第 2 章 安保法制による立憲主義・民主主義の蹂躙と
恒久平和主義の破壊
第 1 安保法制の違憲性と平和主義の危機
1 安保法制の基本的内容・性格と危険性
(1)平和国家としての日本の国の在り方を大きく変えてしまう安保法制が、2015 年 9 月 19 日参議院本会議で採決され、2016 年 3 月 29 日施行された。
安保法制は、自衛隊法、武力攻撃事態対処法、周辺事態法、国連平和維持活動協 力法など 10 本の法律を改正する平和安全法制整備法と、新規立法である国際平和支 援法からなるが、その中心的な問題は、次の点にある(日弁連の 2015 年 6 月 18 日付 け「安全保障法制改定法案に対する意見書」)。
① 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国 の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明 白な危険がある場合」(存立危機事態)において、自衛隊法 76 条の防衛出動として 武力の行使ができるものとした。
② 周辺事態法を改正した重要影響事態法及び新たに成立した国際平和支援法によっ て、我が国の平和と安全に重要な影響を与える等の「重要影響事態」及び国際社 会の平和と安全を脅かす等の「国際平和共同対処事態」において、武力を行使す る他国の軍隊等に対し、地理的限定なく、随時、後方支援活動ないし協力支援活 動として自衛隊による物品及び役務の提供等をできるものとし、しかも、いわゆ る「非戦闘地域」にとどまらず「現に戦闘行為が行われている現場」以外の場所 であれば、弾薬の提供等までも含めてできるものとした。
③ これまでの国連が統括する平和維持活動(国連 PKO)のほかに、国連が統括し ない有志連合等による「国際連携平和安全活動」にも参加できるようにした上、
従来その危険性ゆえに禁止されてきた「駆け付け警護」と「安全確保活動」を新 たな任務として認め、それらに伴う任務遂行のための武器使用を可能とした。ま た、自衛隊法において在外邦人の救出等の規定を新設し、ここでも任務遂行のた めの武器使用を認めた。
④ 武力攻撃に至らない侵害への対処として、自衛隊法 95 条の 2 を新設し、「自衛隊 と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している」米軍等他国軍隊の
「武器等」(人及び武器・弾薬その他船舶・航空機まで含まれる。)を防護するため の武器使用を、自衛官の権限として認めた。
(2)上記①は、これまで政府も一貫して憲法 9 条で禁止されているとしてきた確立した 解釈を覆して、集団的自衛権の行使を認めるものであり、日本が他国間の戦争に積 極的に参加する道を開くものである。
上記②は、米軍等の他国軍隊に対するいわゆる兵站活動を、戦闘行為が行われて いる現場付近にまで及んで、戦闘行為に直接関連する物品や自衛隊による役務の提 供をできるとするものであり、これでは他国軍隊の武力の行使との一体化の危険は 免れず、自衛隊が相手国からの攻撃の対象となって、戦闘行為に発展する危険性の
第 2 章 第 2 章 安保法制による立憲主義・民主主義の蹂躙と
恒久平和主義の破壊
第 1 安保法制の違憲性と平和主義の危機
1 安保法制の基本的内容・性格と危険性
(1)平和国家としての日本の国の在り方を大きく変えてしまう安保法制が、2015 年 9 月 19 日参議院本会議で採決され、2016 年 3 月 29 日施行された。
安保法制は、自衛隊法、武力攻撃事態対処法、周辺事態法、国連平和維持活動協 力法など 10 本の法律を改正する平和安全法制整備法と、新規立法である国際平和支 援法からなるが、その中心的な問題は、次の点にある(日弁連の 2015 年 6 月 18 日付 け「安全保障法制改定法案に対する意見書」)。
① 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国 の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明 白な危険がある場合」(存立危機事態)において、自衛隊法 76 条の防衛出動として 武力の行使ができるものとした。
