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第4章 身体障害者への音楽療法:Cymis 演奏が QOL に及ぼす影響

4.3 結果

4.3.1 Cymisのアクセシビリティー

Cymisノートの記録より,Cymisへのアクセシビリティーが次のように確認され

た.2016年の時点でCymis演奏を行っていた利用者の数は34名(54名中,63%),

継続期間の平均は5.6年であった.利用者は,1回につき15分程度をほぼ週1回の 頻度で演奏していた.タッチスクリーンは20名(59%),スイッチは13名(38%),

呼気圧デバイスは1名により使用された(3%).

4.3.2 Cymis演奏における上達

2016 年 1 月の時点における各々の利用者の演奏と,Cymis ノートに記録された

Cymis演奏開始初期の演奏とを,CRSにより比較した.演奏における上達(すなわ

ちCRSの減少)は,31名中13名(42%)にみられた.17名(55%)は変化無し,

そのうち5名は,進歩・上達がみられたが後に元の段階に後退した.1名(3%)は,

後退(すなわちCRSの上昇)がみられた(図4-2).

図4-2 31名のCymis 上肢機能評価スケール(CRS)の変化

4.3.3 Cymis演奏による心理的効果

述べ395回分のCymis演奏に対して,フェイススケールによる心理的評価が行わ

れた.図4-3は395 回分の演奏前後におけるフェイススケールの値の変化を,上昇

(+1~4),変化なし,下降(-1~4)に分けて割合を示している.202回の演奏(51%)

において,フェイススケールの値が上昇したことにより,Cymis の演奏後には,演 奏前よりも,利用者がより楽しい気分になっていることが示された.145 回の演奏

(37%)については,「変化なし」であった.48回の演奏(12%)については,値が

-1 0 1 2

改善が見られた(42%)

変化なし(55%)

悪化した(3%)

CRSの変化

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下降した.値の下降については,利用者が身体的疲労や,痛みや疲れのために思うよ うに演奏ができなかった時に下降という結果となった.全体としては,演奏前よりも 演奏後の方が気分は楽しい方向に移行したといえる(図4-3).

図4-3 Cymis演奏前後におけるフェイススケールによる心理的評価

78 4.3.4 ケアプラン要因

音楽療法士を含む職員 4 名の調査により得られた 15 名の利用者のケアプラン要 因に関する情報に基づき,SCPi-P (%)が算出された(図4-4,表4-3).

SCP1-P(音楽への関心),SCP2-P(達成感),SCP3-P (他者から認められるこ

と)の値は,ほぼ同じ(22.1-26.6%)であり,他の要因(9.2-17.2%)の値より も,相当に大きかった.ケアプランの観点から,Cymisは要因CP1,CP2,CP3に とって相当に意義のあるものであったといえる.CP4(コミュニケーション)および

CP6(日中活動の充実)の重要性は,部分的に数名の利用者から,また CP5(運動

制御)については,2,3名の利用者によって認められた.

これらの結果から,Cymis演奏は,利用者がCymis演奏によって音楽を楽しみ達 成感や他者から認められることにより,精神的な充足を得るために意義あるもので あり,音楽療法として有効であることが示唆された.

図4-4 ケアプラン要因CP1-CP6のSCPi-P (%)

27%

24% 22%

17%

1% 9%

SCP1-P: 音楽への関心

SCP2-P: 達成感

SCP3-P:他者から認められること SCP4-P:コミュニケーション SCP5-P:運動制御

SCP6-P:日中活動の充実

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表4-3 利用者15名のケアプラン要因:CP-E (i), SCP (i),SCP1-P 利用者 CP-E(1) CP-E(2) CP-E(3) CP-E(4) CP-E(5) CP-E(6)

1 0.3 0.3 0.2 0.3 0.0 0.0

2 0.3 0.3 0.3 0.0 0.0 0.0

3 0.6 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0

4 0.2 0.2 0.2 0.0 0.2 0.2

5 0.3 0.3 0.2 0.2 0.0 0.0

6 0.0 0.3 0.3 0.3 0.0 0.2

7 0.3 0.4 0.4 0.0 0.0 0.0

8 0.2 0.2 0.2 0.2 0.0 0.2

9 0.3 0.2 0.3 0.3 0.0 0.0

10 0.3 0.3 0.3 0.0 0.0 0.2

11 0.3 0.3 0.3 0.2 0.0 0.0

12 0.3 0.2 0.2 0.0 0.0 0.2

13 0.2 0.2 0.2 0.2 0.0 0.2

14 0.2 0.2 0.2 0.2 0.0 0.2

15 0.3 0.0 0.3 0.3 0.0 0.0

SCP1 SCP2 SCP3 SCP4 SCP5 SCP6

SCPi 4.0 3.3 3.6 2.6 0.2 1.4

SCP1-P SCP2-P SCP3-P SCP4-P SCP5-P SCP6-P SCPi-P

(%) 27 22 24 17 1 9

*i はケアプラン要因の番号

80 4.3.5 利用者の感想など

利用者からは,Cymis に関する思いや感謝の気持ちなどが,言葉や行動によって 示された.以下に5名の利用者から寄せられた言葉等を記述する.

利用者A氏(女性)は,自分自身で描いた絵を添えて,支援者に手紙を渡した.

“Cymis に感謝しています.なぜなら Cymisは私に人生を取り戻してくれたから.

Cymisは音楽とともに生活する喜びを与えてくれました”

利用者 B 氏(男性)は,瞬きでのみ,コミュニケーションが可能であり,Cymis を頭(首)の動きのみで演奏することができるが,同様のメッセージを支援者に伝え た.

利用者C氏(女性)は長い期間,家族と疎遠であったが,“私は音楽を演奏するこ とができる.どうか,私が演奏しているところをビデオに撮影して,家族に送ってほ しい”と担当の職員に依頼した.

利用者D氏(女性)40 歳は.失語症のため全く話すことができなかったが,ある 日,Cymisを演奏しながら,日本の歌を歌い出した.

利用者E氏(女性)は,自分の演奏を録音して,楽譜を見ながら聴きかえすこと により,楽譜の読み方を学んだ.この女性は,チェコ共和国のプラハに招かれて,ク ライスラーによる「愛の挨拶」の曲を,ドボルザークホールにて演奏し(坂根 2012),

その演奏はオーケストラメンバーや聴衆に強い感動をもたらした.

これらのことから,Cymis 演奏が利用者の人生や生活そのものに強く深い影響を 与えるような,かけがえのない経験をもたらしていることが示された.

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