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第 2 章 高齢者のための音楽療法:Cymis 合奏システム導入の試み

2.3 結果

2.3.1 演奏の分析

ガイドの効果

参加者1~5の演奏のRSMEの平均の一覧を示す(表2-1).

ガイド有,無全部10回分(メロディー演奏5回[ガイド有3回,無2回,ただし 参加者2のみ,各グループ3名ずつに揃えるために,他の参加者の2倍の回数演奏,

ガイド有で6回,ガイド無で4回演奏.そのうちガイド有6回目はデータ欠損],3 パート合奏5回[ガイド有3回,ガイド無2回,参加者4はメロディー奏と同様の 理由により,ガイド有で6回,ガイド無で2回演奏]).

メロディー演奏の場合,参加者1,2,3ではガイドの有無でRMSEの値に大きな 違いがない,またガイド無の方が小さい値を示していることもある.メロディー演奏 の場合はガイドの有無は演奏にあまり影響を与えていないように思われる.逆に,参 加者4,5はガイド有の方がRMSE の値が小さい傾向にあり,ガイドの効果があった と考えられる.

パート演奏の場合,参加者5以外はガイド有の方がRMSEの値が小さい.さらに メロディー演奏に比べても,ガイド有の場合のRMSEの値が小さくなっている.こ れは,メロディーに比べてベースやコードの方が音符が少なく,演奏が比較的簡単で あったことで,ガイドを見ながら演奏する余裕が生まれたためではないかと思われ る.逆に,ガイド無の場合,周りと音を合わせて音を奏でなければいけないために難 しくなりRMSEの値が大きくなったものと考えられる.

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表2-1 5名の参加者によるガイド有,無の演奏のRMSE (ms)

備考 参加者1 参加者2A 参加者3 参加者2B 参加者4 参加者5 ガイドの有無

1回目 286 250 307 245 243 379

2回目 251 189 233 237 293 780

3回目 248 240 243 353 298

4回目 273 306 227 247 350 666

5回目 221 247 257 200 747 738

ガイド有平均 262 226 261 241 296 486 ガイド無平均 247 276 242 223 548 702

ガイド有 232 ガイド無 250

        メロディー演奏

グループA グループB

※参加者2全体

※表中、参加者2Aのガイド無1、2Bのガイド無1はそれぞれ7回目、10回目の練習となる。数字の色 は図2-6(a)と対応している。

※表中、参加者2Aと2Bは同一人物である。グループの構成上参加者2には2グループに参加しても らった。

また、グループAの練習を先に行い、その後グループBの練習を行った。つまり参加者2だけは、

ガイド有3回、ガイド無2回、その後再び、ガイド有3回、ガイド無2回の10回練習を行った。

参加者1 参加者2A 参加者3 参加者2B 参加者4 参加者5 担当 ベース メロディ コード

(和音) メロディ ベース コード

(和音) ガイドの有無 6回目 269 180 218 230 128 1270

7回目 114 296 91 234 164 648

8回目 230 260 92 263 218 173

9回目 391 484 430 209 184 177

10回目 358 174 357 382 400 275

ガイド有平均 204 245 134 242 170 697

ガイド無平均 374 329 394 296 292 226 ガイド有 244 ガイド無し 312

パート演奏

グループA グループB

備考

※参加者2全体

36 メロディー演奏におけるエラー

一例として,参加者 4 によるメロディー演奏(ガイド有とガイド無)の時間差エ

ラー,Tacid (n) を各音符に対してプロットして図2-5に示す.全体として,ガイド

無のエラーTacidは,ガイド有よりも大きい.ガイド有演奏(1回目)のRMSEは,

243ms,ガイド無演奏(4回目)におけるRMSEは,350msである.

ガイド無演奏Tacid の平均は220ms (SD=272)であるが,これは,参加者が理想 よりも遅いタイミングで個々の音符をポイントしていること意味している.

図2-5 参加者4のメロディー演奏:ガイド有・無におけるエラー(Tacid) 次に,参加者 2の7回目と10 回目のメロディー演奏(ガイド無)を図2-6(a)

に示す.このグラフ曲線を比較すると,エラー,Tacidは,ほぼ同じ箇所で起きてい ることが分かる.

これらエラーを図2-6(b)にプロットして示す.横軸が7回目,縦軸が10回目の 同一の順序番号の音符における Tacid をそれぞれ示している.直線は回帰直線で,

相関係数は比較的高く,0.77である.これは,参加者2はこの2回の演奏において 類似したエラーをしていることを示している.このデータによって,より良く演奏す るために注意を払うべき箇所,音符が示されているといえる.

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図2-6 参加者2のメロディー演奏7回目と10回目(ガイド無)における エラー(Tacid)

(b) メロディー演奏:7回目と10回目の相関 (a) メロディー演奏:7回目と10回目

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さらに,繰り返しの練習の効果が参加者 2 のメロディー演奏に現われている.た とえば,7回目の演奏を示す横軸のTacidの値が618msの時(n=38),10回目の演 奏を示す縦軸の Tacid の値は 286ms と半分以下である.また 7 回目の RMSE は

306ms,10回目は247msであり,これは 10回目の演奏におけるエラーは,7回目

から減少したことを示している.しかしながら,他の 4 名については,今回の少な い回数の演奏の練習においては,これほどの明らかな効果は示されていない.

ベースライン演奏のエラー

参加者4のベースライン演奏から,ガイド有,無の結果の一例を図 2-7に示す.

ガイド無のRMSEは400ms,ガイド有のRMSEは128msである.明らかに,ガイ ド無演奏の方が,ガイド有よりもエラーが大きい.参加者1 と参加者4は,ベース ラインを演奏した.ベースライン演奏(ガイド有)は,同参加者のメロディー演奏

(ガイド有)におけるRMSEよりも小さい(表2-1).

図2-7 参加者4のべースライン演奏:ガイド有・無におけるエラー(Tacid)

39 コード(和音)演奏のエラー

コード演奏に関しては,1小節につき一つのコード(和音)という編曲で演奏して もらった.参加者3のコード演奏(ガイド有)のRMSE平均は,比較的小さく134ms であった.これは同じ参加者3のメロディー演奏(ガイド有)のRSME平均261ms よりもかなり小さい.参加者 5 の演奏は不安定で,コード演奏の方法を学習してい るようにみえた.ガイドの効果を含めてより詳細な分析には,さらに多くの十分なデ ータが必要である.

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