• 検索結果がありません。

第3章 セクター分析:マダガスカル共和国の主要開発課題

3.2 関連セクターの分析

3.2.4 経済インフラ

【陸運】

経済成長のボトルネックの一つに基幹インフラ、特に運輸インフラの未整備が挙げら れる。広大な国土を 31,640km に亘る道路がつないでいるものの、71%が劣悪な状態にあ る18。他方、舗装されていないオフロードを含めても、道路でつながっているコミュー ンの割合は 40%(2013 年から 2015 年までの平均)に留まっており、PND が掲げる「い かなる地域も取り残されない国土全体の開発」を達成するには、依然として量・質の両 面から道路、特に国道を中心とした幹線道路を整備していくことが課題となっている。

図7 国道整備の現状 図8 道路の種類と舗装状態

出典:公共事業省、2013

18 World Bank、SCD2015

◆青:全体

■赤:UAE

▲緑:中国

×紫:米国

赤:良い/黄:普通/緑:悪い RNP: 主要幹線道路

RNS: 二次レベルの国道 RNS: 仮設の国道 RP: 郡レベルの道路

26

陸路インフラの一つとして鉄道輸送が存在するが、輸送量、輸送効率共にアフリカ内で も最下位クラスに属し(PROPARCO、2010)、年間輸送量は 23 万トン程度に留まっている。

植民地時代に開発された2路線(①アンタナナリボ~ムラマンガ~トアマシナ線/TCE

(Tananarive Côte Est:路線名):732km ※MADARAIL 所有),②フィアラナンツァ~

東海岸線/FCE(Finaratsoa Côte Est:路線名):163km ※国有)が運行されており、

①は主に貨物を②は旅客を担っている。旧フランス植民地圏の他国と同様、狭軌 1,000 ミリ(メーターゲージ)を採用している。FCE は観光路線としての活用が期待でき、一 部は既に利用されているものの、運行ダイヤが守られないなど劣悪なマネジメントが課 題。サイクロンの通り道にあるため、雨季の事故も絶えない。今後、トアマシナ港の拡 張に伴い、アンタナナリボ-トアマシナ間の貨物輸送の需要が増加していくことが予想 され、国内の貨物輸送能力の増強のためには、国道の整備に加え MADA RAIL のマネジメ ント改善と鉄道輸送インフラの整備が課題である。

出典:(AfDB,2015) 出典:(Perspective Monde19および MADARAIL 提供資料 を基に JICA 作成)

【海運】

マダガスカルは島国であるため、海運輸送が国民生活の生命線である。全国に 17 港 湾を有し、港湾貨物の年間総取扱量は約 3.42 百万トン(2016 年)である20。うち、7 割が主要港・トアマシナ港で取り扱われており、国際貨物に至っては 9 割が扱われてい る。その他 16 のセカンド・ポートは、①長距離港(アンツィラナナ、マジュンガ、チ ュレアール)、②沿岸港に分類されており、主に長距離港で国内貨物の荷捌きが行われ る。

19 http://perspective.usherbrooke.ca/bilan/tend/MDG/fr/IS.RRS.GOOD.MT.K6.html

20 港の分類は以下のとおり。①PCG:Ports à Concession Globale(全コンセッション港、100%民営)、② PIR:Ports d'Intérêt Régional (国営港、100%国営)、③PGA:Ports à Gestion Autonome (自治港、51%

国営、49%民営が望ましいとされている港であるが、現状はすべて100%国営である)

図9 鉄道ルート 図10 鉄道輸送量の推移(トン xkm)

27

出典:運輸・観光・気象省からのヒアリングより JICA 作成、2016 年

主要港であるトアマシナ港は、サブサハラアフリカにおいて 4 番目にバース(岸壁)

当たりの取り扱いコンテナ数(BMPH: Berth Moves Per Hour)」が多い一方で、2015 年 に実施した JICA の調査によれば21、2014 年前期のトアマシナ港の岸壁の占有率は 60%

であった。一般に、岸壁の占有率が 65%を超えると船の待ち時間が急増すると言われて おり、滞船状況の悪化が無視できなくなるのみならず、荷受け待ち時間が長くなり、お のずと貨物取扱いコストが高くなることが懸念されている。

また、現在、トアマシナ港全体取扱量の約 20%にあたる約 2 万 TEU(20 フィートコ ンテナ換算)が積み替え貨物であり、2035 年には 20 万 TEU を超えることが予想されて いる(JICA、2015)。積み替え貨物は、トアマシナ港での取扱量がキャパシティを上回 った場合、近隣の競合港(レユニオン、モーリシャス)にこれまで以上に奪われること が予想される。特に、モーリシャスのポートルイス港は現在水深 16 メートルの増深工 事および関連整備事業を実施しており、インド洋域内での貨物争奪戦となることは必至 である。そこでアジアとアフリカの間に位置する地政学上の強みを生かし、両大陸の成 長を取り込むためにも港湾能力の向上が求められている。他方で、他ドナーによるトア マシナ以外のセカンド・ポート開発の動きもあり、今後は港湾輸送全体に関する戦略策 定も重要である。

21 国際協力機構、2015年、「トアマシナ港拡張事業協力準備調査報告書」

表8 国内港湾の取扱量一覧

28

表9、図11の出典:JICA, 2015 年(トアマシナ港拡張事業協力準備調査)

なお、財務省関税局によれば、トアマシナ港で荷揚げされる貨物にかかる関税は、当 国関税収入の 80%以上を占めており(2014 年:約 10.2 兆アリアリ≒約 382 億円)、こ れは当国歳入の約 40%に及ぶ。一方で、Doing Business2019 によれば、マダガスカル における輸出にかかる国内手続きコストは改善されているもののサブサハラアフリカ 平均より 1.6 倍も高い。港における輸出手続き(通関、検疫、他)の効率化を図ること も今後の課題である。