② 周辺事態法を改正した重要影響事態法及び新たに成立した国際平和支援法によっ て、我が国の平和と安全に重要な影響を与える等の「重要影響事態」及び国際社 会の平和と安全を脅かす等の「国際平和共同対処事態」において、武力を行使す る他国の軍隊等に対し、地理的限定なく、随時、後方支援活動ないし協力支援活 動として自衛隊による物品及び役務の提供等をできるものとし、しかも、いわゆ る「非戦闘地域」にとどまらず「現に戦闘行為が行われている現場」以外の場所 であれば、弾薬の提供等までも含めてできるものとした。
③ これまでの国連が統括する平和維持活動(国連 PKO)のほかに、国連が統括し ない有志連合等による「国際連携平和安全活動」にも参加できるようにした上、
従来その危険性ゆえに禁止されてきた「駆け付け警護」と「安全確保活動」を新 たな任務として認め、それらに伴う任務遂行のための武器使用を可能とした。ま た、自衛隊法において在外邦人の救出等の規定を新設し、ここでも任務遂行のた めの武器使用を認めた。
④ 武力攻撃に至らない侵害への対処として、自衛隊法 95 条の 2 を新設し、「自衛隊 と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している」米軍等他国軍隊の
「武器等」(人及び武器・弾薬その他船舶・航空機まで含まれる。)を防護するため の武器使用を、自衛官の権限として認めた。
(2)上記①は、これまで政府も一貫して憲法 9 条で禁止されているとしてきた確立した 解釈を覆して、集団的自衛権の行使を認めるものであり、日本が他国間の戦争に積 極的に参加する道を開くものである。
上記②は、米軍等の他国軍隊に対するいわゆる兵站活動を、戦闘行為が行われて いる現場付近にまで及んで、戦闘行為に直接関連する物品や自衛隊による役務の提 供をできるとするものであり、これでは他国軍隊の武力の行使との一体化の危険は 免れず、自衛隊が相手国からの攻撃の対象となって、戦闘行為に発展する危険性の
極めて高いものである。
上記③は、駆け付け警護等の任務目的を達成するためには、敵対する武装勢力等 を排除するに足る強力な武器使用を認めるものであり、自衛隊員が殺し、殺される 場面に直面し、戦闘行為に発展する危険性の高いものである。
上記④は、米軍等の船舶や航空機に対する侵害にまで対処してこれらを防護する ため、現場の自衛官の判断により、敵対国等に対して自衛隊の武器を使用すること を認めるものであり、実質的な集団的自衛権の行使と変わらない事態すら危惧され るものである。
このように、安保法制は、集団的自衛権に基づいて自衛隊が参戦する場合はもち ろん、後方支援活動、協力支援活動、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活 動、他国軍隊の武器等防護などにおいて、武力の行使に発展する可能性の高い自衛 隊の活動を広く認めることにより、自衛隊が戦闘行為に直面し、日本が戦争当事者 となっていく機会と危険性を大きく広げた。
(3)これらの安保法制の内容は、2015 年 4 月 27 日、安保法制法案の国会提出に先立っ て合意された新たな日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)によって、米国 との間でも確認され、その実施を方向付けられた。
その具体的内容は後述するが(第 5 の 1)、新ガイドラインは、「平時から緊急事態 までのいかなる状況においても日本の平和及び安全を確保するため、また、アジア 太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう」、日米 両国間の安全保障及び防衛協力のあり方を定めることを目的とし、グローバルな性 質を有するとされる日米同盟を強化し、「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な 日米共同の対応」等を定める。そこでは例えば、平時からの同盟調整メカニズムの 設置・運用体制をとるとともに、「米国又は第三国に対する武力攻撃に対処するた め」日米両国は適切に協力し、自衛隊は武力の行使を伴う適切な作戦を実施する等 とされ(集団的自衛権の行使)、その他、後方支援活動での相互協力、平和維持活動 での緊密な協力、自衛隊と米軍の訓練・演習中や弾道ミサイル防衛作戦等を含めた アセット(装備品すなわち上記自衛隊法 95 条の 2 の「武器等」)防護についての協力 等が定められている。
したがって、日本は米国との関係で、国際的な武力紛争にも関わって、集団的自 衛権の行使、後方支援、平和維持活動、武器等防護等、武力の行使又はそれに至る 危険性の高い自衛隊の活動を行うことを合意しているのであり、米国からの要請が あった場合に、日本政府はこれら自衛隊の出動ないし派遣に応ずべきこととなる。
