始めに述べたように,粘菌や化学反応による実験 的検証や理論モデルにおいて,三つの個体間の相互 作用パターンが示されているが,このうちでも本研 究では,生命体を対象とし,なおかつ実験データを 用いた検証を行っている粘菌の研究(Takamatsu et al., 2001)に準拠して,3vs1ボール保持課題におけ る相互作用パターンを定義する.
三者の挙動を表すパラメータとして,図1に示す ように三名の攻撃者を線分で繋いだ際に形成される 三角形の角度,A,B,Cに着目する.三角形を構 成する角度の総和はπであるため,三つの角度は,
A+B+C=πという関係性を持つ.三つの角度変 化をそれぞれ三軸で当てはめて,3次元の位相プロッ トで表現すると,A+B+C=πの2次元平面内に その軌跡が収まることが分かる.本研究では,この 平面を三者間角度の位相平面と呼ぶこととする.
2.1 回転パターン(R:rotation pattern)
三名が2π/3の位相差を保って同期するパターンを 回転パターン(R)と呼ぶ.これは,化学反応を扱っ た研究において三相パターン(three-phase pattern)
と呼ばれ,カエルの理論モデルの研究において三相 同期(triphase synchronization)などと称されるパ ターンでもある.三者の角度の総和がπであるため,
各角度がπ/3となる場合を基準として,2π/3の位相 差の振動を示したものが図2(a)左である.この変 化を三者間角度の位相平面で表すと,図2(a)の右 に示すように,位相平面の中心点(A,B,C)=(π/3,
π/3,π/3)を中心とした円が描かれる.π/3を中心
として角度変位の振幅が大きくなるほど,位相平面 上で大きな円軌道を描くという特徴を持つ.
2.2 部分逆位相パターン(PA:partial anti-phase pattern)
三名の攻撃者のうち,一名の角度が一定となり,残 りの二名の角度が逆位相で同期するパターンを部分 逆位相パターンと呼ぶ.このパターンは,化学反応 の研究においては,消滅同位相パターン(death in-phase pattern)と称されたパターンに相当する.こ のパターンに類似する特徴として粘菌の研究(Taka-matsu et al., 2001)では,一定となる振動子が二倍
の周期で振動する半周期振動パターン(a half pe-riod oscillation)が挙げられるが,本研究では,モ デルの簡易化のため,化学反応の研究で確かめられ たパターンを採用している.
このパターンに関して3vs1ボール保持課題では,
一定になる角度が三つの角度の最大となる場合(pat-tern I)と,最小となる場合(pat一定になる角度が三つの角度の最大となる場合(pat-tern II)の二つの パターンを想定することができる.図2(b)左では,
これら二つのパターンともに,各パターンの最大お よび最小となる角度が,1/4周期ごとに入れ替わる場 合を示しているが,三者間角度の位相平面で表現す ると両者の違いが顕著となる.それは,角度位相に 沿った三角形(pattern II)と,それとは逆の三角形
(pattern I)といった特徴の違いであり,回転パター ンと同様に,角度変位の振幅が大きくなるほど,三 角形が大きくなるという特徴を持つ(図2(b)右).
2.3 部分同位相パターン(PI:partial in-phase pattern)
二名が同位相で同期し,別の一名は逆位相で同期 するパターンを部分同位相パターンと呼ぶ.これは,
化学反応の研究において,二つが同期した欲求不満 状態(two in-phase frustrated state)と呼ばれ,粘 菌の実験的検証やカエルの理論モデルにおいても確 かめられているパターンである.
3vs1ボール保持課題では三者の角度の総和がπで あるため,逆位相の振幅の大きさは,同位相の2倍 の長さの特徴を持つ(図2(c)左).部分逆位相パ ターンと同様に,1/4周期ごとに逆位相となる角度を 入れ替えた場合を,三者間角度の位相平面上の変位 で示すと,図2(c)右のように(A,B,C)=(π/3,
π/3,π/3)の点から,位相平面の三角形の頂点方向
へと延びる三つの線分で示すことができる.さらに,
上の二つのパターンと同様に,線分の長さは,角度 変位の振幅の大きさに依存して長くなる特徴を持つ.
3. 方法
3.1 参加者
全国レベルの成績を残しているサッカー部に所属 する男子大学生(32名)と,フットサル部に所属す る女子大学生(16名)が実験参加者であった.男子 大学生32名のうちの半数は,チームの主力メンバー であり,残りの半数は,補欠メンバーであった.そ こで,主力メンバーの16名を上級群,補欠メンバー の16名を中級群とした.一方で,女子大学生の多く は,サッカーやフットサルの未経験者であったたた め,初級群とした.
