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結果および考察

第5章 真空浸炭処理の実用部品への適用

5.6.3 結果および考察

(a)摩擦摩耗試験結果

図5.17にスガ式摩耗試験機による繰返し数と摩耗量の結果を示す。摩耗量の最も少ない 熱処理条件はパルス条件で浸炭13s、拡散5minであり、繰返し数2000回での摩耗量は現 行の真空焼入材の115mgに対して 90mgで、およそ30%耐摩耗性が改善した。

組織観察の結果、パルス浸炭時間が長くなると炭化物の析出量が多くなり、マトリック ス中の Cr 量が減少するため、不完全焼入組織であるトルースタイトが析出し、耐摩耗性 は反って悪くなる。すなわち、耐摩耗性の向上のためには、適量浸炭することが重要とな る。

0.000 0.020 0.040 0.060 0.080 0.100 0.120 0.140 0.160 0.180 0.200

0 400 800 1200 1600 2000

摩 耗 量(

)g

素材

(42)1050℃×2H 真空

(44)1050℃×4H 10秒+5分 0.5ℓ/分 (45)1050℃×4H 13秒+5分 0.5ℓ/分 (46)1050℃×4H 20秒+5分 0.5ℓ/分 (47)1050℃×4H 30秒+5分 0.5ℓ/分 (54)1050℃×4H 45秒+5分 0.5ℓ/分 (53)1050℃×4H 60秒+5分 0.5ℓ/分

(42)1323K×2h 真空

(44)1323K×4h 10s+5min 0.5ℓ/min (45)1323K×4h 13s+5min 0.5ℓ/min (46)1323K×4h 20s+5min 0.5ℓ/min (47)1323K×4h 30s+5min 0.5ℓ/min (54)1323K×4h 45s+5min 0.5ℓ/min (53)1323K×4h 60s+5min 0.5ℓ/min

繰返し回数(cycles)

摩耗量(g)

図5.17 SUS440C鋼の摩耗量に及ぼすパルス浸炭条件の影響

図5.18にトライボギア試験機による測定回数とSUS440C鋼荷重1kgfにおける摩擦係数 の関係を示す。

真空焼入材に対してパルス浸炭処理材はいずれも摩擦係数は低く、27%の改善が認めら れた。

(b)光学顕微鏡組織

真 空 焼 入 材 よ り も 摩 耗 量 で 30% 、 摩 擦 係 数 で 27% 改 善 で き る 真 空 浸 炭 条 件 は 、 真空浸炭として1323K×4h、パルス浸炭は浸炭

時間13s、拡散時間5minとなる。

図 5.19 および図 5.20 に腐食液としてビレラ 溶液(アルコール+塩酸+ピクリン酸)を用いた 真空焼入材とパルス浸炭処理材の光学顕微鏡組 織を示す。パルス浸炭処理材の表面近傍の炭化 物量は真空焼入材のおよそ 2 倍で、このことが 耐摩耗性の向上と摩擦係数の低下につながって いると考えられる。

硬さは現行の真空焼入材の778HVに対し、パ ルス浸炭処理材では 843HV に向上した。硬さの上昇には浸炭による炭素量の増加および 炭化物の寄与が考えられる。

20µm 20µm

(腐食液:ビレラ溶液)

図5.19 真空焼入材の顕微鏡組織

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

0 10 20 30 40

測定回数

摩 擦 係 数

10秒+5分 13秒+5分 20秒+5分 30秒+5分 図5.18 トライボギア試験機による摩擦摩耗試験

1323K×2 h 真空焼入

パルス浸炭 1323K×4 h

10s+5min 13s+5min 20s+5min 30s+5min

摩擦係数

測定回数(cycles)

表面部 表層より 0.2mm

表層より 0.4mm

表層より 0.6mm

表層より 0.8mm

表層より 1.0mm

図5.20 パルス浸炭処理材開発の顕微鏡組織 20

(腐食液:ビレラ溶液) µm

5.7 結 言

次世代型真空浸炭炉を用い、実用部品の試作開発および量産を実施し、真空浸炭の利点 の具体的効果を確認した。

実用部品への適用により以下の結果を得た。

(1)カーエアコン用半球シューへの適用では、CD浸炭処理を施すことにより耐カジリ性 が改善され、焼付や摩耗などの熱処理に起因する問題はない。

(2)摺動部品用ベアリングへの適用では、ガス浸炭時間18hを真空浸炭時間10hに8h 短縮でき、真空浸炭が高速度浸炭といわれる所以を検証した。さらにφ5の深孔内部も外 周部と同様に均等に浸炭されている。

(3)自動車用ネジ軸への適用では真空浸炭の特徴である光輝性により、ガス浸炭におけ るラップ工程の省略による工数低減を実現できる。

(4)粉末成形歯車の適用では、CD浸炭による浸炭層の改質を粉末成形品に施し、品質面 の向上と処理時間短縮 4hを達成できる。

(5)ステンレス鋼製摺動製品への適用ではマルテンサイト系ステンレス鋼へ真空浸炭処 理を施し、耐摩耗性をおよそ30%向上し、摩擦係数を27%改善できる。

以上、真空浸炭の代表的な特徴である、①CD 浸炭を代表する表面改質に優れている、

②浸炭バラツキが少ない、③浸炭速度が速い、④深孔内部まで浸炭できる、⑤光輝性がよ い、⑥粒界酸化・異常層がない、⑦ステンレス鋼にも浸炭可能、の7項目について実用炉 で検証できた。一方、炉内部品である炉内耐熱部品およびステンレス製熱処理治具も浸炭 されるため寿命が著しく低下する問題も明らかになった。これらの問題点に対する対応策 は第6章で述べる。