第 6 章 :総括
4. 結果及び考察
4.1 全体の記述
2名の選手の打球位置(偏角)を円写像として描 いたものが図4である.変数xn(X軸)はA選手の 打球位置(偏角)で,x(n+ 1)(Y 軸)は次のB選手 の打球位置(偏角)である.したがって右半分,上半 分は選手が右半分のコートで打球,左半分,下半分 は選手がコートの左半分で打球していることを表す.
60 7080 90 110
60708090110
1g12w
t
t+1
60 7080 90 110
60708090110
1g22w
t
t+1
6070 8090 110
60708090110
1g35w
t
t+1
60 7080 90 110
60708090110
6g22w
t
t+1
60 7080 90 110
60708090110
6g33w
t
t+1
6070 8090 110
60708090110
6g43w
t
t+1
100 100 100
100 100 100
120 120 120
120 120 120
100120 100120 100120
100120 100120 100120
図 4: 打球位置(偏角)の円写像
これらをすべて重ね合わせ,ラリーを線で結んだ ものが図5である.ほとんどが時計回りで丸で囲ん だ4つの点を遷移しているように見える.始点はサー ビスが左右から行われるので右上か左下のどちらか となっている.
70 80 90 100 110
70 80 90 100 110
x1
x0
図 5: 打球位置(偏角)の円写像
これらの4つの点は,ラリーが可能な4コースに 対応して右上から時計回りに,右クロス,右ストレー ト,左クロス,左ストレートである.つまり,コー トの右半分からは右クロスか右ストレートしか打球 できず,左半分からは左クロスと左ストレートしか 打球できない.しかし,前の打球が右半分から右ス トレートに打球されると次は左半分から打球するこ とになる(右ストレートに打球された場合には相手 コートの左半分となるため).したがって,左下の 左クロスか左ストレートの打球コースになるが,こ こで左ストレートを打つことは得策ではなく(打球 した選手が次にクロスに打たれると戻る距離が長く なり失点につながりやすい),結果的に時計回りに これら4点を回ることになる.
この全体のふるまいを表すためにもっとも簡略化 して以下の関数を考えてみた.
xn+1=ψ(xn) =
λ2xn (0< xn <12) λ(2xn−1) (12 ≤xn<1)
(3)
この関数においてλ= 1.0,x0 = 0.2とλ= 0.9,
x0= 0.2としてプロットしたのが図6である.
λ= 1.0,x0= 0.2の場合には,4点を回る時間発 展が表現できるが,λ= 0.9,x0 = 0.2の場合には 様々な値を取ってしまう.しかし,この変数xn,0<
xn<1を打球位置(偏角)とすると,xn= 0.5が偏 角90度,すなわちコート中央のセンターマークの位 置となり,0< xn<12がコート左半分,1
2 < xn<1 がコート右半分と考えることができ,実際のコート という制約の中でのゲーム全体の時間発展をある程 度表現しているといえる.この関数は任意であるこ
集団・対人競技における切替ダイナミクス(山本) 103
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
λ=1.0, x0=0.2
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
λ=0.9, x0=0.2
図6: 式3にパラメータを変えて円写像を描いたもの
とから,今後さらなる検討が必要である.
4.2 部分の記述
ゲームの部分,すなわち個々の選手に注目して,
個々の選手ごとに打球位置(偏角)を円写像にしたの が図7である.つまり,A選手の1(n)回目と2(n+1) 回目の打球位置(偏角)を示している.
6 0 9 0 1 2 0
6 0 9 0 1 2 0
P la ye r A
y = 6 6.91 3 + 0 .1 53 65 x R = 0 .37 48 9 y = 99 .36 1 - 0 .0 30 59 7x R = 0.0 95 23 4
n+1
n
6 0 9 0 1 2 0
6 0 9 0 1 2 0
P la ye r B
y = 7 1.50 5 + 0 .1 10 01 x R = 0 .22 44 8 y = 4 7.69 1 + 0 .5 78 32 x R = 0 .86 07 4
n+1
n
図7: 個々の選手の打球位置を円写像にしたもの
ここでは,各選手とも2(n+ 1)回目の打球位置が,
右が左かで区分し,回帰直線を当てはめている.こ れは,2(n+ 1)回目の入力によって区分していること になり,2(n+ 1)回目の入力が同じであっても1(n) 回目の入力によって,2(n+ 1)回目のふるまいが異 ならないかと考えたものである.
