第5章 真空浸炭処理の実用部品への適用
5.3.3 結果および考察
図 5.5はベアリング断面の浸炭マクロパターンを示したものであり、外周部、ボール溝 部および循環孔の内部も均等に浸炭されていることが確認できる。
図 5.6は外周部、ボール溝部および循環孔部の硬さ分布を示す。浸炭ガスの流気性の良 好な外周部は他に比べて有効浸炭深さが 0.2mm 深くなっている。循環孔は深孔にもかか わらずボール溝部と同種の硬さ分布である。ガス浸炭における中央部深孔の浸炭深さはお よそ0.8mmに対して真空浸炭では1.6mmであり、真空浸炭の特徴である深孔の浸炭が実 現している。
図5.7は熱処理ロット30回の硬さ分布を示す。有効浸炭深さは1.45mm~1.70mmでバ ラツキ幅は0.25mmであった。半球シューの場合と同様にバラツキ幅はガス浸炭における バラツキ 1.10mm~1.65mmに対してのおよそ1/2である。
真空浸炭法に移行する前のガス共析浸炭における熱処理条件1203K×13hに対して、真 空浸炭では 1223K×7h で同じ浸炭深さが得られた。高速浸炭可能な真空浸炭により浸炭 時間が5h短縮できる。
図5.5 ベアリングの浸炭マクロパターン
図5.6 ベアリングの各部位における硬さ分布曲線 表面からの距離(㎜)
ビッカース硬さ(HV)
図5.7 ベアリングの硬さ分布曲線のn=30、ロット間バラツキ 表面からの距離(㎜)
ビッカース硬さ(HV)
図 5.8はベアリングの各部位の光学顕微組織を示す。各部位とも表面には粒界酸化によ る異常組織は認められない。浸炭ガスの流気性の良好な外周部の最表面には、マルテンサ イト組織の中に微細な球状セメンタイトがわずかに認められるが、1µm以下の粒状のため 問題とはならない。ボール溝部および循環孔部の表面では初析セメンタイトは確認されな いが、外周部と同じ硬さであることから焼入れ温度1073KのAcmに近い炭素量のマルテ ンサイト組織と考えられる。非浸炭部の芯部組織は数パーセントの初析フェライトを含む 低炭素マルテンサイト組織であり、良好な芯部組織である。
前記のように、ガス共析浸炭から真空共析浸炭への移行により、浸炭時間を 5h 短縮で き、さらに深孔である循環孔の内部にもボール溝部と同じ浸炭深さを得ることができる。
前者は生産性の向上、後者は耐久性の改善に寄与することから、真空浸炭による量産体制 を構築できる。
(a) 外周部 20µm (a) ボール溝部
(d) 非浸炭部(芯部)
図5.8 摺動部品用ベアリングの真空浸炭組織
(c) 循環孔部 20µm
20µm
20µm
(腐食液:3%ナイタル)