《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションの様相 3
181 第 1 節 《FIRST KISS》の二次創作群の分析
第7章「《FIRST KISS》」において、《FIRST KISS》の広告表現としての特徴と《FIRST KISS》が プロシューマー型文化の作品であること、制作者も広告主もプロシューマーであり、YouTubeを通じて 情報発信され、プロシューマーである人びとによるコミュニケーションの量的増加と質的深化が発生し たことを確認し、プロシューマー型文化が拡大しつつある状況においては、広告表現もプロシューマー 型文化の作品を活用することが有利であることを述べた。特に、《FIRST KISS》の特徴のうち、「広告 であることが認知しにくい」、「実質的に自主制作の映像作品」の2点は、プロシューマーたちの興味を 刺激し、支持を得た要因であったが、これは、広告主のコカーM.がミレニアル世代の「実際、参加する ことを望んでいる」という傾向を考慮に入れた広告戦略であったのであり、コミュニケーションの量的 増加や質的な深化を発生させた重要な要因であったことについて考察を行った。ミレニアル世代とはプ ロシューマー型文化を担っている中心世代であるが、デジタル技術の普及とインターネット・コミュニ ケーションの進展により、「実際、参加することを望んでいる」という傾向はミレニアル世代に限ったも のではなく、プロシューマーである人びとに共通するものだと言えるだろう。また、《FIRST KISS》と
《Where is that Script?》を比較し、前者がプロシューマー型文化の作品であるのに対し、後者はマス・
コミュニケーション型文化の作品であり、その違いが再生回数の差に結びついたことを確認した。デジ タル技術が普及しインターネット・コミュニケーションが進展することにより、プロシューマー型文化 が拡大している状況においては、マス・コミュニケーション型文化の広告表現であることは不利になる ことを確認した。
第8章「《FIRST KISS》のリレーショナル・アートとしての側面」においては、《FIRST KISS》と それ以外のピリエヴァT.の作品のリレーショナル・アートとしての側面について、リレーショナル・ア ートと見なせる条件を、①「人間と人間の関係性に目を向けている」、②「社会に生きるうえでの人間関 係のモデルを提示している」、③「観者(参加者)による『観想よりもむしろ使用、、
』が推奨されている」
の3点に整理し、各作品の内容分析と論証、考察を行った。《FIRST KISS》はリレーショナル・アート の作品と見なせる条件を満たしており、《FIRST KISS》を含むピリエヴァT.の9作品のうち、リレー ショナル・アートの作品と見なせる条件を満たすものが6作品あり、それらのうち広告表現である4作 品でコミュニケーションの量的増加が確認できた。《FIRST KISS》にまつわりプロシューマーたちがコ ミュニケーションの量的増加や質的深化を発生させた要因は、《FIRST KISS》がプロシューマー型文化 の作品であることだけでなく、リレーショナル・アートの作品であることも重要な要因であり、「実際、
参加することを望んでいる」プロシューマーの人びとの参加を呼び込んだと言える。
第9章「《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションの様相1」~第11章「《FIRST KISS》にま つわるコミュニケーションの様相3」では、《FIRST KISS》に関してプロシューマーたちが発生させて いたコミュニケーションの内容について分析、考察を行う。第9章「《FIRST KISS》にまつわるコミュ ニケーションの様相1」ではYouTubeの《FIRST KISS》のコメント欄におけるコミュニケーションに 注目する。第10章「《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションの様相2」では《FIRST KISS》
のコミュニケーションの量的増加のきっかけをつくった Reddit でのコミュニケーションに注目する。
第11章「《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションの様相3」では、YouTubeに投稿されている
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《FIRST KISS》の二次創作群に注目する。
第9章「《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションの様相1」では、YouTubeの《First Kiss》
のコメント欄でのコミュニケーションの分析を行った。プロシューマーたちは YouTube の《FIRST KISS》のコメント欄に視聴したことを確認するようにコメントを投稿しているにすぎないが、それらが テキストとして可視化されていることでゆるやかな対話や議論が発生している。コメント欄で行われて いるゆるやかな討論や対話、局所的に生じている議論やゆるやかな疑似コミュニティは、具体的な人間 関係を発生させてはおらず、また二次創作の企画などに発展してはいないが、二次創作などの動機付け となる情報を提供していると言えるだろう。YouTubeは、ある程度の匿名性が保持され、全世界(一部 の地域を除く)に開かれた情報発信と情報共有の場であり、YouTubeのコメント欄は極めて弱い紐帯の 場だと言えるが、そこでの対話や議論が相互作用を発生させ、なんらかの新たな行動を発生させる可能 性は、グラノヴェッターM.S.の「弱い紐帯」の理論からすれば、決して低くないと言える。
