第 1 節 研究の背景
アカハライモリの食性についての報告は、佐藤(1943)が少し触れている程 度で殆ど無い。さらに幼体の食性についての報告は無い。国内産有尾類では、伊 原(1998)がトウキョウサンショウウオHynobius tokyoensis の食性について 報告している。外国産の有尾類では、成体の食性について、Bury and Martin
(1973)、Morgan and Grierson(1932)、 Hamilton(1932)、Martof and Scott
(1957)、Powders and Tietjen(1974)、Verrel(1987)、 Bell(1977)、 Burton
(1976)、 Wisniewski(1989)らの報告があり、食性の季節性、多種間比較、
個体群間比較などが調べられている。幼体期の食性については、アメリカサンシ ョウウオ科のセアカサンショウウオ Plethodon cinereus の幼体についての報 告がある(Maglia 1996)。
第 2 節 幼体期の食性
第 4 章までの研究で、アカハライモリの腹色に対するカロテノイドの重要性が 明らかになった。また、幼体期間中にカロテノイド蓄積が行われていることも明 らかになった。つまり、幼体期に摂取する餌がアカハライモリの腹色形成に深く 関与していることになる。アカハライモリはその一生を通じて肉食性であるから、
幼体も陸上で動物を捕食すると考えられる。ではアカハライモリの幼体の食性は どのようなものであろうか。残念ながら、幼体の食性については殆ど報告がない。
そこで本章では、幼体の食性を明らかにすることを目的として、五島個体群の幼 体の胃内容物を解析した。
材料と方法
2000 年秋から 2002 年の春にかけての春,秋計 4 回の調査において、地表に 現れた幼体を捕獲した。棲息状況は第 2 章で述べたとおりである。胃内洗浄法
(Fraser 1976; Joly and Giacoma 1992)により胃内容動物を幼体毎に回収し、
70%エタノールに浸漬固定、実体顕微鏡下で餌動物を分類、同定した。同定は 青木の土壌動物分類法に基づいて行った(青木 1999)。餌動物の重量は動物群 別に合一し、Sartorius BP150 (最小計量値: 0.001g)で湿重量を測定した。
結果
図 39 に 1 個体の幼体から得られた餌動物の一例を示した。餌動物は胃内で膜 状物質にカプセル状に包まれ、膜カプセルを切開すると、ほぼ完全な姿で餌動物 が内包されていた。表 6 に胃内容解析に用いた幼体個体数、回収した餌動物数 などのデータを示した。4 回の調査を通して捕獲した総個体数は 60 個体、その 約 90%の個体から餌動物を回収することができた。平均餌動物数は 6.51±5.52 で、解析した餌動物総数は 410 個体であった(表 6)。餌動物は全て大型、中型 の土壌動物であった。
a a a
b
b c
図 39 胃洗浄法で検出したアカハライモリ 幼体の胃内容
a:真性クモ類 b:トビムシ類 c:ダニ類
餌動物は膜状物質中に内包されている
6.41 5.52 (0-25) 9.18
± 5.94 (0-25) 6.57
± 5.33 (0-20) 4.65
± 4.60 (0-15) 3.36
± 3.83 (0-14) 個体あたり の餌動物数
± SD
410 90.6
58 28.25 64
±
7.41 (19.0−46.5) 60
合計
202 92 79 37 解析 した 餌動 物数
20 12 15 11 胃内容 物のあ った個 体数
90.9 85.7 88.2 100 胃内 容回 収率 (%)
22 14 17 11 胃内 容採 取試 行回 数 頭胴長平均値
± SD (mm)
(値域)
捕獲 個体 数
30.97
±
6.27 (23.4−44.8) 21
2002年 春
30.1
± 6.27 (21.2−39.9) 13
2001年 秋
27.45
± 9.12 (20.5−46.5) 15
2001年 春
21.9
± 4.04 (19.0−33.2) 11
2000年 秋 ±
表 6 胃内容採取個体数と検出した餌動物数
餌動物数別構成を春,秋別に集計した結果を表 7 に示した。餌動物には 27 種 類の動物が含まれていた。両季節を通して、最も摂食頻度が高かったものはトビ ムシ目で約 35%を占めていた。次に摂食頻度の高かったものはダニ目で、約 19%