【空運】

観光国大国であるマダガスカルへの旅客者は年間 100 万人強で推移しており、空輸貨 物は年間 1.3 万トン前後となっている。国内線は、国営航空であるエア・マダガスカル とマダガシカラ・エアウェイズの 2 社が運行しているほか、国際線については、2015 年の Open Sky 政策により、国際線乗り入れが活発化(トルコ航空、エチオピア航空)

している。エア・マダガスカル社(資本金 339 億アリアリ、約 13.5 億円)は、財務状 況の悪化や不安定な運行状況、ストライキの頻発等が主な原因となって、2016 年には 安全管理体制が基準を満たし EU 域内への乗り入れが許可されている航空会社のリスト である AnnexB から除外された。2017 年には、Air Austral が国営航空の資本に参入(株 式の 49%を取得)したことから、今後経営体制が改善することが期待されている。全 国 44 の空港・ヘリポートは、基本的に運輸・気象省下部機関 が管轄しているが、首都・

イバト空港および観光地・ノシベ国際空港のインフラ整備および運営はフランスコンソ ーシアムが初の大型 PPP 事業として担う予定となっている。同事業については、現時点 では大きな進展は見られていない。

3.2.4.2 電力

マダガスカルにおける電力へのアクセス率は 15%(サブサハラアフリカ 54 か国中 44 位)、地方電化率 8%(サブサハラアフリカ 54 か国中 35 位)(World Development Indicators: WDI、2016)と、サハラ以南のアフリカ諸国の中でも低い水準にある。Doing Business2019 においても、電力へのアクセス(Getting Electricity)は 185/190 位と 世界ワーストクラスであり(2017 年、2019 年は同じ順位)、民生向上・投資促進・経済 発展の深刻な阻害要因となっている。電力需要は年間 5%のペースで伸びているが、全 国の発電容量は 500MW にとどまり、うち 70%を水力発電、30%を火力発電が占める。発 電電力量は 1,444GWh(2014 年)である。実際には 7800MW に及ぶ水力発電ポテンシャル、

年間 2000kW/m2 の太陽光発電ポテンシャルを有すると言われているものの、これらの供 給量は過去 30 年間で約 3 倍の伸びにとどまっている(1980 年:400GWh→2014 年:

44

表 9 サハラ以南のアフリカ港

湾ランキング

図11 トアマシナ港の貨物需要予測

29 1,444GWh)。

こうした状況に鑑み、政府は 2030 年までに発電電力量を 7,900GWh に、電化率を 70%

にまで引き上げることを目標としている。主要な発電源としては、水力発電を現状レベ ル(75%)に維持しつつも、火力発電の割合を現行の 30%から 15%まで引き下げ、風力や 太陽光による再生可能エネルギーに切り替えていくことを目指している。

電力セクターが伸び悩んでいるもう一つの原因として、水・電力公社(JIRAMA)の経 営難が挙げられる。同公社は、非効率なディーゼル発電のために 2016 年は年間 3,000 億 アリ アリ (約 120 億 円) の補 助金 配賦 を受 けて 国庫 を圧 迫し た。 また Doing Business2019 によれば、新たな電力配電線を引くのにかかる時間は平均 450 日で世界 ワースト 7 位、一人当たり発電コストも 4866.9%と世界ワースト 14 位と、サービスデ リバリーのあり方に大きな課題を抱えている。

こ う し た 状 況 を 改 善 す る た め 、 2014 年 か ら は 世 界 銀 行 の PAGOSE ( Projet d’Amélioration de la Gouvernance et des Opérations dans le Secteur de l’Éléctricité)を中心として水・電力公社(JIRAMA)の経営改革が進められている。

2017 年 4 月には経営層一掃により、財政状況の立て直し、特命随意契約の廃止、利権 層への不当な電力融通の停止等を推進している。なお、なお、独立系電力事業者(IPP)

方式、建設・運営・移転(BOT)方式、電力販売契約(PPA)方式での民間企業参入も少 しずつ進んでいるものの、契約締結までに長い時間を要することや、陸路インフラの未 整備が必要機材輸送の障壁となっている(JICA, 2017 年)。

出典: Wordl Bank, Doing Business 2019

表10 電力セクター評価

30 3.2.5 都市化

マダガスカルでは都市人口が過去 20 年間で約 3 倍に増加し、表 11 が示すように急速 に都市化が進んでいる(1993 年:2.8 百万人/23%/約 50 都市→2014 年:8.9 百万人 /37%/172 都市)。今後都市人口は 2036 年までに 1,760 万人を超え、地方人口と同数に 達する見込みである22。特に、都市人口の 2/3 が国道 2 号線沿いのトアマシナ・アンタ ナナリボ間、国道 7 号線沿いのアンチラベ・フィアラナンツァ・マナカラ間に集中して いる(フィアナランツァ・マナカラ間は国道 25 号線及び 12 号線)。これを踏まえ、人 口が急増している地域を中心とした都市化への対策が急務と言える。

図12 人口が集中している都市(Maps of World を基に JICA 作成)

数ある都市の中では、特に首都・アンタナナリボにおける貧困が課題となっている。

全国都市貧困率 42%に対してアンタナナリボは 66%を超えており(2012 年)、300 万人 と言われる同都市人口の相当数が貧困層に属していることが推測される。また、スラム 人口が 72%と非常に高い23他、都市人口の 37%を若年層が占め、そのうち 51%が社会 的弱者、29%が十分な教育を受けていない者とされている。社会的安定と経済成長の両 面から、都市の貧困対策が必要とされている。

22 UN-HABITAT Country Profile

23 UN-HABITAT Country Profile