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日系多国籍企業の ASEAN における人的資源管理

ける多様性の有無とトップ・マネジメントにおける本国籍比率の偏りである。すなわち、

トップ・マネジメントの国籍構成を見ると、ヨーロッパ系・アメリカ系では第三国国籍

(TCNs)ならびに現地国籍(HCNs)の比率が多く活用されており、それに対し日系の場 合は本国籍(PCNs)中心型となっており、まったく異なっているのである。

重要な点はそのように表面に現れた現象を再確認することではなく、むしろ、その背後 に存在する論理とそれを支える根拠を、「多国籍内部労働市場」という本論文の視点から確 認し、評価することであろう。本章での事例研究ではその点を特に念頭に置きながら進め ることにする。

(2)調査方法と対象

本章の事例は、1996年日本在外企業協会で実施したアンケート回答企業のうちの若 干の企業に対してフォローアップを行った結果に基づいている。ヒアリング項目はアンケ ート調査(本論文末尾に別添)の項目に沿ったものであり、叙述も基本的にそれに沿って 行われたことは事例分析の中に明らかである。訪問時期は、第1回目が1996年10月 末から11月初旬にかけてで、第2回目が1997年8月から9月にかけてである。96 年には、インドネシア3社、マレーシア3社、それにタイ1社のメーカー7社を訪問した。

97年には、フィリピンのメーカー3社を訪問した。したがって、本章には合計10社の 事例が含まれている(注1)。

以下は、ここで取り上げた事例10社を次のようなグループに分類した。第1のグルー プが、自動車メーカーA社の子会社3社であり、これらはインドネシア、タイ、それにフ ィリピンに所在する。第2のグループが、家電メーカーB社の子会社3社であり、これら はインドネシア、マレーシア、それにフィリピンに所在する。後述のように、東南アジア における家電メーカーB社の製造拠点はマレーシアに置かれている。第3のグループが、

食品メーカーC社の子会社2社であり、これらはインドネシアとフィリピンに所在する。

残る2社は、マレーシアに所在する精密機器メーカーD社と電機部品メーカーE社である。

本章の最後では、本論文の視点に沿って総括する。

2.自動車メーカーA社グループ

(1)自動車メーカーA社:日本本社のグロ-バル化の現状

①海外事業の地域別現状

海外事業は、米州、欧州・アフリカ、それに豪州・アジア・中近東の3地域に分けて統 括されている。各地域の特徴および現状は以下のようにとらえられる。

北米では、57年に現地販売会社を設立して販売を開始した。製造は現地化要請を受け80 年代前半から開始した。96 年に資本関係等が統合され、地域の製造統括会社が設立される に至っているが、今後、製造事業体を中心にネットワ-ク化が加速されると見込まれてい る。

欧州では、販売技術管理会社、英国製造会社、および各国の販売代理店という体制でビ ジネスが行われている。各国の販売代理店は現地との合弁がほとんどで、今後、販売技術 管理会社を販売中心の地域本社としていく方向で検討中である。

アジアでは、歴史的には販売およびノックダウン(KD)生産主導で開始したため他地域 とは状況が異質となっている。国毎の状況、出資形態も様々であり、「地域」として括って 議論することが困難な状況にあるといえる。

なお、1997年3月現在の3地域における製造企業数と従業員数をみると表5-1の 通りである。企業数でみても、従業員数でみても、アジア(豪州・アジア・中近東)のウ エイトが最大である。

表5-1 自動車メーカーA社の海外製造企業数と従業員数

②今後のグロ-バル化の方向

集中と分散のベスト・バランスを考慮しつつ、世界本社的組織を中心とするネットワ-

ク型グロ-バル・マネジメントを目指し、「総合戦略は世界本社で」・「現地独自のオペレ-

ションは地域本社に」を推進中である。

(2)自動車メーカーA社インドネシア

①企業の概要

当社は1971年に設立され、翌年から操業を開始した。1988年に4社が合併し、

現在、鋳造、エンジン、プレス、組立・溶接の各工程、ならびにパーツ・センター、トレ ーニング・センターを包含する自動車製造会社となっている。なおトレーニング・センタ ーではA社インドネシアの整備工の養成のみならず、代理店などの整備工、修理工場の経 営希望者、さらに職業訓練校のトレーナーなど社外の人に対しても個別のプログラムを準 備して対応している。1985年から95年までに受講者は1万5,000人強に上った が、そのうち86%はA社インドネシアの社員、14%は社外の人であった。