であった。次いでコウチュウ目ハネカクシ科成虫(5.6%)、マキガイ綱(約 5.4%)、
ハエ目幼虫(5.1%)、クモ目(4.9%)であった。このうち、トビムシ目、ダニ 目の内訳を表 8 に示した。トビムシ目ではアヤトビムシ科が全体の 41%、マル トビムシ科が 22%の頻度で検出された。ダニ目ではササラダニ亜目が全体の 43%、トゲダニ亜目が 33%の頻度で検出された。
重量別に餌動物を分類した結果を表 9 に示した。重量頻度の高いものから、
ハエ目幼虫(24.2%, n= 21)、ヨコエビ目(13.8%, n= 15)、フサヤスデ目(11.3%, n= 20)、コウチュウ目幼虫(9.2%, n= 11)、トビムシ目(7.9%, n= 149)、マキ ガイ綱(7.5%, n= 22)の順であった。
考察
胃内容動物数別に見たアカハライモリ幼体の餌は、トビムシ・ダニを主食とす るものであった。それぞれの季節について見てみると、トビムシ目では、マルト ビムシ科、アヤトビムシ科、イボトビムシ科のものは春に摂食され、ムラサキト ビムシ科、ツチトビムシ科のものは秋に摂食されていた。他方、ダニ目ではケダ ニ亜目、ササラダニ亜目のものは春に摂食されていた。一方重量別に見た解析結 果からは、ハエ目幼虫やヨコエビ目など 1 個体の重量が重いものが上位に位置 した。重量の重いものは大型の餌であり、おそらく SVL の小さい幼体と大きい 幼体では大型の餌の摂食頻度は異なると考えられる。
また、カロテノイド源としてこれらの餌動物をとらえた場合、重量の大きなも の、摂食頻度の高いものが必ずしもカロテノイドを含むわけではなく、同目の土 壌動物でもカロテノイド含有量には違いがあると考えられ、土壌動物のカロテノ イド分析は困難が予想される。しかし、第 1 章, 第 4 章の結果より、3 才以上の 幼体の腹側皮膚においてカロテノイド総量は飛躍的に増大することから、大型で
Seasons Spring Autumn All seasons
Consist of soil animals total total total rate
線虫綱 2 0 2 0.5%
マキガイ綱 16 6 22 5.4%
ミミズ綱 0 0 0 0.0%
ダニ目 56 26 82 20.0%
クモ目 17 4 21 5.1%
ソコミジンコ目 0 0 0 0.0%
ワラジムシ目 オカダンゴムシ科 1 0 1 0.2%
ワラジムシ・トウヨウワラジムシ科 4 1 5 1.2%
ヨコエビ目 5 10 15 3.7%
ヤスデ綱 フサヤスデ目 20 0 20 4.9%
多足類 同定不可能 2 2 4 1.0%
カマアシムシ目 0 0 0 0.0%
トビムシ目 92 57 149 36.3%
シミ目 2 0 2 0.5%
カメムシ目 アブラムシ上科 アブラムシ属 9 3 12 2.9%
ナシマルアブラムシ属 0 1 1 0.2%
カメムシ亜目 クビナガカメムシ科 2 0 2 0.5%
セミ科 0 1 1 0.2%
アザミウマ目 0 1 1 0.2%
コウチュウ目 ハネカクシ科 成虫 23 0 23 5.6%
コケムシ科 成虫 0 4 4 1.0%
その他 成虫 0 1 1 0.2%
コウチュウ目 幼虫 9 2 11 2.7%
ハエ目 成虫 1 0 1 0.2%
ハエ目 幼虫 15 6 21 5.1%
ハチ目 アリ科 5 4 9 2.2%
total 281 129 410
膜状物 0 1 1
脱皮殻 1 1 2
残査 2 6 8
表7 アカハライモリ幼体の胃内容組成( (n= 60) N=60 )
Season 2000 Autumn 2001 spring 2001 Autumn 2002 spring Spring Autumn all seasons Consist of soil animals total total total total total total total
ダニ目 トゲダニ亜目 2 1 9 15 16 11 27
ケダニ亜目 1 6 3 5 11 4 15
コナダニ亜目 1 1 1 1 2 2 4
ササラダニ亜目 1 8 7 19 27 8 35
未同定 0 0 1 0 0 1 1
トビムシ目 マルトビムシ科 1 9 4 18 27 5 32
アヤトビムシ科 7 11 2 40 51 9 60
イボトビムシ科 0 1 0 7 8 0 8
ムラサキトビムシ科 1 0 23 0 0 24 24
シロトビムシ科 0 0 0 0 0 0 0
ツチトビムシ科 1 1 18 3 4 19 23
