より、温度管理ではHm食中毒の発生リスクを完全に抑制する事は困難だと 考えられた。そのため、低温性Hm生成菌のHm蓄積のリスクを考慮に入れたうえ

で、多量のHmが蓄積された食品が流通することを防ぐ必要がある。さらに低温流 通下におけるHm蓄積が発生する可能性から、流通工程においても食品中のHm量 の増加が懸念される。FDAやCodex 等において、食品中のHm 量に関する規制値 および基準値が設けられているが、我が国では、現在までHm量に対する規制値は 設定されていない。それゆえ、食品流通工程におけるHm量の増加が発生した場合、

対応が困難となりうる可能性がある。そのため、今後は規制値の検討や検査体制の 構築等による本食中毒の予防が望まれる。また、本研究で検討を行ったHRMA 法 は、加工品における食中毒事例においても、迅速かつ簡便に原因菌の同定を行える 可能性がある。そのため、今後は食品への応用を検討することによって、Hm食中 毒の迅速な原因究明への貢献が望まれる。

本研究において、中温性Hm生成菌と共に、低温性Hm生成菌がHm食中毒の発 生リスクを有している事を改めて示すと共に、Hm食中毒の迅速な原因究明を行う ために、HRMA による迅速同定法を用いることができる可能性を示唆した。今後 本研究で得られた知見が、Hm食中毒の予防及び原因究明に寄与することが期待さ れる。

ドキュメント内 博士学位論文 (ページ 37-64)

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