0 pi/3 2pi/3 pi 0
pi/3 2pi/3
pi 0
pi/3 2pi/3 pi
A B
C
0 20 40 60 80 100
0 pi/3 2pi/3
count
Rotation pattern
A B C
0 20 40 60 80 100
0 pi/3 2pi/3
count
Partial anti-phase pattern I
0 pi/3 2pi/3 pi 0
pi/3 2pi/3
pi 0
pi/3 2pi/3 pi
0 20 40 60 80 100
0 pi/3 2pi/3
count
Partial anti-phase pattern II
0 pi/3 2pi/3 pi 0
pi/3 2pi/3
pi 0
pi/3 2pi/3 pi
0 pi/3 2pi/3 pi 0
pi/3 2pi/3
pi 0
pi/3 2pi/3 pi
0 pi/3 2pi/3 pi 0
pi/3 2pi/3
pi 0
pi/3 2pi/3 pi
0 20 40 60 80 100
0 pi/3 2pi/3
count
Partial in-phase pattern I
0 20 40 60 80 100
0 pi/3 2pi/3
count
Partial in-phase pattern II
(a)
(b)
(c)
図2: 三つのパターンにみられる角度変位(左図)と角度位相平面(右図).(a)回転パターン,(b)部分逆位 相パターン,(c)部分同位相パターン(位相平面上の+点は,A=B=C=π/3の点を示している).
スポーツにおける三者間の社会的相互作用(横山) 43
表1: 各パターンに対応する特徴.
pattern 特徴
回転パターン(R) 2π/3の位相差で同期.
部分逆位相パターン(PA) 2つの振動子が逆位相で同期,残りの1つは独立.
部分同位相パターン(PI) 2つの振動子が同位相,残りの1つが逆位相で同期.
3.2 手続
各群を4人ずつ4グループに分け,各グループに つき4試行の3vs1ボール保持課題を90秒間を各群 ごとに16試行おこなった.このとき,グループ内の 4名は,試行ごとに守備者を交代し,試行間は,十 分の休憩をとった.攻撃者には,6m×6m四方内か らボールが出ないように,出来るだけパスをたくさ ん回すようにと,また,守備者には,積極的にボー ルを奪いにいくようにと教示した.守備者がボール を奪った場合には課題を中断し,再び攻撃者がパス を行った時点を課題開始とした.
課題は,上・中級群は,常に練習を行っている人 工芝のグラウンドを,初級群は,体育館にて行った.
前者はグラウンド脇に設置してある撮影用の高い台 から,後者は体育館の2階から,1台のビデオカメ ラで撮影した.
3.3 データ分析
撮影された映像をコンピュータに取り込み,攻撃 者の頭の位置をデジタイズしたのち,2次元DLT法 により攻撃者の2次元位置座標を求めた.ただし,
DLTを行うための基準点(16点)は,それぞれの 群で平均的な身長と考えられる2名の実験協力者が,
2次元平面上の基準点上に垂直に立ち,その時点に おける頭の位置とした(x, y方向の平均誤差(cm); 上・中級群:(2.3,4.6),初級群:(1.3,2.1)).
3.4 指標 運動量
各試行内における攻撃者3名それぞれの平均移動 量(m/sec)を運動量と定義した.ただし,守備者の ボールカットや攻撃者のパスミスなどで課題が途切 れている時間帯を取り除いている.
パフォーマンス
守備者のボールカットや攻撃者のパスミスなどに よってパスが途切れず,連続して繋がったパスの本
数を試行内で平均した数,すなわち平均連続パス数 をパフォーマンスと定義した.
位相平面上の広がりの大きさを評価する指標 位相平面上の軌跡の広がりの大きさを評価する指 標として,軌跡と重心との距離をDCG(distance from center of gravity)と定義する.重心とは,三 つの角度がすべて等しくπ/3(A=B =C=π/3)
であるため,その点からの距離は以下のように定式 化される.
DCG=√
(A−π/3)2+ (B−π/3)2+ (C−π/3)2 DCGの最大値は,重心から最も離れた位置である 位相平面上における頂点に相当する.つまり,ひと つの角度がπとなり,残りのふたつが0となる場合 である.したがってDCGの範囲は,0≦DCG≦
√2/3π(≒2.56)となる.
