終章
-78-6−1 本研究の成果
本研究で得られた知見及び到達点を以下にまとめる。
1.「住みながら改修」が求められる背景を整理した上で、工事項目ごとに居住者へ与え る影響を明らかにした。
本研究の2章部分にあたる。どのような工事項目が分譲集合住宅の改修工事で行われて いるか、またそれら工事がどのような影響を居住者に及ぼすのか、居住者への影響項目を 縦軸、工事項目を横軸にとった表 2-4 を作成した。
2.工事説明書から「住みながら改修」で留意すべき項目を把握し、 「大規模修繕工事」 「耐 震補強工事」「設備配管工事」ごとに設計 監理・施工管理上の主な付随発生業務を提示 した。
3章では、マンション工事業者によって既に行われている「住みながら改修」でどのよ うな対応・対策が行われているのかを調査した。そこから見えてきた「施工対応」、「管理 対応」、「居住者対応」という対応業務の中で、特に「住みながら改修」特有の対応といえ る「管理対応」と「居住者対応」の詳細項目を抽出した。それら項目は「住みながら改修」
で施工管理者と居住者が着工前に留意すべき項目であると位置付けることができる。また、
事例を通して、通常の設計監理・施工管理業務に加えて付随的に発生する、各工事ごとの 業務を調査し明らかにした。
3.「住みながら改修」の実態調査を通して、居住者が容易に理解できるよう、居住者影 響を工程に沿って表す手法を提示した。
具体的には表 4-2 にあたる工程表である。基本的に「住みながら改修」工事は①居住者 に工事内容の告知②各工事の実施→それに伴う工事影響③クレームや問題が発生した場合 はその対応、という順序で各工程をこなしながら進んでいく。従来の工程表のみでなく、
同一の紙面上に工事影響とそのための告知内容を記載し、それらを一体的に把握すること
は「住みながら改修」の大きなポイントとなる。また、具体的に居住者に及ぶ影響とその
期間が記載されているため、居住者にとって工事内容と影響が理解しやすい表現となって
いる。
終章
4.実際に改修現場で発生した要望・問題を 3 種に分類し、それぞれのケースで工事関 連主体が行うべき対応関係の場合分けを行った。
設計監理者・施工管理者が「住みながら改修」で行うべき対応には、大きく事前対策と 問題発生時の対応のふたつに分けられる。特に問題やクレームが発生した際に、どの工事 関連主体がどのような対応を行うのか、あらかじめ明確にしておくことで、スムーズに対 応へと繋げることができる。どんなに事前の対策を講じても、「住みながら改修」では施 工中に何かしらの不測の事態が発生する可能性が高く、そのような場合の対応方法も工事 関係者は把握しておく必要がある。本研究では4−5で設計監理者・施工管理者・理事会 が行うべき問題発生時の対応方法や連携などを調査・分析した。施工管理者が対応に当た るのは主に工事内容に関してのみであり、設計監理者は設計内容に関するクレームや問題 に対して個別に対応にあたる。それ以外の業務には理事会の協力が求められるため、理事 会は「住みながら改修」を進めていく上で重要な役割を担っているといえる。
5.設計監理・施工管理業務に加え管理組合の役割も踏まえた「住みながら改修」のフロー マップを示し、業務上の要点を整理した。
着工前の対応は、問題の発生を事前に防ぐという意味で可能な限り対策を講じておくこ とが望ましい。要点として、
① 着工前の情報の共有・経緯の把握
② 事関連主体間の業務・役割の明確化
③ 工事内容・工事影響の明示
また、施工中に発生した問題に対しては、要点として
④ クレーム・問題への対応(4-5 の内容)
⑤ 施工中の工事説明会の開催 が挙げられる。
設計監理・施工管理業務として。これらの対策・対応を留意しながら「住みながら改修」
に望むことで、円滑に「住みながら改修」を進めるための一助となる。
終章
-80-6−2 「住みながら改修」の今後の展望
分譲集合住宅における「住みながら改修」の研究を通して、大規模修繕工事のような性 能維持ではなく、性能向上に資する改修が求められる中で、性能向上を伴う工事と工事影 響はトレードオフの関係にあることが、改めて明らかとなった。工事影響が大きな工事に は、その影響に対応するために、設計監理者・施工管理者にはより高度な管理対応が求め られる。本研究では管理対応の要点を挙げたが、その根底にある考えは、居住者を含めた 設計者・施工者・理事会等の工事関係者が、管理対応を通していかにして工事内容や工事 影響に関する情報共有を行い、工事への理解を深められるか、ということにある。
