第1章 序論
2. 文献検討
2.5 看護領域における眼球運動測定を用いた研究
2.5.2 結果
2.5.2.1 提示課題と眼球運動測定方法(表1)
国内文献の提示方法では,静止画が最も多く13件であった.動画は2件,模擬病室 やシミュレーションは 7件であった.提示課題の内容は,ベッドサイドでの患者の観察 が 7件,ベッドサイドでの転倒・転落に関連した観察が5件,小児の患児やインシデン ト発生確率の高い場面などの危険予知が 2件,静脈注射指示書の読み取りや点滴,採血,
輸液ポンプなど診療に関するものが 4件,気管内吸引の操作が1件,血圧測定の動作が
2件,乳児の哺乳場面が 1件であった.海外文献では,シミュレーションが多く 7件,
このほか,シミュレーションと実際の臨床環境の比較を行ったもの,実際の手術中に測 定したもの,12誘導心電図の読み取りを行ったものがあった.
2.5.2.2 眼球運動測定と教育成果
国内文献において,眼球運動測定を教育介入としたも のは西村(2013)のみであった.
危険予知教育が,平均注視停留時間および危険箇所のマーキング数が教育後において 有意に増加したと報告している.西方(2014)は,新人看護師に対し入職 3ヶ月と6ヶ月 における視線運動の結果を見せた後,臨床経験豊富な看護師の視線と観察意図を収録し た DVD教材による教育支援を実施している.その結果,気づきとして【経験豊富な看護 師の観察の特徴の分析】,【経験豊富な看護師の観察意図を確認】,【観察の不足箇所 や観察の癖を評価】,【課題の明確化】,【類似した視線の軌跡による安心と成長の自 覚】のカテゴリに分類されたとしている.海外文献においては,教育介入として用いた
ものが3 件(Henneman,2012:O’Meara,2014:Browning,2015)あり,全てシミュレーション教
育におけるデブリーフィングの媒体として使用していた.Henneman(2014)は,シミュレ ーション教育のデブリーフィングとして,参加後に①口頭のみ,②視線軌跡 DVDを渡す のみ,③①と②両方の介入を行い,いずれも教育効果を認めたが,特定の安全対策につ いては視線解析 DVDのみの群で有意に改善したと報告している.
2.5.2.3 臨床経験年数と眼球運動の特徴
1) 看護師の臨床経験年数や学年の違いによって特徴があったもの(表2-1)
① 注視時間,注視回数等
ベッドサイドの観察など看護の日常場面における眼球運動を測定した研究で,河合
(2000)は,看護婦は観察時に注視点が4点に限局化していたが,看護学生は観察の視点
が定まっていなかったとしていた.「看護師が病室を退室前に患者の状態を観察」した 場面では,「ベッドサイド環境」の合計注視時間に,クリニカルラダーなし群とラダー
Ⅳ群の間に有意差を認めたことを明らかにしている(西方,2012).
※NA:not available 表1.提示課題の内容と提示時間
提 示 方 法
対象者の
動 き 内 容 提 示課 題の内容 提 示時 間
(sec) 文 献
静 止 画
固定 ベッドサイド での患 者や 物 品の観 察
画 像Ⅰ:訪 室 時:病室 全 体 画 像 Ⅱ:ベッドサイド① 画 像Ⅲ:ベッドサイド② 画 像Ⅳ:退 室時:病 室全 体
20(5sec × 4 場 面 )
林:2015 画 像 4「看 護 師がベッドサイドに立 ち,患 者の状態 を観察」
画 像 5「看 護 師がベッドサイドに立 ち,患 者の状態 を観察」
画 像 6「看 護 師が病室 を退室 前 に患者の状 態を観 察」
48(8sec × 6 場 面 )
西方:2012
模 擬病 室 画 像 NA 西方 :2014
画 像 1「部 屋 全 体」とし,A(患者の顔 周囲),B(輸液ポンプ),
C(輸 液ボトル),D(点 滴し入 部)の重要 領 域を設 定した.
