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第 1 章 我が国の中小企業の資金調達

第 3 節 日米 ABL の概要

1 米国 ABL の概要

(1)ABLにおける財務分析

ABLは、不動産担保を用いない中小企業の新たな融資手法の1つとして着目されている。

ここでは、ABLの財務分析の必要性について整理する。米国において、ABLはトランザク ション・テクノロジーとして認知されているが19、日本の金融機関ではリレーションシップ 融資の手法として注目している。先行研究からは、日米のABLの違いについて十分な説明 がなされておらず、あいまいさを残している。

ABLに財務分析は必要であろうか。この点について、ABLの仕組の一部となっているコ ベナンツ(財務遵守条項)を簡単に整理する20。本来 ABLは債権・動産に依拠した担保価 値に重点を置いた融資であり、ABL の財務諸表の審査は二次的になされるに過ぎない。し かしながら、財務分析がまったく不要というわけではない。財務遵守条項が付帯されている ABLについては、財務諸表分析はモニタリング手法の1つとして必要不可欠なものとなる。

ABL は商流を捉え、その一環である在庫や売掛債権を担保にした融資であることから、

担保実行により企業の息の根を止めてしまうことになり得る融資手法である。一方で金融 機関にとっては担保権の実行のタイミングを逃すと債権回収ができなくなる虞がある。こ うしたリスクを軽減するための契約の一つとして財務遵守条項がある。財務分析は、遵守条 項がある場合には、棚卸資産や売掛金等を代表例として財務分析を実施する必要がある。

(2)米国ABLの歴史

ABLは、融資技術の一形態であるが、米国でのABLのはじまりには諸説ある。米国の流 動資産に対する担保制度は、19世紀末に始まったといわれている。1880年代企業の資産を 清算して現金に換価するリクイデーター(Liquidator)が活躍し始め、このリクイデーターが ノンバンクを設立し融資を始めたが今日の ABL の原型であるという説がある。しかし、

19 Allen N. Berger, Gregory F. Udell,“A More Complete Conceptual Framework for Financing of Small and Medium Enterprises”, World Bank Policy Research Working Paper 3795, December 2005, pp.3-7.

20 コベナンツは遵守条項である。財務に関わる遵守を財務遵守条項とする。

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1940年代とする説も有力説である21。その理由は、1940年に債権譲渡法により債権流動化 が始まったことにより、1950年からABLが発展し始めたという説である。1940年、第二 次世界大戦に参加を見込んでいた米国は、軍事産業への支払代金を第三者へ債権譲渡する ことを民間企業に認めていなかったが、軍事産業活性化のために債権流動化法案を可決さ せた。すなわち、動産を起点とする場合のABLは、1880年代がはじまりであるといい、債 権譲渡を起点とする場合には1950年からとすべきであろうか。

その後、1980年代には銀行がABLを扱うノンバンクを買収することで銀行内にABL部 門が設置され、2001年の UCC改訂によりインターネットでの登記情報入手が可能になっ たことで利便性が高まっているとされる。

1990年になると大手商業銀行がノンバンクを買収しABLに本格的に進出した。2000年 以降は、案件が大型化し、LBO (Leveraged buyout)等のM&Aに関わるファイナンスにも 用いられるようになった。

(3)日米の貸出技術の違い

さて、Udellは、ABLをはじめとした米国の貸出技術について審査、契約、モニタリング

等組み合わせによって、いくつかの類型に分けている22。それらのうち代表的なものが財務 諸表融資(Financial Statement Lending)、クレジットスコアリング(Credit Scoring)、リレ ーションシップ融資(Relationship Lending)、ABLであり、以下に簡潔にまとめておく。

財務諸表融資は、本来、一般に公正妥当と認められる「公正なる会計慣行」を規範とした 会計に基づいて作成された財務諸表や比較的透明性の高い客観的な情報を金融機関が入手 して審査するものである。財務諸表融資は事前の審査が重要となる融資技術である。財務諸 表の客観的なデータから将来のキャッシュフローを予測して与信判断するものであり、信 用リスクに応じて担保や保証等を条件としたリスク回避行動をとるのが一般的である。財 務諸表融資は客観的な基準に基づいた「ハード情報」により融資判断するトランザクショ ン・テクノロジーの1つである。

21 Murphy, John J., “Asset-Based Lending: Evolution to Revolution - Part ii, 1940-1960s”. The Secured Lender,48.5 Sep/Oct 1992, p.46.

22 Allen N. Berger, Gregory F. Udell,“A More Complete Conceptual Framework for Financing of Small and Medium Enterprises”, World Bank Policy Research Working Paper 3795, December 2005, pp.3-7.

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クレジットスコアリング融資は、もともと企業ではなくクレジット・ヒストリー等個人の 消費者信用情報を基にデータを数値化し大数の法則的に審査され、中小企業の融資にも応 用されてきた経緯がある。

代表的なクレジットスコアリング手法にFICO(Fair Isaac and Co.;以下FICOとする)

の信用力数値化モデルがあり、中小企業特有の不透明な情報リスクを確率統計によりリス ク回避する目的で多くの米国中小銀行や商業銀行が FICO のモデルを利用している。その 他、自行内にデータを蓄積して信用力数値化モデルを構築している銀行もある23

クレジットスコアリング融資は、トランザクション・テクノロジーの一種であり、1990 年代半ば以降米国で普及した。データによって融資のためのスコアまたは要約統計量が生 成され、ローンパフォーマンス予測モデルに入力される。与信上限は通常10万ドル以下と 少額である24。クレジットスコアリング融資は、消費者信用情報を基にした予測モデルのた め中小企業の少額の運転資金には対応できるが、多額の資金需要や設備投資の対応には困 難であり、中小企業の資金需要に万能ではないという課題が残る。

リレーションシップ融資は、中小企業、そのオーナーおよび地域社会等との長い時間をか けて接触を介して集められた「ソフト情報」に依存して融資することをいう。「ソフト情報」

の収集の範囲は広く、対象の企業、経営者、サプライヤー、顧客、または隣接する企業等の 対象企業以外も情報収集の対象である。「ソフト情報」は、銀行担当者が中小企業の経営者 や関係者に直接ヒアリングし、行動を観察することを通じて取得されるため、融資担当者が 作り上げた情報である。例えば、借手企業の代表者が信用できるか、と言った人物評価等の

「ソフト情報」は、面談した銀行担当者が定性的・主観的に判断した結果である。

米国の「ソフト情報」によるリレーションシップ融資は、銀行担当者が主観的に判断し、

融資を実行する技術に他ならず、結果的に銀行担当者の主観にある程度の裁量を委ねるこ ととなる。通常、リレーションシップ融資では、担当者の収集分析による「ソフト情報」が

「ハード情報」よりも信頼性が高いと判断される。

ABL は担保価値の範囲で信用供与され、流動資産担保を返済原資にしたトランザクショ ン・テクノロジーである。ABL の与信総額は、担保として使用される資産の清算価値がデ ータにより自動的に管理される。「一般の売掛金や在庫を担保とする融資」と ABL の違い

23 前田真一郎『米国リテール金融の研究』日本評論社、2014年、246頁。

24 信金中金「リレーションシップバンキング再考―米国の中小企業向け貸付テクノロジー

―『NEWYORK通信』第16-3号、2004年11月、6頁。

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は、「一般の売掛金や在庫を担保とする融資」は返済原資がキャッシュフローであり、売掛 金や在庫勘定の質権の担保は二次的な返済原資であるのに対してABLは担保の価値に応じ た融資を行い、担保自体が換価されることで担保が一次的な返済原資となることにある。

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