さらに,全体のふるまいを表した関数の逆関数を とって並べたのが図8である.しかしながら,上で 見た,2(n+ 1)回目のふるまいを表す変数の意味が 十分でない.さらに,今後変数を探しながら,妄想 を進めていきたい.
平田智秋先生からのコメントとリプライ
1「全体と部分とは逆写像の関係」という着想が,
私のような「重箱の隅をつつく者」にとっては,あ まりに壮大でした.それ故,この研究の骨格を理解 するのに時間がかかりました.しかし理解した気に なっている現在では,「この研究がさらに進展すれば,
何かが起こりそう」という明るい予感がしています.
勝手な妄想を述べますと,この研究によって「テニ
1枠内がリプライです
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
図8: 全体と部分の関数の予想
スが何を競うゲームなのか」について,力学系の言 葉で記述されうると思います.
もちろん,素っ気ない言い方をすれば「テニスは 得点を競うゲーム」です.ここで,表現の次元を一 つ上げる(下げる?)と,「テニスは得点を取るため に相手のミスを誘うゲーム,もしくはテニスは相手 の打てないショットを打つゲーム」とも言えます.こ の研究が記述するであろう「場」は,さらにひとつ 次元が上がり(下がり?),「相手のミスを誘う,相手 が打てないショットを打つためにテニス選手がせめ ぎあっているゲームの構造とは何であるのか」とな る気がします.ソフトテニスは対人競技であり,こ の「場の構造」を丸ごと記述するには,部分と全体,
2つの切り口があります.この研究は,2つの切り口 をまとめて面倒見ている点で画期的だと思います.
このように妄想含みの理解に基づき,いくつか教 えて頂きたいことが2点があります(この理解が間 違っていたら,ご指導下さい).
1)テント写像の切り替え変数
テント写像は「区分線形」ですから,微分できま せん.そうすると,Xnが0.5以下か,それとも0.5 以上かによって使われる関数が異なります.そうす ると,区分線形の基準となる「Xnとは何か,そし て0.5が意味するものは何か」の定義がとても重要 になる気がします.全体を記述する場合,Xnは単 純にコート中心からの偏角で,これが0.5であるこ と(つまりどの関数を使うかの境目)とは,サービ スセンターライン(偏角90度)と考えてよいので しょうか.そうすると気になるのが,部分を記述す る際のXnです.おそらくこれがストレートで打つ か,クロスを打つかを決める変数となると思います.
部分を記述するXnについて,それが何であると考 えればよいのか,教えて下さい.平たく言えば,部 分を記述する切り替えダイナミクスの「切り替え原 理」が知りたいです.
¶ ³ ご指摘の通りです.というのは部分を記述する 変数が今は打球位置をとっているのですが,こ れでは不十分というか的外れですね.まさに,
連続的な動きの中での体勢といったものが関係 しているように思われてきました.
µ ´
2)居心地の良い場所からの飛び出し
打球位置の円写像をみると,2人のプレーヤーに とって「居心地の良い場所」があるような気がしま す.おそらく改変テント写像に適当な初期値を入れ て,写像をブンブン回して得られる濃度勾配と,実 ゲームでの濃度勾配は異なりますよね.そしてポイ ントが決まる点は必ずしも,その「居心地の良い場 所」では無いように見えます.むしろそれ以外でしょ うか.そうすると,居心地の良い場所を飛び出す時 に何が起こっているのか気になります.たとえばイ ンパクト直前までの,選手の移動速度が急に速くな るとか,インパクトの位置がネットに近付くなど,
ゲームが居心地の良さから飛び出す際に,何か特徴 的な事象はありますか?