NA 笠井:2010 ベッドやオーバーテーブルの他 ,危 険因 子となりうる 23 物 品を配
置した模 擬病 室
free 西村:2013 臥 床する患 者の横 で付 き添 い者 が話しかけている場 面 free 河合:2000 危 険予 知 ベッドに端 座位 をとっている高 齢 者が杖 をとろうとしている場 面 10 寺井:2015
左 上下 肢に運動 障 害のある患 者 がポータブルトイレで排泄 を行お うと端 座位 で座 っている場 面
15 米田:2015 写 真 1:オーバーテーブルを利 用 して立 位になろうとする場面
写 真 2:車 椅 子 を手 前に寄せて足 台を跨ぐ場 面 写 真 3:看 護 師が車椅 子 を後 ろへ移 動している場 面
15 (5sec × 3 場 面 )
江上:2012 江上:2011 病 室のベッドで輸 液ポンプを用いて点 滴 を行っている,危 険予 知
の要素 を含んだ小 児の写 真
60 五十 嵐:
2014 静 脈注 射 指
示 書の読み 取り
「素読 課 題」では,指 示書 を模した「点滴 基 材 名,量 ,単 位,+,
薬 剤名 ,量 ,単 位」で構 成 下した 10 パターンの文字 列
「検出 課 題」では,3 パターンの文 字 列 を 30 回 ずつ繰り返した
free 松谷 :2012
乳 児の哺 乳 場 面
育 児関 連 書 籍に掲 載されている画 像 10 枚
①~⑤乳 児の顔が中 心に映っている画 像
⑥~⑩乳 児 と母の体も映っている画 像
150 (15sec × 10 場 面 )
廣瀬 :2013
心 電図の 読み取り
四 肢 12 誘 導心 電 図 を複 数の選 択 肢から読 み取 る
①Ⅰ度の AV ブロック ②洞調 律 ③前壁 梗 塞 ④下 壁 梗 塞
NA Broadbent:20 14
動 画
危 険予 知 インシデント発 生 確率の高い 7 場 面の動 画 600 (10 場 面)
中原:2013 点 滴に関 連
した行 為
シーン 1:抗 生剤 点 滴が終了 したあとに点 滴ロックを行 う「生食ロッ ク場 面」シーン 2:持続 点 滴の更 新を行 う「持 続 点 滴更 新の場 面」
180sec,
120sec
南:2012
実 視 野
free ベッドサイド の観察
模 擬病 室 内に,意 図 的に視 覚で確 認できる 8 つの危 険 因子 と視 覚で確 認できない2つの危 険因 子 を設 定した.
free 大黒:2013 危 険予 知 模 擬患 者が「看 護 学 生 または看 護 師の入 室 直後に,模 擬患 者は
深く左 側 臥位になり,床頭 台の上 のメモ帳 を取りベッドより転 落 し そうになるような行動」をとった.
free 横井:2014
実 際の手 術 中の観 察
典 型的 な帝王 切 開の 4 つの手 術 段 階で分析された NA Koh : 2011 看 護技 術に
関すること
気 管内 吸 引 操作 を実施 することとし、6 つの過 程で分 析された free Colley:2015 外 来採 血 室を模した室 内で採 血 モデルを装 着し座位になってい
る模 擬 患者に対して,真空 管 血 管システムにより血 液 検査 用 と生 化 学検 査 用の 2 本の真空 管 採 血 管に採 血 を実 施する
free 佐藤:2011
精 神作 業 負 荷なし:自 然 な状 態 で輸 液ポンプの操 作を行 う 時 間的 制 約あり:最 初の輸 液ポンプの操 作に要 した時間 の 80%以 内で操 作を行 う
二 重課 題:輸液ポンプの操作に加えて,録 音されたラジオのニュ ースを暗 記するよう求めた.