(4)このような米国との関係でみた場合、安保法制は、改定された 2015 年ガイドライ ンを実施するための法整備という性格を有し(注1)、グローバルに展開する米軍を支援 するための法律という性格が色濃いものである(注2)。
法律に則してみても、まず、集団的自衛権の行使に係る「わが国と密接な関係に ある他国」の最たるものは米国である。また、重要影響事態法は「合衆国軍隊等」
に対する支援法であり、国際平和支援法もアフガン戦争やイラク戦争における特別 措置法の恒久化法であって、これらによって自衛隊は、世界中に展開する米軍に対 し、地理的限界なく、物品・役務の提供という兵站活動を、「現に戦闘行為が行われ
ている現場」以外の場所ならば、随時行うことが可能となった。さらに、自衛隊法 95 条の 2 として新設された武器等防護は、「アメリカ合衆国軍隊その他の外国の軍 隊」のために、自衛隊が武器を使用するものであることが明文で規定されている。
こうして、日本及び自衛隊は、米国の世界戦略の中に、「切れ目なく」組み込まれて いくことになる。
2 政府の憲法解釈と安保法制の違憲性(注3)
この安保法制が、多くの点で日本国憲法に違反するものであることは、すでに多方面 から明らかにされてきているが、ここでは、その憲法上の問題点を論ずる場合に前提と なる、従来の政府の憲法解釈の要点を確認しておく(注4)。
日本政府は、日本国憲法も独立国が当然に保有する自衛権を否定するものではなく、
自衛のための必要最小限度の実力である自衛隊は憲法 9 条 2 項の「戦力」に当たらない とする。しかし他方、その自衛権の発動は、①我が国に対する急迫不正の侵害があるこ と、すなわち武力攻撃が発生したこと、②これを排除するために他の適当な手段がない こと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきことの 3 つの要件(自衛権発動の 3 要 件)を満たすことが必要であるとの解釈を定着させてきた。そして、自国と密接な関係 にある他国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を もって阻止する権利としての集団的自衛権の行使は、右自衛権発動の 3 要件、とくに① の要件に反し、憲法上許されない、と解してきた(注5)。
また、自衛権による実力行使の「必要最小限度」については、それが外部からの武力 攻撃を我が国領域から排除することを目的とすることから、我が国の領域内での行使を 中心とし、必要な限度において我が国の周辺の公海・公空における対処も許されるが、
反面、武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土・領海・領空に派遣するいわゆる海 外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない とされてきた(注6)。
これらは、1954 年自衛隊創設時以来積み上げられてきた、政府の憲法解釈の基本原 則であり、これらに基づいて、憲法 9 条の恒久平和主義の現実的枠組みが形成され、
「平和国家日本」の基本的あり方が形造られ、維持されてきた。
そしてさらに、1990 年の湾岸戦争を契機として自衛隊の海外派遣が大きな課題とな る中で、とくに海外での武力の行使を防ぐため、右の基本原則から導かれるいくつかの 副次的原則が形成されていく。
その一つは、自衛隊の海外における活動の、外国軍隊の武力行使との「一体化」の禁 止である。これは以前から認められていた考え方であったが、2009 年の周辺事態法に おいては、その担保として、米軍に対する協力・支援活動を補給・輸送等に限定して列 挙するとともに、これを実施する区域を「後方地域」に限定することとされた。ここで
「後方地域」とは、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期 間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域をいう(周辺事態法 3 条 1 項 3 号)。そしてこの枠組みはその後、2011 年の米国同時多発テロに続くアフガニス タン戦争支援のためのいわゆるテロ対策特措法、2013 年のイラク戦争支援のためのい わゆるイラク特措法にも引き継がれた(これら特措法では、上記「後方地域」と同旨の