例えば表 4-2 で示したような、通常の工程表に加え工事告知と工事影響を一体的に表し た表現方法は、「住みながら改修」工事の要点を一連の流れを一体的に捉えることで、工 事関係者間での工事に対する共通理解を得るためのツールであるといえる。同様に、工事 影響によって発生したクレームや問題に対しても、工事関係者が情報共有を通して共通認 識を持つことができれば、より迅速な対応にあたることができる。このように、工事関係 者全体の工事への理解が深まれば、必然的に発生してしまう工事影響に対しても、より合 理的に対応にあたることができるといえる。
では工事の情報を共有し工事への理解を深めるために、本研究で挙げた設計監理・施工 管理業務の要点以外に、どのような手法を用いることが可能だろうか。
ひとつの可能性として、工事情報を共有するためのツールとしての BIM の活用が考え られる。BIM によって建物形状、空間関係、地理情報、建物部材の数量などの情報の共有 を図ることができることができるが、それらに加え各種工事によって発生する工事影響の データが蓄積されることで、居住者にとっても非常に有用なシステムへと転換できる。「住 みながら改修」では工事影響を最小にとどめるために、居住者を含めた工事関係者が一定 の工事への理解を得る必要があるため、常に情報の提示や共有が求められる。そのような 状況において、BIM のような建物データを生成および管理するためのツールを有効に活 用することができるのではないか。
「住みながら改修」の今後の展望としてひとつの可能性を示したが、本研究で示したよ
うな要点の提示や BIM の活用などのように、工事理解を得るための手法や情報共有を図
るための工夫を、今後さらに検討していく必要がある。
終章
6−3 今後の研究課題
・工事影響に関して、建築工事や耐震補強工事など、工事ごとの影響項目を明らかにしたが、
項目を挙げるに留まっており、実際にその影響がどれほどの大きさなのか、定量的な根拠 は得られていない。今後実態調査を行う際に、例えば工事項目ごとの影響について何 dB の騒音なのか、何回、何時間のライフラインの停止が発生したか、など定量的な分析が加 わることで、「住みながら改修」を実施した事例としてより有用な資料となるはずである。
・本研究では「住みながら改修」を実施している集合住宅の居住者にアンケート調査を実 施することで、どのような影響項目が居住者にとって大きな負担であったかを分析した。
しかし、より深く居住者の立場での分析を行うために、居住者にヒアリング調査を実施す ることで、居住者が工事に対して抱いた、よりリアルな側面を分析することができる。そ うすることで、設計監理者や施工監理者が参考にできるような有用な知見が得られるので はないかと考えている。
・現場対応に関しては、既に多くのマンション工事会社が取り組んでいることであるが、
その工事の実態は既往論文としてまとめられていない。工事項目や工事方法についてまと められた国土交通省のマニュアルや文献は多くある。本研究ではそれに加え、工事説明書 の分析を行ったが、大規模修繕の実態は調査できていない。大規模修繕工事の施工者が居 住者に対して行っている対応を、今一度ヒアリング調査等を通して比較することで、対応 業務の体系化を図ると共に「住みながら」で総合的改修を行う際にも有用な知見となると 考えている。
以上を踏まえ、今後「住みながら改修」で各種工事を包括的に実施する「総合的改修」
のデータベース化が望まれる。現時点ではそのような事例が少ないが、実際に「住みなが
ら改修」現場でどのような問題が発生したのか、蓄積を続けることで設計監理者・施工管
理者、さらには工事の影響を被る居住者にとっても有用な資料となるであろう。個別性の
強い「住みながら改修」工事においても、「住みながら」という条件と真摯に向き合い解
決を図った過程を記録として積み上げていくことで、「住みながら改修」の促進に寄与す
るデータベース化を図ることができると考えられる。
ドキュメント内
−居住者に及ぶ工事影響と設計監理・施工管理業務に着目して−
(ページ 77-171)