free Kataoka :2011
血 圧測 定 を行 うように指 示した free 鈴木:1994
村本:1992 模 擬患 者に
対するシミュ レーション教 育
一 般的 な医療 内 容
①急 性心 筋 梗 塞
②血 液減 少 性 ショック
③慢 性閉 塞 性 肺 疾患
1440 (480sec ×3 場 面)
Browning:
2015 O'Meara:
2014 1 つのシナリオに各 2 つずつエラーが含まれる
①自 転車 から転 倒 し,意 識レベル変 化のため入 院 .CT 待 機 中
②息 切れにより救急 受 診 .頭 痛も訴え,鎮 痛薬 を希望
③自 転車 事 故により後側 腹 部 痛 により救急 受 診
④急 性発 症の混 乱や発熱 を伴 う 101 歳の女 性
NA Hennema:
2014
模 擬患 者へ の薬物 投 与 や患 者認 証 時における 確 認
シミュレーション患 者の手 首にペニシリンアレルギーのアレルギー バンドが装 着 ,渡された患 者カルテ,薬 物 情 報にペニシリンアレル ギーについて記載されている状 況 において薬物 投 与を行 う
free Amster:
2015 模 擬患 者に静脈 内 点 滴を投 与するよう指 示.シナリオには同一 患
者 名で指示 とは異なる薬剤 を渡されるというエラーが含 まれる
NA Henneman:20 12
シミュレーションでは,看護 師が静 脈 内投 薬 を投 与する,技 術 者が 血 液検 体にラベルを貼る,および患 者の認 証 バンドに接 触させる ことが含まれている
NA Marquard:
2011 Hennema:
2010 研 究 A:模 擬 患 者は,質 問されたときのみ会話 した.患 者 は ID バ
ンドを持 っていた.参 加 者には薬 物バッグが渡された 研 究 B:実際の臨 床環 境で研 究 A と同 様に薬 物を投 与した
NA He:2014
次に,危険予知を目的とした研究において,看護師と学生の注視行動に違いが認めら れたのは 2つの場面であり,患者の重心や足元が映るエリアは看護師の注視行動が多く,
それ以外は学生の注視行動が多かったと報告している(中原,2013).江上(2011:2012)によ ると,危険箇所 3箇所への注視と危険認知が一致した人数は,学年による主効果が認め られ,多重比較の結果,4年生は他学年より危険認知数が有意に多く,3年生は1年生 より有意に多かったこと,危険箇所を注視してから危険認知するまでの反応時間が短か ったのは 4年生であったと報告している.
また,看護技術に関連した研究として,輸液ポンプ操作場面について明らかにした研 究では,経験豊富および経験の浅い看護師群では,優先度順に作業課題を短縮できたが,
学生群では作業課題の短縮に一貫性がなかったとしている(Kataoka,2011).採血場面での 視線軌跡について明らかにした研究では,看護師の採血針穿刺直後の視線軌跡は刺入部 と針基を行き来しており,看護学生の視線は穿刺後針基に固定されていたことを報告し
ている(佐藤,2011).海外では,看護師と看護学生の 1年生と3年生との心電図の読み取
り時における眼球運動を比較した研究において,看護師は看護学生よりも AOIをより多 く観察し,注視時間も長かったと結論づけている(Broadbent,2014).
② 観察意図,臨床判断,アセスメント等
ベッドサイドの観察において,初心者群は,【現状の情報収集と気づき】と【全体を見 て手掛かりを探す探索的観察】の語りが多かったが,ベテラン群は,【場所・部位を特定 した意図的観察】と【事故防止のための意図的確認】の語りが多かったことを明らかにし
ている(笠井,2013).同様の研究においても,状態を把握するための探索的観察,本人確認,
ライン管理,輸液ポンプの確認は経験の差による違いはなかったが,先を見越した推察力,
危険予知に関する位置評価に関しては,臨床経験豊富な看護師に具体的な語りが多かった としている(西方,2012).転倒リスク場面に関する研究において新人看護師では,重要エリ アを注視せず,想定アセスメントと一致しないアセスメントをしている例が多かったが,
熟練看護師は,重要エリアを全て注視していないにもかかわらず,想定アセスメントと一 致したアセスメントを行っている例が多かったとしていた(寺井,2015).また,米田(2015) は「左上肢」の眼球停留時間については看護師の方が看護学生よりも有意に少ないにもか かわらず,記述内容では看護師の方が看護学生より多くの危険を予測していたとしていた.
このように,臨床経験年数が長い看護師の方が,注視時間が短時間であっても,適切な観