位相平面における広がりの方向を評価する位相領域 位相平面上の分布の広がりの方向を評価する指標 として,2種類の領域を定義する.そのために,位 相平面のひとつの頂点から重心を通って対辺へと下 ろされた垂線に注目する.この垂線は,三者間を結 んだ際にできる三角形の三つの角度のうち,二つの 角度が等しい三角形,すなわち二等辺三角形となる 場合である.この二等辺三角形の形状は,垂線を分 ける重心を境に異なる特徴を持つ.ひとつは,重心 と頂点を結ぶ線分上における形状である.ここでは,
2つの互いに等しい角,すなわち底角(base angle)
よりも,等しい2本の辺がつくる角,すなわち頂角
(vertex angle)のほうが大きいという特徴を持ち,
位相平面上の軌跡が重心から離れるほど頂角が大き くなる.もうひとつは,重心と対辺の中点を結ぶ線 分上における形状である.ここでは,底角よりも頂 角のほうが小さく,重心から離れるほど頂角が小さ くなるという特徴を持つ.つまり,三者間を結んだ 際にできる三角形を構成する三つの角度のうち,あ るひとつの角度が大きくなる場合は,位相平面上の
(b)
0 5 10 15 20
pass series
**
***
*
0 10 20 30 40 50 60 70
m/min
(a)
SD
***
***
High Middle Low High Middle Low
図3: 運動量とパフォーマンス,三者間を結んだ三角形の形状に関する群間の比較.a. 1分間の平均移動量,
b.平均連続パス数(∗ ∗ ∗p < .001, ∗ ∗p < .01,∗p < .05).
軌跡は頂点方向へ向かう.逆に,あるひとつの角度 が小さくなる場合には,軌跡が対辺方向へと向かう のである.以上のことから,重心と頂点を結ぶ3本 の線分,重心と対辺の中点を結ぶ3本の線分といっ た,位相平面上の軌跡の方向の違いは,三角形の形 状を評価できるものと言える.
そこで,位相平面の重心を原点,二種類の線分を基 準として±5度の範囲内を回転させたとき,重心と 頂点を結ぶ3本の線分を基準とした領域を頂角最大 領域(MaxVA:the area of maximum vertex angle),
重心と対辺の中点を結ぶ3本の線分を基準とした領 域を頂角最小領域(MinVA:the area of minimum vertex angle)とする.
4. 結果
4.1 運動量とパフォーマンス
各群16試行×3名の運動量に関して群間で比較し た結果が,図3aである.分散分析を行ったところ,三 群に有意な主効果がみられた(F(2,141) = 22.865,
p < .001).さらに,Tukeyの方法による多重比較 を用いて下位検定を行った結果,上級群が,中・初 級群よりも有意に運動量が低いことが認められたが
(p < .001),中級群と初級群には有意な差は認めら れなかった(p= 0.592).このことから上級群は,
中・初級群と比較して,特に運動量が少ないことが 確かめられた.
各群16試行のパフォーマンスに関して群間で比較 した結果が,図3bである.分散分析を行った結果,三 群に有意な主効果が認められた(F(2,45) = 16.587,
p < .001).さらに,Tukeyの方法を用いて多重比 較を行ったところ,上級群と中級群,初級群にそれ ぞれに有意な差が認められた(上−中群:p < .01,
上−初群:p < .001,中−初群:p < .05).つまり,
上級群ほど,パフォーマンスが高いことが確かめら
れた.
以上の結果から,中・初級群と比較して上級群は,
少ない運動量でより高いパフォーマンスが発揮され ることが示唆された.
4.2 三者間角度の位相平面
連続してパスが繋がった20秒間を例に,三者が構 成する三角形の角度の時系列変化と,三者間角度の 位相平面を示したものが図4左である.グラフ下方 に示した線分は,各攻撃者がボールを保持した時間 帯を示しており,線分が途切れている時間帯は,い ずれの攻撃者もボールを保持していない,パスの時 間帯を表している.上級群は,π/3を中心として三 者が小さく振幅しているが,中・初級群は,大きく 振幅している様子が伺える.これらの違いは,図4 右で示した三者間角度の位相平面に対応させると明 確である.つまり,上級群の小さな振幅は,位相平 面の重心付近での軌跡として表現され,中・初級群 の大きな振幅は,位相平面上の重心から離れた領域 での軌跡として表現される.
こうした位相平面上における軌道をcountor plot で表現したものが,図5である.ここでは,各群の全 試行を通じた時間頻度が示されている.色で塗りつ ぶされた領域のうち,明るい色ほど全試行を通じて 生起頻度が高いことを表し,暗い色ほど生起頻度が 低いことを表す.一方で,色で塗りつぶされていな い白色の領域は,生起しなかったことを示している.
4.3 位相平面上における軌跡の広がり
DCGに関して各群の全試行を通じた時間頻度の 分布を示したものが図6である.両群ともにDCG= 0.5付近をピークとする分布であり,DCG= 0を示 す場面が非常に少ない.正規分布とは異なる特徴で あったことから,各試行に関して分布の中央値を求 め,クラスカル・ウォリスの検定を行った結果,三