乗用車、商用車などの製品は、国内では主要5社のディーラーを通じて販売され、また 国外ではブルネイ、パプアニューギニア等には商用車が、マレーシアには商用車用エンジ ン、日本には同シリンダー・ブロックがそれぞれ輸出されている。インドネシアにおける 新車市場は1992年の17万台から95年には約40万台に到達したが、当社のマーケ ット・シェアはここ数年約25%を持続している。日本本社の資本比率は49%で、ロー カル・パートナーのそれは51%である。

現在、従業員数は5,105人(うち男子97%)に達している。日本人派遣者は28 人で、日本人比率0.5%となる。うち大卒は350人(6.9%)、アカデミー(日本の 高専卒に相当)卒は364人(7.1%)である。オペレーターの採用は現在、高卒以上 となっている。

なお、当社は1974年以来、400万ドルの基金を設け、中学生、高校生、大学生に 対し奨学金を出している。他に、大学教員の学会発表の旅費の一部援助や研究助成も行っ ている。また既述のように、トレーニング・センターでは、インドネシア労働省とタイア ップして、職業訓練校の自動車整備科のトレーナーの教育訓練にも協力している。

②進出動機と生産分業・権限委譲について

進出の動機は、現地市場の開拓ならびに現地政府の優遇策が中心であった。現在では、

豊富な労働力の存在ならびに現地市場の開拓が大きなメリットであるが、近年では近隣諸 国への輸出も出てきており海外拠点としての位置づけも加わってきている。

現地市場の開拓が進出目的であり、親会社とは地域別市場で分業しているといえる。

現地法人で決定できることは幅広く、利益処分や貸付・借入も現地で決定している。た だし、日本側は49%の出資であるため、パートナーとの調整が必要である。これまでで は利益処分の仕方をめぐってパートナーの見解と異なった。つまり、少なくともこれまで の日本本社の立場は、配当性向20%を維持した上で、後は内部留保を行い再投資に向け るというものであったが、パートナーはそれより配当性向を高める方の意見が強かった。

人件費総額の決定は当然ながら、現地法人に任されている。

労働組合は組織されており、労使関係は良好である。最近では、労使交渉での賃上げは、

ジャカルタの CPI上昇率プラス生活向上分2%プラス本人の評価分平均3%(1~5%の 幅)とう算出根拠により、一発回答で決めている。

③トップ・マネジメントの属性とその登用状況

役員数は12人で、インドネシア人、日本人が半々となっている。社長はパートナー企 業グループの役員が兼任しており、C社にきて14年、副社長は日本本社からの派遣でC 社にきて8年経っている。現地人役員6人のうち2人は、パートナー企業からの派遣では ない。1人は元々はパートナー企業出身ではあるが当社の経理部長から4年前に抜擢し、

いま1人は当社生え抜きの技術者(46歳、勤続20年の大卒)で1年前に工場担当役員 に抜擢した。

現地人役員の職務はすべての部門にわたるが、当社の特徴はほぼすべての職務を現地人 役員と日本人役員がペアで担当しているという点にある。例外は人事・総務であり、これ は現地人役員だけで担当しているが、日本人の財務担当役員が当該役員のコーディネータ ーを行っている。なお、役員会の決定は多数決でなく、全員一致が原則であり、意見が対 立した場合は社長・副社長一任となることが多い。

部長は25人いるが、図5-1で○印と●印で示されるように、インドネシア人が18 人、日本人が7人である。後述するように、多くの場合、インドネシア人部長には日本人 のエグゼクティブ・コーディネーターが付いている。課長は87人いるが、すべてインド ネシア人である。