第4章 身体障害者への音楽療法:Cymis 演奏が QOL に及ぼす影響
4.2 方法
4.2.6 ケアプランの調査
2015 年には,19 名の利用者が自分自身のケアプランとして,Cymis 演奏を選択 した.このこと自体が,利用者にとってCymisが重要かつ有用であることを示唆し ている.ケアプランについて検討する目的は,利用者がCymisを選択した主な理由 を明らかにすることである.ケアプランにCymis を取り入れている19 名中,知的 障害などにより本人が自分自身の考え等を伝えるのが難しい利用者,また入居して 1 年未満の利用者を除き,本人から,気持ちや考えを伝えてもらうことが可能な15 名の利用者を調査対象とした.調査の手順は以下の通りである.
(1)ケアプラン要因の決定
まず,Cymis がケアプランの一環として位置付けられた主な要因を設定した.こ れを「ケアプラン要因:Care Plan Factor」とした.6つのケアプラン要因(CP1~
CP6)は,担当職員と利用者からの聞き取りから得られた情報に基づいて選定され た.
表4-2 ケアプラン要因
要因 例
CP1 音楽への関心 ・音楽が好き.
・音楽を演奏したい.
CP2 達成感 ・以前は音楽を演奏できなかったけれども,弾ける ようになった.
・自分自身で音楽を奏でられるのは,とても楽しい.
CP3 他者から認められる こと
・他の人から認められ,尊敬(賞賛)してもらえる.
・みんな(他の人達)の前で演奏するのは,楽しい.
CP4 コミュニケーション ・演奏を通して,職員や他の人たちと交流すること ができる.
CP5 運動制御 ・上肢の運動機能を訓練して向上させるために良い.
CP6 日中活動の充実
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(2)ケアプラン要因CPi値の評価
調査の第2段階として,利用者からの聞き取りに基づき,担当職員が利用者の CPi-値(ケアプラン要因CPiの価値.iはケアプラン要因の番号)を1~5点で評価した.
CPiが高いほど,その要因にはより大きな意義があると判断される.
CP-E (i)値(CP評価値)の算出の方法は下記の通りである.
例)利用者A氏
① 利用者Aより,CPi値の生データを得る.
CP1=3 CP2=5 CP3=4 CP4=2 CP5=4
CP6= 回答なし
② 重要と思われる要因のみ抽出する.そのために,点数が4点以上のもののみを 選択する.なお3点以下のCPiは全て0とする.
抽出された要因
CP2=5 CP3=4 CP5=4
③ ②で選択した点数の総計が,1.0になるように変換し,CP-E (i)とする.
総計 5+4+4=13 CP-E(2)=5/13=0.38 CP-E(3)=4/13=0.3 CP-E(5)=4/13=0.3 その他のCP-E(i)=0
なお一人の利用者につき,6種のCPi値の合計は1.0である.
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(3)ケアプラン要因の合計,SCPi値の算出
第3段階として,全15名の利用者における最も重要なケアプラン要因を明らかに するために分析を行い,ケアプラン要因として,15名分のCP-E(i) の合計を算出し た.その合計値は,SCPiとした(iはケアプラン要因の番号).さらに要因を変換さ せて,調査に使った6つのSCPi値が得られた.その値を,15名への利用者への全 体の合計値15.0をパーセンテージ(%)で表した.
算出方法は下記の通りである.
④ 例として,3名の値を以下の通りとする.
利用者A氏 CP-E(2)=0.38,CP-E(3)=0.3,CP-E(5)=0.3 利用者B氏 CP-E(1)=0.2, CP-E(2)=0.8
利用者C氏 CP-E(1)=0.4, CP-E(5)=0.6
⑤ SCPiの値は,これらの和である.仮に,A氏,B氏,C氏,3名のみが対象と すると,下記のようになる.
SCP1=0.2+0.4=0.6 SCP2=0.38+0.8=1.18 SCP3=0.3
SCP4=0
SCP5=0.3+0.6=0.9 SCP6=0
これらの値の和は,3名で3.0となる.SCPiを%で表す(SCPi-P)と下記のよう になる.
SCP1=0.2+0.4=0.6 → SCP1-P= 0.60/3×100=20%
SCP2=0.38+0.8=1.18 → SCP2-P= 1.18/3×100=39%
SCP3=0.3 → 以下,同様の計算 10%
SCP4=0 0%
SCP5=0.3+0.6=0.9 30%
SCP6=0 0%
本研究では,同様の計算方法により対象の15名についてSCPi-Pを算出している.
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