その他の科 0 1 0 1 2 0 2
表8 胃内容内のトビムシ目,ダニ目の内訳
Seasons All seasons
Consist of soil animals total rate
線虫綱 < 0.001 < 0.4%
マキガイ綱 0.018 7.5%
ミミズ綱 0 0.0%
ダニ目 0.012 5.0%
クモ目 0.005 2.1%
ソコミジンコ目 0 0.0%
ワラジムシ目 オカダンゴムシ科 < 0.001 < 0.4%
ワラジムシ・トウヨウワラジムシ科 0.01 4.2%
ヨコエビ目 0.033 13.8%
ヤスデ綱 フサヤスデ目 0.027 11.3%
多足類 同定不可能 0.007 2.9%
カマアシムシ目 0.002 0.8%
トビムシ目 0.019 7.9%
シミ目 < 0.001 < 0.4%
カメムシ目 アブラムシ上科 アブラムシ属 0.01 4.2%
ナシマルアブラムシ属 < 0.001 < 0.4%
カメムシ亜目 クビナガカメムシ科 < 0.001 < 0.4%
セミ科 < 0.001 < 0.4%
アザミウマ目 < 0.001 < 0.4%
コウチュウ目 ハネカクシ科 成虫 0.009 3.8%
コケムシ科 成虫 0.005 2.1%
その他 成虫 < 0.001 < 0.4%
コウチュウ目 幼虫 0.022 9.2%
ハエ目 成虫 < 0.001 < 0.4%
ハエ目 幼虫 0.058 24.2%
ハチ目 アリ科 0.002 0.8%
total 0.239
表9 アカハライモリ幼体の重量別胃内容組成
第 3 節 陸棲成体、他種幼体の食性
アカハライモリ幼体の棲息場所には、同じ有尾目に属するカスミサンショウウ オの幼体や、アカハライモリの成体も同所的に棲息している。アカハライモリ幼 体の食性の特徴を把握するには、同じニッチに属すると考えられる近縁の種の食 餌内容と比較することが必要である。
材料と方法
カスミサンショウウオの幼体、アカハライモリの成体は 4 回の調査のうち、
秋にのみ捕獲することができた。カスミサンショウウオについては成体、幼体の 区別はしなかった。アカハライモリ幼体、成体の判断基準は、SVL 41mm 以上 であること、および総排泄孔の外部形態変化が現れているものとした。胃内容組 成の解析方法は第 2 節に準じた。
結果
1.カスミサンショウウオ
表 10 にカスミサンショウウオ 9 個体の点数別胃内容組成を示した。1 個体を 除いて胃内容数は乏しかった(Mean±SD = 2.6±4.3)。カスミサンショウウオ の摂食する動物も中型土壌動物であった。1 個体においては 14 点の餌動物が検 出され、その 92%がフサヤスデ目であった。検出された餌動物総数 23 個体に 対し、58%がヤスデ綱、14%が甲殻綱ヨコエビ目であった。
2.アカハライモリ成体
表 11 にアカハライモリ成体 11 個体の点数別胃内容組成を示した。11 個体と も、胃内容数は乏しく(Mean±SD = 1.2±1.8)、検出された餌動物総数は 13 個体であった。その 30%はトビムシ目、次いで 23%はダニ目であった。
GH00001 GH00002 GH00003 GH01001 GH01002 GH01003 GH01004 GH01005 GH01006
SVL 41 22.8 65 38.2 51 54.1 42.1 31.1 67.9
date 2000.11.26 2000.11.26 2000.11.26 2001.11.14 2001.11.14 2001.11.14 2001.11.14 2001.11.14 2001.11.14
Consist of soil animals total
線虫綱 0
マキガイ綱 0
ミミズ綱 1 1
ダニ目 1 1
クモ目 1 1
ソコミジンコ目 0
ワラジムシ目 オカダンゴムシ科 0
ワラジムシ・トウヨウワラジムシ科 0
ヨコエビ目 1 1 1 3
ヤスデ綱 フサヤスデ目 0
ヤスデ綱 ヤスデ亜綱 13 13
多足類 同定不可能 1 1
カマアシムシ目 0
トビムシ目 1 1
シミ目 0
カメムシ目 アブラムシ上科 0
カメムシ亜目 クビナガカメムシ科 0
セミ科 0
アザミウマ目 0
コウチュウ目 ハネカクシ科 成虫 0
コケムシ科 成虫 0
その他 成虫 1 1
コウチュウ目 幼虫 0
ハエ目 成虫 1 1
ハエ目 幼虫 0
ハチ目 アリ科 0
total 2 1 1 14 1 1 2 0 1 23
膜状物 脱皮殻
残査 1 1