また、《FIRST KISS》についての議論がサイバーカスケードを発生させることがなかったのは、
《FIRST KISS》がプロシューマー型文化の作品であり、2020東京五輪のエンブレム盗用疑惑騒動のよ うにマス・コミュニケーション型文化とプロシューマー型文化の対立する構図が成立しなかったためだ と言える。コメント欄では、嫌悪・批判のコメントが投稿されてもすぐに賛美・支持のコメントが投稿 され、議論が極端に一つの方向に傾いたり、集中することはない。《FIRST KISS》がプロシューマー型 文化の作品として認識され、プロシューマーたちが《FIRST KISS》について対話や議論を発生させた ことが、多くの人びとの注意や興味を喚起したと言える。
第10章「《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションの様相2」では、Redditでの《FIRST KISS》
に関するコミュニケーションを分析した。Redditor たちは、「初対面でキス」というアイディアを実行 している実験の様子を客観的に観察し、コメントを投稿していた。Kissersが誰であるかよりも、「外見 のいい魅力的な人たち」であることの方が話題となっており、Redditorたちは、Kissersを自分たちと は一線を画す文化的エリートとしては捉えておらず、自分たちと同じ目線の高さにあるプロシューマー として認識していたと言える。Redditorたちの話題は、自己開示、人種の多様性、刹那的な親密さや快 楽の是非などであり、《FIRST KISS》は、Redditor たちに身近な人間関係の構築や倫理観について語 る機会と材料を提供していた。《FIRST KISS》が人びとの自我関与の高いコンテンツであり、リレーシ ョナル・アートとしての側面を持つアイディアであることが、プロシューマーである人びとによるコミ ュニケーションの量的増加や質的深化を発生させていた。Redditでは、完全な匿名性とモラルが維持さ れていることにより、率直なコミュニケーションが行われている。プロシューマーである人びとはマス メディアからの情報に影響される前に、あるいはマスメディアの情報に影響されずに、《FIRST KISS》
についての批評や評価や評判を自分たちの価値判断のもとに協働してかたちづくり、さらに多くの人び との《FIRST KISS》への興味を喚起したと言える。
この章では《FIRST KISS》にまつわるコミュニケーションのうち、特に二次創作の制作と情報発信 に注目する。「二次創作」とは、情報環境研究者の濱野智史(2015)によれば、「一つの作品が基点となって
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派性」した作品である301。二次創作の内容分析を行う上で、次のような検討仮説を立て、論証と考察を行う。
検討仮説
《FIRST KISS》のアイディアはリレーショナル・アートとしての側面を持つ。このアイディアの性 質がプロシューマーたちによる二次創作の制作を誘引していると推測できる。アイディアの共有による 二次創作もリレーショナル・アートの作品だと言えるものであり、ブリオーN.が「より幸せな明日に賭 けるよりも、現在の隣人との可能な関係性を考案すること、それだけのことだが大切なことだ」と述べ たように、二次創作の作品はミクロトピアとして、人と人の関係性を形成したり、モダニズムに基づい て発展してきた社会において生じた疎外や対立を修復しようとする。
分析対象
2016年8月3日現在、YouTube上で《FIRST KISS》の二次創作と判断できるものは、論者が確認 している範囲で125本ある(表11-1参照)。二次創作であると判断した基準は、タイトルやディスク リプション、また映像の中に《FIRST KISS》に影響を受けている旨が明示されていること、用いられ ている表現手法や形式(最初に控えめに“….. presents”と表示されるなど)、映像の特徴(モノクロで あること、カメラワークなど)がオリジナルの形式を踏襲していることなどである。YouTube では、
《FIRST KISS》に類似するものとして、フリーキスを求めるタイプのものや、通りすがりの女性に声 をかけてキスをするという《Kissing Prank》のタイプのもの、これらのタイプと《FIRST KISS》のア イディアの混交と見られるものがあるが、それらは調査対象には含めない。また、確認できていない二 次創作もあると考えられるが、ここでは2014年8月の調査時点で論者が確認した125本の二次創作を 調査対象とする。
YouTube上に数多く投稿されている《FIRST KISS》の二次創作には、「パロディ」という言葉がタ
イトルに用いられていることがある。「パロディ」は「滑稽化、風刺」といった面で用いられることの多 い言葉である。《FIRST KISS》の二次創作には、滑稽な表現も多いが、真面目に《FIRST KISS》を行 なっているものもあり、《FIRST KISS》にまつわる身体を用いたコミュニケーションの全てを「パロデ ィ」と呼称するのは妥当とは言えず、本稿においては、タイトルに「パロディ」という言葉が用いられ ているものも含めて全て二次創作と表記する。
分析方法
まず、二次創作の内容が時間経過とともに、変化しているかどうかを確認するため、125本の二次創 作のそれぞれの投稿日、タイトル名、再生回数、アカウント名、コメント数を調査する。オリジナルの 投稿からの時間経過をみるため、投稿日を確認する。再生回数とコメント数は、二次創作がきっかけと なってコミュニケーションの量的増加が発生しているかどうかを把握するために調査対象とする。タイ トルには作品の主張が表現されていることが多く、内容分析の手掛かりとなる。YouTubeのアカウント
301 濱野智史(2015),p.314.