書いているうちに,2つの疑問はどこかで繋がっ ているような気がしました.コート中心からの偏角 以外の変数が,切り替え原理になっているとすれば,
それを一つ次元の上がった秩序変数とみなせる,と いうように.
妄想ばかりを書き連ねました.先生の壮大な思考 を,私の狭い了見で十全に理解出来たとは到底思え ません.しかし,この研究が何か新しい地平を切り 拓いてくれそうな予感がしています.今後もこの研 究の発展を教えて下されば幸いです.
¶ ³
まさに上のご指摘とも重なるものです.居心地 のよい場所はある安定点だと考えられます.お 互いにまずは安定点近傍で小さく揺らぎながら,
相手の出方をしかけながら伺い,相手が安定点 から出たところでこちらも安定点から出て勝負 に行くのだろうと思います.もちろん,こちら はずっと安定点にいて,相手を安定点から追い 出すこともあるのですが.その際の特徴的な事 象は今は残念ながら思いつきません.しかし,
今回は写像に囚われ,動きの連続性を見失って います.重要なのは連続した動きを観察するこ とです.テニスは綱引きにたとえられます.一 本橋の上での落とし合いといってもいいかもし れません.その微妙な駆け引きを,再度,動き に注目して全体と部分の妄想を膨らませて行き たいと思っています.
µ ´
105
日 程
(大阪体育大学 OUHSセミナーハウス)
5/8(土) 発表者 内容
受付 11:30
開会 12:00
口頭(L1) 12:10〜12:50 増沢拓也 コーナリング技能習得における路面反力の感覚制御訓練
口頭(L2) 12:50〜13:30 三浦哲都 全身動作における知覚-運動協調モード
口頭(S1) 13:30〜13:55 倉松由子 視覚と体性感覚の制約が立ち上がり動作のCOM制御に及ぼす影
響
ポスター&議論 13:55〜14:05 石橋千征 バスケットボール競技における熟練リバウンダーの知覚スキルと
先行手がかりの関係
田渕規之 バッターにとって打ちやすいバットとは ?
國部雅大 素早い手運動の制御における眼球運動および注視の役割 山下大地 横方向の移動におけるトランジションに関する研究
口頭(L3) 14:05〜14:45 横山慶子 スポーツにおける三者間の社会的相互作用
口頭(L4) 14:45〜15:25 鈴木啓央 打動作運動における複雑性と規則性
口頭(S2) 15:25〜15:50 高橋まどか 回転するバトンのキャッチングの学習
ポスター&議論 15:50〜16:15
口頭(L5) 16:15〜16:55 藤井慶輔 方向転換走の見破られにくさについて
口頭(L6) 16:55〜17:35 福原和伸 コンピューターグラフィックス利用によるテニスサーブの予測判断
に関する研究
口頭(S3) 17:35〜18:00 升本絢也 手指の周期的な等尺性力発揮における筋力とタイミングの学習
懇親会 19:00〜21:00
門限 23:00
5/9(日) 発表者 内容
朝食 7:30〜
口頭(S4) 9:00 〜9:25 工藤和俊 スキージャンプ・金メダリストの身体感覚
口頭(L7) 9:25 〜10:05 樋口貴広 視覚に着目した歩行とリハビリテーション
口頭(S5) 10:05〜10:30 松尾知之 熟練野球指導者の動作指導に関する概念構成
ポスター&議論 10:30〜10:40
口頭(L8) 10:40〜11:20 古田久 大学生版運動不振尺度の開発
口頭(L9) 11:20〜12:00 平田智秋 ブランコ乗りはどこまで自由か ?
昼食 12:00〜13:15
口頭(L10) 13:15〜13:55 田中美吏 プレッシャー下での随意運動課題における皮質脊髄路の興奮性変化
口頭(L11) 13:55〜14:35 山本裕二 集団・対人競技における切替ダイナミクス
総会 14:35〜